昼頃に九十九が俺を訪ねてきた。例よって屋上に行ってランチにする。九十九がセイバーを出してきたので俺もライダーを出す。
「ギギ・アプスに挑んだけど駄目だったわ……」
「らしいね。うん。まあ熊は怖いからね」
「熊なんてもんじゃないわよあれは!ガイアの創り出した怪物!バーサーカーやアーチャーの宝具さえ通らなかったのよ!」
「へぇ。まあ格ゲーなら必殺技がキャンセルされるのはよくあるから。どんまい」
「そういう問題じゃないの!聖杯戦争の前提が成り立ってないのよ!抑止力のはずの英霊の力が及ばないなんて出鱈目もいいところよ。それだけじゃないわ!キャスターの強化も出鱈目だったわ!神霊の力を直接ギギ・アプスに掛けてるのよ!意味わかんないわ!」
「ふーん」
「神秘がぶ厚すぎて通らないのよ……辛うじて令呪を一画使用して何とかみんなで逃げ切ったけど……次は無理かもしれないわ……」
「左様か」
九十九が本当に青い顔してる。セイバーも顔が強張ってる。
「わたしはまだ宝具を残しています。わたしの逸話上吸血鬼ならばあるいは多少は届くかもしれませんが……それでも致命傷になるかは……断言できません」
セイバーはわりとメタ張れるんだ。
「神秘が堅いなら猟銃で撃てば?」
「そんなものもっと届かないわよ!馬鹿言わないで!」
「熊ならそれで倒せるぞ」
「神秘に現代兵器なんて効かないわ!そこらの三流魔術師だって無理よ!」
「へぇ。神秘ってすげぇ」
でもそのくせ漏洩を気にするよねこいつら。堂々としてればいいのに社会の表舞台には出てこようとしない。
「ねぇもしかして神秘って公知されると弱くなるの?」
「ええ。そうよ。神秘は例えるなら村に一つしかない井戸みたいなものよ。一人が汲めばいっぱい使えるけど、みんなが使えば汲める量は少なくなる。そんなものよ」
「じゃああの子の神秘を世間にバラせば?」
「何言ってるの!?そんなことできないでしょ!世界がパニックになるわよ!それにそもそもガイアの高純度の神秘をこっちが暴いて曝すなんて技術的にも無理よ。あれは世界が知ってもどうにもできない神秘よ……」
そうかなぁ?神秘っていうのはそんなに硬いものだろうか?ランサーの槍なんて参考書程度でバグったぞ。俺は共通模試で情報1の科目で満点を取る男だ。断言していい。神秘なんてきっとガバガバ論理しかないはずだ。
「その通りだネ。神秘にはより高度な神秘をぶつける他なイ。それがこの世界のルールだヨ」
なんかいつの間にか俺たちの傍にアサシンが立っていた。よく見ると左手には九十九の弁当のおにぎりがあった。それをアサシンは上品な所作で食べる。
「アサシン?!休戦協定中のはずよ!?だまし討ちする気?!」
九十九が立ち上がってセイバーと共に警戒する。
「協定は守ってるヨ。今君たちが生きているのがその証拠ダ」
アサシンは特に悪びれる様子もない。まあ事実やな。
「何か俺たちに用なのアサシン?」
「そうダ。ギギ・アプス討伐の同盟を君たちに申し出に来たんだヨ」
ええ。いやだなぁ。だから猟友会に投げろって。
「私は森ならば君たちを大幅に強化して、向こうを大幅に弱体化できる用意があル。真名に関わるから詳細は明かせないがネ」
アサシンはなんか策を用意してあるそうだ。
「あなたももう知ってるでしょ!サーヴァント三騎がかりでさえ無理だったのよ!小手先の宝具の強化じゃあの神秘は突破できないわ!」
「それは承知していル。だがそこのライダーはキャスターとの相性がいイ。真名は把握しているヨ。インド神話のカルキなんだろウ。キャスターもインド神代の英霊のようダ。マントラで神霊の力を付与する女性ダ。ほぼ真名にはたどり着けると思うのでハ?」
「あのキャスターのことを監視してたのね?だったら情報くらい先によこしなさいよ!」
「悪いがこれは戦争なのでネ。情報は金よりも貴重なのだヨ」
アサシンが正論過ぎて言い返せない九十九のぷっくとした顔がなんか可愛い。
「ねぇその同盟の話って俺も含まれてるの勘弁してほしいんだけど……」
「だがあの吸血鬼のお姫様を倒せる、あるいは制御可能のなのは君くらいなんだヨ。佐藤三郎くン。監視は怠ってなイ。あのお姫様は君にご執心ダ。心理的隙をつけるのは君くらいだヨ」
見られてるぅ。いやだもう。勘弁してほしい。
「こっちとしては、ライダーだけ除いて君をあのお姫様に差し出してキャスターとの契約を破棄させるという手も取れるんダ。我々は討伐には興味がなイ。聖杯戦争からお引き取りいただければそれでいイ」
うわぁ合理的に追い込みかけてきやがった。逃げる遺れ無理なパターンっぽいぞ。
「勘弁してくれよ。まじかよ……」
「選択肢はなイ。与えないシ、奪わせてもらウ。だから組メ。聖杯戦争を恙なく進行させるためにネ」
アサシンの話の進め方は強引だけど、こっちとしては選択肢がもうない。
「実は先ほどランサー組がお姫様相手に説得にあたって命からがら逃げてル。もう後がないんだヨ。あのお姫様、どんどん成長していル。そして戦争に前向きになってル。倒せるのは今しかないのダ」
伊吹ぃ!失敗するなよな!クソ!
「……わかった。九十九。お前も参加しろよ!彼女を退治する!仕方ないなぁもう!」
「いいの?あなたは戦うのが嫌なのに?」
「仕方ないじゃん!本当だったら嫌だよ!だけどもう逃げ場ないんでしょ!ならやるさ!いやだよまじで!模試も近いのにまじでどいつもこいつも俺の勉強時間を削ってきやがる!」
「では契約成立だネ。グループチャットを用意しておくから参加してくれたまエ。私のマスターを含めた作戦会議の開催はいつでも応じるヨ。では失礼すル」
そう言ってアサシンは消えた。はぁ。追い込みかけられたよ……まじで反社みたいな連中だな。迷惑度が高すぎる。
「はぁ。九十九」
「なに?」
「お前今度俺にラーメン奢りな」
「なんで?!」
そりゃ八つ当たりよ。せめて貸し借り位にこの因果を落とし込まないとやってられない。熊退治とか勘弁してほしいなぁ……。
予備校行くために、中央区の駅の一個前で降りて歩いていった。ノクティラリアは多分今日も広場にいる。遭遇したくないからだ。そして予備校で授業を受けてから家に帰る。その途中だ。
『マスター。こちらの道はいつもと違うが何処へ行くんだ?』
『神秘ってさ、ようは屁理屈合戦なんだろ?そんでもって公知されることにすごく弱い。ノクティラリアが強いのはガイアとかいうなんかすげぇ存在がすげぇって設定を盛ったからだ』
『出鱈目な言い分に聞こえるのだが』
『神秘自体が出鱈目なんだよ。俺からすればね。だったら俺流のやり方で倒すのさ』
そしてやってきたのはライダーを召喚したあの交番。
「通報しにきました。ストーカーの被害にあってます」
「君は佐藤君。困ってるみたいだね」
「はい。なのでご協力ください」
「協力できることは限られてると思うけど」
「大丈夫です。お巡りさんにしかできないことがいっぱいあるんです。頼りにしてますよ」
そして俺は秘策を練る。ガイアだか吸血鬼だか神霊だか何だか知らないけど俺が全部ぶっ壊してやるよ。模試を恙なく受けるためにね。