ロシア装備でサバゲーしていた俺がいつの間にかブルアカの世界に転生してTSしていたんだが?   作:NK7

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続きました


No.28 制服

二日後――アビドス高等学校、生徒会室。

朝の光が、ひび割れた窓ガラス越しに斜めに差し込み、室内に淡い帯を作っていた。

細かな砂粒が、光の中をゆっくり漂っている。

外では、風が校舎の壁面を擦るように鳴っていた。

 

机の上には、闇銀行から奪取した書類が整然と広げられている。

数字。署名。押印。資金移動のログがずらりと書かれている

 

ソファに腰掛け、背筋を伸ばしたままページをめくっていた。

 

紙の擦れる音だけが、室内に小さく響く。

 

胸の奥に、じわりとした嫌悪感が残る。

 

 

「うへ~、朝から仕事モード全開だねー」

 

 

ホシノ先輩が机に頬杖をつき、半分寝たような目で眺めていた。

 

 

「……確認は早い方がいいです」

 

 

視線は資料から外さない。

 

 

「真面目だねー」

 

「そうでしょうか?」

 

 

声は淡々としているが、紙をめくる速度は一定だった。

 

その時。

 

ガチャ。

 

 

「おはようございまーす☆」

 

 

ノノミが明るく入ってくる。

両腕に抱えているのは、やや大きめの段ボール箱。

 

 

「お、来た来た」

 

 

ホシノ先輩が、少しだけ口角を上げる。

 

 

「……?」

 

 

ゆっくり顔を上げる。

 

視線が箱へ向いた瞬間、警戒心がほんのわずかに動いた。

 

 

「ノノミちゃん、それお願い」

 

「はい♪」

 

 

箱が机に置かれる。

 

ガサ、と蓋が開く。

 

中に整えられていたのは――

 

アビドスの制服一式。

 

折り目が一切乱れていない。

新品特有の生地の硬さが、光を反射していた。

 

 

「……?」

 

 

数秒の沈黙。

 

 

「……何ですか、それ」

 

「制服だよー」

 

「見れば分かります」

 

「レインちゃんの」

 

「いりません」

 

 

間髪入れずに返答。

 

 

「もう注文しちゃったしねー」

 

「聞いてません」

 

「言ってないからねー」

 

「……」

 

 

(この人は本当に……)

 

こめかみの奥に、じん、と軽い頭痛が走る。

 

ホシノ先輩が椅子から立ち上がる。

 

 

「レインちゃん、毎日そんな装備じゃ動きにくいでしょ?せっかくアビドスにいるんだからさ」

 

「必要ありません」

 

「……私は正式な生徒ではありません」

 

「うへ~、細かいなぁ」

 

 

ホシノ先輩が一歩近づく。

 

 

「別に所属とか関係ないよー。今はアビドスの一員みたいなもんなんだから」

 

「違います」

 

「違わない」

 

「違います」

 

「違わない」

 

「……」

 

 

空気が張り詰める。

 

 

「……着ません」

 

 

断言した。

 

ホシノ先輩はにやりと笑う。

 

 

「じゃあ着せるしかないねー」

 

「は?」

 

 

距離が一気に詰まる。

 

腕を掴まれる。

 

 

「ちょ、待ってください!」

 

「ほらほらー」

 

「離してくだs――」

 

「ノノミちゃん、お願い」

 

「はい♪」

 

 

背後から腕を取られる。

 

(……しまった)

 

完全に挟まれる。

 

 

「レインちゃんって、こういう時ほんと弱いよねー」

 

「うるさいです!!」

 

 

珍しく声を荒げる。

 

(本気で抵抗すれば振りほどける)

 

分かっている。

 

だが――したところでまた捕まるのは目に見えている

 

――数分後。

 

生徒会室奥

制服のシャツに袖を通す。

 

(……軽い)

 

肩の可動域が広い。

いつもの装備とはまるで違う。

 

だが問題は――下。

 

スカート。

 

ノノミが丁寧に裾を整える。

 

 

「少し回ってもらえますか?」

 

「……」

 

 

ぎこちなく一歩動く。

 

その瞬間。

 

 

「……っ」

 

 

違和感が走る。

 

脚に、何も触れていない感覚。

空気が、直接皮膚を撫でる。

 

背筋が微妙に強張る。

 

(落ち着かない)

 

無意識に裾を押さえる。

 

 

「サイズ、ぴったりですね♪」

 

「……短すぎます」

 

「標準ですよ?」

 

「にしても短すぎません?これだと防御区域が――」

 

「え?」

 

「脚部は可動性と同時に被弾率が高い部位です。露出が増えれば――」

 

「れ、レインちゃん、これは戦闘服じゃなくて制服です」

 

「……」

 

 

言葉が止まる。

 

鏡を見る。

 

そこに立っているのは――

 

普通の女子生徒。

 

見慣れない。

だが、否定しきれない。

 

一歩踏み出す。

 

布が揺れる。

 

太腿に触れる空気。

妙に神経が敏感になる。

 

(走行時、視線分散リスク増大)

 

思考が完全に戦術寄りになる。

 

 

「慣れますよ」

 

 

ノノミが微笑む。

 

 

「仲間ですから」

 

 

その言葉。

 

視線がわずかに揺れる。

 

(……ずるい)

 

その時。

 

ガチャ。

 

生徒会室の扉が開いた。

 

 

「”おはよう。闇銀行の件だけど――”」

 

 

先生。

 

視線が合う。

 

自分は

 

スカートの裾を押さえながら姿勢を整えている最中だった。

 

完全に逃げ場がない。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

数秒の沈黙。

 

顔が一気に赤くなっていくのが見なくてもわかる。

 

 

「っ――!!」

 

 

反射的に背を向ける。

 

 

「せ、先生はノックという文化をご存知ですか……!!」

 

 

声が震える。

 

 

「”いや、その……ごめん”」

 

「ここから出てってください……!!」

 

 

ノノミは平然としている。

 

 

「もう少しで終わりますから♪」

 

 

外からホシノの声。

 

 

「お、先生来た?どうどう?似合ってるでしょー?」

 

「ホシノ先輩!!」

 

 

ほぼ悲鳴。

 

裾を強く握る。

 

 

「……絶対に覚えておいてください」

 

小声で呟く。

 

(なんでこんな格好を……)

 

鏡を見る。

 

アビドスの校章。

 

胸の奥に、ほんの一瞬だけ温度が灯る。

 

すぐに打ち消すように裾を押さえる。

 

 

「……もう二度と着ませんから」

 

 

だがその声には――微かな迷いが混ざっていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夜――アビドス高等学校、保健室

窓の外では、砂漠の風が校舎を撫でている。

細かい砂が窓ガラスに当たり、微かな音を立てる。

 

室内を照らしているのは、小さなスタンドライトだけ。

 

ベッドの端に腰掛けていた。

 

膝の上には――制服。

 

今日着ていたアビドスの制服。

 

丁寧に脱いだそれを、静かに見つめている。

 

(……軽い)

 

指先で生地をつまむ。

 

戦術装備とは真逆の感触。

頼りない。

防御力は皆無。

 

それなのに――

 

視線が離れない。

 

皺を伸ばす。

 

折り目を揃える。

 

指先の動きは、無意識に整っていた。

 

(自分らしくない)

 

スカートを持ち上げる。

 

布が柔らかく揺れる。

 

昼間の感覚が蘇る。

 

脚に触れる空気。

不安定な浮遊感。

 

(……防御面が脆弱)

 

(走行時、裾の巻き込みリスク)

 

分析が始まる。

 

だが。

 

 

「……違う」

 

 

小さく呟く。

 

制服は戦闘服ではない。

 

分かっている。

 

 

「……はぁ」

 

 

天井を見る。

 

(普通の生徒)

 

今日、鏡に映った自分。

 

(……似合っていたんでしょうか)

 

すぐに首を振る。

 

 

「どうでもいい」

 

 

だが。

 

ホシノ先輩の笑い声。

ノノミの優しい視線。

 

 

「……仲間」

 

 

その単語を口にした瞬間。

 

胸が、微かに軋む。

 

校章に触れる。

 

冷たい金属の感触。

 

(自分は……)

 

言葉が出ない。

 

(ここにいていい人間なんでしょうか)

 

静かな疑問。

 

銀行襲撃。

暴力。

任務。

 

 

「……この世界であろうが誇れる行為ではありません」

 

 

喉が、わずかに詰まる。

 

スカートを整える。

 

折り目を揃える。

 

(もし)

 

(もし、自分が――)

 

思考が止まる。

 

 

「……今考えても無意味です」

 

 

制服を畳み終える。

 

机の上に置く。

 

だが。

 

手が離れない。

 

数秒。

 

そっと撫でる。

 

 

「……明日も着るとは、言ってませんから」

 

 

それでも。

 

仕舞う動作は、やけに丁寧だった。

 

ライトを消す。

 

暗闇。

 

ベッドに横になる。

 

風の音だけが聞こえる。

 

しばらくして。

 

小さく呟く。

 

 

「……だけど…少しだけなら」

 

 

言葉は、砂漠の夜に溶けた。




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