予備校から帰ってくると家に俺宛の荷物が届いていた。部屋に入ってライダーを出して中身を開ける。
「なんだそれは?」
ライダーが俺の広げる布地やリュックサックを不思議そうな目で見ている。
「まあ色々さ。聖杯戦争に参加する気はないけど、向こうからトラブルは来るからね。対策は充実させる」
俺は大きめのサバイバルな丈夫リュックに買ったグッズを入れていく。これでよし。明日からはこれで学校に通う。
「ふぁ。もう寝よう。今日は勉強の効率が悪いや」
放課後のデートもどきとかなかなか疲れた。楽しいは楽しいけど。受験生なのだ。どっちかって言うとなんかさぼった気持ちになってしまってしんどい。
「ライダーももう寝な。おやすみ」
俺はベットに入って眠る。そういえばライダーっていつ寝てるんだ。朝になるといつも透明人間になってるからわかんねんだよな。まあいいけど。
朝、知らない番号から電話が来た。もちろんスルー。そして家を出た瞬間に玄関の前に制服のセーラー服着た九十九が立っていた。
「何してんの?隣にでも越してきた?幼馴染は負けヒロインだよ?」
「何言ってるのかよくわからないわ。そうじゃなくて連絡着たでしょ?」
「連絡?なにそれ?」
「電話かかってきたでしょ?クラリッサからよ」
「あー知らない番号だったからスルーしてた。なに?呼び出しされたの?俺も?」
「全マスターに召集だって。緊急事態よ。聖杯戦争の進行さえ中断せざるを得ない異常事態が起きてるのよ」
「そのままイベントそのものを中止して欲しいなぁ」
「ほら行くわよ!」
断りたいけど九十九と一緒に教会に向かった。そして中に入ると見た顔がいっぱい、知らない顔が一人いた。
「佐藤?!てめぇ!?ランサー!!」
「マスター。ここでの戦いは監督役の面子を潰す。不利益になるからやめてくれたまえ」
伊吹がいてなんか俺に喰ってかかってきたけど、そばにいたランサーがすぐに止めてくれた。常識人ってありがたい。そう思います。
「マスターとサーヴァントの皆様方全員揃いましたね。どうぞお好きな席にお座りください」
シスターが説教台に立ち俺たちに呼びかけた。全員?はて?ここにいるのは俺、九十九、伊吹、ラピスって兄ちゃんと、エーミールさん、それと青い髪の知らない綺麗な女の子。それとサーヴァントがライダー、セイバー、ランサー、バーサーカー、アーチャー、それと知らないゆったりとした服着てなんか抜身の剣を持ったお兄さんのサーヴァント。六人と六騎だけ。
「クラリッサ。六人と六騎よ。一組足りないじゃない?」
「わたくしもそれは承知です。ええ。ですが今回集まっていただいたのはその残りの一組が問題なのですよ。まあモニターをご覧ください」
クラリッサがリモコンのスイッチを押すと、スクリーンが天井から垂れ下がってきた。そしてそこに映像が流される。どこかのレストランのようだけど。
「あ、この間のレストランですねマスター?もしかして?!」
「ええ、セイバー。多分そういうことよ」
なんか隣に座る九十九とセイバーが合点してるんだけど、どういうこっちゃ?そして映像は続く。一人の女の子と女のペアがレストランに入ってきた。そして女の子の方がウェイトレスの女性に突然噛みついたのだ。そしてしばらく噛みついて口を離すと女の子の口から血が一筋流れた。女の人は倒れてしばらくして痙攣していた。そして肌の色が緑がかって腐ったような色になり、心配して近寄った他の店員に襲い掛かったのだ。その後はまるでゾンビ映画のようだった。噛まれた女性に噛まれた奴が腐った感じになりそこからさらに連鎖していく。あっという間にゾンビ地獄の完成だ。女の方がなにか唱えると周囲から光が集まって彼女に吸収されたみたいに見えた。そして二人はレストランを後にした。映像はそこで終わった。
「女の子……紫いろの髪の毛だった?え?」
俺はそう小さな声で呟く。あの子に間違いない。なんだよこれ?え?あまりに現実離れした風景に俺は衝撃を受けた。
「今御覧になってわかっていただけたと思いますが、ここにいないキャスター、およびそのマスターは極めて危険な存在です。マスターは間違いなく吸血鬼です」
教会内がざわつく。隣の九十九も真剣な目で何かを考えこんでいるようだった。セイバーは明らかに敵視している。ライダーは興味なさげだ。
「シスター。質問はいいかな?」
「はいどうぞ」
エーミールさんが質問を口にした。
「この死徒は時計塔には確認されていない。それに神秘の隠匿もしないし吸血鬼らしくなく堂々としている。まだ幼い吸血鬼のようだ。教会側がはこの子を脅威判定した理由はなんだ?討伐はするべきだが、全マスターを招集するほどの大事なのか?」
「もっともな疑問でしょうね。ですがこの名を聞けばお分かりいただけると思います。ギギ・アプス」
「はぁ?!嘘だろう?!その名はただの都市伝説だ!!」
「いいえ。こちらで確認が取れました。本人がそう名乗っているところを観測しております。彼女の名はノクティラリア・ギギ・アプス。新種の吸血鬼。いいえ、吸血鬼というカテゴリーに収まるのかさえ計りかねますがね」
エーミールさんの顔が真っ青だ。なに?あの子ってなんかヤバいのか?
「九十九?なんかヤバいの?」
「ヤバいなんてもんじゃないわ……暴走した死徒や古くから知られている真祖ならまだよかったわ……よりにもよってギギ・アプスなんて……」
「だからギギ・アプスって?真祖?死徒?なにそれ?」
「クラリッサ。佐藤君と伊吹君は素人だわ。説明してあげて……私衝撃ウケて結構きついわ」
「まあそうでしょうね。では説明はわたくしが引き継ぎます」
シスターが俺の方を見て言う。
「死徒とはまあざっくり言えば吸血鬼です。ヴァンパイアって感じです。怪物ですね」
「ふーん。そんなのもいるんだ。こわ」
「で真祖とはざっくり言うと死徒、吸血たちのボスや王様たちだと思ってください。まあ色々と細かい事情や歴史があるのですがここでは省きます」
「ふーん。なるほど。でさ、なんかその子ってなに?真祖って連中よりヤバいの?」
「はい。ギギ・アプス。元々はとある真祖が教会によって討伐された時に死に際で口にした予言の怪物の名でした。討伐された吸血鬼はなにかガイアの抑止力を研究していたそうで、その過程でギギ・アプスの存在を予見して悲観してまるで自首するように教会に喧嘩売ってきて狩られました。曰く『私は星に排除されるくらいなら、ヒトに討伐されることを選ぶ』とのことです」
「手の込んだ自殺?ていうかガイアとは?テレビ番組?」
「我々が住むこの星の意思のことです。ガイアはどうやら朱い月に影響を受けた真祖たち及びその係累たる吸血鬼たちを『星の寄生虫』だと判断したようです。そしてそれを駆除および削除し排除するためにギギ・アプスという系統樹の花たる真霊長を生み出しました。タイプアース・プロトタイプ。それがギギ・アプスの正体です」
再び教会内がざわつく。
「異端の仮説だったはずなのに。まさか観測されてしまうとは……はぁ……しかもその存在がこうしてサーヴァントまで連れている。悪夢に他ならないな……」
エーミールさんなんか顔面蒼白なんだけど。魔術師界隈的にはかなりヤバいことらしい。まあ人の血吸ってゾンビ作ってるんだからすでにやばいか。
「わかった。そういうことね」
俺がそう言うと全員の視線が集まる。
「あら?つまりあなたは彼女のことを理解できるということですね?すばらしいですわね佐藤三郎。あなたを祝福して差し上げますわ!」
シスターがなんか酔ってるみたいに妄言言ってる。
「彼女は哀れなる存在です。星が産んだ新しい超越種。ですがきっと超常ゆえに孤独なのでしょう。あなたなら彼女をもしかしたら救えるのかもしれませんわね!どういう形はわかりませんけどね。くくく」
「いや。俺が言いたいのは、要は熊が出たからイベント中断ってことでしょ?危ないから外出るな戦うなってことよね?もう猟友会には報告してあるんだろ?じゃあ解散でいいよね?」
俺がそういうと周りの空気がなんか変になった。
「熊か。あはは。そうだな。知らぬものからすれば熊と変わりはしないか。あはは!あーはははは!」
エーミールさん笑ってる。他のマスターたちも苦笑いしている。九十九はなんか俺に呆れた顔している。
「おまえ!あんなかわいい子をよりによって熊扱いかよ!恥を知れ!」
伊吹が罵ってくるけどスルー。興味ないっす。
「ちっ!」
そしてシスターは例によって俺に舌打ちしやがった。その癖やめれ?可愛くないぞ?
「話を戻します。ギギ・アプスの存在は極めて危険です。なので監督役として皆様に休戦協定の提案と討伐のご相談をさせて欲しいのです」
イベント中止じゃなくて中断ね。なにがなんでも戦争続けるって感じが実にお役所仕事みたいでいやだなぁ。参加者の安全に配慮して欲しい。
「ギギ・アプスはまだ幼いのです。だから討伐が可能なのは今サーヴァントが揃っているこの瞬間だけでしょう。ギギ・アプスの討伐が確認できるまでの間、ここにいるマスター同士での戦闘を一旦休戦していただきたいのです」
「その協定に参加する見返りは?」
いままで黙っていた青い髪の綺麗な少女マスターが声を出した。実利主義者っぽいな。
「確かにそうだネ。見返りがないなら休戦する意味がなイ。我々は聖杯を求めているのだかラ」
その隣に座っているサーヴァント、アサシンだな。アサシンもそう続けた。
「休戦協定参加者にはギギ・アプス討伐後に令呪を一画、監督役権限で差し上げます」
「ほウ。それは太っ腹だナ」
アサシン的には納得いく内容だ。
「そして追加ですがギギ・アプスを討伐した物には令呪を追加で二画。討伐協力者にも一画差し上げます」
「ではペナルティは?あるんでしょう?」
青い髪のマスターが尋ねる。
「ペナルティは休戦協定を破って他のマスターとサーヴァントに攻撃を仕掛けた者から令呪を一画剥奪します」
「つり合いは取れてる。では討伐するもの同士が獲物を巡って戦うのは?」
「それはペナルティには入りません。ハンターは一人でしょう。ハンター同士が争うことは止めません。同盟もご自由になさってください」
「了解した。この休戦協定。アトラス院の錬金術師アレイア・ノウスとそのサーヴァントアサシンは参加する」
青い髪のマスターの名はノウスさんらしい。決断速いな。戦いたくねぇ。
「彷徨海の魔術師セプティムス・オルビス・ラピス。休戦協定に参加する」
「時計塔の魔術師エーミール・セバスティアン・フォン・クロイツェン。休戦協定に参加する」
「魔術師九十九理々花。休戦協定に参加するわ」
界隈の人たちは皆参加らしい。
「魔術使い!伊吹政宗。休戦協定に参加する!だけどあの子は討伐しない!おれが何とかしてみせる!」
伊吹は熊に挑むらしい。大変だなぁ。猟友会に任せればいいのに。
「受験生佐藤三郎。休戦協定にずっと参加します。熊退治は皆さんにお任せします」
「ちっ!」
なんで舌打ちするかな?
「はい。では休戦協定はここに成立したことを監督役クラリッサ・アウグスティナ・ヴェルミリオンが保証いたします。では各自の奮闘に期待いたします。休戦に入りましたので、皆さんにわたくしが作った使い魔を貸し与えます。各自の連絡網としてご活用ください」
「ラインのグループでよくない?使い魔とか言われても困るんだけど?」
「ちっ!」
だんだん慣れてきたぞぉ。
「……一応聞きますが魔術師の皆様はスマホはお持ちではないですよね?」
「持ってる。アトラスから出たときにもしかしたらと思って買っておいた」
「彷徨海から日本に来るまでに飛行機やら新幹線やらのチケット取るためにスマホは持っておいた」
「普段から使ってるぞ。ロンドンだって電子マネーの方が便利だ」
「普通持ってるぜ!」
皆さんお持ちのようだ。シスターはなんか微妙な顔してる。
「私、スマホ持ってない……」
「ええ?!JKなのに?!あーだから家の電話だったの?!」
「べ、べつになくったって魔術の研究には困らなかったし!」
「これを機に買えば?便利だぞ」
「ううぅ。買いますぅ……連絡網入れてぇ……」
「ちっ!ではわたくしがグループ作るのでそこに皆さんをご招待します。理々花は佐藤三郎から招待されてください。ふぅ。では解散で」
そしてグループに招待された後に俺たちは解散となった。その後中央区に行って九十九のスマホを買って俺が初期設定してライン入れてグループに参加させた。グループ名は「雪城市聖杯戦争休戦協定」になっている。
「ここに参加したって書きこめばいいのね!えい!」
九十九理々花:参加しました。よろしくお願いします。
クラリッサ:(自撮りの写真でなぜかハートマーク作ってる)
ラピス:スタンプ(グジョブマーク)
エーミール:ウェルカム!
ノウス:(゚Д゚)ノ
政☆宗:よろしくね!個人のラインもやろうよ!
なんかノリがいいな。まあ仲悪いよりはましだよね。そしてその日は予備校行って帰って速攻寝たのであった。