ロシア装備でサバゲーしていた俺がいつの間にかブルアカの世界に転生してTSしていたんだが? 作:NK7
保健室の明かりを落とすと、室内は一気に静かになった。
薄暗い中、窓の外から砂を運ぶ夜風の音だけが、かすかに聞こえる。
ベッドに腰を下ろし、靴を脱ぐ。
白いシーツに体を預けると、今日一日の出来事が、遅れて押し寄せてきた。
(……疲れた)
肉体的というより、頭の奥がじんわり重い。
考えることが、多すぎる。
目を閉じかけて――ふと、昼間のやり取りが蘇った。
ノノミの視線。
アヤネの指摘。
「摩耗がない」「新品に近い」。
(当たり前だ)
胸の内で、誰にも聞こえないように呟く。
だって――
私は「撃っていない」。
この世界に来てから、一度も。
時計の音が静かな部屋に響き渡る。
(……それにしても)
疑問は、ずっと胸の奥に引っかかっていた。
昼間は考えないようにしていたこと。
でも、こうして静かになると、否応なく浮かび上がってくる。
(この世界の人たち……)
セリカ。
シロコ。
ノノミ。
アヤネ。
ホシノ先輩。
(みんな、銃を持つのが“当たり前”みたいな顔をしてる)
それが、どうにも引っかかる。
普通の女子高生――
少なくとも、自分が知っている「普通」なら。
・銃の操作方法すら分からない
・銃の重さを見ただけで身構える
・引き金に指をかけることに、躊躇する
それが、自然な反応のはずだ。
(なのに……)
彼女たちは違う。
アヤネは、弾薬規格を一目で判断した。
ノノミは、銃の保存状態を見て「使い込まれていない」と気づいた。
シロコは、火力や継戦能力を前提に話す。
ホシノ先輩に至っては、「何とかする」と言い切った。
(おかしい)
いや、「この世界では普通」なのだろう。
でも、それが余計におかしい。
(どれだけ銃を触ってきたら、そんな判断ができる?)
銃は、知識だけじゃ足りない。
触って、撃って、手入れして、初めて分かることがある。
・摩耗する場所
・使い込まれた金属の光り方
・撃った後の匂い
・反動の“質”
そういうものは、教科書やマニュアルには載らない。
(つまり……)
この世界の「普通の女子高生」は、
私の知る世界の「異常」に、片足どころか両足を突っ込んでいる。
ゆっくりと、息を吐く。
(ここでは、銃は“道具”なんだ)
怖いものでも、特別なものでもない。
生活の一部。
鉛筆やノートと、同じ棚に置かれている感覚。
(だからこそ……)
私の銃が「綺麗すぎる」ことが、目についた。
実戦で使われ、
傷が増え、
それでも握り続けてきた“痕跡”。
それがない。
(私は、まだ“外側”にいる)
撃てる。
扱える。
でも――踏み込んでいない。
この世界では、銃を持つこと自体に、意味はない。
「撃つ」ことを前提に、皆が生きている。
(……もし)
もし、ここで本当に戦うことになったら。
私は、引き金を引けるのか。
この世界の「普通」に、追いつけるのか。
胸の奥が、少しだけ冷える。
(転生前は……)
エアガンだった。
弾はプラスチック。
当たっても、痛いだけ。
撃つことに、現実の重みはなかった。
(今は違う)
持っている銃は、全て本物だ。
弾は、人を殺す。
この世界の人たちは、
それを「日常」として受け入れている。
(だから、誰も不思議に思わない)
なぜ全員が銃を持っているのか。
なぜ学生が戦っているのか。
疑問を持つのは――
「外から来た」私だけだ。
天井を見つめたまま、目を閉じる。
(……眠ろう)
眠ろうとしても、どうしても拭えない違和感が、胸の奥で疼いた。
(……本当に?)
この世界の人たちは、銃を「当たり前」に扱う。
撃たれることも、撃つことも。
(それって……どんな感覚なんだ)
ゆっくりと、目を開ける。
保健室は静まり返っている。
誰もいない。
時計の音だけが、相変わらず正確に時を刻んでいる。
(……少しだけなら)
誰にも見られない。
深く考えないようにして、体を起こした。
コンバットシャツの袖を、ためらいながらまくる。
露わになった前腕。
自分の肌。普通の、人の腕。
(本当に……普通の、人間のまま?)
ベッド脇に置いていたMP-443を、静かに手に取る。
冷たい重量。
慣れたはずの感触が、今はやけに生々しい。
(……至近距離)
マガジンを挿入し、スライドを引き、安全装置を解除する。
トリガーをゆっくり引く。
一瞬、息を止める。
――パン。
乾いた音が、保健室に小さく響いた。
「っ……!」
反射的に歯を食いしばる。
(痛っ……!?)
衝撃は、確かにあった。
鈍い、強い衝撃。
骨に直接、拳で殴られたような感覚。
だが――
「……え?」
慌てて、腕を見る。
赤くなっている。
衝撃の中心が、じんわりと熱を持っている。
でも、
(……血、が……)
出ていない。
皮膚は、破れていない。
穴も、裂け目も、滲みもない。
ただ、打撲のように赤くなっているだけ。
「……は?」
思わず、声が漏れた。
(9mmだぞ……?)
至近距離。
遮蔽物なし。
確実に、当たった感触があった。
なのに。
「……痛い、だけ……?」
指で、恐る恐る触れる。
確かに、痛い。
鈍痛が、じわじわと広がっている。
だが――
“貫通した”感覚は、どこにもない。
(……おかしい)
心臓が、遅れて跳ね上がる。
(弾は……?)
床を見る。
変形した9×19mm弾の弾頭と薬莢が転がっている。
弾頭は潰れている。
確かに、衝突した痕跡。
でも――
私は、無傷だ。
「……なに、これ……」
声が、震える。
(私は……)
この世界に来てから、何となく感じていた違和感。
銃撃戦を前提にしている人々。
撃たれても動き続ける身体。
(まさか……)
ゆっくりと、腕を握る。
開く。
問題なく動く。
(……耐性?)
この世界の人間は――
少なくとも、私も含めて。
“銃で撃たれること”が、前提の身体になっている?
(だから、みんな平然としてる……?)
冷たい汗が、背中を伝う。
(普通の女子高生が、銃を使い込んでる理由……)
それは、知識や訓練だけじゃない。
(撃たれても、死なないから)
この世界では、
「撃たれること」自体が、致命的ではない。
だから、恐れが薄い。
だから、判断が早い。
だから、戦うことが日常になる。
「……冗談、でしょ……」
自分の腕を見つめたまま、呆然と呟く。
(私は……)
TSはしたが、人間のまま、ここに来たと思っていた。
少なくとも、そう信じていた。
でも――
もう、同じじゃない。
MP-443を、そっとベッドに戻す。
弾頭と薬莢も拾い上げ、握りしめる。
(“撃てる”以前の問題だ)
私は、
撃たれる側の条件すら、変わってしまっている。
それに気づいた瞬間、
胸の奥に、言いようのない不安が広がった。
(……戦える)
確かに、戦える。
でもそれは――
「戻れない」という意味でもあった。
赤くなった腕を、静かに下ろす。
時計の音が、また耳に戻ってくる。
カチ。
カチ。
その音は、もうさっきまでとは違って聞こえた。
この世界では、
銃を持つ理由がある。
そして――
銃で撃たれても、生きている理由も。
レインは、シーツに身を沈めながら、
その現実を噛みしめるように、ゆっくりと目を閉じた。
痛みだけが、
「もう戻れない」ことを、静かに教えていた。
感想お待ちしてます
続きません
レインの設定って書いたほうがいいですか?
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いる
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いらん