九十九から借りたセーラー服を着たセイバーとホームセンターに来た。対バーサーカー戦の準備をするためだ。
「これとかですかね?」
「そうだね。とにかく静かにできないと話にならないからね」
セイバーと雑談しながら買い物を済ましてから、駅前のショッピングモールに向かった。
「色々あるんですねぇ……しかしなんでこんなに布の面積が狭いのですか?信じられません……はしたない……」
セイバー的にはなんか駄目らしい。
「でも可愛いよ。着てみたらいい」
「いいです別に。適当に選んでください」
ふいっと横を向いてセイバーは選ばなかった。なので俺が趣味で選んだ。あとで文句は言わせないからな。セイバーはなんか店内のマネキンの服はなんか楽しげに見てた。俺はそれを無視して買い物を終えて店の外に出ると。
「あ」
「え?三郎?」
いやな奴に出くわした。俺の顔が渋く歪んだのがわかる。俺の家の隣に住んでる幼馴染の興隆院智花がいた。隣にはチャラそうな男がいる。
「智花、だれそれ?じみぃ。ぎゃはは!」
それとはなんだよ。って思った。腹立つなぁ。
「隣に住んでるやつぅ。昔告られた。フったけど。あはは!」
なんというか幼馴染は負けヒロインだよね。いや、負けねばならぬ。というか担任との交際バレた後に他の男と付き合ってるって聞いたけどマジだったのね。
「まじかあ!智花にフラれたのぉ?!こいつめっちゃ締りいいんだぜ!」
「ちょっとやめてょう。童貞くんには刺激強すぎぃ!きゃはは!」
絵にかいたようなビッチになっちまって俺は悲しいよ。こんなのに告った自分が恥ずかしくなるぜ!
「ていうか女ものの服屋から出てくるとかキモいんだけど!どうせ彼女いないくせに汚さないでよ!ははは!」
「いや。俺一人で来たわけじゃないんだけど……」
「はぁ?あんたみたいながり勉に彼女とかできるわけないじゃん。つよがんなよ!ふふふ」
なんだろう。このいちいち反論するのも萎える状況。もう無視して行くかって思った時だった。
「すみません佐藤さん。待ってもらって」
セイバーがやっと店から出てきた。すると智花たちが目を丸くする。
「え?誰それ?はぁ?」
「なんですかこの人たちは?」
俺の傍にセイバーが寄ってくる。
「昔の知り合い。じゃあ行こうかセイバー」
「昔の知り合い?……あの。佐藤さんってどんな方だったんですか?」
おい。セイバー。俺がもう行こうって言ってるのに何で話しかけちゃうの?さてはお前空気読めないんだな。きっと空気読めなかったエピソードとかあるんだろ?そうだろう?
「え?あんた三郎のなに?カノジョ?」
「カノジョではありませんが、この人は大事なパートナーです。頼りにしてます。だから知りたいです。強さとは過去の経験に依存するものです。なぜこの人が強くなったのか。教えてください」
セイバーさんや。俺は別に強くないっす。勘弁してよ……。
「なに?そいつのこと気にしてるの?じゃあやめといたほうがいいよ!そいつあたしに告った後に断ったらボロ泣きするような雑魚男だよ」
智花は意地悪く笑ってる。恥ずかしいからやめて欲しい。
「え?あなたはこの人の好意を断ったんですか?……凄まじく強いのに?それが一般的な女性の価値観なのですか?……信じられません」
セイバーがなんか智花に引いてるんだけど。文脈が理解できません。
「しかもあたしと顔合わせたくないからがり勉して進学校行くようなあほだし!きゃはは!」
「勉強を頑張るのは立派なことですよ。……あなたはもしかして男を見る目がないのでは?」
そう言われて智花はなんか顔を強張らせる。まあ担任と付き合っちゃうような子だからね。見る目はないよね。
「なんだ。参考になるかと思いましたけど、駄目ですね。もういいです。行きましょう佐藤さん」
そしてセイバーは興味を失って俺の左手に組み付いてきた。乗るしかないこの流れ!俺はそのまま智花たちに手を振って奴らから離れる。離脱に成功した。
智花との遭遇に疲れたのでセイバーとファミレスに入った。
「あの方が切欠であなたは強くなったんですね。英雄には試練がつきものなのですね」
「俺は英雄ではないし、あんなものは試練でも何でもない。ただの青春事故だよ。セイバーだって男女関係で嫌な目にあった経験位はあるんじゃないの?」
「わたしは男性とお付き合いしたこともありませんし、童貞なので」
「童貞は女性には一般的には使わないぞ……」
童貞女とかいう属性は流石にニッチ過ぎない?
「以前仰っていましたが、東大に行って理想の女性と付き合いたいのですよね?聖杯に理想の恋人を願えばいいのでは?」
「俺は理想の恋人を求めてるわけじゃない。いい大学に行けばいい出会いの母数が増えるから行きたいの。相手に理想を求めるのは酷だろ。人間なんだからさ。誰しも欠点あるんだからそれを飲み込まないと」
「相手に理想を求めない?……ですが……理想は人の手でしか叶いません。人が体現する理想に人は救われるのです」
「何を言ってるのかよくわからないけどね。理想の自分を目指すのはいいけど、他人の理想を叶えようとするのはよくないと思うよ。理想の彼女とか理想の彼氏とか、他人の欲望の形でしょ。そんなの演じたら疲れて長続きしないよ」
「ですが……理想の英雄。理想の王。そう言った人が立たなければ世界は救われません」
「世界って誰か救えたことあるの?」
俺はドリアを食いながらそう何気なくいってみた。だけどなんだろう。セイバーの顔がひどく強張っている。
「……え。でも。我々は理想の王の下に集って……国を救おうと必死で……」
「まあ大義は大事じゃない。でも理想って人が体現するものかな?言葉だけだよね。それって。スローガンにはいいと思うけど」
「……じゃあわたしはなぜ剣を抜けたのですか?」
セイバーが涙目で俺に震えた声でそう言った。
「剣を抜いた?なにそれ?」
「わたしは選定の剣を岩から抜きました……そして騎士になった……父と共に理想の王に仕えて……でも使命からわたしは逃げて……本当はわたしが……わたしが理想を……人々が夢見た理想を叶えなければいけなかったのに……」
「君の身の上は知らないけどね。別に誰かが君に何かをやれって迫ってもそれをしない自由はあるよ」
「そんな自由はありません!ないんです!わたしは選ばれたのです!だから理想を成さねばならなかった!そうじゃなきゃつじつまが合わないのですから!!」
あ、これセイバーの地雷なのね。もういいや放っておこう。俺はプリンを頼む。女の子が怒ったら甘いものを押しつけろって誰かが言ってた気がする。
「とりあえず食べなよ。君の過去は知らない。だけど過去がないと未来も来ないのは知ってる。まだ時間はいくらでもあるしゆっくりその澱みたいな思いは解きほぐせばいいさ。九十九とかに話してみたら?聞いてくれると思うよ。あいつ優しいし」
俺はプリンをセイバーに差し出す。セイバーはプリンをひどく荒んだ目で睨んでいた。だけど俺に言われるままにスプーンで食べた。
「甘いですね……でも美味しい」
「ふ。プリンは最高のデザートだからな。俺も行き詰ったらよく食べる。癒しだわ……」
セイバーの理想が何なのかはわからない。だけどまあ悩んでるならまずは誰かに打ち明けられるといいなって思った。