ロシア装備でサバゲーしていた俺がいつの間にかブルアカの世界に転生してTSしていたんだが? 作:NK7
翌朝。
まだ空が薄く青い時間に目が覚める。
静かな保健室。規則的な呼吸音だけが聞こえる。私はゆっくりと上体を起こし、足を床につけた。冷たい感触が、意識をはっきりさせる。
いつもの通り、装備を一つずつ身に着ける。ホルスターの位置、マガジンポーチの角度、スリングの長さ。指先で触れて確認するたび、心も整っていく。
最後にリュックを背負う。
背中に縛り付けたRPG-28が、ずしりと存在を主張する。
(重い。でも想定内)
肩紐を締め直し、保健室を出る。
廊下を歩くたびに、装備同士が小さく触れ合い、乾いた音を立てる。普段より明らかに重装備だ。自分でも分かる。
外に出て、走り始める。
最初の一歩で、いつもとの違いが分かる。背中の重量が体幹を引き、足の接地がわずかに深くなる。呼吸も、いつもより早く荒い。
(負荷増加。約二割)
校舎の外周を回る。風が頬を切る。砂の匂いが強い。
今日はアビドス砂漠へ向かう日。
胸の奥に、わずかな緊張がある。
それが走りに影響しているのも分かる。集中が散りやすい。思考が先へ先へと進む。
(装備、問題なし。弾薬、問題なし。想定外が起きた場合の対応……)
二周目に入ったところで、足を止めた。
呼吸はまだ余裕がある。
だが今日は、コンディションを優先すべきだ。
(消耗は避ける)
タオルで汗を拭き、校舎へ戻る。
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生徒会室の扉の前で、一度だけ深呼吸。
ノックして入る。
「おはよ――」
最初に気付いたのはセリカだった。
「……え?」
全員の視線が、私に集まる。
数秒の沈黙。
「レインちゃん……戦争でも仕掛けに行くの…?」
ホシノ先輩が目をぱちぱちさせる。
「違います」
視線は動かさない。
「いやいやいや、違わなくない!?何その物騒な筒!?」
「使い捨て対戦車擲弾発射機です」
あえて平坦に答える。
(反応は想定通り)
「さらっと言うな!」
セリカのツッコミはキレッキレである
アヤネが少し引き気味にメガネを押さえる。
「対戦車って……戦車が出てくる想定なんですか?」
「可能性の排除です」
自分でも、やや極端だとは思う。
だが「想定外だった」という言葉ほど、無意味なものはない。
シロコがじっと私を見る。
「……本気だね」
「はい」
短く答える。
(私は、迷っていない)
ホシノ先輩がうへ~と声を漏らす。
「シロコちゃんのドローンが可愛く見えるんだけど~」
「砂漠で重装甲車両が出る可能性は否定できません」
口に出してから、ほんのわずかに胸がざわつく。
(本当に出たら?)
その時、私は躊躇なく撃てるか。
撃てる。
撃つために持ってきた。
「出たらどうするつもりだったの、私たち……」
セリカの言葉に、私は一歩前に出る。
「過剰装備かもしれません」
正直に言う。
「ですが、何も無ければそれで良い。あった場合に後悔しない方を選びました」
言いながら、昨日の屋上を思い出す。
“まだここに居たい”
その選択の延長線上に、今がある。
沈黙。
そのあと、シロコが小さく頷く。
「……ん、備えは多い方がいい」
その一言で、胸の奥が静かに安定する。
(認められた)
「ですね」
アヤネも同意する。
ホシノ先輩がにやりと笑う。
「頼もしいねえ。じゃあ前線任せちゃおっかな~?」
「状況次第です」
即答。
「うわ、冷静」
セリカがため息をつく。
「はぁ……もういいわよ。どうせ止めても持ってくんでしょ」
「はい」
「即答!」
小さな笑いが広がる。
その空気の中で、私はほんの少しだけ肩の力を抜いた。
(ここが、今の私の位置)
それから学校から駅に向かい、列車に乗り込み、アビドス砂漠まで向かった
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列車を降りた瞬間、熱気が押し寄せる。
乾いた風。白く揺れる地平線。
ここから先は徒歩。
アヤネの説明を聞きながら、私は周囲を観察する。遠方に、動く影はない。だが砂丘の向こうは死角だらけだ。
「ここまでは列車で来ることが出来ましたが、ここかれの移動手段は徒歩しかありません。少し進めばもうアビドス砂漠…このアビドスにおける砂漠化が進む前から、元々砂漠だった場所です。普段から壊れたドローンや警備ロボット、オートマタなどが徘徊しているので、危険な場所なのですが…今は強行突破するしかありません。皆さん、今一度火器の動作チェックをお願いします。」
私は無言でライフルを下ろし、一度マガジンを抜きセーフティを解除しチャージングハンドルを引く。動くことを確認し、セーフティとマガジンを戻す。ついでにスコープのレンズを拭う。
「アビドス砂漠で、カイザーコーポレーションが一体何を企んでいるのか…実際に行って、確かめることにしましょう」
カイザーコーポレーション。
その名を聞くたび、わずかな緊張が走る。
資金力。装備。人員。
正面からぶつかれば不利なのは明白だ。
「…けどさ、アヤネちゃん。よく考えると、その情報をくれたのってゲヘナの風紀委員長でしょ。それってなんかおかしくない?いくら風紀委員長とはいえ、どうして他の学園の生徒が、うちの自治区のことをそこまで知ってるわけ?」
砂を踏む音に混じって、セリカの声が少しだけ強く響く。
私は隊列のやや前を歩きながら、耳だけを後ろに向ける。
「うーん、あくまで推測に過ぎないけど…ゲヘナの風紀委員長はかなり情報収集能力に秀でているって聞いたことが…だから、アビドスみたいな小規模な学校では考えられないような情報網を持ってる、とか…?」
アヤネの声は理性的で、けれどどこか不安を含んでいる。
情報網。
規模。
組織力。
その単語一つ一つが、胸の奥の別の記憶を刺激する。
(大規模組織は、個人の想像を超える)
それは知っている。
「ま、そういうこともあるのかもね~」
ホシノ先輩の軽い声が、張り詰めかけた空気を少し緩める。
だが私は、緩めない。
視線は砂丘の稜線。熱で揺らぐ遠景。反射光の不自然な点がないかを探す。
「委員長という立場でしたら、風紀委員会が把握している情報は全部集約されているでしょうし…それにあの時、あちらの行政官がたしか…『他の学園自治区の付近なのだから』…と言っていました。自治区の『中』ではなく、あくまで『付近』、と」
その言葉に、足がほんのわずかに重くなる。
“付近”。
境界。
線の内側と外側。
(もし、本当に外側だったのなら)
私たちが銃を向けたのは、越えてはいない相手だった可能性。
「そ、そうだっけ!?」
セリカの声が揺れる。
「それに…『まだ違法行為とは言い切れない』…あの言葉も、よく考えてみると…あの時はてっきり苦しい言い訳かと思っていましたが…もしかしたら向こうは本当に、不法侵入の意図は無かったのかもしれません」
私は口を挟まず、黙って聞く。
ゲヘナの風紀委員長。
情報網。
あの時のやり取りが脳裏に浮かぶ。
砂煙の向こう。張り詰めた空気。指がトリガーにかかる寸前の感触。
(もし本当に“付近”だっただけなら)
私たちの行動は、早計だったのか。
正義を名乗りながら、先に銃口を向けたのは、こちらだったのか。
胸の奥が、わずかに軋む。
だが。
シロコの言葉が響く。
「…もしかしたらそうかもしれない。けど、あの時の風紀委員会には、明らかに侵犯行為だと取れる言動が多々あった。あそこがアビドスの所有している自治区だったかどうかは、そんなに重要じゃない。それに、あのアコの行動は明確な敵対行為。それだけで十分。あの時のアヤネの判断は間違っていない」
その一言で、思考が止まる。
(そうだ)
あの時、銃口は確かに向けられた。
視線は鋭く、挑発的で、引き金を引く覚悟があった。
敵意はあった。
私はその空気を、肌で感じた。
理屈より先に、本能が告げていた。
“撃たれる”。
だから構えた。
あれは境界線の問題ではない。
対峙の問題だ。
アヤネが礼を言う。
「…はい、そうですね。ありがとうございます、シロコ先輩。ですが…あの行政官は、私たちの知らなかった事実を知っていた。少なくともその可能性がある、そう考えるのが妥当かもしれません。そうなると、ゲヘナの風紀委員長が私たちの知らないことを知っているとしても、何もおかしくありません」
知らないこと。
その言葉が、胸に刺さる。
(私は、どこまで知っている?)
カイザーコーポレーションの狙い。
砂漠の計画。
ゲヘナの動き。
そして、自分自身の進路。
知らないことだらけだ。
だが、知らないからこそ、足を止めるわけにはいかない。
止まれば、判断もできない。
ホシノ先輩がいつもの調子で締める。
「ま、行ってみたらそれも含めて、きっと色々分かるでしょ。セリカちゃんが言ってた通り、直接この目で確かめれば早いんだしさ~。じゃ、引き続き進むとしよっか~?」
軽い。
けれど、その言葉には不思議な強さがある。
“行けば分かる”。
単純で、確実な答え。
私は一度だけ後ろを振り返る。
皆の距離、隊列、表情。
不安はある。迷いもある。
それでも、誰も立ち止まらない。
(だから私は、前を見る)
足を一歩、砂に沈める。
熱が靴底から伝わる。
視界の先、揺れる地平線。
もしあの時の判断が早計だったとしても。
もし相手に別の意図があったとしても。
今やるべきことは一つ。
この砂漠で何が起きているのか、確かめること。
私は小さく息を吐く。
迷いは、完全には消えない。
だがそれは、弱さではない。
考え続けるための重みだ。
背中の装備と同じように。
抱えたまま、進めばいい。
そう自分に言い聞かせながら、私は再び前方へ意識を集中させた。
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