ロシア装備でサバゲーしていた俺がいつの間にかブルアカの世界に転生してTSしていたんだが? 作:NK7
ラーメンを食べ終え、店の外に出ると、夕方の空気がわずかに冷たい。
さっきまで店内を満たしていた湯気と熱気が嘘のように、外の空気は乾いていて、静かだった。肺に入る空気が少しだけ軽く感じる。
背後では、便利屋68も店を出てきていた。
「ふぅ……生き返ったわ」
「アルちゃん、結局ほぼ一人前食べてたよね」
「ち、違うわよ!計算通りに分担しただけ!」
「……まあ、結果オーライ」
軽口が飛び交う。
そのやり取りは、どこにでもある放課後の会話のようで――
だがレインには、それが妙に現実感を伴って響いていた。
視線が一瞬だけ交差する。
(敵意はない)
(今は)
アルの統率力。カヨコの観察眼。ムツキの無邪気さ。ハルカの行動力。
どれも油断しているわけではない。ただ、互いに「今は争う理由がない」と理解しているだけだ。
それが逆に、レインの胸の奥に静かな緊張を残していた。
(戦場で一度でも刃を交えれば、次に会う時はどうなるか分からない)
(……便利屋68は、仕事で動く)
(感情ではなく、契約で)
その認識が、冷たい計算のように頭の中で整理されていく。
「それじゃあ、気を付けてね!」
「お仕事、上手くいきますように!」
「あははっ!了解!あなたたちも学校の復興、頑張ってね!私も応援してるから!じゃあね!」
便利屋68は、そのまま夜の街へと消えていく。
足音が遠ざかる。
ネオンの光に溶けるように、四人の背中が人混みに紛れ、やがて完全に見えなくなった。
完全に視界から消えたところで、自然とアビドスメンバーは帰路についた。
しばらく、誰も何も言わなかった。
街灯が等間隔に並び、足元に淡い影を落とす。
アスファルトを踏む音だけが、規則的に続く。
レインの思考は、すでに戦術盤面の上にあった。
(……今言うべきか)
胸の奥で、判断材料が並べられていく。
便利屋68が敵対勢力に雇われている可能性。
戦力差。
襲撃タイミング。
防衛準備に必要な時間。
(それとも情報を集めてからか)
だが、その案はすぐに却下される。
(情報精度を上げる時間と、防衛準備時間は比例しない)
(むしろ遅れれば、初動対応が間に合わない)
過去の記憶が一瞬だけよぎる。
「報告が遅れたことで防げなかった事例」。
それが胸の奥で、鈍い痛みとして蘇る。
(時間を与える方が危険。次会えるかも分からない)
結論は早かった。
「……ホシノ先輩」
「んー?」
気の抜けた返事。
だがレインは知っている。
この人は、聞くべき話題の時だけ、無意識に周囲の音を拾う。
歩幅は変わらない。
視線も前を向いたまま。
それが逆に、完全に意識をこちらへ向けている証だった。
「さっきの……ゲヘナの四人組」
「あーあの子たち?」
「はい」
少しだけ言葉を選ぶ。
不用意な断定は、判断を誤らせる。
だが曖昧すぎる表現も意味がない。
「……あの人たち、多分、アビドスに関わる依頼を受けてます」
沈黙。
ホシノ先輩はすぐに返事をしない。
ただ、視線を前に向けたまま歩く。
その沈黙は、拒絶ではなく「情報を展開している時間」だと分かる。
「……根拠は?」
声色が、ほんの少しだけ変わる。
眠そうなトーンはそのまま。
だが、内側に鋭い刃が潜る。
レインは、無意識に呼吸を整えていた。
「ラーメンを食べているときに盗み聞きしまして」
記憶を巻き戻す。
会話の音量。
単語の選択。
声のトーン。
表情。
「“ターゲットがアビドス”という発言がありました」
「ふーん」
短い相槌。
否定もしない。
肯定もしない。
それが逆に、情報をそのまま受け取っている証拠だった。
「資金状況から見て、高額報酬の依頼を受けている可能性が高いです」
「うん」
「さらに――」
一瞬だけ、言葉を切る。
ここから先は推測領域。
だが、戦術判断では重要な部分。
「確実に傭兵を雇っています。戦力はかなりのものかと」
足音が、わずかに重なる。
ホシノ先輩が横目でこちらを見る。
その視線は穏やかで――
同時に、全体を測る指揮官の目だった。
「……怖い?」
問いが、静かに落ちる。
レインは少しだけ考える。
怖さがないわけではない。
むしろ、戦力差や不確定要素を理解しているからこそ、恐怖の輪郭ははっきりしている。
だが、それは行動を止める種類の感情ではない。
「いいえ」
即答だった。
「怖いというより……」
夜空を一瞬だけ見上げる。
街灯にかき消された星を探すように。
「対策を組める段階で知れたのは、幸運です」
その言葉は、自分に言い聞かせている部分もあった。
「……」
ホシノ先輩が、小さく息を吐く。
「レインちゃんってさ」
「はい」
「変なところで冷静だよねぇ」
その言葉に、レインは少しだけ戸惑う。
冷静でいようとしているだけだ。
焦れば判断が鈍る。
それを知っているだけ。
「……そうですか?」
「うん」
少しだけ言葉に詰まる。
脳裏に、過去の光景が一瞬だけ浮かびかけ――
すぐに押し込める。
「……慣れているだけです」
「戦いに?」
「状況分析に、です」
ホシノ先輩は、少しだけ笑う。
「そっかぁ」
また沈黙が落ちる。
だが、今度は重くない。
「……ありがとね」
ぽつりと、落ちる声。
「早めに聞けて助かった」
その言葉に、胸の奥がわずかに軽くなる。
自分の判断が間違っていなかったという、静かな確信。
「まだ可能性の段階です」
「それでも十分」
ホシノ先輩は、ゆっくり空を見上げる。
「アビドスってさ」
「はい」
「狙われるの、慣れてるんだよねぇ」
自嘲でも、諦めでもない。
ただ、現実を受け入れている声だった。
レインは、その言葉の重みを感じ取る。
(この人は、ずっと最前線にいたんだ)
「でも」
視線がこちらに戻る。
「準備できるなら、その方がいい」
「……はい」
その一言で、役目は果たせたと感じた。
「一応、みんなに情報は共有しとくね」
「お願いします」
ホシノ先輩は、ふっと欠伸をする。
空気が、わずかに緩む。
「いやー、それにしても」
「?」
「ラーメン美味しかったねぇ。それにしてもあのレインちゃんの食べっぷりには驚いたよー」
急に日常へ引き戻される。
その落差に、思わず肩の力が抜ける。
「……はい」
「また行こうね」
「はい」
歩きながら思う。
(これでいい)
(情報は渡した)
胸の奥で、緊張していた糸が少しだけ緩む。
(あとは――)
思考が自然と次の段階へ移行する。
防衛ラインの構築。
自分の配置。
弾薬の補給。
最悪の想定。
街灯の光が、ゆっくり背後へ流れていく。
(備えるだけ)
だがその奥で、もう一つ小さな感情が芽生えていた。
(……守りたい)
戦術でも義務でもなく、
アビドスという場所そのものを。
その感情に、レインはまだ名前を付けられずにいた。
胸の奥で、静かに戦術思考が組み上がっていった。
感想お待ちしてます
続きません
レインの設定って書いたほうがいいですか?
-
いる
-
いらん