ロシア装備でサバゲーしていた俺がいつの間にかブルアカの世界に転生してTSしていたんだが?   作:NK7

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続きました


No.36 カイザー

「ではどうして前の生徒会は、カイザーコーポレーションにアビドスの土地を売ったんでしょうか?」

 

 

アヤネの声は冷静だったが、指先はわずかに震えている。

 

机の上に広げられた地籍図。

そこに引かれた線は、ただの区画線のはずなのに、今は傷跡のように見える。

 

 

「実は裏で手を組んでたとか」

 

 

シロコの言葉は棘がある。

 

 

「いえ…それは違うと思います」

 

 

アヤネはすぐに否定した。

 

 

「そうだね~。私もしっかり関わってないからただの推測だけど…ちゃんと学校のためを思って、色々と頑張ってた人たちだったんじゃないかなーって思ってる。多分、最初は借金を返そうとして…って感じなんだろうな~」

 

 

ホシノ先輩の声は、いつも通り軽い。

でもその奥に、かすかな重さがある。

 

(借金を返すために、いらない土地を売る)

 

合理的と言えば合理的だ。

 

 

「借金のために、土地を…」

 

 

シロコの声は静かだ。

 

 

「はい、私もそう思います。当時すでに学校の借金は、かなり膨れ上がった状態でした。ただ、それでもこのアビドスの土地に高値が付くはずもなく、少なくとも借金自体を減らすには至らなかった…それで、繰り返し土地を売ってしまうという負の循環に…ということでしょうか」

 

 

負の循環。

 

 

「何それ、なんかおかしくない?最初からどうしようもないっていうか…」

 

「”…そういう手口も、あるよね”」

 

 

先生の声が静かに落ちる。

 

空気が変わる。

 

 

「え?どういうこと?」

 

「”アビドスは、悪質な罠に嵌められたのかもしれない”」

 

 

背筋が、すっと冷える。

 

 

「え、え?」

 

「あー…なるほど、そっか」

 

 

ホシノ先輩が小さく呟く。

 

 

「アビドスにお金を貸したのも、カイザーコーポレーション」

 

「ということは…」

 

「カイザーローンが、学校の手に負えないくらいのお金を貸して、利子だけでも払ってもらうために土地を売るように仕向ける」

 

 

「はい。きっと最初は、要らない砂漠や荒廃した土地でも売ったらと、甘言を弄したのでしょう。どうせ砂漠と化した使い道のない土地、その提案を断る積極的な理由もなく…ですが、同時にそんな安値で売ったところで借金が減るわけでもなく、土地がとられる一方で…アビドス自治区そのものが、ゆっくりとカイザーコーポレーションのものになる」

 

 

私は息を止めていたことに気づく。

 

(……侵食)

 

撃ち合いではない。

 

爆発もない。

 

ただ、書類と契約で、ゆっくり奪う。

 

まるで砂漠のように。

 

気づけば、足元まで飲まれている。

 

 

「元々、そういう計算だったのかもしれない」

 

 

ホシノ先輩は、ぽつりと呟く。

 

部屋が静まり返る。

 

 

「アビドスにお金を貸した時点で、こうなるように全てを…」

 

「だいぶ前から計画してた罠だったのかもね。それこそ、何十年も前から…それくらい、規模の大きな計画だったのかも…」

 

 

何十年。

 

私は想像する。

 

まだここが活気のあった頃。

 

人が多く、授業があり、未来があった頃。

 

その時から、罠は仕掛けられていたのかもしれない。

 

 

「なにそれ!?ただただカイザーコーポレーションのやつらに弄ばれてるだけじゃん!生徒会のやつら、どんだけ無能なわけ!?こんな詐欺みたいなやり方に、騙されていなければ…!」

 

 

セリカの怒りはまっすぐだ。

 

(無能、か)

 

私は少しだけ目を閉じる。

 

追い詰められた状態で、冷静な判断ができる人間がどれだけいるだろう。

 

例えば弾が残り数発しかないとき、最適解を選び続けられるか。

 

 

「”セリカ、落ち着いて”」

 

「先生…?」

 

「”悪いのは騙されることより、騙すことだと思うよ”」

 

 

私は小さく頷く。

 

 

「……同意します」

 

 

自分の声が、意外なほど柔らかい。

 

 

「判断を誤ることと、罠を仕掛けることは、別です」

 

 

セリカの拳は震えている。

 

 

「…わ、私も分かってるわよ!た、たまにゲルマニウムのブレスレットとか買ったりするし、下手したらここの誰よりも分かってる!悪いのは騙した方だってことは!でも…悔しい、どうして…たたでさえ苦しんでるアビドスに、どうしてこんなひどいことを…」

 

 

その声は、怒りというより痛みに近い。

 

(苦しんでいる場所は、狙われる)

 

それは戦場でも同じだ。

 

弱い地点から崩される。

 

 

「セリカちゃん…」

 

 

部屋が静まり返る。

 

私は、ゆっくりと息を吐く。

 

胸の奥に、黒いものが溜まっている。

 

怒り。

 

冷たい怒り。

 

さっきまで、SRTの整った施設を思い浮かべていた自分がいる。

 

(もし、あそこに行けば)

 

補給は安定する。

装備も潤沢だ。

 

でも。

 

ここが奪われるなら。

 

ここが、計算の上で削られたのなら。

 

私は、机に手を置く。

 

 

「……悔しいのは、よくわかります」

 

 

自分でも驚くほど、はっきりした声だった。

 

 

「…苦しんでる人たちって、切羽詰まりやすくなっちゃうからね~」

 

 

ホシノ先輩の声は、どこか遠い。

 

 

「…え?」

 

「切羽詰まると、人は何でもやっちゃうものなんだよ…ま、よくある話だけどね。ただそれだけだと思うよ、セリカちゃん」

 

 

私はその横顔を見る。

 

軽い調子。

 

でも、その言葉は重い。

 

(ホシノ先輩も、切羽詰まったことがある)

 

きっと何度も。

 

だからこそ、責めない。

 

私は胸の奥で、静かに決める。

 

 

「学校の借金、このアビドスが陥ってる状況、そして私たちと先生と一緒に見つけ出してきた幾つかの糸口。全てが少しずつ、繋がり始めている気がします。カイザーコーポレーションは、アビドスの生徒会が消えてしまってから土地を購入する方法が無くなり…まだ手に入れていない『最後の土地』であるこの学校を奪うために、ヘルメット団を雇用していた…!」

 

 

アヤネの言葉が、一本の線のように机の上で結ばれる。

 

点だった情報が、線になる瞬間。

 

私の中でも、同じ感覚があった。

 

(ヘルメット団は、単なる騒乱要員じゃない)

 

あれは圧力だ。

 

物理的に不安定にして、価値を下げ、交渉を有利にするための。

 

 

「カイザーコーポレーションの狙いはお金ではなく土地だった、という結論で良いと思います!」

 

「ですね、バッチリかと。そうなると、次の疑問が出てきますが…どうして土地なんでしょうかね?アビドス自治区は、もうほとんどが荒地と砂漠、砂まみれの廃墟になっているのに…」

 

 

私は地図を見る。

 

砂漠。廃墟。

 

数字にすれば、ほとんど無価値。

 

 

「確かに…こんな土地を奪ったところで、何か大きな利益があるとは思えませんが…」

 

 

(見えていない価値がある)

 

そうでなければ、ここまで執着する理由がない。

 

 

「”砂漠といえば、ちょっと耳に入れたいことが…”」

 

 

先生の声に、自然と視線が集まる。

 

 

「…先生?」

 

「”ヒナから聞いた情報なんだけど、アビドスの砂漠でカイザーコーポレーションが何か企んでるらしい”」

 

 

ヒナ。

 

その名前を聞いた瞬間、空気がわずかに張り詰める。

 

ゲヘナの風紀委員長。

 

(規律の頂点にいる人物が掴んだ情報)

 

信頼度は高い。

 

 

「アビドスの砂漠で…」

 

「カイザーコーポレーションが…」

 

「何か企んでいる…」

 

 

私の思考は一気に戦術モードへ切り替わる。

 

砂漠での活動。

 

大規模な開発か、資源か、軍事拠点か。

 

 

「……地下」

 

 

小さく呟いていた。

 

 

「え?」

 

 

視線が集まる。

 

 

「地上が無価値でも、地下は別です」

 

 

自分の声は冷静だった。

 

 

「資源、地下水、埋蔵物、あるいは大規模施設の建設予定地」

 

 

砂漠は隠すのに向いている。

 

監視も少ない。

 

 

「更地に近い土地は、再開発の自由度が高いです」

 

 

自分でも少し怖いくらい、頭が冴えている。

 

(だから欲しい)

 

 

「そ、そんなことをどうして、ゲヘナの風紀委員長が…」

 

「それに、どうして先生に…?」

 

 

そこは私にも分からない。

 

でも今は重要じゃない。

 

重要なのは、動いているという事実。

 

「ああもう、そんな難しいことを考えるより、先にやることがあるでしょ!アビドスの砂漠はうちの自治区なんだから実際に行ってみればいいじゃん!何が何だかわからないけど、この目で直接確かめた方が早いって!」

 

セリカの声が、空気を切り裂く。

 

理屈より行動。

 

私は、その言葉に静かに頷く。

 

「…ん、そうだね」

 

シロコも同意する。

 

 

「…いや~、セリカちゃん良いこと言うねえ。こんなにたくましく育ってママは嬉しいよ、泣いちゃいそう。ティッシュちょうだい」

 

 

空気が少し緩む。

 

私は無意識にポケットに手を入れていた。

 

(こういう流れ、嫌いじゃない)

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

ホシノ先輩にポケットティッシュを渡す。

 

自然な動作。

 

周りはセリカの事を柔らかい目で見つめている。

 

(……これが、今のアビドス)

 

荒れている。追い詰められている。

 

それでも、笑える。

 

 

「な、何よこの雰囲気!?私がまともなこと言ったらおかしいわけ!?」

 

「あ、あはは、そんなことは…ですが、セリカちゃんの言う通りです」

 

「”じゃあアビドス砂漠へ”」

 

 

その一言で、空気が決まる。

 

私は胸の奥が少し熱くなるのを感じる。

 

 

「「「「「「うん(はい)!」」」」」」

 

 

声が重なる。

 

その中に、自分の声も混ざっている。

 

砂漠へ向かう。

 

そこに何があるのかは分からない。

 

でも。

 

今度は、奪われる側ではない。

 

確かめに行く。

 

そして必要なら、撃つ。

 

胸の奥で、静かに決意が固まっていった。

 

 




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