普通すぎる男が聖杯戦争を壊すまで   作:笑嘲嗤

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愉悦ぅ
愉悦したいょう!


第3話 愉悦の期待

 放課後になって教室を出ようとしたときにクラスメイト達に声をかけられた。

 

「伊吹君がカラオケ行こうって!佐藤君も来るよね?!」

 

「あー。そうなの。誘ってくれて嬉しいんだけど……予備校が……」

 

 本当は予備校に行きたい。だけど多分、いや確実にあの変な青い瞳の女子に絡まれるのは確定だ。

 

「そっかー。残念だねぇ」

 

「うん。じゃあ楽しんできてよ」

 

「ちょっと待てよ」

 

 俺が教室から出ていこうとしたときによく通る声の男子に声をかけられた。

 

「東大目指してるんだって?でもさ、どうせ受かりっこないって。それより青春しようぜ?な?」

 

 カラオケの言い出しっぺの伊吹政宗がそう言った。ちょっとムカッとするけど、俺は曖昧に表情を誤魔化して言う。

 

「それでも自分で決めたことだから。俺は頑張るよ」

 

「ふーん。だけどなぁ。クラスの輪って大事じゃないかな?」

 

「俺は俺の未来が大事なんだよ。じゃあすまないけど行くよ」

 

「おい!待ってって!」

 

「何をぼさぼさしてるのあなたは?」

 

 伊吹に引き留められたときに昼に聞いた声がした。

 

「あ、昼の……」

 

「約束したわよね?なんで早く来ないの?私に迎えに来させるとかどういうこと?」

 

 勝手に決めたくせによく言うよ。まったく。

 

「九十九さん!ちょうどよかった!俺たちカラオケに行くんだけど、君もどうだい?」

 

 伊吹がなんかデレデレして九十九というらしい青い瞳の子に声をかけた。

 

「私、その子に用があるの。またにして」

 

「え?なんでこんな奴に?ただのがり勉だよ?」

 

 馬鹿にされてるんですね。はい。がり勉です。でも頑張った証なの嫌いではないよその評価は。

 

「そいつは特別。だから私が相手にする価値がある。放っておいてちょうだい。行くわよ。佐藤三郎くん」

 

 名前知られてたんだけど……。ええ、逃げられないやんけ……。結局流されるままに九十九の後を追うことになった。一緒に校舎を出て、彼女の後をついていく。

 

「なあ説明してくれるんだろ?ならカフェとか?」

 

「人に聞かせられる話じゃないわ。これから教会に行く」

 

「宗教ならお断りなんだけど」

 

「カルトの誘いじゃないわ。聖杯は聖遺物よ。名目上聖堂教会が監督を仕切ってるのよ。そこにマスターとサーヴァントは一応あいさつしに行くのがマナーよ」

 

「参加した覚えがないんだけどなぁ……」

 

 なんなんだよ聖杯戦争って。名前からして物騒だろ。これあれなのかな?カルトのイベント?警察に通報した方がいいのかな?いやでもこの間なんか警告喰らったよね。警察にもなんか影響力あるとかヤバそう。受験が近いのにこんなのないわー。

 

「なあサーヴァントって何?君のコスプレ魔法少女のこと?」

 

「魔法少女じゃない彼女が私のサーヴァント。ていうか魔術師の私の前で魔法って言うな」

 

「なんだよ。魔法が地雷なの?魔術師なんだろ?ただの表記ゆれじゃん」

 

「魔術と魔法が全然違うの!!」

 

「具体的には?」

 

「魔術はこの時代の知識や技術を使えば実現できること。魔法はどんなに頑張っても叶わない奇跡よ」

 

「じゃあ俺から見たら魔術も魔法も一緒なんだけど?」

 

「だから全然違うの!あーマジでド素人なんだけど……頭が痛いわ」

 

 そんなこと言われても困る。

 

「でそのサーヴァントなんだけど、連れてこないといけないんだよね?」

 

「ええ。見せておかないと本当にマスターだって証明できないでしょ」

 

「いま家の近くの漫画喫茶に泊ってるんだけど」

 

「はあぁ?!」

 

 九十九が俺にめっちゃすごい勢いで振り向いてきた。え?なに?俺また地雷踏んだ?

 

「なんで?!傍に置くでしょ普通?!」

 

「あんなコスプレ女連れて歩いてたら不審人物じゃん」

 

「霊体化させればいいでしょう?!」

 

「なにそれ?あ、もしかして俺のサーヴァントも君のセイバーみたいに透明人間になれるの?」

 

「透明人間……。まったくこっちの常識が通じないわね……というか……とりあえずあなたのサーヴァントも拾ってから行きましょう。二度手間はごめんだわ」

 

 かくしていったん俺の家の近くの漫画喫茶に向かった。そしてライダーを拾ってきた。なおライダーはシートの隅でじーっと体育座りしていた。漫画でも読んでればいいのに……。なんかロボットみたいで怖い。

 

「サーヴァントの気配がする。敵なのか?」

 

 ライダーが九十九を見てそう言った。

 

「違う。そもそも敵とか言われても困るんだけど。とりあえずこれから監督役のところに行くんだってさ」

 

「なるほどわかった」

 

 するとライダーは俺の後ろをついてくる。九十九、俺、ライダー。どう考えてもカルガモよりひどい並びだ。

 

「その子も霊体化させなさい」

 

「ライダーできる?」

 

「わかった」

 

 するとライダーも透明人間になった。すごい!でもこれ悪用厳禁じゃん。あんまりさせておきたくないな。そして電車を乗り継いで市の中央区にある教会へとやってきた。外からは荘厳で厳粛な雰囲気に見える。

 

「失礼します」

 

 中に入ると人は一人もいなかった。だけど奥の方からなぜかトランペットの音が響いていた。首を傾げる。九十九は何も気にせずに奥の方へと向かう。説教台の後ろにシスターが1人いた。

 

「クラリッサ」

 

 九十九がシスターに話しかけるとシスターがこちらに振り向いた。まだ若いというか俺らと同じくらいの年っぽい。すごくカルト臭するんですけど……。

 

「あら理々花。もう脱落したのかしら?」

 

「違う。新しいマスターを見つけたわ。魔術を知らないド素人よ。承認して頂戴」

 

「あらあらそれはそれは……」

 

 シスターが立ち上がり俺の方を見る。シスター服を楚々と着こなしている。緑色の髪に金色の瞳の美しい少女。だけどなにか不吉な感じを受ける。俺をどこか値踏みするような目で見ている。

 

「わたくしはクラリッサ・アウグスティナ・ヴェルミリオン。此度の雪城市における聖杯戦争の監督役として赴任いたしました。どうぞよろしくお願いいたしますわ」

 

 ぺこりとカーテシーしてくる。なんだろう。ちぐはぐな印象。シスターなのこの人?こいつもコスプレなんじゃ?

 

「ではできればあなたのサーヴァントを見させていただけますか?」

 

「ライダー。出てきてよ」

 

 俺がそう言うとライダーが姿を現した。ギラギラしたメカニカルスーツがやっぱりコスプレっぽい。質感がガチだけどハリウッド映画のヒロインみたいだ。

 

「ふむ。ライダーですか。素人が扱うには少々難しいクラスですね。まあ頑張ってください」

 

「クラスって何?」

 

 俺がそう言うと九十九ががっくりしているのが見えた。シスターは何とも言えない苦い顔をしている。

 

「クラスがわからないということはそもそもサーヴァントが何なのかも理解していないということでよろしいですか?」

 

「むしろ全部わからないんですけど……ここに来たら教えてくれるって。もうさっきから混乱しっぱなしなんだよ。聖杯戦争って何?魔術とか魔法とかよくわからないんですけど。これコスプレイベントじゃないんですよね?むしろそう言ってほしいんだけど」

 

 本当にコスプレイベントって断言してくれるなら助かる。だけど昨日の変な犬の大群とかライダーが光のオーラでアスファルト焦げ付かせたとか見てたら尋常じゃないことだけはわかるのだ。とにかくどういうことなのかだけははっきりさせたい。

 

「まあ。どうしましょう。どこから説明しましょうか。そうですね。いわゆるあなたがフィクションだと思ってる魔術や超能力は裏の世界では実在します。それが前提です」

 

「そこからもう受け入れがたいんだけど……まあ仕方ないんだろうけどね。うん」

 

 シスターがなんか早口でぶつぶつと唱えると指先から火が出てきた。

 

「え?手品?」

 

「これが魔術です。まあ簡単なコモンスペルです。要はこういう異能があるということだけうけいれてくださいまし」

 

「……わかった。了承する」

 

「よろしい。では聖杯戦争について。あらましはまあざっくりとしましょう。聖杯とはもともとは神の子に関わる聖遺物ですが、ここでいう聖杯とはあくまでも魔術で作り出したアイテムです」

 

「ホグワーツの賢者の石みたいな?」

 

「その例えは教会としてはなんとも抵抗したくなるのですが、まあそんな感じですわ。その聖杯は手に入れたものの願いをなんでもかなえてくれる万能の願望機です」

 

「そんなものあったら作ったやつが願い叶えてるだろ。それを巡って戦うことを言うんだろう?聖杯戦争って。前提がおかしくないか?」

 

「いいえ。おかしくないのです。なぜならば聖杯は7人のマスターが7騎のサーヴァントととも互いに争い合う過程で完成するのですから」

 

「ううん?どういうことです?」

 

「サーヴァントはもうお分かりだと思いますが、超常の存在です。英霊と言い神話や伝説、あるいは歴史に名前を遺した英雄たちが死後に祭り上げられて高い次元に昇華した高次元の存在です。彼らがこの世界に降り立ち、互いに争い合い殺し合います。そして倒れた英霊の魂は座と呼ばれる場所へ帰るのですが、その過程で聖杯がそのエネルギーを回収するのです。そのサーヴァント六騎分のエネルギーで聖杯が起動します。最後に残ったマスターとサーヴァントが聖杯の使用権を得るのです」

 

「はぁ。なるほど。よくできてるシステムだ。ろくなもんじゃないけど」

 

「そうです。ええ。ろくなものではありませんよ。愚か者たちがケーキに集るアリのように集まってくるのです。醜悪極まりないのですよ。くくく」

 

 だけどシスターは愉しそうに笑った。なんか怖いなこの人。

 

「それって辞退できないの?」

 

「マスターは脱落できますよ。私に言ってくれれば契約を切って差し上げます。戦争が終わるまで市外に避難もさせてあげましょう」

 

「じゃあそれで」

 

 俺がそう言うと九十九もシスターも目を見開いた。

 

「ちょっと!今の話聞いたの?!なんでも願いが叶うのよ!?いらないの?!」

 

「そうです。どのような望みも叶うのですよ。誰もが命がけで奪い合う価値のあるアイテムです」

 

「そんな願いないっす。いやむしろ俺は模試とか受験が心配なんだよ。今の時期は大事なんだよ。邪魔されたくないんだけど」

 

 俺がそういうとさらに驚いた顔をする。

 

「ありえないんだけど。え?なに?いや、一般人でも普通欲しがらない?」

 

「リスクリターン見合ってないよ。俺は大学デビューしたい。それなら勉強を頑張るのが一番いい。聖杯とやらにお願いする理由がないんだけど」

 

 俺がそういうと二人は絶句していた。

 

「マスター。お前が戦争から降りるとワタシは自動的に敗退になる。契約が切れるとサーヴァントは現界していられなくなり、ワタシは消える羽目になるのだが」

 

「え?なにそれ?ええ?!はぁ?!まじかよ。連帯責任制なの?!ルールおかしくない?!あり得ないんだけど!!」

 

 俺が文句を言うと女子二人は何とも生暖かい目で俺を見ていた。

 

「まあ佐藤さんが降りればライダーは消えますね。通常マスターは一人一体しか保持できませんし、そもそも最後の一体になるまで争う以上必ず他のサーヴァントとは共闘ができない仕組みになっています」

 

「ええ。いくらなんでもそりゃあんまりだよ。ライダーは昨日会ったばかりだけどさすがに消えろとまでは言えないんだけど!命の恩人だし!くそマジかよ……。降りられないじゃん」

 

 逆に言えばライダーが昨日俺のことを助けてくれなかったら容赦なく切れたんだが、まあそうなったら俺は生きてないか。どっちにしろ降りられないらしい。

 

「はぁ。めんどくさい……。この戦争ってとりあえず静観してるとかはいいの?」

 

「まあ可能ですが、どうせ戦う羽目になりますよ。マスターたちは死に物狂いで他のマスターを探しますからね」

 

「なるほどねぇ。腹立つなぁ。まあわかったよ。ふぅ」

 

 俺は近くの椅子に座ってため息を吐いた。やってられない。ライダー消すのは忍びない。かと言ってどう考えてもやばいこのイベントに参加する理由もない。こりゃあれかな?極力参加せずに見守って適当に様子見に徹するほかないな。

 

「一つお聞きしたいのですがよろしいですか?」

 

「なんですシスター?」

 

「ライダーを守るためとはいえ、この聖杯戦争にあなたは参加せざるを得ません。それが運命です」

 

 運命ねぇ。なんともいやな言葉だ。それが嫌だから必死に勉強してるんだけど。

 

「ならばあなたは夜に飛び込むしかありません。英雄にならなければあなたはライダーを守れないのですよ。いいえ。考えてもみてください。聖杯が何も知らないとはいえあなたをマスターに選んだのです。これはきっと何かの徴です」

 

「はぁ……つまりどういうこと?」

 

「あなたは邪な思いを抱かずに聖杯を扱う資格がある。そうは思いませんか?いいえ、きっとそうでしょう。だからこそあなたはマスターに選ばれた!あなたは特別な男なのです!求めているのですよ!世界が!あなたの活躍を!そう!あなたの存在を!!」

 

 あかん。これカルトのお誘いっぽい。御布施要求されて破綻まっしぐらだ。きっとカモにされる。やたらと顔がいい女がここにいるのもきっと俺に特別な使命があると見せかけてカモるための餌なんだろう。その手には乗らない。

 

「あなたが聖杯を悪しきマスターたちから守る勇者なのです!さあ頑張りましょう。あなたにならわたくしも特別な融通を聞かせて差し上げましょう。ええ。かまいませんよ。ちゃんとサポートいたしますからね」

 

「いや。そういうの別にいいです。放っておいてください。俺は戦争には参加しません。かと言って降りもしません。とりあえず様子見します」

 

「ちっ!」

 

 うん?今シスターさん俺に舌打ちした?いやしたな?!どういうこと?!

 

「そうですか。まあそれならお好きになさればいいのでは?まあ何かあればここに尋ねてきてください。脱落等の手続及び保護は致しますので」

 

 なんかすごく冷めた目でこっちを見てる。カモれなくて冷めたっぽい。まあ危険度下がったならいいか。

 

「ところで神話や伝説の英雄って言ったよね?」

 

「はぁ。そうですね」

 

 すげぇ塩対応なんだけど?!シスターまじで冷たいんだけど!

 

「じゃあうちのライダーって昭和、平成、令和のどの仮面ライダーなの?」

 

 俺がそう言うと女子二人が目を丸くしてた。なんか空気がおかしい。

 

「なんか俺変なこと言った?」

 

「佐藤君。仮面ライダーは英霊にはなれないわ。フィクションでしょ」

 

「え?神話も伝説もフィクションじゃん」

 

「え?」

 

「ん?」

 

 なんだこのすれ違い感。俺と九十九のレイヤーが絶対に違うってことだけ理解した。

 

「ライダーは本名なんて言うの?」

 

「ちょっと!真名の開示は駄目!!」

 

「ワタシはカルキだ」

 

「カルキ?だれ?スマホで調べていい?」

 

 俺が検索をかけるとカルキはWIKIで出てきた。でもなんか記事が薄っぺらい。

 

「記事薄いね。キャラ設定が弱いってこと?」

 

「今の真名、本当なの?」

 

 九十九が酷く真剣な顔をしている。シスターもさっきまでの塩対応は何処へ行ったのか、えらく真剣にライダーを見ている。

 

「ライダーはカルキって名前なんだよね?」

 

「そうだ。ワタシはカルキ。カリ・ユガを終わらせてクリタ・ユガを世界に齎す粛清装置だ」

 

「だってさ。おいおい。どうしたのさ、お二人とも顔が怖いんだけど?」

 

「いや嘘でしょ。サーヴァントになるの?え、でも理論上はあり得るわよね。でも信じられない。え?そんな馬鹿なことあるの?」

 

 なんか九十九は思考の海に沈んでしまった。そして逆にシスターはライダーを見て。酷く獰猛な笑みで嗤っていた。

 

「なるほど。あなたは大当たりを引いたようですね。がんばってください。応援していますよ。うふふ」

 

 また機嫌よくなったんだけど?なにこいつこわぁ。関わりたくねぇ……。そして教会を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マスターたちがいなくなった教会でクラリッサは一人でトランペットを吹いていた。そこへ白いスーツを纏った美しい顔をした黒人の男が姿を現した。

 

「ねぇルーラー。聞いたでしょ、さっきのライダーのお話を。うふふ。わたくし久しぶりに楽しくて楽しくて仕方がないわ!」

 

「そうか。まあ君が楽しそうならいいさ。だけど一つ忠告をさせて欲しい。かの英雄王も貰ったとてもいい言葉あるんだ」

 

「なにかしら?」

 

「君の探しているものはきっと見つからないだろう」

 

「そう?まあもう見つけたのだけれどもね。わたくしは期待することをやめませんわ。佐藤三郎とカルキ。ええ、あの二人から目を離したりなんてしませんわ。必ず彼らの物語を見届けてみせましょう。うふふふ、あははははは!!」

 

 シスターは嗤い続ける。これからくる未来の愉悦に期待を馳せながら。




カルキって絶対に冠位のライダーだと思う(゚Д゚)ノ

シスターの愉悦部仕草に期待せよ!!

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