休戦協定が終わった日の朝。俺が起きると掌にまた令呪が三画宿っていた。休戦協定の一画とノクティラリア撃破の二画だな。
「困るなぁ」
俺は絆創膏を張って隠して学校へ行った。昼になって九十九達と一緒にご飯を食べているときにちくっと言われた。
「今度は令呪取っておきなさいよ」
「いらないんだけど」
「なにかあったらどうするの?」
「そんな事態になったらどうしようもないよ」
「いいからとっておきなさい!」
きっと魔術師らしい生き方ってやつのおしつけなんだろうな。マジシャンハラスメント。マジハラ。まあ九十九のご機嫌損ねてもいいことないし、しばらくは取っておこう。
「はぁ休戦終わっちゃったよ。憂鬱だ」
「今日からまた闘いの日々よ。まああなたはどうせ何もしなんでしょうけど」
「当たり前じゃん。受験頑張らないとね」
「まああなたはそれでいいでしょう。周りも積極的に動き出すからあなたは放置されるでしょうしね」
まあそうでしょうね。俺を狙う理由が特にないので。あいつらは真面目に戦争するだろう。放っておく。と思ってたら。
予備校を出たときにエーミールさんがいた。
「何か用です?」
「決闘を申し込みに来た」
「ええ……他の方のところへ行ってくださいよ」
「残念だがそう言うわけにはいかないんだ。君は神秘の側にとって極めて危険な存在だ。魔術師として君を否定しなければならない」
「否定ですか?ひどくないですか?」
「だがこれは矜持の問題だ。公園に人払いの結界を張ってある。そこで戦おう」
あー断れない奴っぽいぞ。断ったら無差別攻撃とかされかねない怖さがある。勘弁してほしい。仕方がなく俺は公園まで一緒に行った。そして密かにポケットの中に手を入れてボタンを押しておく。
「魔術師らしく一対一だ。君を殺す気はないがライダーは倒させてもらう」
「魔術師じゃないんだけどなぁ。まあいいですよ。他の人に迷惑かけなければ」
仕方がない。だけどやりたくもない。ライダーが出てくる。
「チキンを食べる前に捻ってやる」
やる気なのかな?それとも予定のチキンがずれて怒ってるのかな?まあどっちでもいいけど。向こうもアーチャーが出てくる。
「すみませんね三郎君。僕も願いがあります。だから倒させてもらうから!!」
アーチャーは弓を構えて矢をライダーに向ける。そして戦いは始まった。鎧を纏ったライダーがアーチャーに迫るが、アーチャーは距離を取って矢を撃ちまくる。それをライダーは躱して当たりそうなものは拳やケリで払って距離を詰めようとする。正直俺がアドバイスできることはなんもない。
「なにかライダーに助言はしないのかな?」
エーミールさんがそう俺に向かっていた。
「戦いの素人ですよ。助言なんて出来っこないっす」
「そうかね?まあ手を抜いてくれるならいいよ。其れで勝っても勝ちは勝ちだからね」
俺を買い被ってないか?ライダーとアーチャーは一進一退の攻防を繰り広げている。決め手に欠ける。そんな印象だ。
「だいたい分かった。お前の矢では我が愛馬の鎧を通ることはない」
「さすがは人類最後の時代に現れる英雄だね。硬すぎるよ……。マスター」
アーチャーが弓をライダーに向けて構える。だけど今までとは違う。何か貯めがあった。ライダーはそれに気づいたようで一機に肉薄して阻止しようとした。だけど。
「令呪を持って命じる!宝具を発動せよ!!」
「了解!令呪の上乗せだよ!!君はもう僕に届かない!」
アーチャーが弓につがえているのは矢ではなく、槍だった。あ、ヤバそう。そして弓が光輝き、宝具なるものが発動した。ライダーはギリギリ間に合わなかった。
「【コシャル・ハシス】」
アーチャーがそう唱えると槍が弓から放たれてライダーに迫る。躱せない。だけどライダーは体をひねって致命傷になる部分は避けた。右肩の鎧を砕いて槍が突き刺さる。やば。痛そう。
「ぐぅう。ほう。大した一撃だ。だが令呪を乗せてもこの程度の威力ならいくらでも耐え……っ?!」
ライダーが膝をついた。え?なんだ?何が起きてる?
「ぁっ……ワタシは……粛清装置……終末……ここは終わり……だが……因果は……ワタシがいるから終る?終わるからワタシがいる?……ぁあうぁああ!!!」
ライダーの姿がなんかブラウンかの砂嵐が走ったかのようにブレる。頭を抱えて悶え苦しんでいる。俺は傍に駆け寄ってライダーの背中を撫でる。
「大丈夫か?!何か具合が悪いのか?!顔が真っ青だぞ?!」
「……ワタシは……粛清……だが誰を?……何のために?……うぁあああ!!!」
なんだこれ?メンタルな症状っぽいけど。俺も昔ギャグがすべって家に帰って一人悶えたけどそんな感じに見える。
「やはりよく効いたな。英霊殺し。英霊は莫大な情報量を持つ強大な霊基から成る。神話には矛盾や悔悟などの【終わり】の因子を必ず含むものだ。カルキであるならばそれはとても大きいだろう。なにせ終末なんて言う巨大な幻想の下に成立しているんだからね。我がアーチャーは霊基の不毛を直接引き起こすのだよ」
「また神話のガバガバ論理かよ。だけどまずいな……」
治療法がわからない。困った。すごく困った。だけどね。俺には仕込みがあるんよ。
「ではこれでとどめを刺させてもらうよ。アーチャー」
アーチャーが矢をライダーに向けて放つ。その時だ。矢を打ち払うものがいた。
「間に合いました!!大丈夫ですか?佐藤さん!」
セイバーがライダーの前に立ち庇ってくれた。そして九十九が俺の傍に寄ってくる。
「まずいわね。ライダーの存在があやふやになってる?!すぐに何とかしないと……!」
実は決闘が始まった瞬間に九十九に電話した。通話はオンになっていた。だからかけつけてくれたってわけだ。
「はぁ。決闘に持ち込んだと思ったらやっぱりすぐにハックしてくるね君は。流石に形勢が悪いかな」
エーミールさんはアーチャーを消してジャンプして去っていった。
「だがライダーはそれで行動不能だよ。そのまま大人しく聖杯戦争から降りてくれ。ではな」
戦闘は終わった。だけどライダーはなんかやばい。
「私のうちに運ぶわ!」
「病院は?」
「サーヴァントを治療できるわけないでしょ!いいから行くわよ!」
セイバーがライダーを背負って、俺は九十九に背負われてぴょんぴょん跳ねながら街を行き、大きなお屋敷までやってきた。ここが九十九の家らしい。そして中に通されて魔方陣の上にライダーを寝かせた。
「状態解析!……不毛……自己否定のループ?外傷は再生させるけど……これじゃあ……」
ライダーの傷や服は治った。だけどライダーのうめき声は消えない。まだ苦しんでいる。
「どういう状態なの?」
俺は九十九に尋ねる。
「霊基そのものの神話の論理、それを突かれて自己否定のループに入ってるみたいなの」
「自己否定のループ?」
「傷そのものは軽すぎるくらいに軽かった。私たち人間が喰らっても死なない程度の傷ね。これは概念汚染攻撃。英霊って言うのはそれぞれ固有の逸話を持つわ。そこには輝かしい武勇もあれば負のエピソードもある。今ライダーは自分の負の側面が立ち上がってきてた自分で何とか否定してさらにそれを否定して繰り返しをしているの」
「それは。相当苦しそうだな……治療法は?」
「アーチャーを倒せば消えるわ。概念系攻撃は使用者が倒れればほぼ消える。ところであのアーチャー宝具の名前が出たから真名は確定でいいんだけど。困ったわ」
「何が困るの」
「一つ。あのアーチャーの宝具。私のセイバーにも刺さりすぎる。対抗策がないわ。喰らったそこでアウト。もう一つはあのアーチャーの逸話……」
「なんかすごいことしてるの?」
「……ないのよ。逸話が」
「はい?」
「あのアーチャーの逸話。序盤だけしか発掘されてなくて残りは欠け落ちてるの。だから弱点がわからないのよ……」
「……そう。ところでさ。令呪ってさ、治療にも使える?」
「もちろん。でも完治は無理よ」
「それでもいいさ。令呪を使うよライダー。安らげ、安らげ、安らげ」
俺の令呪が三画光って消えた。少しライダーの顔色がよくなった。
「九十九。ラーメン奢りはなしでいいよ。その代わり手を貸してくれ。アーチャーは俺が倒す。ライダーを助けるために」
ライダーには世話になってる。だから助けなければいけない。今度はコンビニじゃなくて専門店のチキンだって食わせてやりたい。だから戦う。今を生き延びるために。
アーチャーの真名はほぼ確定っすね。
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