ロシア装備でサバゲーしていた俺がいつの間にかブルアカの世界に転生してTSしていたんだが? 作:NK7
「校舎より南15km地点付近で大規模な兵力を確認!」
生徒会室の空気が、瞬間的に張り詰める。
「まさか、ヘルメット団?」
「ち、違います!ヘルメット団ではありません!」
オペレーターの声がわずかに裏返る。
手元のキーボードを叩く音が早まり、緊張が操作音に現れていた。
「…傭兵です!おそらく日雇いの傭兵!」
「へぇー傭兵かー。結構高いはずだけど」
ホシノが椅子にもたれたまま、眠たげに呟く。
「これ以上接近されるのは危険です!先生、出動命令を!」
「”出動だー!”」
その一言で、校舎全体が一斉に動き出す。
足音。装備が触れ合う金属音。無線の雑音。
アビドスの防衛準備が、慣れた動きで展開されていく。
砂漠の乾いた風が、制服の裾を強く揺らす。
アビドス校舎前。
急造とは思えないほど整理された防衛線が敷かれている。
砂嚢、障害物、射撃位置――それぞれが最低限ながら合理的に配置されていた。
静かに周囲を確認する。
射線。退路。味方配置。
すべてが頭の中で、立体的な戦術マップとして組み上がる。
「前方に傭兵を率いている集団を発見!レインちゃんの言う通り、便利屋68です!」
(……やっぱり)
胸の奥で、何かがゆっくりと沈み込む。
予測はしていた。
可能性は高かった。
だが――
(想定と現実は違う)
(現実は、必ず重みを持つ)
視線の先。
砂煙の向こうから、はっきりとしたシルエットが現れる。
陸八魔アル。
堂々と前に立ち、まるで舞台の中央に立つ俳優のように存在感を放っている。
ラーメン屋で見た姿が、記憶の奥から浮かび上がる。
湯気の匂い。
笑い声。
一瞬だけ共有した、戦場ではない時間。
「ぐ、ぐぐっ…」
「信じたくはなかったけどあんたたちだったのね!!無料で大盛にしてあげたのに、この恩知らず!!」
その声を聞いた瞬間。
胸の奥が、わずかに締め付けられる。
(覚えている)
(全部)
だが――
「――切り替えろ、感情は判断を鈍らせる」
誰にも聞こえない声で、自分に命じる。
脳内で、感情を区切るラインが引かれる。
「あははは、その件はありがと。それはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさ」
「残念だけど、公私はハッキリ区別しないと。受けた仕事はきっちりこなす」
「…なるほど。その仕事っていうのが、便利屋だったんだ」
「もう!学生なら、他にもっと健全なアルバイトがあるでしょう?それなのに便利屋だなんて!」
「ちょ、アルバイトじゃないわ!れっきとしたビジネスなの!肩書だってあるんだから!」
「私は社長!」
「あっちが室長で」
アルが機関銃を持ったメスガキのような少女に振る。
視線だけで少女の装備重量、射撃姿勢、弾帯の長さを確認する。
「こっちが課長!」
次にパーカーを着た少女に振る。
「はぁ…社長。ここでそういう風に言っちゃうと、余計薄っぺらさが際立つ…」
「誰の差し金?…いや、答えるわけないか」
「力尽くで口を割らせるしか」
「ふふふ、それはもちろん企業機密よ?」
「企業機密をこんな公な場所で話すの、陸八魔アル、やっぱあなた社長向いてないですね」
言葉を放った瞬間。
自分でも分かる。
(挑発)
意図的。
計算済み。
ラーメン屋での会話、態度、視線の動き。
そこから導き出した仮説。
(この人は、冷静さより感情で動く)
(指揮官を揺さぶれば――部隊は揺れる)
一瞬の静寂。
「なななな、なんですってーーーーー!!と、とにかく総員攻撃、総員攻撃ーーー!!!」
(成立)
胸の奥で、冷たい計算が確定する。
同時に。
ほんの微量の罪悪感が、心の底に沈む。
(……ごめん)
だが、それを浮上させる余地はない。
即座に後退する。
踵の向きを変え、最短経路で校舎内部へ滑り込む。
足音は最小限。
重心移動は無駄なく。
階段を駆け上がる間も、脳内では戦場がリアルタイムで更新され続ける。
(アルは前線に出る指揮型)
(なら、抑えれば統制が崩れる)
(傭兵は契約戦力)
(士気ではなく、命令で動く)
(命令が消えれば――瓦解する)
屋上扉に手を掛ける。
ゆっくり押し開く。
乾いた風が吹き抜け、砂粒が床を滑る。
遮蔽物の陰へ身体を滑り込ませる。
SVChのバイポッドを展開しアルティンのバイザーを上げる
(距離……約420)
スコープを覗きながら、瞬時に測距。
(風向き……左から微風)
砂塵の流れ、旗の揺れ、弾道予測が頭の中で重なる。
(高度差……補正不要)
チャージングハンドルを引く。
装填音が、短く乾いた音を立てる。
スコープ越しに――
アルの姿が鮮明に映る。
その姿を見た瞬間。
胸が、ほんの一拍だけ遅れる。
(本当に撃つのか)
一瞬だけ浮かぶ問い。
すぐに、消す。
無線を開く。
「……ホシノ先輩」
『んー?』
その気の抜けた声が、緊張で張り詰めた思考をわずかに緩める。
「陸八魔アルは抑えますので、傭兵と社員を任せます」
沈黙。
風の音だけがイヤーピースに流れる。
『……了解』
短い返答。
だがそこには、完全な信頼が含まれていた。
『無理しないでねぇ』
その言葉に――
心拍が、ほんのわずか整う。
「はい」
通信を切る。
再びスコープを覗く。
アルが、防衛線を睨みながら指示を飛ばしている。
腕の振り方。
視線の動き。
全てが、指揮官としての癖を示していた。
(指揮動作、継続中)
(射撃タイミング……今)
指先に、ゆっくりと力を込める。
(これは排除じゃない)
(抑止)
(戦場の流れを止めるだけ)
呼吸を止める。
心拍とトリガーの感触を同期させる。
引いた。
乾いた銃声が、砂漠の空気を裂く。
弾丸はアルの足元を正確に撃ち抜き、砂を爆ぜさせる。
砂塵が小さく跳ね上がる。
警告射撃。
同時に。
アルが反射的に跳躍する。
「――っ!?」
その動きを見た瞬間。
レインの瞳が、鋭く細まる。
(反応速度、高)
(危機察知能力も高い)
(……簡単な相手じゃない)
スコープ越しに、アルがこちらを睨む。
視線が、距離を越えて交差する。
空気が、静かに張り詰める。
戦場が――
完全に始まった。
スコープ越しに、アルがこちらを睨む。
距離、約420メートル。互いの姿は小さいはずなのに――視線だけが、妙に鮮明だった。
アルは即座に遮蔽物へ飛び込む。転がり込む動作に迷いがない。そのまま地面を蹴り、次の瓦礫へ滑り込む。
(移動ルート、合理的)
(遮蔽物の選択も的確)
スコープから目を外さず、呼吸だけを整える。
(次は外さない)
だが――
トリガーに指を掛けた瞬間、ほんの僅かに圧が鈍る。
(……本当に?)
脳裏に、ラーメン屋の光景が浮かぶ。
湯気。笑い声。「またね」と軽く振られた手。
瞬間。
ゆっくり瞬きをする。
(違う)
(これは――戦闘)
(今ここで迷えば)
(アビドスが崩れる)
スコープ越しに、アルが再び姿を現す。
指揮を飛ばしている。腕の動きが大きい。部隊の視線が、確実にアルへ集中している。
(やっぱり指揮中枢)
照準を、ほんの数センチずらす。
撃つ。
銃声。
弾丸が、アルの持っていた端末を弾き飛ばす。火花が散り、装置が地面に転がる。
「――っ!」
アルが即座に伏せる。
周囲の傭兵が一瞬動揺する。
(当たり)
(指揮系統、遅延)
胸の奥に、冷たい達成感が生まれる。
だが同時に――
視界の端が、わずかに霞む。
(……集中が落ちてる)
肩にかかる銃の重さが、少しだけ増した気がする。
長時間の高集中。呼吸制御。視神経の酷使。
脳が、静かに疲労を訴え始めていた。
スコープから一瞬だけ目を外す。
乾いた風が頬を撫でる。まばたきすると、涙が少しだけ滲む。
(まだ大丈夫)
(まだ撃てる)
再び覗き込む。
アルが移動する。今度は低姿勢。不規則なフェイントを混ぜている。
(……対応してきてる)
照準を追いながら、思考が高速回転する。
(この距離で、私の射線を完全に読むのは難しい)
(でも、感覚で避けてる)
(やっぱり慣れてる)
次弾。
撃つ。
弾丸は、アルの肩すれすれを掠める。砂が爆ぜ、制服の裾が揺れる。
アルはそのまま後退しながら、こちらを睨み続ける。
そして――
瓦礫の陰へ滑り込んだ瞬間。
アルが銃の照準をこちらに向けた
視界が、ほんの僅かに細くなる。
(…よし、狙い通り)
アルは遮蔽物に背を預けたまま、素早くマガジンを確認する。
そして――
無線機を口元へ持ち上げる。
「全隊、戦線維持して。撤退判断はカヨコに一時委任する」
短い。
だが、明確だった。
「社長!?」
カヨコの声が混線する。
アルは、静かに息を吐く。
「問題ないわ」
そして。
ゆっくりと。
PSG-1を肩に当てる。
「――これは、私の仕事」
その言葉が、無線越しに切れる。
次の瞬間。
アルは完全に遮蔽物から身体を出す。
狙撃姿勢。
背筋を、冷たい感覚が走る。
(……来る)
風向。
距離。
遮蔽物。
射線角度。
一瞬で計算が走る。
引き金。
閃光。
――着弾。
屋上の縁が弾ける。
コンクリート片が散り、粉塵が視界を覆う。
即座に身体を転がす。
(速い)
(しかも正確)
呼吸が、わずかに乱れる。
胸の奥で、警鐘が鳴る。
(指揮を――放棄した)
(完全に――こっちに来た)
再び伏せ、スコープを覗き込む。
アルはもう、部隊を見ていなかった。
視線は一直線に屋上へ固定されている。
その姿は、完全に指揮官ではなく。
一人の狙撃手だった。
胸の奥が、強く軋む。
(……この人)
(本気で撃ち合うつもり)
呼吸を整える。
だが、先ほどよりもわずかに浅い。
(落ち着け)
(地の利はこちらにある。それに相手の弾は7.62mm。威力でもこちらが有利)
照準を重ねる。
アルが動く。
撃つ。
同時に――
閃光。
弾丸が空間を切り裂く。
頬を、何かが掠める。
屋上の手すりが砕け、破片が頬をかすめる。
痛みは小さい。
だが。
距離の優位が、消えつつあることを理解するには十分だった。
(……読まれてる)
視界の端が、また揺れる。
疲労が、確実に積み重なっている。
唇を噛む。
(でも)
(退けない)
スコープ越しに。
アルがこちらを見据えている。
挑発でも、恐怖でもない。
ただ。
「続けるわよ」と言っている目。
静かに息を吐く。
照準を、再びアルの胸元へ重ねる。
風が吹く。
砂が舞う。
心拍が、耳の奥で鳴る。
遠距離狙撃は、静かに神経を摩耗させていく。
それでも。
トリガーに指を掛ける。
(終わらせる)
(アビドスを守るために)
そして。
突如。
前線の傭兵部隊が――崩れ始める。
隊列が乱れる。
(……?)
無線が混線する。
(統制崩壊?)
(いや違う――)
望遠視界で部隊を追う。
(撤退行動…?)
そして。
傭兵たちは、組織的に後退を開始していた。
(……まさか)
「こらー!!ちょっ、どういうことよ!?ちょっと!帰っちゃダメ!!」
スコープ越しに見えるアルの表情が崩れる。
(……あ)
(契約時間)
脳裏で、仮説が繋がる。
(時間制契約傭兵)
(つまり――)
(時間切れ)
一瞬だけ、現実感が揺らぐ。
「こりゅヤバいね。まさかこの時間まで決着がつかないなんて…アルちゃん?どうする?逃げる?」
「あ…うう…こ、これで終わったと思わないことね!アビドス!」
「あはは、アルちゃん、完全に三流悪役のセリフじゃんそれ」
「うるさい!逃げ…じゃなくて撤退するわよ!」
便利屋68が撤退する。
スコープで便利屋68を追う。
撃てる。
撃てる距離。
撃てる角度。
だが――
指は、動かなかった。
(……撤退中の敵を撃つ意味はない)
(戦術的価値、低)
そして。
ほんの少しだけ。
胸の奥が軽くなる。
「待って!…あ、行っちゃいましたね」
「うへ~逃げ足早いねー、あの子たち」
スコープから目を離す。
肩の力が抜ける。
銃が、急に重く感じる。
(……終わった)
深く息を吐く。
肺が、遅れて空気を求める。
「…詳しいことはわかりませんが、敵兵力の退勤…いえ、退却を確認。困りましたね…妙な便利屋にまで狙われるとは、先が思いやられます…いったい何が起きているのでしょうか…」
「まあ、少しずつ調べるとしよう。まずは社長のアルって子の身元から洗ってみたら。何か出てくるよ、きっと」
「はい。皆さん、お疲れさまでした。一旦、帰還してください」
無線が静まる。
SVChのセーフティーをかける
夕暮れの風が、静かに頬を撫でる。
遠くの砂煙が、ゆっくりと消えていく。
(……また会うかもしれない)
アルの背中が、記憶に残る。
(その時は)
ほんの少しだけ目を閉じる。
(次は――迷わない)
そして。
SVChを抱えながら、屋上から降りていく
感想お待ちしてます
続きません
レインの設定って書いたほうがいいですか?
-
いる
-
いらん