普通すぎる男が聖杯戦争を壊すまで   作:笑嘲嗤

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第21話 間違った夢の始まりだった

 ライダーが心配だったから九十九の家に泊まった。家族には友達の家って言ったけどなんかこの間九十九を見られてたらしくなんか適当に勘違いされたらしくて特に気にされなかった。

 

「コーヒー飲む?」

 

「いや。出来れば水がいい。俺受験に命かけすぎてコーヒー飲みすぎて胃が荒れてんだよ。コーヒー飲むと吐きそうになるんだ」

 

「ええ。その年で……体には気をつけなさいよ。まったく」

 

 九十九は浄水器から水を汲んでくれた。俺はその水を飲み干す。

 

「アーチャーの逸話は途中で伝承が途絶えているの」

 

「発掘されてないだけでしょ。あのメソポタミアのギルガメッシュ叙事詩だって19世紀に見つかるまで誰も知らなかったんだぜ。そんなもんでしょ」

 

「だけど伝わっている部分でさえ厄介。彼は殺されたことが切欠で世界が呪われて雨が止まり作物は実らなくなった。ようはそれを抽象化したのがあの宝具なのよ。相手に不毛の世界を押しつける。エグいわね」

 

 結局のところ弱点らしい弱点はないということだけ分かった。だけど宝具ってやつをヒットさせればサーヴァントは倒せるということはわかった。そう言えばライダーの宝具ってなんなんだろう?まあいまはどうでもいいが。

 

「対戦はもうすぐに持ち込む。時間がないからね」

 

「やる気があるときは本当に行動が早いのね。頼りがいがるというか、むしろあなたがやる気な時の方が怖いっていうか」

 

 九十九のお気持ちはよくわからない。人間は全部に本気で生きられない。やりたいこと、必要なことだけに本気を出せばいいのだ。だからいまライダーを助けるために全力を出すのは当たり前のことなのだ。俺はエーミールさんに電話する。

 

『なにかな?』

 

「戦闘の申し込みだ。俺はセイバーと九十九と組んだ。あなたのアーチャーを倒させてもらう」

 

『ふむ。この申し出はなかなか困るところだね』

 

「どうせ断れないんでしょ?魔術師ってやつにはプライドがあるから」

 

『その通りだ。では今夜』

 

「いや。今すぐだ。公園に人払いとか言うのやってくれ。いますぐじゃなきゃあなたの隙を見て奇襲をかけるぞ」

 

『はぁ。おかしいな。君はいまピンチのはずなのに、なんで君のペースに巻き込まれるのだろうか……わかった。準備をしておく。すぐに来たまえ。待っているよ』

 

 そして電話は切れた。俺と九十九は家を出て公園に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼間の公園なのに人が誰もいなかった。魔術ってすごい。この大きなフィールドが俺たちのバトルスタジアムになるわけだ。夜と違って見通しが言い分、矢に対しては多少は抵抗できるかな?

 

「やあ。三郎君。もうアーチャーの宝具は把握しているだろう?セイバーとて容赦はしないよ」

 

 エーミールさんがイケボでそう言った。自信があるようだ。だけどこっちとて対策はあるのだ。

 

「不毛の弓。すごい必殺技だと思う。派手な攻撃よりよほど戦争向きです。ええ、だけど倒します。相手が強いからって逃げるわけじゃないんですよ。友達が傷ついている以上あなたたちは必ず倒します」

 

 そしてアーチャーとセイバーが俺たちの前に現れた。セイバーは盾を構えて腰の剣を抜いた。ちゃんと鞘から抜いて刃を出している。キラキラ輝くの目に毒だなほんと。

 

「騎士として同盟相手の身を守り抜きます!!」

 

「なら僕はあなた方を超えて僕の物語を取り戻す」

 

 二人の戦いが始まった。セイバーは一気に距離を詰めて近接戦に持ち込む。宝具にはタメがある。それを作らせないための作戦だ。

 

「さすがはセイバークラス。せめて僕のクラスがランサーなら対抗できるんですけどねぇ!」

 

 弓とは言えセイバーの剣を払いながら矢を撃ってくるのは流石にすごいと思う。これが英雄たちの戦いなんだな。

 

「さて。悪いがこれは聖杯戦争だ。マスターの私もいるんだよ。シュート!!」

 

 エーミールさんが手をセイバーに向けると黒い玉が何発も出てセイバーに当たる。

 

「現代の魔術師の攻撃など目くらましにもなりませんよ!!」

 

 だけどセイバーには効いてなかった。どういうこと?

 

「なんで効いてないの?魔術の攻撃だったけど?」

 

「サーヴァントは魔術に対して耐性があるのよ。セイバーはその中でももっとも高いわ。現代の魔術師では傷をつけることはほぼ不可能よ」

 

「ふーん。じゃあ魔術師対策はいらない……っあ?!セイバー!!絶対にアーチャーから距離を取るな!!」

 

「え?」

 

 セイバーが戸惑っている。だけどすぐに嫌な予感は的中した。

 

「遅いよ。シュート!アンドバースト!!」

 

 セイバーに向かって放たれたエーミールさんの魔術の弾丸がセイバーの手前で激しい閃光をまき散らして破裂した。

 

「きゃ?!でもこれでも傷なんて?!……っあ?!」

 

「距離は取らせてもらったよ。マスター!」

 

「ああ!出し惜しみはしない!!令呪を上乗せする!宝具を使うんだ!!」

 

 エーミールさんの右手が光る。そして令呪が使用されてアーチャーが素早く宝具を撃つ体制になった。距離は取られた。セイバーは宝具の発動までにアーチャーには届かない。だけどね。俺はセイバーのすぐ傍に居た。みんなサーヴァント同士の戦いに夢中で俺が移動していることに気づいていなかったんだ。

 

「【コシャル・ハシス】」

 

 そして宝具の槍が弓から放たれた。このままだとセイバーに確実にヒットする。だから俺は。

 

「ぐぉ?!」

 

「佐藤さん?!」

 

 セイバーの前に立って放たれた槍を俺が喰らった。

 

「うぁおあがおあおおああぁおおおううおお!!?」

 

 俺は膝をつく。様々な記憶がよみがえっては閃光の様に脳裏で激しく震えたんだ。

 

「うおあおぁおおおおお!!?」

 

 あれは中学生の時だ。隣の家の幼馴染に告白した。勝ち確だったと思ったのに断られた。なんともひどいことに幼馴染は担任と付き合ってた。あんまりだった。俺には何もできなかった。俺は幼馴染と同じところに居たくなくて勉強を頑張った。そして今の高校に進学して幼馴染の顔を見なくて済むようになった。そして俺はまともな人と付き合いたいと強く願った。担任の先生と付き合っちゃうよな頭の弱い子じゃなくてまともな子とそのための東大受験。

 

 

ーーーーああ、俺の受験勉強なんてただの逃げ腰だったんだね……。

 

 

 ひたすらにペンを磨き上げる日々。机に積もれた参考書の山。そして一人模試の結果に酔う。イのあれと引き換えに手に入れたのは。この間のC判定……畜生!俺は夢想に溺死した。はならか間違ってる夢に過ぎなかった。だから結果もおのずと間違う。

 

「九十九、俺は……東大なんて目指さなきゃ良かったんだよ……」

 

「え?あ、はい」

 

 九十九は俺をゴミのような目で見ている。だから俺はきっと聖杯戦争に選ばれてしまったんだ。俺がいくら勉強を頑張ってもそれは下心から発するもの。真の勉強好きな奴たちとは違って不純な動機で東大生になりたいって。

 

「あ、セイバー。宝具でアーチャー吹っ飛ばして。おろぉろろろろ!!」

 

 俺は泥のようなゲロを吐いた。どうやら不毛の効果が俺がもともと持っている胃の不毛を引き起こしたらしい。お腹滅茶苦茶痛いぃ!

 

ーーーだけど憧れたんだ……。東大生っていう受験戦争の英雄たちに……。

 

「あ、はい。ーーー選定の剣よ。我が声を聞け。今汝は真の王者の手にあるのだ。世界を啓け、理想の王権の姿をここに刻め!!【カリバーン・オルタナティブ】!!!!」

 

ーーーそうか。セイバーの持つ聖剣の輝きと一緒だ。パンフレットに乗っていた東大生たちのリア充な笑みが綺麗だったから……俺はその夢を目指したんだ……。

 

「九十九。俺、まだ頑張れそうだよ」

 

「……そう。よかったわね」

 

 そしてセイバーは剣を振るう。そこから放たれた黄金の光がアーチャーを捉えて吹き飛ばした。

 

「アーチャー?!」

 

「ああ、マスター。すみません。僕はここで終わりみたいです……」

 

 アーチャーは全身ボロボロになって倒れる。そこへエーミールさんが駆け寄った。

 

「僕は失われた僕の物語の先が知りたかった……だけどやっぱりだめだね。過去を見てたら未来は攫めないんだね」

 

「あなたの物語はまだこの世界の何処に眠ってるはずだ」

 

 俺はゲロを吐きながらもそう言った。まだアーチャーの宝具のせいでなんか鬱いけどまあ耐えられる。

 

「ギルガメッシュ叙事詩でさえも土の下で誰かに読まれるのを待っていた。あなたの物語も未来の読者のためにきっと土の下で眠っているだけだ。いつか誰かが必ず見つけてくれる」

 

「……あはは。そうか。そうなんだね。ああ、それは嬉しいなぁ……三郎君。ありがとうね……」

 

 そしてアーチャーは姿を消した。弓だけがそこに残った。俺は口を拭きながらエーミールさんに近づく。

 

「く、殺せ」

 

「おっさんのくっころなんてしませんよ。あなたは捕虜です。ほら教会いきますよ」

 

「……魔術を信じていた。なのに二度も君は神秘を信じていないにもかかわらず超えてみせた……」

 

「そりゃ超えなきゃ死んでるだけ。生きたいから工夫する。それが人間でしょ」

 

「ああ、そうか。君は……我々魔術師がやめてしまった。人間なんだね……あはは。叶わないわけだ……人間を辞めた気になって神秘に縋る我々が勝てないのは道理だったんだ」

 

「まあほら。専門究めすぎると他分野のテクニックでのハックに弱くなりますよ。まあ学者さんなんでしょ。今後いろんな分野を取り入れてみたら?」

 

「あー。そうだねぇ。頭が固すぎたのかもしれない。……君を見習ってもっと柔軟になってみようかな。神秘は好きだ。だけど縋らない。そうあるべきなんだな。私たちは」

 

 そしてエーミールさんは大人しく俺たちについてきてくれた。俺たちは教会についてシスターに事情を説明した。

 

「ちっ!」

 

 なんか舌打ちしてくるんだけど。

 

「マスターを殺すのが聖杯戦争のセオリーですよ。それにライダーをひどく傷つけられたなら報復するべきでは?」

 

「ライダーを助けたいだけで、この人を恨んでるわけじゃないの。ほら街から出す手続き取ってよ」

 

「……はぁ……では令呪は回収させていただきます。それと東京までの新幹線のチケットをすぐに用意します」

 

 そして令呪を回収してからエーミールさんは新幹線に乗って東京へと向かった。一応駅のホームで見送りした。エーミールさんは言った。

 

「ぜひ受験が終わったらロンドンに来てくれ。歓迎するよ。妻のウナギゼリーは美味しいんだ。娘や息子たちにもあって欲しい」

 

 妻子いるのにこんな危ないイベントに参加してたんかこの人。魔術師ってなんかヤバいんだな。そしてエーミールさんは自分の日常へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 九十九の家に行くとライダーがぴんぴんしてた。後遺症もないらしい。

 

「快気祝いだ。チキン屋のチキンだぞ」

 

「ごちそうになる。……マスター。助けてくれてありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 そして九十九の家でチキンパーティーした。ドラムをライダーに全部取られたけど楽しいパーティーだったんだ。




アーチャー!さようなら。

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