理々花は屋敷のリビングで刀を手入れしていた。ライダーはチキンを食べながら言った。
「お前はうちのマスターをどう思っている」
「唐突ね。あなたってマスターを気にするタイプだったんだ……そうね。あいつは普通の男よ。普通を極めた奴」
「そうか。だが英雄になりうる素養はある」
「それは否定しない。だけど……」
以前見た未来視を思い出す。誰かのために身を枯らしてもまだ笑って歩くその姿はとても悲しいものだった。
「だからだ。ワタシは思う。この聖杯戦争にマスターが選ばれたのは間違っていると」
「それは同感かな。あいつは選ばれるべきじゃなかったわ」
「……終わらせるべきだと思う。マスターを英雄にしないために」
「何を終わらせるの?聖杯戦争のこと?」
ライダーは何も言わずにチキンに戻る。
「ライダー。あなたは本来遥か未来に現れるはずの英雄。英霊の座は時間軸には縛られないとは言えどもあなたの召喚は限りなくイレギュラーのはずよ。あなたは英霊でありながら過去がない。過去がないならば意思だってあり得ないでしょう。なのに佐藤君を心配している」
「マスターだからだ」
「心配してるってことは個人的に気になるってことよ。それは英雄よりも人間らしい行動よ。ライダー。あなたは何を望んでいるの?」
「……マスターには騒乱は無縁であるべきだ。ならばワタシはその汚辱を破壊するのが使命なのではないか?粛清する。彼の生涯すべてをワタシが」
理々花はただただ疑問に思った。むしろライダーがいるからあの未来へと行ってしまうのではないかという根拠のない不安。そしてライダーが意志らしいものを佐藤に向けるその懸念。ライダーがこの時代に来たのはただのバグ。そう切ってしまうにはどう考えてももう絆が深くなっている。そう思うほかなかった。
そして決闘の日がやってきた。佐藤は日本海側の砂浜を決闘場として指定した。そこにはすでにラピスとバーサーカーがやってきていた。そこへ理々花とライダーがやってくる。
「佐藤君は来ないのかな?だがライダーはいる?どういうことかな?」
「答える必要はないわ。あなたは私とライダーと戦ってもらうだけ」
「彼の考えた勝ち筋って奴かな。まあいいよ。ライダーさえ倒せば彼は戦争から脱落する。それで十分だ。では……やってしまえバーサーカー」
「■■■ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
バーサーカーが咆哮を上げてライダーに迫る。拳を振り上げて思い切り振り下ろす。ライダーはそれをバックステップで避ける。砂浜にとても大きな穴が開いた。
「出鱈目ね。一撃が対人宝具なのね。ライダー!作戦通りよ!」
理々花は刀を抜いて地面に突き刺す。そして印を結んで呪文を唱える。
「荒ぶる剣。まつろわざる剣。ここに御身の魂を映す」
剣を中心に魔方陣が広がる。バーサーカーにもそれは届く。特に変化は見えない。だがラピスは少し顔を歪める。
「類感魔術の類だね。日本式の封印術の亜種だね。だけど英霊を縛るのは無理だよ」
「縛れるなんて思ってないわ。バトラズという剣の挙動をこっちにトレースできればいいの。ライダー!視覚共有!未至眼起動!!」
理々花は突き立てた刀の柄に手を置いて魔眼を発動させる。爛々と輝く青い瞳は真っすぐバーサーカーを捉えている。そしてライダーがバーサーカーに踏み込む。
「うおおおお!!」
「■■■!!」
ライダーの大ぶりの拳をバーサーカーは払ってカウンターを入れようとする。だけどライダーの拳はバーサーカーの隙を巧みについた。
「なに?バーサーカーは狂化しているとはいえ一流の戦士だぞ。拳が通るなんて……ああ、その魔眼。未来視を確定させるのか?」
「からくりを言うのが魔術師の礼儀かも知れないけど、ご想像にお任せするわ。ライダー。続けて!!」
ライダーはさらに猛攻を重ねる。ライダーの目にはバーサーカーのあまりにも早い突きや蹴りの挙動とその未来の可能性分岐が全て写っていた。だから超近接での殴り合いでもライダーは一つもダメージを受けていなかった。
「だけどバーサーカー相手に決定打にはなっていないようだね?じゃあ今のうちにこちらもしかけるよ」
そういうとラピスはスプレー缶を懐から取り出してバーサーカーに吹きつける。
「ん?神秘が濃くなった?!未来視の精度が?!」
「君の魔眼はおそらくは並行世界の運営に近い何かなんだろうね。魔法はなかなか立派なものだよ。だけど神代を突破できるほどのものじゃない」
「撒いたスプレーの空気は彷徨海の噂の神代の空気ってやつかしら?」
ライダーとバーサーカーの殴り合いはややライダーが劣勢におちた。バーサーカーの巧みな格闘が徐々にライダーの守りを砕いていく。
「いや違うよ。彷徨海は神代の空気があるがね。僕から言わせればあくまでもあれはシミュレーションしているだけだ。本物じゃない。だから本物の神代の空気をこの国に来てから回収してきたんだ」
「日本に神代の空気なんてあるわけないんだけど。先進国よ」
「あるじゃないか。忘れたのかね?この国の中心には未だに神代の空気を維持している場所がある。神霊の血を直系で引く偉大なる祭祀王が君の国の象徴だろう?」
「あ……ああ?!うそ!まさか!なんて罰当たり!」
「採取はなかなか大変だったよ。忍者たちにめちゃくちゃ追い回されたよ。何とか逃げ切ったけど、恐ろしい連中だった」
理々花は魔術師だからラピスのやっていることに合理性をみなすが、同時に日本人として嫌悪感を持った。それに自分でもなんだ、私も普通なところがあるなと思ったのだった。
「■■■■ーーーーーーーーーーーー!!!」
バーサーカーが一回転して大きな後ろまわし蹴りを放つ。それがライダーの腹に直撃した。
「がはぁ?!」
鎧が砕けてライダーは砂浜の上を転がっていく。そしてライダーを追撃しようとバーサーカーは圧倒的な速さで走る。そして倒れているライダーに向かって拳を大きく振り上げた。
「獲物を前にすると狩人は隙を見せる」
ライダーがそういう。その瞬間だった。ばさぁっと音がして水しぶきが飛んだ。
「もらいました!!!はぁ!!」
ビキニの赤いエッチで際どい水着を着たセイバーが海から飛び出してきてバーサーカーに肉薄した。そしてバーサーカーの腹に手を当てて叫ぶ。
「【砕けた剣よ!治れ!その姿を取り戻せ!!】」
セイバーの手が光り、バーサーカーの全身に罅が入っていく。
「■■■■■ーーーーーーーーーーーーーーーー!??!」
バーサーカーは悶え苦しむ。ラピスは慌ててもう一本のスプレー缶を出してバーサーカーに吹きかける。
「そっちのセイバーは剣を治した逸話があるのか?!過剰再生!!くそ!!」
神代の空気を浴びて罅は少し再生する。だけどまだ残っていた。
「だが決定打にはならない!!バーサーカーはいくら天界やほかの英雄に妬まれて呪われても殺されることのなかった剣の化身なのだ!この程度の傷など!無意味!!」
「でもちょっとでもヒビ入ってるとやっぱり違うんだよね。ガラスも鉄もいっしょさ。脆くなったら叩けばいいんだよ」
「なぁ?!」
いつのまにか水着をきた佐藤がバーサーカーの傍に居た。この男もまあ海から決闘の場に侵入してきた。そして手には石を持っていた。
「ははは!だがそんな石程度では!?」
「じゃあ英霊風にこの石の真名を教えてやるよ!!【ロメクウィ3】!!!!」
三郎は罅の入ったバーサーカーのお腹に向かって石を思い切り振り下ろした。そして。罅はすべて割れて石はバーサーカーのお腹にめり込んだのだった。
「はあ?!何が起きてるんだ?!なんで?!またなのか?!また佐藤君が神秘を壊したのか?!」
ラピスは恐慌状態になっていた。信じられないものを見て大きく焦っている。そしてライダーは悶え苦しむバーサーカーの腹を思い切り殴って吹っ飛ばした。
「セイバー!!出し惜しみなしよ!!あなたの全力ここでみせて!!双剣を抜きなさい!!」
「はい!今一度私は抜きましょう!!この聖なる二本の剣を!!」
水着のままのセイバーの両手に二本の剣が現れる。そしてそれぞれが煌めいて光を放つ。
「【カリバーン・オルタネィティブ】!!そして【ソードオブダビデ】!!」
セイバーは二本の剣を十字に振る。そして十字の黄金の光が放たれてバーサーカーを飲み込み大爆発を起こした。