コンビニの前でたむろいながら俺は九十九に聞いた。
「ねぇこの入れ墨も聖杯戦争に関係あるんだよね?なにこれ?」
俺は右手のばんそうこうを剥がしてみせる。ため息をつかれた。
「それは令呪。サーヴァントに対して絶対的な命令かまたは能力の強化を付与できるの」
「命令?サーヴァントとマスターって主従関係があるの?」
「サーヴァントは英霊よ。私たち現世の人間がどんなに頑張っても敵う存在じゃない。だから安全装置として令呪があるの。歯向かってもそれで強制停止できる」
「ふーん。能力強化もできると?」
「ええ。できるわ。使えるのは三回だけ三回使うと令呪は消えるわ」
「それって入れ墨が消えるってこと?」
「そうよ」
「ふーん。わかった。えーっと。じゃあライダーに命じる。強くなれ!強くなれ!強くなれ!」
すると掌の入れ墨が発光して消えた。あとも残らずに消えた。
「ちょっと何してるの?!言ったわよね?!令呪は安全装置だって!」
「いやいや。どっちにしろ喧嘩したって勝てないんだよ。隙突かれたら終わりじゃん。意味ないよこの入れ墨。だったらバフに回したらいいやん?ちゃう?」
「嘘でしょ……そんな考え方ありえないんだけど……」
ポケモンでステータス強化アイテムがあるならすぐに使うだろう。取っといても意味ないんだからね。だったら使っておいた方がいい。あとで使わなくて残られても困るし、そもそも掌にずっと入れ墨残るのが嫌すぎる。
「ライダー強くなった?」
「基礎ステータスは多少上がったようだ」
「ならいいよ」
ライダーもパワーアップしたらしいのでこれでいいや。
「あなたってつくづく異常ね」
「そうかな?普通じゃない?」
「普通じゃないわ。ええ。普通じゃないわよ……こんなの……」
なんか九十九とセイバーにドン引きされてる感じがする。ライダーは涼しい顔してるけど。
「マスター」
ライダーが話しかけてきた。
「なに?」
「このチキンはまだあるのか?」
「お替りかい?いいよ。これある。パンに挟むといいよ。美味しいよ」
俺は袋からチキンとバンズを取り出して渡す。ライダーは袋を開けてパンにチキンを挟んで食べた。少し顔が柔らかく見える。
「こんなに美味いものが食べられる。なのにこの時代はカリ・ユガなのか……」
カリ・ユガってなんやろ。よくわからない。まあいいや。そんなときだった。
「あれ?九十九さん?!それに佐藤!?」
伊吹とクラスメイト達が俺たちの前を通りかかった。え、コスプレ集団と一緒にいるところ見られたんだけど……恥ずかしい。
「それになんかすごい美人がふたり?お前何やってんだ佐藤?!」
伊吹が俺に詰め寄ってくる。
「コスプレイベントに参加させられたんだよ。九十九さんの趣味だ」
「ちょ?!何言ってるの!?」
九十九さんが抗議してくるがスルー。俺は別に聖杯戦争に参加してるつもりはない。付き合わされてしまってるのでめんどくさいことは九十九さんに押し付けようと思う。
「九十九さん、なんでこんな奴と一緒に?」
「伊吹くん、あなたには関係ないわ。放っておいてちょうだい」
「だけど!」
「放っておいて!!」
もうちょっとなんか嘘でいいから説明して欲しいなぁ。まあ伊吹が納得するかは別だけど。
「くそ。佐藤、どんなインチキしたんだよおまえ!?」
「インチキ?いや、なんか人手の問題らしいよ。うん。別に俺である必要はなかったと思うね。うん」
俺の感想だけどね。こうやって言って煙に巻いておきたい。
「いいえ。あなたじゃなかったら今日の夜は越せなかったわ。佐藤君。私と組みましょう」
今ここで何言ってんだろう?ええ……。
「いや。今夜限りで。じゃあ俺は予備校あるから……」
今から行けば最後のコマの講義はウケられるはずだ。俺は早足でコンビニの前を去る。
「おい!待てよ!」
「さよなら!!」
伊吹に呼び止められるけどスルー。予備校は命である。絶対に行ってやる!!俺は早足でライダーと共に予備校の方へと向かったのだった。
伊吹政宗は順風満帆な人生を送ってきた。小学生から人気者で部活で活躍して東京の名門大学にスポーツ推薦も決まった。だが手に入れられなかったものがある。
「なんで九十九さんはあんな奴と……」
伊吹は一年生の頃に九十九と同じクラスになった時以来、彼女に夢中だった。人気者の伊吹はいままで女性関係で困ったことはない。初めてつれなくされたことにどこかプライドを刺激はされている。同時に部活で失敗して落ち込んでいた時にも周りと違って九十九だけは優しく接してくれたことを眩しくも思っていた。いままで九十九の周りには過去から見て男の影はなかったのに、初めて彼女から近づく男が現れて伊吹はひどく動揺していた。
「畜生。なんで佐藤なんかが特別なんだよ」
「まったくですわね。わたくしもそう思いますわ……」
家への帰り道の途中で緑色の髪のシスターに声をかけられた。とても美しく神秘的な雰囲気があった。なにか非日常の入り口を伊吹は感じていた。
「あんたはいったいなんだ?佐藤を知ってるのか?」
「ええ。知っておりますわ。まったくあの男は選ばれた運命を得たにも関わらずまったくその使命に応えようとしない怠惰な豚なのです」
シスターは微笑みながら佐藤を罵る。それに溜飲が下がる思いを伊吹は感じた。
「あなたもそう思うでしょう?九十九理々花。彼女のような選ばれた美しい乙女が彼の傍に居たがるなど断じてあってはいけない。そう思いませんこと?」
シスターは伊吹に近づいてくる。金色の瞳は爛々と輝き、何かに伊吹を誘おとしている。
「ああ。あいつは……九十九さんに選ばれてるのに!それを冷たく袖にしていた!くそ!あんな奴が調子に乗るなんておかしい!!」
「そうでしょうそうでしょう!おほほ!ええ!そうでなくては!」
そしてシスターはメモ帳を渡してくる。そしてレンガを一つ手渡してきた。
「なんだよこれ?」
「これはあなたを特別にしてくれる夢の鍵です。あなたは運命に選ばれた。夜に飛び込む資格があるのです。その覚悟があるのならばメモに書いてあることを実行しなさい」
「なんだよこれ。呪文?」
「囚われの乙女を救うものこそ勇者たりうる。ペルセウスアンドロメダのようにあなたは今英雄への旅の一歩を踏み出しました。祝福します。その旅路を!!さあ!飛び込みなさい夜へ!!」
そしてシスターは一瞬のうちに伊吹の前から姿を消した。だが伊吹の手にはレンガとメモ帳が遺されていた。
「英雄?俺が英雄に?そうしたら九十九さんは俺に振り向いてくれるんだな……」
レンガを握りしめて伊吹は走る。夜に飛び込むために。
くぅ!愉悦うぅ!!