ロシア装備でサバゲーしていた俺がいつの間にかブルアカの世界に転生してTSしていたんだが? 作:NK7
銀行から抜け出し、花壇の裏に隠しておいた装備を回収する。
植え込みをかき分け、砂に半ば埋もれていたリュックを引き上げる。
乱雑に隠したせいで、葉や土がベストの隙間に入り込んでいた。
素早く装備を確認しながら背負い直す。
ヘルメット内側には溜まった湿気が頬にまとわりつく。
嫌なほど汗で湿っている。
(……終わった)
荒い呼吸を抑え込む。
いや――終わっていない。
(逃走が完了するまでが作戦だ)
封鎖が始まる前に外縁部を突破するため、一同は全速力で走り出した。
「はひー、息苦しい。もう脱いでいいよね?」
セリカの声が、背後から上擦って飛んでくる。
「のんびりしてらんないよー、急げ急げ。追っ手がすぐ来るだろうからー」
ホシノ先輩の軽い調子とは裏腹に、足取りはまったく緩んでいない。
「できるだけ早く離れないと…間もなく道路が封鎖されるはずです…」
ヒフミさんの声は、端末越しでも焦りが滲んでいた。
「ご心配なく。万全の準備を整えておきましたから☆」
ノノミが振り向きながら微笑む。
「こっち、急いで」
シロコが最短ルートへと誘導する。
(……まだ大丈夫)
肺が焼けるように痛む。
だが、足は止めない。
「あの、シロコ先輩…覆面脱がないの?邪魔じゃない?」
セリカの問いに、シロコは少しだけ首を傾げる。
既にシロコ以外は覆面を外していた。
自分もヘルメットとボディアーマーに貼った白テープを、走りながら剥がし終えている。
粘着剤が指に残る。
「天職を感じちゃったっていうか、もう魂の一部みたいなものになっちゃって、脱ぎたくないんじゃなーい?」
ホシノ先輩が肩越しに笑う。
「シロコ先輩はアビドスに来て正解だわ…他の学校だったら、ものすごい事をやらかしてたかも…」
「そ、そうかな…」
シロコが少しだけ困ったように答える。
(いや……否定はできませんね)
小さく苦笑する余裕が、ようやく戻ってきた。
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「封鎖地点を突破。この先は安全です」
アヤネの報告が入った瞬間、全員の足がようやく緩む。
「やった!大成功!」
セリカが両手を上げる。
「本当にブラックマーケットの闇銀行を襲っちゃうなんて…ふう…」
アヤネが胸に手を当てる。
「私、もう二度とやりませんからね!!」
思わず、本音が漏れた。
肺が焼けるように痛い。
喉の奥が乾いている。
だが、それ以上に――
胸の奥に、鉛のような重さが沈んでいた。
「シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんと持ってるよね?」
「う、うん…バッグの中に」
「…へ?なんじゃこりゃ!カバンの中に…札束が…!?」
ホシノ先輩の言葉で、全員の視線がバッグへ集中する。
「うえええええっ!?シロコ先輩、現金を盗んじゃったの!?」
「ち、違う…目当ての書類はちゃんとある。このお金は、銀行の人が勝手に勘違いして入れただけで…」
「私も書類だけでいいって言ったんですけどね…銀行の人命乞いまでしてきたんですよ…はあ…」
深いため息を吐く。
バッグの口を開けた瞬間、札束の匂いがわずかに漂った。
その瞬間、胃の奥が冷えた。
(……重い)
重量ではない。
(意味が、重すぎる)
元は自分たちが稼いだ金でも、今は闇銀行に回った金。
それが、無造作に詰め込まれている。
(こんな金……触りたくもない)
「どれどれ…うへ、軽く一億はあるね。本当に五分で一億稼いじゃったよー」
ホシノ先輩が軽く言う。
「やったあ!!何ぼーっとしてるの!運ぶわよ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!そのお金、使うつもりですか!?」
「アヤネちゃん、なんで?借金を返さなきゃ!」
「そんなことしたら…本当に犯罪だよ、セリカちゃん!!」
「は、犯罪だから何!?」
言葉が鋭くぶつかる。
その中心で、自分はバッグから視線を外せなかった。
「私はセリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者の資金ですし、私たちが正しい使い方をした方がいいと思います」
「ほらね!これさえあれば、学校の借金をかなり減らせるんだよ!?」
「んむ…それはそうなんだけど…シロコちゃんとレインちゃんはどう思う?」
一瞬、風の音だけが流れる。
「私は断固反対」
ゆっくりと言葉を置く。
「元は私たちで稼いだ金だったとしても、闇銀行に流れてしまった金なんて触りたくもない」
バッグを見下ろす。
「正直、今すぐにでも燃やしたい。それに――」
少しだけ間を置く。
「金に正しい使い方、正しくない使い方なんて存在しません」
空気が静まる。
「……一度“楽な手段”を選んだら、戻れなくなります」
自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。
「借金を返すために犯罪を肯定するようになったら――それはもう、学校を守っているとは言えません」
「…自分の意見を述べるまでもない、ホシノ先輩が反対するだろうから」
「へ!?」
「さすがはシロコちゃん。私のこと、わかってるねー。レインちゃんも」
ホシノ先輩は真剣な表情で続ける。
「今回のは悪人の犯罪資金だからいいとして、次はどうする?その次は?」
誰も答えられない。
「こんな方法に慣れちゃうと…ゆくゆくは、きっと平気で同じことをするようになるよ」
(……それが一番怖い)
「うへ~このおじさんとしては、カワイイ後輩がそうなっちゃうのはイヤだなー」
「こんな方法を使うくらいなら、最初からノノミちゃんが持ってるゴールドカードに頼ってたはずー」
(……え?)
思わずノノミを見る。
(あれ、そんなレベルのカードだったんですか……?)
「…私もそう提案しましたが、ホシノ先輩に反対されて…先輩の気持ち、わかります。いくら頑張ったって、きちんとした方法で返済をしない限り」
「うへ、そういうこと」
ホシノがバッグを軽く叩く。
「だから、このバッグは置いていくよ。頂くのは必要な書類だけね。これは委員長としての命令だよー」
「うわああっ!!もどかしい!こんな大金を捨ててく!?変なところで真面目なんだから!!」
セリカが頭を抱える。
「うん、委員長の命令なら」
「私はアビドスさんの事情をよく知りませんが…このお金を持っていると、何か他のトラブルに巻き込まれるかもしれません…」
ヒフミさんが不安そうに言う。
「……災いの種、ですね」
静かに同意する。
ヒフミが小さく頷いた。
「あは…仕方ないですよね。このバッグは、私が適当に処分します」
ノノミがバッグの取っ手を握る。
「ほい、頼んだよー」
ホシノ先輩が軽く手を振る。
その瞬間――
わずかな振動を感じた。
地面を伝う、足音。
「…!!待ってください!何者かがそちらに接近しています!」
瞬時にセーフティを解除する。
バイザーを下ろす。
視界が戦闘モードへ切り替わる。
「…!!追っ手のマーケットガード!?」
背後の気配を察知した瞬間、視界が鋭く収束する。
反射的に足が半歩下がり、肩越しに振り返る。
銃を構える――寸前。
「い、いえ。敵意はない様子です」
アヤネの声が、張り詰めた空気をわずかに緩ませた。
照準を上げきらないまま、相手の挙動を観察する。
呼吸。歩幅。手の位置。視線の動き。
(……確かに、攻撃姿勢ではない)
「調べますね…あれは…べ、便利屋のアルさん!?」
「はあ、ふう…ま、待って!!」
自分たちが走ってきた道から、アルが息を切らして駆け寄ってくる。
整えられているはずの髪が少し乱れ、額には汗が浮いていた。
(……なんで陸八魔アルがここに?)
状況理解が追いつく前に、周囲が一斉に動き出す。
みんな急ぎで覆面を装着している。
白テープをポーチから引き抜き、雑にラインを三本。
真っ直ぐではないが、識別妨害としては十分。
ボディアーマーは――
(……時間がない。姿勢と動線を見られなければ、それでいい)
装備確認を頭の中で完了させる。
「あ、落ち着いて。私は敵じゃないから…」
アルが両手を軽く上げる。
だが、その動きはどこかぎこちない――
小声の作戦会話が始る。
(何であいつが…?)
(撃退する?)
(どうかな。戦う気がないって相手も叩くのもねぇ)
(お知り合いですか…?)
(まあねー、そこそこ)
(ま、まあいいんじゃないですか?面白いですし)
周囲を警戒しながら、小さく呟く。
「あ、あの…た、大したことじゃないんだけど…銀行の襲撃、見せてもらったわ…ブラックマーケットの銀行をものの五分で攻略して見事に撤収…あなたたち、稀に見るアウトローっぷりだったわ」
アルの声は微妙に震えていた。
興奮と憧れが混ざったような響き。
彼女の瞳は、完全に“英雄譚を語る観客”のそれだった。
一同、沈黙。
遠くでマーケットの雑踏がかすかに聞こえる。
金属の擦れる音。呼び込みの声。誰かの笑い声。
この場だけ、妙に空気が止まっていた。
「正直、すごく衝撃的だったというか、このご時世にあんな大胆なことができるなんて…感動的というか…わ、私も頑張るわ!法律や規則に縛られない、本当の意味での自由な魂!そんなアウトローになりたいから」
(一体…何の話…)
ゆっくりと視線を横へ流す。
セリカの顔。
完全に怒りゲージが上昇していた。
(セリカさん、ステイステイ…)
(あと何回も思うけど…陸八魔アル、あなたアウトロー向いてないから…)
内心でだけ呟く。
「そ、そういうことだから…な、名前を教えて!!」
「名前…!?」
「その、組織っていうか、チーム名とかあるでしょ?正式な名称じゃなくてもいいから…私が今日の雄姿を心に深く刻んでおけるように!!」
(うへ…なんか盛大に勘違いしてるみたいだねー…)
(…陸八魔アル…なんで私たちがアビドスだって気づかないんですかね…)
(ほんとにねー)
小さく頷く。
「……はいっ!おっしゃることは、よーくわかりましたっ!」
(の、ノノミ先輩!?)
セリカが小さく呟く
背筋に嫌な予感が走る。
「私たちは、人呼んで…覆面水着団!」
「…覆面水着団!?や、ヤバい…!!超クール!!カッコ良すぎるわ!!」
アルの瞳が輝きを増す。
(……え、本気で言ってます?)
レインは思わず足の位置を調整する。
逃走ルートを無意識に計算していた。
(う、嘘でしょ!?)
(あんな名前をかっこいいっていうの!?)
セリカと視線が交差する。
完全に同意だった。
「うへ~本来スクール水着に覆面が正装なんだけどね、ちょっと緊急だったもんで、今日は覆面だけなんだよー」
(なにその設定!?)
(初耳どころか初次元です…)
「そうなんです!普段はアイドルとして活動してて、夜になると悪人を倒す正義の怪盗に変身するんです!そして私はクリスティーナだお♧」
「「だ、だお♧」…!?きゃ、キャラも立ってる…!?」
アルが完全に世界観へ没入していた。
(キャラ立ちすぎて倒れそうです…)
「うへ、目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。これが私らのモットーだよ!!」
「な、なんですってー!!」
(……もうダメだ)
遠い目をした。
(情報処理が追いつきません)
「……何してるの、あの子たち…」
「わー、アルちゃんドはまりしちゃってるじゃん。特撮モノのイベントに連れてってもらった子供みたいな顔してる!」
奥で便利屋のメンバーが完全に困惑していた。
(……安心しました)
(正常な反応を見ると落ち着きます)
(もういいでしょ?適当に逃げようよ!)
セリカの提案に、心の底から同意する。
(ありがとう、セリカ)
「それじゃこの辺で、アディオス~☆」
「行こう!夕日に向かって!」
「夕日、まだですけど…」
「雰囲気だよ、雰囲気!」
走り出す。
足裏に伝わるアスファルトの感触。
装備が小さく揺れる重み。
背後からアルの声が追いかけてくる。
「よし!我が道の如く魔境を…その言葉、魂に刻むわ!私も頑張る!」
(……絶対に誤解を解きたい)
だが足は止めない。
視線を左右へ振り、反射面、屋根上、路地奥――
脅威反応を順に確認する。
(……離脱成功、ですね)
呼吸を整えながら速度を緩める。
そのとき、ふと違和感が胸をかすめる。
(現金のバッグは――)
思考が数秒停止する。
仲間の背中を見る。
楽しそうに笑う声が聞こえる。
(……まあいいか)
胸の奥で、小さく結論を出した。
(あれは最初から、持つべきものじゃない)
足を速める。
砂埃の中へ、仲間たちと並ぶように走った。
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学校に戻り、ようやく張り詰めていた空気が緩んだ頃。
ノノミがふと、足を止めた。
その表情が、ほんのわずかに固まる。
「…あれ?」
「どうしたの?」
シロコが首を傾げる。
「……現金のバッグ…置いてきちゃいました」
「えーっ!?」
セリカの絶叫が校舎に反響する。
「うへ~、いいんじゃない?どうせ捨てるつもりだったし。気にしない、気にしない
ホシノ先輩は屋上のフェンスにもたれかかりながら、いつもの調子で肩をすくめた。
「うん。誰かに拾われるでしょ、きっと」
シロコも淡々と頷く。
「ですよね☆お金に困ってる人が拾ってくれるといいですね」
ノノミはにこりと笑う。
本気でそう思っている、柔らかい笑顔だった。
「あはは…良いことしたって思いましょう。お腹を空かせた人が、あのお金でお腹いっぱいになれると思えば…」
ヒフミさんも控えめに笑う。
だが、その声には少しだけ苦笑が混ざっていた。
「うう…もったいない…どう考えてももったいなさすぎる!!まったくもう、みんなお人好しなんだから!!」
セリカが頭を抱えてうずくまる。
その姿に、屋上に小さな笑いが広がる。
――その輪の外で。
自分は、校庭をぼんやりと見下ろしていた。
夕方の光が砂地を淡く照らしている。
風に巻き上げられた砂が、金色に揺れていた。
(……正直、驚いた)
あれだけの金額。
普通なら、組織の命運を左右してもおかしくない資金。
それを――
(迷いなく、手放すんだな)
自分の手のひらを見る。
まだ、バッグを運んでいた時の重みを覚えている気がした。
(自分はああ言ったけど、本当にそうしたかったのだろうか…)
答えは、すぐには出ない。
視線を横へ動かす。
ノノミは少し申し訳なさそうに笑っている。
アヤネは帳簿を開きながらも、どこか安心した表情をしている。
ホシノは半分寝かけている。
シロコは静かに風を眺めている。
セリカはまだ「もったいない」を連呼している。
(……なるほど)
胸の奥で、何かが静かに腑に落ちた。
「……レインちゃん?」
アヤネが声をかけてくる。
小さく肩をすくめた。
「いや……」
一度だけ空を見上げる。
薄く伸びた雲が、ゆっくり流れていた。
「悪くない判断だと思います」
全員の視線が集まる。
レインは少しだけ言葉を選び、続けた。
「闇銀行の金は、誰かを幸せにするために存在してるわけじゃない。奪い合いの連鎖を生むだけですが…」
短く息を吐く。
「もしあの金が、偶然でも……誰かを救う側に回るなら」
ほんのわずかに口元が緩んだ。
「それは、それで。意味はあると思います」
数秒の沈黙。
そして。
「ほら、レインちゃんだってそう言ってます☆」
ノノミが嬉しそうに身を乗り出す。
「くっ…多数決で負けた気分だわ…」
セリカが肩を落とす。
ホシノ先輩が目を細めて笑う。
「セリカちゃんは堅実派だからねぇ」
「堅実っていうか常識派よ!!」
そのやり取りに、自然と空気が和らぐ。
その光景を静かに眺めていた。
(……妙だな)
胸の奥に残る感覚。
戦いの達成感でもない。
任務完了の安堵でもない。
もっと――
(軽い)
風が吹き抜ける。
校舎の壁に、夕日が長い影を落としていた。
「……たまには、こういう終わり方も悪くないかもね…」
その声は、風に溶けるように消えていった。
感想お待ちしてます
続きません
レインの設定って書いたほうがいいですか?
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いる
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いらん