放課後、俺は図書館に来ていた。たまには本なんかを読んでゆったり過ごしたい。大学進学以降の夢とかも考えたいから政治経済法学系の棚へ向かった。そうしたらいたのだ。セイバーが脚立に座って一冊の本を読んでいた。なお脚立のところに座っているからパンツがいい感じに見える。黒に白いレースのセクシーな奴だった。
「王とは神に選ばれる存在ではなく、人民に選ばれ続ける存在なのですか……?」
セイバーが読んでいたのはジョン・ロックの統治二論だった。面白い本読んでるな。
「よう。セイバー。読書は楽しい?」
「あ、佐藤さん」
セイバーが俺に気がついて、脚立から降りてくる。パンツ見えなくなって悔しいけど、まあいいさ。
「この本、すごく勉強になるんです。国というのは神や妖精や竜やそんな超常的存在ではなく人々との契約によって生じると説かれています。わたしにはとても新鮮です」
「まあ現代の国家はみんなそんな感じだよね」
日本はどうだろう?うーん。王権神授の天皇からさらに権力を委任されて政府作ってる民主国家だから単純には比較できないかな。
「佐藤さん。アラヤという概念はご存じですか?」
「アラヤ?どこかにいそうな人名だな」
「ふふふ。まあ日本人にいそうな名前ですよね。アラヤとは人類が存続しようとする集団意識のことです」
「ふむ。ユング心理学みたいだな」
「ブリテンは……アラヤに斬り捨てられたんです。神秘濃度が高すぎて幻想よりであったから……ですが最近勉強して思ったんです。もしかして選定の剣を抜いてそれを王権の象徴としたことそのものが間違いだったのではないかと」
「選定の剣ねぇ。君が抜いた奴だったね」
「はい。誰が用意したのかはわかりません。神か妖精か大地か星そのものか。ですがこういう本で国家の成り立ち社会の成り立ちを学ぶと思うのです。我々ブリテンは神秘に縋った。だからアラヤは人理を続けるつもりのない私たちを見限ったのだと……。滅びは決まっていたのではなく、わたしたちの行いが招聘したのです。選定の剣はきっとテストだったんですよ。抜いてはいけなかった……理想の王を立てるのではなく、理想のためにみんなが共に歩むことを剣に誓うべきだった……剣を振り回すことを考える前に他者と話し合うべきだった。そう思うのです」
セイバーは苦しそうに。だけどしっかりとした声でそう言った。俺はなんだかうれしかった。自分のどうしようもない過去をどうにかこうにか分析して未来に役立てようとしている。セイバーはもう過去に囚われていない。未来へ行ける。
「そうか。ああ。素晴らしい考え方だね」
「ありがとうございます。この時代に来れてよかった。わたしの世界が広がった。聖杯を抱いて昇天するよりも今の方がずっと充実していると思うんです」
俺にセイバーの本当の苦しみは理解できない。自己都合で否定的な言葉しかかけられない。まあ俺にだって生活があるからね。でもこういうのだったら大歓迎だ。
「なあセイバー。これから中央区のデカい本屋いかない?」
「本屋さんですか?でも図書室にも本はいっぱいありますよ」
「図書室にないけどいい本はいっぱいある。この間君にはきつい言葉かけちゃったし、すこし償わせてよ。本を君にプレゼントしたい。どうかな?」
セイバーは目を丸くしていた。だけどすぐに優し気に微笑んで。
「はい。連れてってください」
そして俺とセイバーは学校を出て中央区の本屋に向かった。日常はこうやって淡々とだけど前に進んでいくんだ。悲しい過去も優しい現在に勝つことはないから。