ロシア装備でサバゲーしていた俺がいつの間にかブルアカの世界に転生してTSしていたんだが?   作:NK7

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続きました


No.31 風紀委員会

迫撃砲の着弾音が、途切れなく空気を震わせる。

 

砂煙の向こうから、整然とした隊列がじりじりと前進してくる。

 

ゲヘナ学園風紀委員会。

 

制服も装備も統一され、動きに無駄がない。

 

(……本気だ)

 

ただの威嚇ではない。

 

制圧し、拘束するための進軍。

 

すぐ近くの崩れたコンクリート壁へ滑り込み、背中のリュックを降ろし、素早くPKPを取り出す。

 

バイポッドを展開し、がれきに乗せる

 

金属がコンクリートに食い込む感触。

 

(ここなら射線が通る)

 

(前進ルートの中央を抑えられる)

 

視線を上げる。

 

風紀委員たちは、遮蔽を利用しながら確実に距離を詰めていた。

 

「……来る」

 

指先がトリガーに触れる。

 

緊張と同時に、妙な静けさが訪れる。

 

狙撃の時とは違う。

 

これは――押し止めるための戦い。

 

進軍を止めるための弾幕。

 

 

「レインちゃん、いける?」

 

 

ノノミの声。

 

 

「はい。いけます」

 

 

短く返す。

 

内心では、胸が重かった。

 

だが考える暇はない。

 

呼吸を止め――

 

引き金を引いた。

 

ドドドドドドドッ!!

 

重低音が街に響き渡る。

 

7.62mm弾が一直線に走り、風紀委員会の前方で砂とコンクリート片を爆ぜさせる。

 

隊列が一瞬止まる。

 

 

「っ、伏せろ!」

 

 

向こう側で指示が飛ぶ。

 

(止まった)

 

それだけで十分。

 

制圧射撃の目的は達している。

 

反動を肩で受けながら、ゆっくりと掃くように射線を動かす。

 

弾幕の壁。

 

進めば撃たれるという明確な意思表示。

 

「……前に出させない」

 

口の中で小さく呟く。

 

熱気が銃身から立ち上る。

 

薬莢が次々と地面へ落ち、乾いた金属音を響かせる。

 

(……これでいい)

 

そう自分に言い聞かせる。

 

だが胸の奥では、別の声がある。

 

(風紀委員会は、たぶん“正しい側”だ)

 

(秩序を守る側)

 

(なのに私は撃ってる)

 

判断は間違っていないはずだ。

 

ここはアビドスの自治区。

 

無断で武力介入された以上、防衛は正当。

 

理解している。

 

それでも。

 

(何が正しいのか、もう分からない)

 

汗が頬を伝う。

 

視界の端で、便利屋68が瓦礫の陰からこちらを見ているのが見えた。

 

アルの姿。

 

困惑と焦り。

 

(……あなたも、巻き込まれてるんですよね)

 

一瞬だけ引き金が軽くなる。

 

だが次の瞬間。

 

風紀委員会の一隊が側面へ回り込もうとしているのが見えた。

 

「左側、回り込み!」

 

叫びながら銃口を振る。

 

再び弾幕。

 

隊列が散開する。

 

ノノミのM134の銃声が後方から吠える。

 

シロコの正確な射撃が、遮蔽に隠れた敵を押し戻す。

 

セリカの短い連射音。

 

アヤネの指示。

 

全員が動いている。

 

(……みんな、頼もしい)

 

その事実が、わずかに心を軽くする。

 

歯を食いしばりながら撃ち続ける。

 

肩に伝わる反動。

 

熱。

 

焦げた火薬の匂い。

 

 

「……前進させない」

 

 

射撃、再装填…それだけを繰り返す。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ドドドドドッ――

撃ち続けていたPKPが、不意に乾いた音を立てて止まる。

弾切れだ。

 

すぐさまリュックから「7.62×54R」と書かれたアモカンを取り出し、弾帯につながれた7.62×54Rを引き出す。そのままトップカバーを開き、素早く装填。手順は身体に染み付いている。

閉じる、叩く、確認。

 

(まだ撃てる)

 

再びトリガーを引く。

 

ドドドドドッ!!

 

重い制圧射撃が再開される。

 

風紀委員会の歩兵部隊は徐々に勢いを失い、前進速度が落ちる。砂煙の中で伏せる人数が増え、明らかに半数を切った。

 

(もう少し――)

 

その時だった。

 

煙の中から、一つの影が飛び出す。

 

銀髪のツインテール。

長身ではないが、迷いのない動き。

手には長いボルトアクションライフル。

 

(……速い)

 

彼女は銃を構えることすらせず、一直線に前線へ突っ込んできた。

 

 

「突っ込んでくる!?」

 

 

セリカが叫ぶ。

 

次の瞬間。

 

風紀委員会の少女はシロコとセリカの間へ滑り込み、銃床を使った近接戦を仕掛けた。

 

金属音。

 

シロコが受け止め、セリカが後退する。

 

しかし――

 

(押されてる)

 

動きが異常に洗練されている。

 

力ではない。

 

間合いとタイミング。

 

戦場を読んだ動き。

 

PKPを構えたまま歯を噛む。

 

(撃てない)

 

射線に二人が重なる。

 

弾幕支援は不可能。

 

しかも、少女はわざと二人を盾にするように位置取りしている。

 

(……上手い)

 

このままでは近接で崩される。

 

自分は決断する。

 

PKPをその場に置き、AK-12へ持ち替え、セーフティを解除する

 

 

「シロコ、セリカ、避けてください!」

 

 

叫びながら、障害物を蹴って突撃する。

 

――一騎打ち

銀髪の少女がこちらを見る。

 

赤い瞳。

 

戦場の熱を感じない、冷たい視線。

 

彼女はほんの僅かに口角を上げた。

 

 

「……新手か」

 

 

甲高いが、感情の薄い声。

 

止まらない。

 

距離十メートル。

 

少女はライフルを構え直すのではなく――回転させ、銃床を武器として握り直した。

 

AK-12をセミオートで短く連射する

 

少女は横へ跳び、弾道を紙一重で外す。

 

早い。

 

いや――

 

早すぎる。

 

(この距離で避ける!?)

 

次の瞬間、少女が踏み込む。

 

ライフルの銃床が横から振り抜かれる。

 

AK-12を盾に攻撃を受け止める

 

腕が痺れる。

 

衝撃で一歩下がる。

 

(重い)

 

見た目以上の力。

 

少女は間髪入れず回転し、蹴りを放つ。

 

身を沈めて回避し、砂が舞う。

 

心拍が跳ね上がる。

 

(これは……普通の風紀委員じゃない)

 

後ろでシロコとセリカが距離を取る気配。

 

やっと射線が分離する。

 

だが――

 

撃たない。いや、撃てない

 

(ここで撃ったら近すぎる)

 

反動で隙が生まれる。

 

少女は一瞬で間合いを詰めてくるタイプだ。

 

再び接近。

 

ライフルが突きのように伸びる。

 

レインはAK-12のグリップで受け流し、体を横へ流す。

 

肩がぶつかる。

 

互いの呼吸が聞こえる距離。

 

少女の瞳がわずかに細まる。

 

一瞬だけ、時間が止まったように感じる。

 

(撃つより、崩す)

 

レインはAK-12を逆手気味に握り直す。

 

銃床を叩き込む。

 

少女が後退。

 

そこへ踏み込む。

 

二連のバースト。

 

ダダッ!

 

弾丸が足元を抉り、少女の動きを止める。

 

(今!)

 

体当たりのように突進し、肩で押し込む。

 

少女が体勢を崩す。

 

地面を滑りながら距離が開く。

 

しかし――少女は倒れない。

 

片膝をつき、すぐに立ち上がる。

 

その顔には驚きが浮かんでいた。

 

 

「……なるほど」

 

「簡単には倒れませんか」

 

 

息が荒い。

 

だがレインの中で何かが切り替わる。

 

(この人を止めないと、前線が崩れる)

 

後ろでは再び銃声。

 

風紀委員会とアビドスの戦闘が続いている。

 

少女もそれを理解している。

 

互いに、一歩も退けない。

 

風が吹く。

 

砂が舞う。

 

AK-12を構え直す。

 

少女もボルトアクションを低く構える。

 

完全な一騎打ち。

 

次で決めると相手も踏み込んだところで

 

 

「”ストップ!ストーップ!!”」

 

 

指揮をしていた先生が障害物から身を乗り出して止めに来た。

砂煙の中で、その動きだけがやけにゆっくり見えた。

 

(――危ない)

 

反射的に体が動くより先に、頭が警告を鳴らす。

この距離、この緊張状態で遮蔽物から顔を出すなど、自殺行為に近い。

 

 

「誰?あんた?」

 

「先生、危険です。隠れてください」

 

 

声は思った以上に強く出た。

それでも先生は慌てた様子もなく立っている。

 

(どうしてそんなに平然としていられるんですか)

 

内心で小さく舌打ちする。

守るべき対象が無防備なのは、想像以上に神経を削る。

 

 

「先生…まさかシャーレの」

 

風紀委員会側の反応が一瞬で変わる。

銃を握る手の角度、視線の集中――明らかに「重要目標」を確認した時のそれだった。

 

(……やっぱり)

 

先生という存在が、単なる大人ではないことを、改めて突きつけられる。

 

もう一人、幹部っぽい少女が近づいてきた。

 

 

「やっぱり先生だったんですね…まさかこんなところでまたお目にかかるとは」

 

「”久しぶりだね、チナツ”」

 

「先生がそこにいらっしゃることを知った瞬間、勝ち目はないと判断して後退するべきでした…私たちの失策です」

 

 

(……そこまで言わせるのか)

 

胸の奥に、微かな不安が残る。

先生は本当にただの“先生”なのか。

 

 

「アビドス対策委員会の奥空アヤネです。ゲヘナの風紀委員会とお見受けしますが、これは一体どういうことでしょうか?」

 

「そ、それは…」

 

 

言葉を濁す風紀委員会。

 

現場でこういう反応をする時は、大抵上から無茶な命令が来ているか、独断だ。

 

 

「それは私から答えさせていただきます」

 

 

青い髪の女性のホログラムが現れる。

 

(……うわ)

 

第一印象はそれだった。

柔らかな笑顔なのに、どこか冷たく、計算された雰囲気。

そして変態のような服装に目が行く

 

 

「アコちゃん…?」

 

「アコ行政官…?」

 

「こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

 

 

無意識に周囲を観察する。

 

(銃口はまだ上がったまま)

(引き金に指が掛かってる)

 

どう見ても交渉の空気ではない。

 

 

「こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。今の状況について少し説明させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

 

「アコちゃん…その…」

 

「イオリ。反省文のテンプレートは私の机の、左の引き出しにあります。ご存じですよね?」

 

 

イオリと呼ばれた少女の顔が曇る。

 

 

「行政官ということは…風紀委員会のナンバー2…」

 

「あら、実際はそんな大したものではありません。あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして…」

 

「本当にそうなら、そこの風紀委員たちがそんなに緊張するとは思えない」

 

 

シロコの言葉に、レインは内心で頷く。

 

 

「だ、誰が緊張してるって!?」

 

「なるほど、素晴らしい洞察力です。確か…砂狼シロコさん、でしたか?」

 

 

(現場の空気は正直だ)

 

緊張は嘘をつかない。

 

 

「アビドスの生徒会は五名と聞いていましたが、これで全員のようですね」

 

「いえ、全員で六名です。一人今おりません。そして私たちは生徒会ではなく対策委員会です、行政官」

 

 

アヤネの声は冷静だが、その背中は僅かに硬い。

 

 

「奥空さん…でしたよね?それでは、生徒会の方はいらっしゃらないということでしょうか?私は、生徒会の方と話がしたいのですが」

 

 

(……頑張ってる)

 

本来ならこんな政治的会話は、彼女の負担が大きすぎる。本来ならホシノ先輩がいるべき話だ

 

「アビドスの生徒会はずっと前に解散したの!事実上私たちが生徒会の代理みたいなものだから、言いたいことがあるなら私たちに言いなさい!」

 

 

セリカの怒声が響く。

 

(助かる)

 

あの真っ直ぐな怒りは、場の空気を崩す力がある。

 

 

「こんなに包囲して銃を向けられたまま「お話をしましょうか~」なんていうのは、お話の態度としてはどうかと思いますけどね?」

 

 

ノノミが少し冷たい声で言う

 

実際今私たちの目の前には、風紀委員の生徒が銃を構えている。銃を突き付けられたらビビって話もできやしない

 

もし誰か一人が撃てば、全員が連鎖する。

 

 

「ふふ、それもそうですね。失礼しました。全員、武器を下ろしてください」

 

 

カチャリ、と一斉に銃が下りる。

 

(……本当に下げた)

 

胸の奥の圧が少しだけ軽くなる。

 

 

「先ほどまでの愚行は、私の方から謝罪させていただきます」

 

「なっ、私は命令通りにやったんだけど!?アコちゃん!?」

 

「命令に、「まずは無差別に発砲せよ」なんて言葉が含まれていましたか?」

 

「い、いや…状況を鑑みて必要な範囲で火力支援、その後に歩兵の投入…戦術の基本通りにって…」

 

「ましてや他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?」

 

 

「他の学園自治区の付近」

 

その言葉が引っ掛かる。

 

(付近?)

 

ここはアビドスの中のはずだ。

 

(……わざとか)

(それとも、境界の認識を曖昧にしてるのか?)

 

政治的な言い回し。

小さな違和感が、警戒へ変わる。

 

 

「失礼しました、対策委員会のみなさん。私たちゲヘナの風紀委員会はあくまでも、私たちの学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました。あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言いきれないでしょうし…やむを得なかったということでご理解いただけますと幸いです。風紀委員会としての活動に、ご協力をお願いできませんか?」

 

 

上から目線に感じるしゃべり方に少しイラついてくる

 

 

「先ほども言いましたが…そうはいきません!」

 

 

アヤネが一歩前に出る。

 

その背中を見て、静かに銃を握り直す。

 

(……ここは譲れない)

 

 

「他の学校が他の学校の敷地内で、堂々と勝手に戦闘行為をするなんて!自治権の観点からして、明確な違反です!便利屋の処遇は、私たちが決めます!」

 

「それにですよ、本来ならあなたや委員長がこの場に来て謝罪やら事情説明をするもんじゃないですか?ホログラム上の通信でこういう話をするのは無礼ではありませんか?行政官殿」

 

 

言いながら、自分でも分かるくらい棘が混じっていた。

 

(落ち着け。感情的になるな)

 

けれど、どうしても引っかかる。

四方を武装部隊に囲ませておいて、当人は安全圏からホログラム越しに会話。

それを「説明」と呼ぶのは、あまりにも都合がいい。

 

 

「それに関しては、私も委員長を忙しいのでこのような形で話させていただいています。お分かりいただけたでしょうか…えっと…どなたでしょうか?」

 

 

柔らかい声音。

だが、その目は一切揺れない。

 

 

「…白鷺レイン。最近転入してきました」

 

 

名乗りながら、わずかに胸の奥がざわつく。

この場で名を出すということは、敵に覚えられるということだ。

 

 

「そうでしたか、失礼しました」

 

 

(失礼、ね)

 

あまりにも軽い。

アコは説明を続けるが、正直言い訳にしか聞こえない。

しかも自分のことを把握してないときた。

 

(まあ……最近来たばかりだし)

 

それは仕方ない。だが、同時に思う。

 

(それだけ余裕があるってことか)

 

全員の情報を押さえなくても、状況を掌握できると判断している。

 

 

「まさか、ゲヘナほどの大きな学園がこんな暴挙に出るとは思ってもみませんでしたが、ここは譲れません」

 

アヤネが鋭い声で言う

 

転入してきたばかりの自分にとって、アビドスはまだ“居場所になりかけ”の場所だ。

それでも、もう守る側に立っているという自覚はある。

 

 

「…なるほど。そちらの方々も、同じ考えのようですね。ふぅ、この兵力を前にしても怯まないだなんて…これだけ自身に満ちているのは…やはり、信頼できる大人の方がいるからでしょうか?…ねえ、先生?」

 

 

(挑発か、探りか)

 

アコの視線が先生に向く。

 

先生は黙り込む。

 

(……どう答えるんですか)

 

先生の一言で、この場の空気は決定的に傾く。

自分たちは先生の判断を信じている。

だが、同時に先生が標的でもある。

 

 

「シャーレの先生。あなたも、対策委員会と同じ意見ですか?」

 

 

ほんの一瞬、息が詰まる。

 

 

「”アルはちょっと変な子だけど、悪人じゃないから”」

 

 

(……ああ)

 

胸の奥がわずかに緩む。

先生らしい。あまりにも。

 

 

「いやいやいや!悪人に決まってるでしょ!ラーメン屋を爆発させたのよ!?」

 

 

セリカの怒声。

 

(それは事実だ)

 

否定できない。

煙、崩れた壁、散らばったどんぶり。

 

「多分だけど…あれは、間違って爆発させちゃって、そのまま言い出せずに見栄を張ったんだと思う」

 

「そうでしょうね。あの人はそもそも悪人に向いていない。無理して悪役してると思う」

 

 

口にしながら、自分でも不思議だった。

 

(どうして庇ってるんだ、俺は)

 

過去には撃ち合った相手だ。

ラーメン屋を壊した張本人だ。

それなのに、あの時の表情が頭から離れない。

 

 

「はあ!?」

 

「私たちを狙ってたのなら、誰もいないタイミングで爆破する理由がない。一度やったら警戒されるあんな大掛かりな手段を、あの状況で使う理由も無いはず」

 

 

シロコが詳細に説明する

 

(事実と意図は違う)

 

 

「…た、確かに、それはそうね。罠を準備している最中に、間違えて爆破させたってこと…?どんだけバカなのよ、あいつらは…」

 

「でも、結果的に柴関ラーメンを攻撃したのは事実。このまま大人しく引き渡すわけにはいかない」

 

 

(そうだ)

 

共感と責任は別だ。

アビドスの自治区で起きた事件。

それを外部に丸投げするわけにはいかない。

 

 

「そうですね。彼女たちの背後にいる方の正体もまだ分かっていませんし。先にお話を聞かせてもらいませんと」

 

 

ノノミの声は冷静だが、その背中はわずかに緊張している。

 

(負担をかけすぎている)

 

自分たちは銃を握っているが、彼女は言葉で戦っている。

 

 

「そういうわけで、交渉は決裂です!ゲヘナの風紀委員会、あなた方に退去を要求します!!」

 

 

アヤネが宣言する。

 

その瞬間、空気が張り詰める。

 

(来る)

 

指先に汗が滲む。

銃のグリップがわずかに滑る。

 

 

「これは困りましたね…うーん…こうなったら仕方ありません。本当は穏便に済ませたかったのですが…」

 

 

(穏便?)

 

包囲して、砲撃して、穏便?

 

胸の奥で何かが切れる。

 

 

「…ヤるしかなさそうですね?」

 

 

風紀委員会と戦闘になる覚悟を決めたその時――

 

風紀委員会側から銃声が鳴り響く。

 

反射的に膝を落とし、銃口の向きを探る。

視界が一瞬で「撃たれる側」から「状況を読む側」に切り替わる。

 

(来た)

 

だが次の瞬間、違和感が走った。

弾道がこちらに向いていない。

 

自分たちに向けてではなく、風紀委員会側から声が聞こえる。

 

よく見てみると、便利屋68のハルカが、裏から奇襲を仕掛けていた。仕掛けている本人は「許さない!許さない」と叫びまくっている…若干引く。

 

(……え、怖い)

 

ほんの数分前まで怯えた目をしていた少女が、今は狂気じみた勢いで突撃している。

敵味方関係なく、感情の爆発というものは予測が難しい。

 

(だから戦場は嫌いだ)

 

流れでイオリも戦闘不能にして見せた。

 

(……強引すぎるけど、状況は動いた)

 

アコは混乱しているように見える。

 

 

「嘘をつかないで、天雨アコ」

 

 

カヨコの声が、静かに空気を裂いた。

 

 

「あら?」

 

「偶然なんかじゃないでしょ、最初からあんたが狙ってたのはこの状況だった」

 

「カヨコさん…」

 

「ハルカちゃんナ~イス☆」

 

「す、すみません!助けに来るのが遅くなりました…!わ、私のせいで…計画が全部台無しに…!し、死んでもいいですか?死にますっっ!!!」

 

 

(この人、本気で言ってるのか)

 

「うん、確かにハルカちゃんのせいだけど、まあ面白いから死ななくていいんじゃない?」

 

 

(救い方が雑すぎる)

 

けれど、便利屋68の空気は妙に軽い。

命のやり取りの中に、どこか日常が混じっている。

 

(……羨ましいのかもしれない)

 

 

「あらっ、包囲網を抜けて…?」

 

「あいつら、いつの間にあんなところに…」

 

「…やるね」

 

「申し訳ありません、行政官。視線を逸らされた隙に…今から、もう一度包囲網を…」

 

「いえ、大丈夫です。大した問題でもありませんし。…それより、面白い話をしますね、カヨコさん?」

 

 

アコの声音は一切揺れていない。

 

(この人、最初から全部織り込み済みか)

 

怒りよりも、ぞっとする感覚が先に来る。

 

 

「…最初はどうして風紀委員会がここに現れたのか、理解できなかった。風紀委員会が他の自治区まで追ってくる理由、それも私たちを狙って?こんな非効率的な運用、風紀委員長のいつものやり方じゃない。だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない」

 

 

アコは黙り込む。

 

(図星)

 

言葉より沈黙のほうが雄弁だった。

 

 

「それに、私たちを相手するにしてはあまりにも多すぎるこの兵力。他の集団との戦闘を想定していたとすれば、説明がつく。とはいえ、このアビドスは全校生徒集めても六人しかいない…なら結論は一つ」

 

「アコ、あんたの目的はシャーレ。最初から、先生を狙ってここまで来たんだ」

 

「な、何ですって!?」

 

「先生を、ですか…!?」

 

「”私?”」

 

 

先生の声は驚きと困惑が混ざっている。

 

(先生を、連れていく?)

 

胸の奥がざわつく。

 

理由は分からない。

理屈では説明できない。

 

ただ――

 

(……それは駄目だ)

 

そこだけ、妙に感情が強く反応した。

 

 

「ふふっ、なるほど…ああ、便利屋にはカヨコさんがいることをすっかり忘れていました。のんきに雑談なんてしている場合ではありませんでしたね。まあ、構いません」

 

 

アコが合図を出すと、全方向から足音のような地鳴りが聞こえてくる。

 

足元に伝わる振動。

 

(多い)

 

 

「12時の方向、それから6時の方向…3時、9時…風紀委員会のさらなる兵力が四方から集結しています…!」

 

 

どんどんと近づいてくる地鳴りにみんな黙り込む。

 

(包囲完了)

 

逃げ道、遮断。

 

 

「…増員」

 

「まだいただなんて…それに、こんなにも数が…!」

 

「うーん…少々やりすぎかとも思いましたが…シャーレを相手にするのですから、これくらいあっても困らないでしょうし…まあ、大は小を兼ねると言いますからね☆」

 

 

アコはニコニコで話す。今すぐぶん殴りたいぐらい笑顔で。

 

(……ああいう笑顔、嫌いだ)

 

敵意を隠して礼儀だけを残した顔。

戦場より政治の匂いがする。

 

 

「包囲は抜けたと思ったけど…二重だったか…」

 

「はい、そうです。それにしても、さすがカヨコさんですね。先ほどのお話は正解です。…いえ、得点としては半分くらいでしょうか?確かに私は、シャーレと衝突するという最悪のシチュエーションも想定していました」

 

「しかし、この状況を意図的に作り出したわけではありません。それだけは信じていただきたいのですが…どうやら、難しそうですね」

 

 

(信じろ、って言う人ほど信用できない)

 

 

「仕方ありませんね。事の次第をお話ししましょう…きっかけは、ティーパーティーでした。もちろんご存知ですよね、ゲヘナ学園と長きにわたって敵対関係にある、トリニティ総合学園の生徒会のことです」

 

 

(……ティーパーティー)

 

ヒフミの顔が浮かぶ。

 

(報告すると言っていたな)

 

情報は連鎖して、こうして火種になる。

 

 

「そのティーパーティーが、シャーレに関する報告書を手にしている…と。そんな話が、うちの情報部から上がってきまして」

 

 

(つまり、これは偶然じゃない)

 

 

「当初は私も「シャーレ」とは一体何なのか、全く知りませんでしたが…ティーパーティーが知っている情報となれば、私たちも知る必要があります。それで、チナツさんが書いた報告書を確認しました」

 

「連邦生徒会が残した正体不明の組織…大人の先生が管理している、超法規的な部活…どう考えても怪しい匂いがしませんか?シャーレという組織は、とても危険な不確定要素に見えます。これからトリニティとの条約にも、どんな影響を及ぼすのか分かったものではありません。ですからせめて条約が無事締結されるまでは、私たち風紀委員会の庇護下に先生をお迎えさせていただきたいのです。ついでに居合わせた不良生徒たちも処理した上で…といった形で」

 

 

(処理)

 

言葉の冷たさに、背筋が冷える。

 

「ん、むしろ状況が分かりやすくなって良いかも」

 

「…先生を連れて行くって?私たちがそれで「はいそうですか」っていうとでも思った?」

 

「自分たちが有利に立ちたいからってこれはやりすぎ。頭おかしいんじゃないですか?」

 

 

自分の声は思ったより低かった。

 

胸の奥にあるのは怒りか、それとも焦りか。

 

(先生が連れて行かれたら)

(この場所は、また空っぽになる)

 

そんな感覚があった。

 

 

「…ふふ、やっぱりこういう展開になりますか。では仕方ありませんね、奥空アヤネさん?ゲヘナの風紀委員会は、必要でしたら戦力を行使することもあります。私たちは一度その決断をすれば、一切の遠慮をしません」

 

 

空気が一段冷たくなる。

 

周りを見ると、何やらアルとカヨコが話し合っている。そして、アルにしては珍しくクールな表情を浮かべている。

 

 

「あの生意気な風紀委員会に一発食らわせないと気が済まないわ!」

 

(……分かる)

 

さっきまで「撃ちたくない」と思っていた自分が、少しずつ消えている。

 

「そもそもアビドスが私たちに協力してくれるとは思えないし…となると…」

 

「よっし、便利屋っ!挟み撃ちするわよ!!この風紀委員会、コテンパンにしてやらないと!!!」

 

「その通りです!あの横乳はみ出し変態女をぎゃふんと言わせないと気が済みません!!!」

 

(表現はともかく、気持ちは同じだ)

 

「先生の盾になってもらう」

 

 

カヨコが驚いた表情を浮かべている。

 

 

「先生をみんなで守ります、いいですね?」

 

「話が早いな…」

 

 

(敵だったはずなのに)

 

戦場は、ほんの一瞬で関係性を変える。

 

 

「ふふっ…あははははははっ!当り前よ!この私をなんだと思ってるの?心配は無用!信頼には信頼で報いるわ!それが私たち、便利屋69のモットーだもの!!」

 

 

(69……?)

 

…あれ?名前違くない?

 

 

「はい!!先生には私たちも色々とお世話になりましたので!絶対に成功させます…!」

 

 

…気づいてないっぽいし、まぁいっか。

 

 

「あとせっかくだから言っておくけど!間違えて爆破させたわけじゃないから!狙い通りだから!私みたいな冷酷なアウトローでもないと実行できない、高度な心理戦っていうか…!」

 

「…うわぁ、墓穴」

 

 

(やっぱり間違いだったんですね)

 

少しだけ、力が抜ける。

 

 

「うーん…まあ、これはこれで想定していた状況ではありましたが…それにしても、ここまで意気投合が早いとは…その点は想定外でした」

 

 

「…まあいいでしょう、それでは。風紀委員会、攻撃を開始します。対策委員会と便利屋を制圧して、先生を安全に確保してください。先生はキヴォトスの外部の先生なので、怪我をさせないよう

に十分注意を」

 

 

(来る)

 

空気が一気に殺気へ変わる。

 

 

「よくもショットガンの乱射なんて決めてくれたな…覚悟しろ!!」

 

イオリの目が覚め、起き上がる

 

(……復活早すぎません?)

 

なんで12ゲージあんなに食らってたのにこんな短時間で起き上がれるんですか…

 

まあいい。吹き飛ばすのみ。

 

銃を握り直す。

 

心の中で、静かに整理する。

 

(敵は風紀委員会)

(味方はアビドスと……一時的に便利屋…同盟)

 

混沌としているのに、不思議と迷いはなかった。

 

 

「敵、包囲を始めています!突破してください!先生!私たちと便利屋68の指揮、お願いします!」

 

 

叫んだ瞬間、胸の奥にひとつだけ確信が生まれる。

 

(守るべきものは、もう決まってる)

 

先生。

アビドス。

 

潰すもの

この、騒がしくて馬鹿みたいな戦場そのものを。

 

深く息を吸い、次の一歩を踏み出した。




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