ロシア装備でサバゲーしていた俺がいつの間にかブルアカの世界に転生してTSしていたんだが?   作:NK7

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続きました


No.35 旧アビドス生徒会

「ただいま戻り…まし……た」

 

生徒会室の扉を押し開けた瞬間、空気の重さが肌に触れた。

 

さっきまで路地裏を歩いていた時の、ざらついた視線の気配とは違う。

もっと静かで、逃げ場のない重さ。

 

ホシノ先輩、シロコ、セリカ、アヤネ。

そして先生。

 

全員が机を囲んでいる。

誰も口を開いていない。

 

先生は、ひどく気まずそうな顔をしていた。

 

(……これは、まずい)

 

もちろん私も、すごく気まずい。

 

さっきまでブラックマーケット近くを歩いて、弾を買って、SRTの生徒と話して、パンフレットを底に押し込んで――そんな自分だけ別の時間を過ごしていた感覚がある。

 

ここだけ、違う時間が流れている。

 

 

「先輩たち、大変!!これ見て!」

 

 

アヤネが勢いよく書類を掲げる。

 

 

「アビドス自治区の関係書類を持ってきました!これを…」

 

「…あれ?」

 

 

空気に気づいたらしい。

 

 

「何があったんですか…?」

 

 

どうやら一年の二人も、この空気に気づいたみたいだ。

 

 

「”とりあえず今は大丈夫。おかえり、二人とも”」

 

 

先生の声がやけに穏やかだ。

穏やかすぎる。

 

 

「…うん、ただいま?い、いやそれよりも!とんでもないことが分かったの!」

 

「はい、衝撃の事実です…!皆さん、まずはこれを見てください!」

 

 

私はアモカンを壁際に静かに置き、机に近づく。

 

書類に記載された地図を覗き込む。

 

細かい線。

区画。

番号。

 

 

「直近までの取引が記録されている、アビドス自治区の土地の台帳…『地籍図』と呼ばれるものです」

 

「土地の所有者を確認できる書類、ということですか…?でも書類なんか見なくてもアビドスの土地は当然アビドス高校の所有で…」

 

「私もさっきまでそう思ってた!でもそうじゃなかったの!」

 

「午前中にお見舞いへ行った時に、大勝から話を聞いたんです。柴関ラーメンが入っている建物はもちろんのこと、このアビドス自治区のほとんどが……私たちの学校が所有していることに、なっていませんでした」

 

 

頭の中で、点が線になる。

 

(アコが言っていた、“他の学園自治区の付近”……)

 

あの言葉が、急に意味を持つ。

 

 

「えっ!?どういうこと?アビドス自治区がアビドスの所有じゃないって、そんなわけ…」

 

ホシノ先輩が書類をめくる。

 

現在の所有権――カイザーコンストラクション。

 

カイザー。

 

胸の奥が、冷たくなる。

 

 

「カイザーコンストラクション…カイザーコーポレーションの系列ですか…!?アビドスの自治区を、カイザーコーポレーションが所有している…!?」

 

「…柴関ラーメンも?」

 

「…はい。大将はそのことを知っていて、ずいぶん前から退去命令も出ていたとかで…大将は、元々もう店を畳むことを決めていたそうです…いつかは起きるはずのことだった、と…」

 

 

柴関ラーメン。

 

二回しか行っていない。

 

それでも、あの湯気と匂いは思い出せる。

 

(もう、食べられないのか)

 

胸が少しだけ痛む。

 

二回しか食べていない私でこうなのだから、ずっと通っていたみんなはもっとつらいと思う。

 

話は続く。

 

 

「…すでに砂漠になってしまった、本来のアビドス高校本館と、その周辺数千万坪の荒れ地。そしてまだ砂漠化が進んでいない、市内の建物や土地まで…所有権がまだ渡っていないのは、今は本館として使っているこの校舎と、周辺の一部の地域だけでした…」

 

 

私は地図を見つめる。

 

線で囲われた区画。

 

“自分たちのものではない”土地。

 

(じゃあ、私たちは……借り物の上に立っている?)

 

足元が、少し不安定に感じる。

 

 

「で、ですが、どうしてこんなことに?学校の自治区の土地を取引だなんて、普通できるはずが…一体誰がこんなことを…」

 

「…アビドスの生徒会、でしょ」

 

 

ホシノ先輩の声は、低く、はっきりしていた。

 

私は視線を上げる。

 

その目は、いつもの気の抜けたものではない。

 

 

「学校の資産の決定権は、生徒会にある。それが可能なのは普通に考えて、その学校の生徒会だけ」

 

「…はい、その通りです。取引の主体は、アビドスの前生徒会でした」

 

胸がざわつく。

 

(生徒会……)

 

 

「そんな…アビドスの生徒会は、もう二年前に無くなったはずでは…」

 

「…はい。ですので、生徒会が無くなってからは、取引は行われていません」

 

「そっか、二年前…」

 

「何をやってんのよ、その生徒会のやつらは!!学校の土地を売る?それもカイザーコーポレーションなんかに!?学校の主体は生徒でしょ!?どうしてこんなこと…っ!!」

 

 

セリカの怒りが、部屋に響く。

 

ぶつける先がない怒り。

 

私も、拳を無意識に握っていた。

 

SRTのパンフレットが、脳裏にちらつく。

 

私は小さく首を振る。

 

(今は違う)

 

 

「こんな大ごとに、ずっと私たちは気づかないまま…」

 

「それぞれの学校の自治区は、学校のもの。余りにも当たり前の常識です。当たり前すぎて、借金の方にばかり気を取られて、気づくことが出来ませんでした。私が、もう少し早く気付いていたら…」

 

アヤネは口を開く。

 

 

「…ううん、それはアヤネちゃんが気にすることじゃないよ。これはアヤネちゃんが入学するよりも前の…いや、対策委員会ができるよりも前のことなんだから」

 

「…ホシノ先輩、何か知ってるの?」

 

「あ、そうです!ホシノ先輩も、アビドスの生徒会でしたよね?」

 

「え?そ、そうだったの!?」

 

「それに…最後の生徒会の副会長だったと聞きました」

 

 

私は、静かにホシノ先輩を見る。

 

(副会長……)

 

 

「…うへ~、まあそんなこともあったねえ。二年も前のことだし、そもそも私もその辺の生徒会の先輩たちとは、実際に関わりは無くってさー。」

 

 

軽い口調。

 

でも、その奥に何かがある。

 

 

「私が生徒会に入った時には、もう生徒会の人たちはほとんど辞めちゃってたから。その時はもう在校生も二桁になってたし、教職員もいない。授業なんてものは、もうとっくの昔に途絶えてた。生徒会室も、当時の先輩も校内でも随一のバカで、私だって、いやな性格の新入生でさ…何もかもがめちゃくちゃだったよ」

 

 

私は想像する。

 

人のいない校舎。

機能しない組織。

 

(それでも、ここまで戻した)

 

 

「校内随一のバカが生徒会長…?何それ、どんな生徒会よ…?」

 

「成績と役回りは別だよ、セリカ」

 

「そもそも、セリカちゃんも成績はそんなに…」

 

「わ、分かってるってば!!どうして急に私の成績の話になるわけ!?」

 

 

少しだけ、空気が緩む。

 

私はその様子を見ながら思う。

 

 

「うへ~、いやいや、正にその通りだよ。生徒会なんて肩書だけで、おバカさん二人が集まっただけだったからね。なんの間違いだか、生徒会なんかに入っちゃって…いや~、あの時はあちこちに行ったり来たりだったねぇ。ほんっとバカみたいに、なんも知らないままさ」

 

「ホシノ先輩…」

 

 

私は静かに言う。

 

 

「……それでも、残ったんですね」

 

 

自分でも驚くほど素直な声だった。

 

 

「辞めることも、できたはずなのに」

 

 

ホシノ先輩が一瞬だけ、こちらを見る。

 

 

「……さあねえ。なんで残ったのかも忘れちゃった」

 

 

曖昧に笑う。

 

 

「…ホシノ先輩が責任を感じることじゃない。昔の事情は知らないけど、実際に生徒会が解散になった後…アビドスに対策委員会ができたのは、間違いなくホシノ先輩のおかげ」

 

 

私は小さく頷く。

 

 

「……私も、そう思います」

 

 

視線を落とす。

 

 

「う、うん…?」

 

 

ホシノ先輩が、珍しく戸惑ったように目を瞬かせる。

 

 

「…ホシノ先輩は怠け者だし、色々とはぐらかしてばっかりだけど、大事な瞬間には絶対に誰よりも前に立ってる」

 

 

シロコの声は淡々としている。

感情を大きく乗せるわけでもなく、事実を述べるみたいに。

 

 

「そうです。セリカちゃんが行方不明になった時、真っ先に先生に助けを求めたのもホシノ先輩でしたし」

 

「…うへ~、そうだっけ?よく覚えてな」

 

「”そうだったね、いつも絶対に先陣を切る”」

 

 

ホシノの言葉に先生が割り込むように話す。言葉は穏やかで、でもはっきりしている。

 

 

「私、それ初耳なんだけど!?何で教えてくれなかったの!?」

 

「ホシノ先輩は色々とダメなとこともあるけど、尊敬はしてる」

 

「それって褒め言葉なの?悪口なの…?」

 

「ど、どうしたのシロコちゃん!?急にそんな青春っぽい台詞を…!おじさんこういう雰囲気、ちょっと苦手なんだけど!?」

 

「…や、なんとなく、言っておこうかなって思って」

 

「え、えぇ…?」

 

 

部屋の空気が、ほんの少し柔らぐ。

 

さっきまでの重さが、ほんの少しだけ軽くなる。

 

私はそのやり取りを、少し離れた位置から見ていた。

 

(……前に立つ人)

 

今、目の前にいるのは。

 

怠け者を自称して、

はぐらかして、

それでも一番最初に動く人。

 

私はゆっくりと息を吸う。

 

胸の奥に、じわりと熱が広がる。

 

(……この人は、逃げなかった)

 

生徒会が崩れたあと。

人が減って、学校が砂に飲まれていく中で。

 

それでも、残った。

 

軽い口調の奥にある重さを、私は知っているわけじゃない。

でも、戦場では分かる。

 

前に立つ人間の背中は、嘘をつかない。

 

私は口を開く。

 

 

「……私は」

 

 

一瞬、言葉を選ぶ。

 

普段なら、もっと簡潔に済ませる。

でも今日は、少しだけ違った。

 

 

「正直、ホシノ先輩の過去は知りません」

 

 

視線を、まっすぐ向ける。

 

 

「生徒会が何をして、何を失敗したのかも」

 

 

ホシノ先輩が、わずかにこちらを見る。

 

 

「でも」

 

 

胸の奥の感覚を、そのまま言葉にする。

 

 

「昨日も、今日も。危険な場所に行くとき、先に足を踏み出すのはホシノ先輩です」

 

 

自分の鼓動が、少し早い。

 

「それは、偶然じゃないと思います」

 

少しだけ間を置く。

 

 

「……指揮官は、前に立てる人のほうが信用できます」

 

 

部屋が静かになる。

 

言い過ぎただろうか、と一瞬思う。

 

でも、止めなかった。

 

「私は、前線に出ます。火力を置く役目です」

 

視線を落とし、手を握る。

 

 

「でも、前に立つ覚悟は……まだ、ホシノ先輩ほど迷いがありません」

 

 

それは事実だった。

 

私は合理で動く。

必要だから撃つ。

必要だから前に出る。

 

でもホシノ先輩は。

 

守るために前に出る。

 

それは、私にはまだ少し難しい。

 

「……なので」

 

ほんの少し、言葉が柔らぐ。

 

 

「尊敬は、しています」

 

 

シロコとほぼ同じ内容なのに、言い方が違うだけで、こんなに照れくさい。

 

ホシノ先輩が、頬をぽりぽりとかく。

 

 

「うへ~……なんか今日、みんな優しくない?おじさん困っちゃうんだけど」

 

「事実ですから」

 

 

即答する。

 

少しだけ、口元が緩んだ。

 

(ここにいる理由)

 

SRTのパンフレットが、頭の片隅に浮かぶ。

 

整った環境は魅力的だ。

合理的な選択かもしれない。

 

でも。

 

前に立つ人がいる場所。

それを支える仲間がいる場所。

 

私は、ゆっくりと確信する。

 

(……まだ、ここでいい)

 

ホシノ先輩の昔話は、きっと軽く語られる。

はぐらかされる部分も多いだろう。

 

それでも。

 

この人が前に立つ限り。

 

私は、その一歩後ろから、火力を置く。

 

それでいい、と。

 

今は、そう思えた。




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