教会の奥の私室にてクラリッサはモニターを見て口を歪める。
「ちっ!」
「あはは!三郎君はやるじゃないか!」
モニターには先ほどまで行われていた佐藤と伊吹の戦いがルーラーの力で表示されていた。
「わざわざ佐藤三郎の近くの人間をマスターにしたのにこれですか。まったく興が冷めますわね」
「力を得て増長して暴走する少年が軽くひねられる。実に普通でいい」
「そんなものには何の価値もありません!ああ!葛藤もピンチも何もあったものじゃないとかどうかしてますわ!あの男は一体何なのですか!?」
クラリッサは握りこぶしを震わせる。想定外の事態に想像していた堕落の光景は押しつぶされた。神代の槍をただの参考書とスプリンクラーで潰した。その事実が彼女には許し難かった。
「まあランサーはなにかを仕掛けるようだし、様子見していればいいんじゃないかな?今度も面白いものが見れるはずだよ。くくく」
ルーラーはクラリッサと違ってこの光景を楽しんでいた。
「まあいいでしょう。聖杯戦争はまだ始まったばかり。これでようやく七騎のサーヴァントが揃いました。あの佐藤三郎も受験だのなんだのと言ってられずに、理想に敗れて聖杯を求め出すでしょう……」
「くくく。まあ期待しようじゃないか。この地の聖杯戦争をね」
愉悦の時はきっとくる。クラリッサはそう望み聖杯戦争の観測を続け続ける。
放課後。ライダーのいる漫画喫茶にやってきた。九十九とセイバーも一緒だ。
「漫画喫茶って初めて。思ったより広いのね」
「カップルシートだからね。だけど四人は流石に狭い」
シートにはマンガ読んでたライダーと俺と九十九とセイバーの四人が座った。作戦会議ではない、あくまでも情報交換だ。
「一般人の伊吹君がマスターになってしまった。召喚したのはランサー。これで私たちが確認できたのがセイバー、ライダー、バーサーカー、ランサー、あとは時計塔の魔術師のおそらくはアーチャー。そして森にいたサーヴァント。キャスターが確認できないのはやっぱり怖いわね」
「キャスターってそんなに怖いの?」
「高名な魔術師がキャスターになるのよ。一対一ならともかく搦手使ってくると時間がたてばたつほど不利になるのよ」
「なるほど。まあ搦手は怖いよねぇ。だけどさ」
「なに?」
「だから俺は参加する気ないんだって」
「そうはいってもあなたは普通に学校でも襲われたのよ。これからはライダーを連れて歩きなさい」
「霊体化やなんだけど?」
「なんで?」
「可哀そう。あとなんか誘惑にかられない?共通テストの問題とか本試の問題とか盗めるじゃん?その誘惑がチラつくのがキモい」
「やらなきゃいいだけでしょ!」
「でもなぁ。ほら。近くにそういう手段があるって時点でなんか嫌なのよ」
気分の問題だけどね。もちろんやる気はないが、俺がもし勉強で心折れてしまったら。そう考えると透明人間が近くにいるのはなかなかに気分が悪い。
「マスターはワタシが傍に居るのが嫌なのか?」
ライダーが俺にそう言った。表情は変わらないけど、なんだろう。こう言わせちゃうのは駄目な奴だと思った。
「すまない。そんなつもりじゃないんだよ。あくまでも受験生でいたいだけ。でもこれからはついてきてもらうよライダー。頼むね」
「わかった。護衛はまかせろ」
ライダーは連れて歩くということで決まった。
「直近の話ですが、ランサーの動きが少し引っ掛かります」
セイバーがそう言った。
「普通わたしたち英霊は自分の宝具を貸したりしません。私も剣を二本、盾を一つ持っていますが、これを誰かに託すなど考えられません。これはわたしたち英霊の人生の結果そのものなのです」
「ふーん。まあ大事なのね。だけどあのランサーは自分の槍をどうでもいいとか言ってたんだよね」
「どうでもいい?まさか。ランサーのクラスに該当するならば槍の逸話を持っているはずです。それは誇りかあるいは悔悟であっても大事なもののはずです」
「でもまじでどうでもよさげだったよ。あのランサーには槍なんかよりももっと大事なものがあるんじゃないかな?」
俺がそう言うと九十九がやや目を細める。
「もしかすると槍はおまけのような宝具なのかもしれないわね。ランサー適正はあったけど、本職は別なのかもしれないわ」
「おまけで条件に引っかかったタイプってことね。なるほどな」
あのランサーは曲者だと思う。用意周到というか少なくとも正々堂々決闘とかするタイプじゃない。目的優先のタイプ。そういうのが一番厄介だ。
「まあ考えても仕方ないよ。他の人に任せよう。ほらあのバーサーカーさんとかに暴れてもらうとかね」
「あいつにボコボコにされたのに気にしないの?」
九十九が悔し気にそういうが、興味ないです。
「だから総当たりじゃないの。生き残ればいいんだから放っておけばいいって」
魔術師ってやつはプライドが高いからいけないね。
「じゃあ情報交換はここまで。俺は予備校行くよ。ライダーついてきて」
「わかった」
「ちょっと待って!」
九十九に呼び止められた。
「なに?」
「予備校行くってことはいい大学目指してるの?どこ受けるの?」
「ふっ!東京大学文科一類!」
「はぁ……そうなの。まあ頑張って」
「マスター?東京大学文科一類とはなんですか?」
セイバーがなんか興味持ってる。
「この国で一番いい大学の法学部さ!ふっ!エリート大学デビューでモテモテ大学生活するのが俺の願いなのさ!ふっ!」
「うわぁしょうもない!?大学名で引っかかるような女の子なんてロクなもんじゃないと思うのだけど?」
「いんだよべつに!男だって女の顔とおっぱいとお尻とくびれしか見てねぇんだから!お相子お相子!じゃあ俺は行くから!じゃあな?」
「むー。行ってらっしゃい」
俺は漫画喫茶を後にして予備校に向かったのだった。