没ネタ覚書   作:につけ丸

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ホラズム・シャー

 

▽▲▽▲▽

 

 

【私に】新米魔王を監視するスレ16【言わせれば】

 

 現在進行形で脳内に垂れ流されてるカンピオーネっぽい少年(以後:ガンボール スニーク氏命名)の実況スレです。

 

 注意書き:

 ・電波を受信してこの板を見つけたら必ず書き込んでください。

 ・詳しい話は雑談スレで。スレ民は誘導してあげてください。

 ・荒らしはスルー推奨

 ・接触した人はコテハン必須

 

 前スレ:【もうそろそろ】新米魔王監視するスレ16【500km!】 http://××××

 

 

32:名無しの視姦魔人 ID:bxBpbj51/

 そういや新しいカンピオーネが生まれたんだっけ? まだローマくらいでしか広まってないけど

 

33:名無しの視姦魔人 ID:9DNlQ9jrF

 なんでそんなにポンポン生まれちゃうんですか??? 

 

34:名無しの視姦魔人 ID:9DNlQ9jrF

 今世紀何人目だよ。ノストラダムスの大予言はとっくに終わったんだぞ

 

35:名無しの視姦魔人 ID:DD80dAOI0

 一世紀に1人生まれれば当たりとはなんだったのか

 

36:名無しの視姦魔人 ID:b22as7Q4o

 というかローマ? イタリアで生まれたってことは1つの国に2人のカンピオーネが……? 

 

37:名無しの視姦魔人 ID:oJvFox1dq

 あっ(死

 

38:名無しの視姦魔人 ID:fJNND1ba4

 両雄並び立たず。イタリアの皆さんさようなら! 

 

39:名無しの視姦魔人 ID:4Ys/9VNy4

【速報】わい将、フランスへ脱出を決意

 

40:名無しの視姦魔人 ID:B3k0v9l32

 欧州は地獄だね。日本人でよかったわ、遠く離れた極東でのんびりできるから

 

41:名無しの視姦魔人 ID:R+IBamQ4G

 噂のカンピオーネって日本人の学生らしいぞ

 

42:名無しの視姦魔人 ID:B3k0v9l32

 ───えっ? 

 

43:名無しの視姦魔人 ID:WbYjNmq7o

 実際、人間がまつろわぬ神に勝てんの? イマイチ信じられんのだが

 

44:名無しの視姦魔人 ID:ZsJOuyed/

 まあ人間がまつろわぬ神に勝つのは無理だろって言われたらそれはそう

 

45:名無しの視姦魔人 ID:fhub9b0T1

 奇跡でも起きなきゃ無理無理かたつむり

 

46:名無しの視姦魔人 ID:WLrB0nk/l

 でも出来ちゃったから奇跡なんだしカンピオーネがいるんだよなぁ。信じられなくても否定するのはちょっと……

 

47:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 しかし考えてもみたまえよ? 神を殺すという奇跡とやらを見届けた人間なんて聞いたことがあるかね? 証人がいないのに、ほんとうに神を殺したなんて分かりっこないじゃないか

 

48:名無しの視姦魔人 ID:FbuhT1AaV

 言われてみればそうだな

 

49:名無しの視姦魔人 ID:+/eMi41tq

 新人カンピオーネ氏に見届け人がいるかもだろ。早計すぎるわ

 直感的に大騎士クラスの金髪美少女な気がする

 

50:名無しの視姦魔人 ID:Qh8jkVHnD

 見たことないから信じられないっていうなら、俺もまつろわぬ神見たことないわ

 

51:名無しの視姦魔人 ID:FydSPNqA9

 俺だってねーよ

 

57:名無しの視姦魔人 ID:jxqbdhzvu

 >>47

 >>50

 >>51

 悪いことは言わんから過去ログ見てこい

 

58:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 >>57 過去ログ? 

 

59:名無しの視姦魔人 ID:i/JkNc6oc

 この板ってガンボール氏がカンピオーネ活動以前から存在してるから、その流れで最初の神殺しまでばっちり配信(?)されてんのよ

 

60:名無しの視姦魔人 ID:y1EgiqM8y

 ふぁ!? 

 

61:名無しの視姦魔人 ID:1vmKkZ6b0

 賢人議会がケツ売ってでも欲しがりそうな情報だなそれ……

 

62:名無しの視姦魔人 ID:wO1OYzgQW

 ……ってことはガンボール氏の人間時代がどんなだったか知ってるってこと? 

 

63:名無しの視姦魔人 ID:fU+ZVOvFT

 ただの一般人だったはず? 

 

64:名無しの視姦魔人 ID:aT/8aSL+k

 いうほど普通だったか??? 

 

65:名無しの視姦魔人 ID:vgdGEHiNJ

 なんにせよ武術や魔術を修めてはいなかったな

  

67:名無しの視姦魔人 ID:mL1/CuMO

《鋼》の一党であれば愛し子認定するだろう類の少年ではあったがな

 

68:名無しの視姦魔人 ID:q/PK2FjCu

 あっふーん

 

69:名無しの視姦魔人 ID:w4QqCPEXg

 なるほどね……(眼鏡クイ

 

70:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 しかし結局はド素人だったということだろう? ならぼくの仮説を証明するいい実験材料になるかもしれない

 

71:名無しの視姦魔人 ID:gaxxr/57y

 なんか変なの湧きましたね

 

72:名無しの視姦魔人 ID:m8x9hNN4j

 どうせろくなことじゃないんだろうが暇だから聞いてやるよ

 

73:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 いいかい? 

 カンピオーネの方たちにはここのガンボール某もそうだったように人間だった時は魔術どころか武術の心得すらない者もいるんだ。

 

 奇跡や偶然が重なったといってもそういう輩は、まつろわぬ神を殺めたといっても本質的に一般人なのは変わりないじゃないか

 

74:名無しの視姦魔人 ID:FuUhEHAnk

 そうかな……そうかも……

 

75:名無しの視姦魔人 ID:m8x9hNN4j

 話聞いといてなんだけどもうやめませんか??? 厄介ごとに巻き込まれたくないんですけどぉ!!! 

 

76:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 神を殺した一般人とは……うごご……

 

78:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 なら、案外神とまだ会敵していないカンピオーネの"成り立て"なんて一定の実力を持つ騎士や魔術師なら倒せるかもしれない

 

79:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 なんで??? 

 

80:名無しの視姦魔人 ID:p2UDD0r31

 超理論やめろ

 

81:名無しの視姦魔人 ID:kWVS2M59L

(思った以上にヤバいの出てきたな……どうすんだこれ……)

 

82:名無しの視姦魔人 ID:7O++rhnLS

 人間のままで神を殺せたんだからまつろわぬ神とタイマン張れるカンピオーネになれば勝率上がるってツッコミはなし? 

 

83:名無しの視姦魔人 ID:m8x9hNN4j

 もうやめようよーこのはなしー! 僕が悪かったからさー!!!! 

 

84:名無しの視姦魔人 ID:59cZK6Nhn

 まあ俺はなんとなくコイツが言いたいことは分かったw でも結局カンピオーネにちょっかいかけるって事は変わんない訳だしさーw

 

 この板に五嶽聖教(ごがくせいきょう)みたいなカンピオーネの狂信者がいたらとか考えないわけ? (迫真

 

85:名無しの視姦魔人 ID:CsuOTvbov

 ゾクっとした

 

86:名無しの視姦魔人 ID:C/CRJSJ0S

 あの狂信者集団かぁ……この板にいるのかな

 

87:名無しの視姦魔人 ID:J3SQnO1e3

 知らね。俺はしがない済州島住みの学生だぜ

 

88:名無しの視姦魔人 ID:xy8N5I5j0

 五嶽聖教というと教主の信奉組織ですか。個人としての武力も尋常じゃないですけど一流の人材もゴマンと囲ってますもんね……。

 しかも福笑い感覚で目とか耳とか削いだり剥いだりしますし。自分のも他人のも……

 

 あ、私はシンガポールの華僑系組織の構成員です。非五嶽聖教ですけどね

 

89:名無しの視姦魔人 ID:6MD6phtF3

 中華系はねーだいたい息かかってるよねー。

 あ、白山あたりで姫巫女やってまーす

 

90:名無しの視姦魔人 ID:W41z4DI6l

 >>89 ネカマ乙。 このスレには基本男しかおらんからな。俺はモスクで事務方やってる

 

91:名無しの視姦魔人 ID:GI7dSGfQb

 自己紹介わらわらで草。こうして見ると玉石混交やな……ちな、わいはニュージーランドで羊飼いやっとるおっちゃんや

 

92:名無しの視姦魔人 ID:598zwoYBf

 パロ県あたりで修験者をやっているものです。 >>78さんがどれだけ強いか知りませんがあの方々に下手に喧嘩売らない方がいいと思いますよ(善意

 

93:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 >>92 う、うむ。僕も熱くなって結論を急いでしまったのは認めよう。でも僕は意見を翻すつもりはない。

 

 はっきり言っておくとカンピオーネとして成功している彼らを疑う気はない。

 けれどカンピオーネが皆が皆、絶対の覇者である保証もないし最初から埒外だったわけでもあるまい。

 そして、おそらく"不適合"なカンピオーネはなりたてしかいないだろう。適性がないものはまつろわぬ神と戦えば死ぬに決まっているからな。そういう話だ

 

95:名無しの視姦魔人 ID:WWBgg42VO

 そういう話だ、じゃねぇんだわ

 

96:名無しの視姦魔人 ID:Od2KZFDxb

 でも否定はできないよな

 

97:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 だったらそういう"不適合"なカンピオーネならば人間でも倒せるんじゃないか? 

 

98:名無しの視姦魔人 ID:inaXPEYKg

 オイオイオイ、死ぬわコイツ

 

99:名無しの視姦魔人 ID:ZQotuezDp

 そっちに飛躍すんのマジ怖いんだけど

 

100:名無しの視姦魔人 ID:LYGBWkMOr

 魔術覚えたてのガキじゃないんだからさー、そんな危険思想捨てちまえって。命あっての物種だぜ? はしかは早めに治しとけっていうだろ

 

101:名無しの視姦魔人 ID:1dIFIU/x3

 結局、カンピオーネさんらに喧嘩売って名を上げようとか根っこにあんのはそんなか

 でも魔術・武術を修めた身として一度は考えなくもない? それもそうだな

 

102:名無しの視姦魔人 ID:0YqLdiLJ0

 いろいろ理論こねくり回してるけど自信過剰さからくるカンピオーネへの侮りというスメルがプンプンするんだけど

 

103:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 ぼくはぼくの仮説を証明したいだけだよ。。。

 

104:名無しの視姦魔人 ID:67655huoh

 >>103 つまりLV1の魔王にならLV30-40くらいの村人が勝つぜって言いたいの? 

 

105:名無しの視姦魔人 ID:ROE3iHvfP

 うーん……実際どうなんだ? カンピオーネ成り立てに我々パンピーが勝てる可能性とかある? 

 

106:名無しの視姦魔人 ID:7ByFlEd74

 ないでしょ

 

107:名無しの視姦魔人 ID:0DbXnmftX

 いやー

 

108:名無しの視姦魔人 ID:Tt5BWEQxU

 >>107 キツイ

 

109:名無しの視姦魔人 ID:6A08zqtRg

 >>108 でしょ

 

110:名無しの視姦魔人 ID:/JYsixIxk

 あの人ら見た目は人間みたいだけど本質的に魔獣に近いらしいからな。実際狼みたいに夜目も利くし

 

111:名無しの視姦魔人 ID:LT3hhVDjK

(いないと思うけど)知らない人のためにカンピオーネの種族的な特徴あげていきますね♡

 

 ・某映画のウ○ヴァリンみたいな速度で負傷が治ります。

 ・骨は鉄より硬いです。

 ・我々パンピーが扱えるような魔術は根こそぎ無効化します。

 ・数百m先からスナイプしようとしても多分察知します。

 ・トドメに小国や都市くらいなら簡単に消し飛ばせる能力があるかもしれません。

 ・一応経口摂取なら毒や呪術も有効という弱点らしい弱点はありますが、おそらく仕込んだ時点でこれも察知されます。

 

 どないせいと

 

112:名無しの視姦魔人 ID:OwzhEygHV

 >>111 勝ち筋が見えなくてワロタ。そりゃ王だのなんだろ崇められますわ

 

113:名無しの視姦魔人 ID:4gFTqOGf6

 あるとしたら知恵と勇気と奇跡と偶然が十乗くらい重なればあるいは……? 

 

114:名無しの視姦魔人 ID:MTYbDWPov

 それはもう神様に挑むのと変わらないんよ

 

115:名無しの視姦魔人 ID:ID:biA0cHi9

 君たちは僕を真っ向から否定するが、交戦経験がある訳じゃないんだろう? 立証どころか検証もしていない君たちが僕を頭ごなしに否定することも出来ないんじゃないか? 

 

116:名無しの視姦魔人 ID:A2FKeaYdy

 それは……そうなんですが……。

 

117:名無しの視姦魔人 ID:6DVVaegY4

 故事を紐とけよ。魔王様方に挑んで痛い目見た話なんてそこら中に転がってるだろ? 

 

118:名無しの視姦魔人 ID:cBFDfJRkH

 経験から学ぶのは愚者ってビスマルクも言うとる、わいは賢者になれると自惚れちゃいないが愚者にもなるつもりはない

 

119:名無しの視姦魔人 ID:BHE8GDQCI

 おそろしく自然なエピメテウスの落とし子煽り…………オレじゃなきゃ見落としちゃうね……

 

120:sneak ID:mAhiwAsh

 えらく盛り上がってるな……? 

 

121:名無しの視姦魔人 ID:jhSvxKV5L

 お、スニークニキじゃん。合流出来た? 

 

122:sneak ID:mAhiwAsh

 >>121 まだ。見失ったから位置情報把握にきた

 

123:名無しの視姦魔人 ID:+qIk/p8K/

 迷子アプリかここは

 

124:名無しの視姦魔人 ID:8xwym+bo/

 まつろわぬ神から簒奪したと思わしき、GPS代わりにされる(多分)権能さんに悲しき過去……

 

125:名無しの視姦魔人 ID:GRW9cPNih

 あー、そういや議論に夢中で見てなかったな。前スレの時点でガンボールくん追いかけて550km越したんだっけ? 今はどれくらい? 

 

126:sneak ID:mAhiwAsh

 >>125 おそらく600kmは超えた

 

127:名無しの視姦魔人 ID:YWwtgxKm6

 おいたわしや……スニ上……

 

128:名無しの視姦魔人 ID:DBfKMP6RZ

 東京からだと盛岡や神戸付近か。

 お疲れ様です……

 

129:sneak ID:mAhiwAsh

 思えば遠くまで来たもんだ。で、議論って? 

 

130:名無しの視姦魔人 ID:K1gDkHbiP

 >>129

 成り立ての

 カンピオーネに

 人間が勝てるのか? って

 

131:sneak ID:mAhiwAsh

 なんでまたそんな無駄なことを……

 

132:名無しの視姦魔人 ID:RiQWaED9B

 なんでやろなぁ……

 

133:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 ロマン、かな……

 

134:名無しの視姦魔人 ID:Aaz/p1QWv

 迂遠な自殺の間違いだろ!!! 

 

135:sneak ID:mAhiwAsh

 勝ち負け語れるほど戦いに詳しくないから持論は展開しないが、本人の話じゃカンピオーネになったときに母を名乗る不審者に会ったらしい。その時、この業界に向いてると言われたらしいぞ。だからある程度選定と保証はされるんじゃないか? 

 

136:名無しの視姦魔人 ID:Y1AnIUtIJ

 過去ログにそんなのあった? 

 

137:名無しの視姦魔人 ID:s8vfaLOte

 カンピオーネらしいガンボール氏を息子扱いするとかもろ魔女パンドラじゃねーか。一応、かなり格のある女神だったはずだし電波妨害受けたんじゃね

 

138:名無しの視姦魔人 ID:qbHWmkj+i

 >>電波妨害<<

 

139:名無しの視姦魔人 ID:qxR//TQxn

 もうこの情報だけで論破でいいだろ

 

140:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 やれやれ。コテハン勢の君も否定寄りか。

 ならここはひとつ、ぼく自身がなりたてのカンピオーネを見つけ出して訓示するべきだろうな

 

141:名無しの視姦魔人 ID:/2X/+p5OA

 やっば。アタシいままで霊感とか霊視の才能ぜんぜんなかったけど未来見えたかもしんない

 

142:名無しの視姦魔人 ID:kQweEwwle

 司祭に転職できそう

 

143:sneak ID:mAhiwAsh

 俺は柔よく鋼を制すが信条というか教義だから力になれそうにない。すまん。

 

144:名無しの視姦魔人 ID:BsH57QtW1

 気にすんな気にすんな

 

145:名無しの視姦魔人 ID:nW3scDAe+

 てかなりたてのカンピオーネならガンボール氏も、だよな? けどなーんか戦い慣れてんだよなぁ

 

146:名無しの視姦魔人 ID:VQWoS7lkE

 話逸れまくってたけど彼いまどこにいるの? 

 

147:名無しの視姦魔人 ID:jkCau3R0x

 どっかの繫華街っぽいな。……あれ、ちょっと前まで山道歩いてなかったか? ちらほら雪も積もってたし標高も高そうだったぞ

 

148:名無しの視姦魔人 ID:hoQ89ndCZ

 俺見てたけどトラックの荷台に飛び移って昼寝してたよ。

 

149:名無しの視姦魔人 ID:X7GvZhXHn

 あ、はい……

 

150:名無しの視姦魔人 ID:yPt0oHtC9

 あのあの! 地図見てたけどこのエレバンって町から山まで少なくとも50kmはあるんですがそれは……

 

151:名無しの視姦魔人 ID:U4WqcrDSA

 こんなんだからガンボールとか言われるんだよ

 

152:名無しの視姦魔人 ID:YYoxn0hnJ

 ゴブスタン自然保護区からここまでノンストップとか明らかに人智を超えてやがる

 

153:sneak ID:mAhiwAsh

 意外と近かったな……やっぱりアララト山の方に向かってたか。よし、あとちょっとで繫華街に入れる

 

154:名無しの視姦魔人 ID:NpxvMBoWn

 ほんまお疲れ様やで

 

155:名無しの視姦魔人 ID:HuYmNpLWO

 なんか買ってるな。ケバブにして食べたら美味そうな串焼きだ

 赤いワーゲンバスのキッチンカーだ

 

156:sneak ID:mAhiwAsh

 方向は掴んだしちょっと落ちる。議論はまた今度な

 

157:名無しの視姦魔人 ID:xN5QZvDfC

 ノシ

 

158:名無しの視姦魔人 ID:bQ+eW21so

 いてらー

 

159:名無しの視姦魔人 ID:FPnG0joeI

 ああ、今終わる……永い永い旅が……

 

160:名無しの視姦魔人 ID:VFJzJ1j5Y

 ただの迷子なんだよなぁ……(なお合流まで600Km OVER)

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

「すまない。さっきこの少年が買い物をしていっただろう。どこへ向かったか教えてくれないか?」

 

 写真を掲げて尋ねてきたのは年季の入った外套を着る青年だった。

 東洋系で観光客というより旅人という印象が近い。尋ねられた店のオヤジはというと、仏頂面のまま肉を焼き続けていた。

 仏頂面を崩さないオヤジに、青年──真日輪 (まひわ)(しゅう)は諦めたようにため息を吐いた。

 

「……いくらだ」

「毎度!」

 

 さっきまでの仏頂面はどこへやら。

 満面の営業スマイルを浮かべたオヤジはウキウキで仕事をはじめた。手のひらの返しようにため息をつき、赤いキッチンカーの周辺に置かれた椅子に腰掛け、つかの間の休息をとる。

 

 市内からでも見える聖峰アララト山が美しい。

 

 人を探していなければもう少し堪能できたのだが、さっさと用を済ませなければまた見失ってしまう。自前の水筒で喉を潤しながら周囲を見渡す。あの馬鹿はどこにいるのやら。

 

 妙な風体をしているからだろうか、行き交う通行人から視線を感じる。

 以前は若草色だったはずの外套は、長旅で土埃をこれでもかと浴び、モスグリーンへと変わってしまっている。

 いやそもそも""この""ご時世じゃ観光客はもとより旅人すら珍しいか、と綉は納得した。

 

 そんな客へとキッチンカーのオヤジは商品を差し出してきた。

 

「人探しかい? あんたと同じアジア人の坊主ならちょっと前に東へ向かったよ」

 

「そうか、助かるよ。もう随分と合流出来ていないんだ」

 

「見たところ、中国人みたいだが観光にでも来たのか……っとぉ、そんなの今どき流行らねぇな。まあなんだ災難だったな」

 

「まったくだ」

 

 店主のおっさんと適当に会話し、肉串を頬張る。うまい。肉を焼いただけのシンプルな料理はどの地域でも安定してうまいものだ。

 肉はラム肉だろうか? そんなことを考えながら友人の影を探していると、キッチンカーに備え付けられたつけっぱなしのテレビからニュースが流れてきた。

 

『……モンゴル・オノン川上流付近に現れたチンギス・ハンと名乗る武装集団は未明、これまで包囲していたモンゴル軍を突破し西進を開始しました。

 不確定な情報ですがこの武装集団は、多くが人狼の姿をしており、これまで同様、近代兵器の一切を無効化する特性を備えているようです。モンゴル軍の一部ではこの武装集団に加わる離反者も出ており、その数は現在も膨張を続けています』

 

 ニュースキャスターが真面目な顔をして、深夜のバラエティ番組でもやらないような馬鹿げた内容を口にしていた。

 

『各地でアヴァターラ(अवतार/Avatāra)現象は続いており、収束の目途は立っていません。西アジアの国々から端を発した"伝承の顕在化"ともいうべきこの怪奇現象は、国、地域、季節、時間、人種を選ぶことなく人々を翻弄し続けています』

 

 何度聴いてもくらくらするニュース内容に渋い顔を作った。車載テレビから流れる映像はあまりにもばかばかしくて付き合っていられないのだ。

 それが今現実として横たわっている真実だとしても。

 

『各国の首脳陣は、これらに対抗するため神学者や宗教組織などの神話・伝承分野に関するインテリジェンス層を集め対策を協議しています。

 各地に現れる"神"となる超常的な力をもう彼らは、何らかの理由で神話から抜け出して来たのではないか? と推論が立てられており、日本の"朝廷に従わない神"を意味する()()()()()()と今後呼称することが決定しました』

 

 呼び方など定めても彼らの存在を強固にするだけだろうに。噛み締める肉のなかに苦いものが混じった気がした。

 

『アヴァターラ現象が、いつ、どこで、なぜ、発生するのか未だに解明されていません。我々にとって被害や悲劇だけでなく恩恵や奇跡も与えてくれるこの現象ですが、注意と警戒は必要です。

 なるべく屋外での活動を控え、不審なものには触らない・関わらないよう自衛をお願いします。繰り返します。放送をお聴きの皆様はどうか冷静な……』

 

「妙な世の中になったもんだ」

 

「…………」

 

「お前さんは見たかい? まあ旅してんだから見てるか。今日の朝だってでっけえ翼の生えた犬と戦闘機がドッグファイトしてんだぜ? 夢見てるみたいだ」

 

「……すまない」

 

「はん。なんでお前さんが謝るんだ?」

 

 さあな、と返しつつオヤジとの会話を打ち切ってアララト山へ視線を戻した。

 

 若干気疲れしたからだろうか──金色の布地が視界をかすめた気がした。反射的に視線が金を追い、違和感。

 

 長旅でサングラスを掛けうようになったのは何時からだったか。

 荒野や砂漠地帯を歩くと日光が反射して、目を傷めてしまうのだ。

 

 そう、サングラスを掛けているから光り物には鈍感なはずだ──()()()()()

 

 喉を焼くような焦りが生まれた。

 

 気がつけば椅子を蹴っ飛ばして立ち上がり、オヤジに問いかけていた。問いかけてしまった。

 

「おい! 最近ここらでなにか妙な噂が流れてないか!?」

 

 オヤジは綉の怒声にもとれる質問に、営業スマイルをシニカルな笑みに変え、「噂だって? そりゃ妙な噂なら腐るほど流れているさ」とでっぷりとした腹を揺らし、「あーでもな」と記憶を探るように空を仰いだ。

 

 そして。

 

「今朝だってふたつ隣のばあちゃんが金色の光を見たって騒いでてよぅ。もしかしたら本物の金かもしれないって……ほら、今でも探してんじゃねぇか」

 

 オヤジの指差す方向には、何かを探している人間がたむろしていた。

 

 焦燥が、唾を嚥下させた。

 

 探しているのだ。どこかに金があると信じて。金はここにあると()()して。

 

「金、だと……まずっ」

 

 ばちん! 

 落雷じみた衝撃が周囲に殺到し、キッチンカーも、椅子も、人も、綉も、あたりに転がった。脳が揺れて混濁するが、ふらついている余裕はない。

 

 金は古来から儀式や宝飾として扱われてきた神聖無比の金属だ。太陽、不老不死、美の象徴として、あるいは神を箔付ける装飾としてあらゆる神話体系において相当な地位を獲得してきた。

 

 それを呼び水に"現れた者"など絶対にろくな奴ではない。

 

「あの阿呆がぁ。肝心な時に……!」

 

 ここにいない主役に悪態を吐く。

 衝撃波の中心地。落雷かと見紛う現象を引き起こしたのは──金色だった。金の装飾と、金の衣を(まと)った浅黒い肌の男だった。

 

 人の姿を取りながらも人では無い。生物でも無い。地上を生きるものたちとは根源から違う空想の産物──"神"に連なる者。

 

「मा……」

 

 金色が何かを口から発した。声ではない。声に満たない喉の震えが、奇っ怪な音を繰り出す。

 それだけで人間という種族は腰砕けになり、祈りを捧げる以外の選択肢を失った。

 

「मा……र…………!」

 

 そして祈りを捧げる相手は誰だ。隣で震える同胞(どうほう)か? 己が信じる神か? 否だ。信じるのは目の前にいる現実であり、奉じるのは恐怖を撒き散らす金色。

 人の信仰によって現れたまつろわぬ者は、ただ在るだけで矮小な人間にストレスを与えさせ、祈りを誘う。そして捧げられた祈りを総取りし(むさぼ)り喰らうのだ。

 

 どうか殺さないで。純粋無垢な祈りを。

 

 BAN! BAN! BAN! 

 発砲音。3度の銃声が静寂を打ち破った。正確に撃ち放たれた弾丸は、逸れることなく金色の頭部へ直撃した。だがそれだけ。皮膚が破けるどころか、痛みすら生じていない。

 火薬で打ち出された鉄の塊など、神話から抜け出してきた彼らにとって蚊の針にすら劣るのだ。

 役目を終えたベレッタと呼ばれる銃をふところに戻しつつ綉は叫んだ。

 

「ここだ金色野郎!」

 

 もとより銃なんて効くと思っちゃいない。気を引く役目を終えたら全力疾走。銃を握ってても走りにくいだけだ。

 

(あそこにいても力を蓄えさせるだけ。引き離すしかねぇ……だから、追ってこい!)

 

 繁華街の脇道を抜けて、落書きだらけの外壁が並ぶ迷路を駆け抜ける。旅慣れているから走力や体力でそこらの現代人に負ける気はしないが、息は上がる。奴の気配は後ろに感じつづけている。ここからどう巻き返すか、思考とともに──集中が乱れたのは同時だった。

 

「っ!」

 

 視界の側面に、金色の閃光が見えた気がした。身をかがめて地面にダイブすると、頭上を何かが駆け抜けて行った。

 

 ラクガキだらけだったコンクリートの外壁が真一文字に切り裂かれた。人の所業では無い。冷や汗とともに立ち上がれば、金色のヒトガタがこちらを睥睨(へいげい)していた。

 

 立派な顎髭をたくわえ、金色の衣装を身に纏う姿は、スラムじみた場所でも隠し切れない王気を感じずにはいらなかった。

 

「न……र……!!!!!」

 

 唸り声とともに湾曲した片刃剣(シミター)を掲げ、袈裟斬りにすべく雷火の鋭さで振り下ろし──

 

「──()()()()()

 

 第三者の声。金色でも、綉でもない、年若い声。

 金色は初めて表情を崩し、そして綉は呆れと怒りの入り交じった安堵の表情を浮かべた。

 

「遅せぇ。ったく……こっから帳尻合わせろよ」

 

 ため息とともに叱咤の言葉を投げかける。

 だがもう心配はないだろう。なぜなら彼は覇者であり王者。どんなに追い詰められようとも最後には必ず帳尻を合わせる……無間地獄の底に落としても尚足りぬ大罪人。

 

「おうよ!」

 

 人は呼ぶ。愚者エピメテウスの落し子であると。

 

 人は嘆く。神を恐れぬ羅刹の魔王であると。

 

 人は託す。人類最後の希望(エルピス)であると。

 

 人でありながら神の弑逆(しいぎゃく)を為し、神聖不可侵を犯し抜いた神話のアンタッチャブル。

 

 

「──木下祐一(きのしたゆういち)、ここに見参! 武芸は流流、我が勝利を御覧じろってなァ!」

 

 

 カンピオーネなのだから。

 

【その筋肉】新米魔王くんを監視するスレ19【誉高い】

 

 

 現在進行形で脳内に垂れ流されてるカンピオーネっぽい少年(以後:ガンボール スニーク氏命名)の実況スレです。

 

 注意書き:

 ・電波を受信してこの板を見つけたら必ず書き込んでください。

 ・詳しい話は雑談スレで。スレ民は誘導してあげてください。

 ・荒らしはスルー推奨

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 前スレ:【アルメニアに】新米魔王くんを監視するスレ18【アルメニア?】 http://××××

 

 

 

 

10:名無しの視姦魔人ID:6XUSkBLNI

 

 

11:名無しの視姦魔人ID:7USRTI7qQ

 シャレにならんからやめろ!!! 

 

12:名無しの視姦魔人ID:TIKCwl8D9

 エレバンは権能のなん本目の死ぬかな〜〜〜〜〜〜

 

13:名無しの視姦魔人ID:r8K1eZVW5

 いうてカンピオーネって人間の延長じゃん。ここでよく言われてる即都市消滅、みたいなシナリオがあり得るの?元は人間だろ?

 

14:名無しの視姦魔人ID:r8K1eZVW5

 普通にあるよ

 

16:名無しの視姦魔人 ID:TIKCwl8D9

 あんのかよ

 

17:名無しの視姦魔人ID:9Azc5i8EZ

 まあ欧州圏以外に住んでたり非カンピ国の人たちだったら無理ないけど、なんとなく彼らがやらかしたんだろうな~ってのは察する。直近の事件だとパレルモの一件が怪しいかな

 

18:名無しの視姦魔人 ID:TQJhmoRlr

 どこそこ

 

19:名無しの視姦魔人 ID:sSDJ8ZiYq

 ggrks

 

20:名無しの視姦魔人 ID:73oT3nMsZ

 ああ……パレルモ湾の事件ね。政府発表じゃ嵐のせいにしてるけど、建物や木々が食い荒らされてる箇所が無数にあったり桟橋がドロドロに溶けてたり不可解な点が多すぎるもんな……

 

23:名無しの視姦魔人 ID:IeoL+T9or

 そういやパレモルと地縁のある『パノルモス』のボスが重症負ったってサロンで小耳に挟んだ希ガス

 

25:名無しの視姦魔人 ID:TIKCwl8D9

 あ!思い、、、出した!!! 

 その日は嵐と太陽とイナゴの大群で終末みたいな天気だった!!!

 

 なんで忘れたんだろ?????? 

 

27:名無しの視姦魔人 ID:qiZDdf24C

 たぶん隠蔽のために記憶消されてたんじゃね。基本こっちの事は秘匿が鉄則だし

 

30:名無しの視姦魔人 ID:MxgqX5N6l

 日本でいう『名伏せ』だな。欧州は頻繁に事件が起きるし、使い手も限られてるから間に合ってないって話だ。少ない枠に入れて良かったじゃん。

 

33:名無しの視姦魔人 ID:TIKCwl8D9

 よかねーんだわ

 

36:名無しの視姦魔人 ID:g0PX+Y4AI

 でもパレルモの事件がカンピオーネの起こした事件って決まった訳じゃないだろ。まつろわぬ神同士の諍いかもしれないし

 

38:名無しの視姦魔人 ID:V4GvKifjq

 十中八九間違いないと思う。前も話題に出たろ? 新しいカンピオーネがローマで噂になってるって

 

40:名無しの視姦魔人 ID:hftwXnV7P

 火のないところに煙は立たない、かァ……

 

42:名無しの視姦魔人 ID:p9gpqEiJp

 で、話戻すけどガンボールニキが戦ってエレバン無事で済むと思うか? 

 

44:名無しの視姦魔人 ID:uwnj63kDk

 まあ半分残れば頑張った方でしょ

 

46:名無しの視姦魔人 ID:IOmJO7pw3

 わいクリスチャン、チラチラ見える聖地アララト山に被害が出ないよう神に祈りを捧げ許しを乞う

 

47:名無しの視姦魔人 ID:1Lte6b9WL

 信用なさすぎる

 

50:名無しの視姦魔人 ID:Ahxn5jprc

 カンピオーネだもん……

 

52:名無しの視姦魔人 ID:enkr8RD59

 でもニキの権能にj.p.sの魔弾みたいに広範囲をかっ飛ばす権能なんてなかったろ? いけるいける

 

55:名無しの視姦魔人 

 そういや今まで拳のワンパンで沈めて来たな。まあ神獣クラスで弱かったのもあるけど

 

56:名無しの視姦魔人 ID:G38RWc7aZ

 ん? 今気づいたけどニキ、市街戦ってこれがはじめて? 

 

57:名無しの視姦魔人 ID:YQg1jjGR4

 そうだっけ……? 

 

58:名無しの視姦魔人 ID:SD7hR4r+x

 基本人里離れた山やら荒野だったからなーこれまでの活動範囲。カンピオーネになったのも海の上だったし

 

59:名無しの視姦魔人 ID:XH9G1PqHi

 はえー……じゃあ、ちょっとは遠慮するかも……ってコト? 

 

60:名無しの視姦魔人ID:wDmVKU1pD

 ……いや…………

 

61:名無しの視姦魔人 ID:Rd/qh1Qod

 深謀とか遠慮とかできる人間ならカンピオーネになってないから……

 

62:名無しの視姦魔人 ID:f8DhjqfIY

 辛抱だけに? 

 

64:名無しの視姦魔人 ID:jXs4PMejY

 はいはい。で、状況はどうです? 

 

65:名無しの視姦魔人 ID:qZ+l+CsnW

 >>64 まだ倒せてない

 

67:名無しの視姦魔人 ID:xgejFmmUa

 というか攻めあぐねてるな

 

68:名無しの視姦魔人 ID:wuW+xrr8O

 やっぱり相手がまつろわぬ神で同格以上ってことになるとカンピオーネでも厳しいか

 

69:名無しの視姦魔人 ID:iHnReXD7H

 んにゃ、そういうことやない

 

72:名無しの視姦魔人 ID:fH7USIQJa

 おいおいおいこれ攻撃まったく効いてないな

 

73:名無しの視姦魔人 ID:AdAuzynP9

 は? どういうこと? 

 

74:名無しの視姦魔人 ID:L3ql2/zDw

 戦闘開始からずっと見てたが単純に攻撃が通らない感じだ。防御力が高いとか受け流してるとかじゃなくて単純に効果がない

 

75:名無しの視姦魔人 ID:Z500RpkFt

 見ろ、今ガンボールニキがヤクザキックしたけど微動だにしてねぇ

 

77:名無しの視姦魔人 ID:rlAtl3dBR

 マジだ……

 

78:名無しの視姦魔人ID:5kTLTJSSJ

 見ろ、今ガンボールニキがジャーマンスープレックスしたけど呻き声すらあげねぇ

 

80:名無しの視姦魔人 ID:+kZmL+HTt

 マジだ……

 

81:名無しの視姦魔人ID:ID:f/dHE/RhS

 見ろ、今ガンボールニキがロメロ・スペシャルしたけど奴さんめちゃくちゃびっくりしてるな……

 

82:名無しの視姦魔人 ID:H5OhtFSsG

 マジだ……

 

3:名無しの視姦魔人 ID:WPK7vaIgG

 ねぇニキは何してるの??? 

 

84:名無しの視姦魔人 ID:F2OgHlOlQ

 あ、足払いは決まるのな

 

86:名無しの視姦魔人ID:b9jpFMkaq

 みたいだな

 

87:名無しの視姦魔人 ID:9Adq/b/tU

 見事な空中トリプルアクセル……10点……

 

85:名無しの視姦魔人 ID:1878BQUXi

 うおっ、電柱でぶん殴った

 

86:名無しの視姦魔人 ID:GUhSMWwUI

 ひぇぇ電線バチバチさせながらアーク溶接してるぅぅ

 

87:名無しの視姦魔人 ID:9Qb+Hgpec

 うわ、今度は電線で手足縛って川に沈めた。えっぐ

 

88:名無しの視姦魔人 ID:NclBn+vdI

 流石に引くわ

 

89:名無しの視姦魔人 ID:RysJxtMMM

 これでも効果ないんか……

 

90:名無しの視姦魔人 ID:YSdJRigF+

 まとめよう。

 

 ・外見は、浅黒い肌で筋骨隆々とした髭の似合うイケおじ (顔立ちはアーリア系か?)

 

 ・服装は金衣

 

 ・武器はシミター (ざっくりトルコ・インド・ペルシャで使われてそう?)

 

 ・攻撃が効かない。なので死なない

 

 ・スペック的にはおそらく弱い部類 (少なくともまつろわぬ神に及ばず、ガンボール氏なら楽に快勝できる)

 

 なんだこいつ??? 

 

91:名無しの視姦魔人 ID:gXRK5itB3

 見る限りじゃあきらかにガンボールくんの攻め手に対応出来てないよね。力量差は圧倒的なのに攻撃がまったく意味をなさないだけで生き残ってら

 

92:名無しの視姦魔人 ID:SSpSzSi7h

 たぶんいいとこ神獣か神使クラスじゃね? 

 

93:名無しの視姦魔人 ID:Tg7Kjh9b0

 うーん もしかして倒す条件でもあるのか? 

 

94:名無しの視姦魔人 ID:6sHmzbHSV

 ありそう。ここまで異常だと

 

96:名無しの視姦魔人 ID:1f+FDID8h

【急募】アルメニアで無敵の神

 

98:名無しの視姦魔人 ID:VSe2aMkfJ

 悪いけどアルメニアの伝承神話まったく知らないねぇ!!!!!! 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

「んー……? なんだこいつ?」

 

 祐一は疑問とともに頭をかいた。

 目の前に立つ名前も分からない正体不明の敵だが、攻略の糸口は見つけられていなかった。

 

「殴ってもダメ」

 

 衝撃によって金の装飾が乱れ飛ぶ。だがそれだけだ。

 

「武器もダメ」

 

 蹴っとばした石が金糸の衣を切り裂く。だがそれだけだ。

 

「腕、足、頭、腹、背中、くるぶし……もダメか」

 

 全身を瓦礫で叩きつけても傷ついた様子はない。

 

「水に電気もダメかー……ふんふんふん。倒し方さーーっぱりわかんねぇな!」

 

 そこそこカッコつけて登場したのでスパッと倒せないのはかっこ悪いなーと笑いながら動きは止めない。

 

 跳躍。跳躍。刺突。離脱。ふたたび跳躍。音速に達するかという(はや)さ。

 生身で到達不可能な速度で走り回り、地上に現れた彗星のようであった。

 

 

 ──では彗星の暴威(ぼうい)を何食わぬ顔で受け止める者はなんなのか? 

 

 不遜であった。

 羅刹(ラークシャサ)と畏れられる戦士の猛撃を毛ほども意に介していない。

 

 確かに金衣の(いわお)のような男は筋骨隆々としている。筋力は祐一よ力比べずをせずとも勝敗は明らかだ。

 皮の袋にありったけ筋肉を詰め込んだ偉容は、王者に近く、そして想像を絶する修行をおさめた修験者じみていた。

 魔王(カンピオーネ)という王の称号を得た祐一に決して見劣りはしない。

 

 だが総合値では、すべて劣っている。それも圧倒的に。

 

「へえ……」

 

 おもしろそうに呟いた。

 戦士の嗅覚というやつだろう、祐一はとっくの昔にコイツが弱いと感づいていた。

 だからこそ、()()なのだ。

 

 瞬殺できるだろうと断じていた。

 ワンパンで木っ端微塵にできるという自信があった。

 

 そもそもだ。

 人間が数人、ここに金があるかも! などという想念で生まれたものなど強いわけが無い。

 狂気的に単一の神を信仰し招来(しょうらい)を望む司祭や、何百、何千もの清らかな乙女でもいれば話は違っただろうが。

 

 あったのは想念なのだ。執念ですらない。

 

 想いがない。重みが足りない。厚みが足りない。歴史が足りない。1日2日で消え去るはかない思考だ。

 

 そこから生まれた存在など──

 

 

 ──でも殺せなかった。

 

 それが事実。どんなカラクリがあるかは知らないが、コイツは認めるに足る価値がある。大脳皮質のなかに墓碑銘を刻む余地がある。

 自然と口が弧をえがいて、高揚が心を揺らした。

 

「なら……やるか」

 

 なんの前触れもなく噴火が起きた。

 火山の噴火かと見まがう呪力の励起であった。

 

 彼は行使しようというのだ。カンピオーネが保持する最も強力な武器。弑逆したまつろわぬ神より簒奪した力。権能を。

 

 ──BAN! 

 

 しかし祐一の権能はひとつの音によって遮られた。

 後方から飛んでくるものを察知してヒョイっと避けるが……カンピオーネだから避けられたがカンピオーネじゃなかったら死んでいた。

 

 弾丸であった。

 

「街中で権能を使うなバカッ!」

 

「ッざっけんな綉! だからって相棒に発砲するやつがあるかッ!?」

 

「テメェは銃じゃ死なねーし、銃より危険だろーがッ」

 

「え、あ、まあ、そーだけどよ……」

 

 なんとなく気勢を削がれしょぼんと肩を落とす。

 戦場だと忘れ去ったようなやり取りで、明確に見せた隙を金色は見逃さなかった。祐一にはなく、綉へ向けて"シミター"と分類される剣を力任せに切り上げる。

 

「नर!」

 

「綉!」

 

 棒立ちになった綉を軽捷な猿の動作で回収し、地面を転がる。鋭い旋風が頭上を駆けぬけていく。しかし予想された追撃は来なまった。

 見上げればさっきまでいた場所に、金色はいなかった。

 

「逃げた……みたいだな」

 

 不完全燃焼という面持ちでつぶやき、自分と綉が無傷で済んだことを確認する。

 

「すまない、助かった」

 

 サングラスをかけ直しながら綉が礼を言った。

 

「いいさ、俺も止めて貰ったしな」

 

 祐一が肩をすくめ、うなづいた綉は、瓦礫の散乱した地帯に歩き出した。置いていかれそうになって並んで歩く。

 綉がポツリと零した。

 

「ツケ返されたな」

 

「ツケ? なんかお前にツケあったっけ」

 

「お前を追いかけて600km移動させられたツケだよ」

 

「ああ……。はい……」

 

 600kmの大移動をした祐一だが理由はとくになかった。なんとなくアララト山がとある場所の山に似ていて確かめたかったのだ。

 

 まあエレバンから眺めて違うと察したが。

 

「それより……見ろ祐一、金色が剣で斬った場所だ」

 

 綉が真っ二つに裂かれたコンクリート壁の前で膝をついた。金色のシミターによる切断面が19メートルは続いている。明らかに尋常ではない。

 

「ん、断面が荒いな。力負けに叩き切ってる風だし技量はそれほどじゃねえよやっぱ」

 

 しかし尋常ではないといっても祐一には当てはまらないらしい。人智を超えた所業にすらケチをつけはじめた。

 そんな祐一に苦笑しつつ、綉は拳を掲げた。

 

「そうじゃなくて……」

 

 ガツン! と壁を叩けばコンクリートは砕け、パラパラと破片が飛び散った。

 

「なんだこりゃ……」

 

「まつろわぬ神ってのはただそこにいるだけで周囲に影響を及ぼすってのは知ってるよな? つまりそういうことだろ」

 

 コンクリートの中身は金で埋め尽くされていた。いや、その表現は正しくない。コンクリートが金へと変貌しているのだ。

 

 まつろわぬ神とは正真正銘の神だ。そして神は否が応でも周囲に影響を与えずにはいられない。

 法の神ならば天罰が降りかかり、火の神なら気温が上昇し噴火が起きると言ったふうに。

 金によってあらわれ、金に由来するというのなら、周囲の物質を金に変えてもおかしくはない。

 

「なんかこういう神話あったなぁ……ミ、ミ……メ?メ、ダル王……だっけ」

 

「もしかしてミダスか? まあそれに近いな」

 

「じゃああの金色はミダス王だったりするのか?」

 

 そんな質問に綉は、人中に指を当てながら中空を見上げた。

 

「さあな、だが違うんじゃないか? 伝承を信じればミダス王だったら触れた時点で金に早変わりだ。こんなじわじわと変わらないだろ。それに……あの鉄壁具合も説明がつかないしな」

 

 鉄壁。まさに金色の守りは常軌を逸していた。

 権能は結局試せなかったとはいえカンピオーネという魔獣から無傷で済んだ時点で相当だ。

 そして金色自体のスペックは神獣程度でしかないのだから異様さに拍車がかかる。

 そんな埒外の守り、神話に由来するものしか知らない。そしてミダス王にそんな神話はなかった。

 

「ふぅん。しっかし、敵は倒せねぇってのにそこら中、金に変わるってのはちょっとマズイかな」

 

「ああ。今はまだコンクリートですんでるが……ミダス・タッチよろしくパンや肉まで金に変わったら一大事だ。あと何日も放置すれば黄金都市エレバンの誕生だろうな」

 

「で、どーするんだ」

 

 祐一の思考を放棄した言葉に呆れつつ、綉はふところから1枚の紙を取り出した。

 文字と図形の描かれたその長方形の紙は、綉が息を吹きかけると同時に、文字が揺れ動き図形に変化が生じた。

 "七艮"。八卦と呼ばれる図形に描かれた象徴のひとつだった。

 

「北西の方角にあの金色はいるみたいだ。あいつを引っ張って人気のない場所にいこう」

 

「引っ張ってって……誰が?」

 

「お前以外いねぇだろ」

 

「かーっ無茶言うぜ!」

 

「俺は移動手段確保してくるから、よろしく頼むぜ神殺し殿」

 

「……ったく……」

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

「さっきのあんちゃんか! 無事だったんだな!」

 

 コンクリートの路地を走り抜け、繁華街にまで戻るとキッチンカーのオヤジが迎えてくれた。

 辺りには金色の顕現による被害が色濃く残っていて放心したままの人間や、血を流して呻吟(しんぎん)する者、暴れて落ち着かない犬など、日常に戻るまでまだまだ時間が必要そうだ。

 手を貸したいところだが今は構っている暇はない。屋台のオヤジに背中をバシバシ叩かれながら無事なことをアピールする。

 

「さっきの怪物はいったいどうなったんだ? どこか、行ったのか?」

 

「すまない。今はそれどころじゃなくてな……オヤジ、このキッチンカーを()()()()()?」

 

「なんだって?」

 

 正気を疑うような目を向けられたがこっちは本気だ。

 

「もちろん、タダでとは言わない」

 

 綉はそう言うとバッグの中から大量の金を見せた。オヤジの喉が鳴る。

 先ほど金に変わったらコンクリートをバッグに詰めて来たのだ。まあ、あの金色が死んだ時点で消えるもしれないが……今は真実なんてどうでもいい。

 どうせすぐにこの街からおさらばするのだ。

 相手が車を借すのに納得するだけの見せ札がありさえすればいい。

 

 スニーク(コソ泥)を名乗っているのは伊達じゃない。

 

(かね)はないが、さっき拾った(きん)がある。コイツで譲っちゃくれないか?」

 

 欲の色が走ったのを見逃さなかった。交渉は成立……とは問屋が下ろさなかった。

 

「だけどなぁ、ひっくり返ったままだぜ」

 

 気まずそうにオヤジが指差した先には見事なまでに真反対にひっくり返って仰向けになったワーゲンバスがあった。

 販売していた肉串や、それを包む生地だろうか。キッチンカーの内容物があたりに散乱している。

 これを元に戻すのは一苦労だろう。

 

「大丈夫、これくらいならどうにかなる」

 

 だが綉はなんてことないようにいった。

 そうしてワーゲンバスの形によく似た細長い石をどこからか拾ってきておもむろにワーゲンバスのそばに置いた。

 傍から見ると、実物と縮図を対比させるような構図だった。

 

「────」

 

 綉は石の前で膝まづくと何事かつぶやき、ゆっくりとひっくり返した。

 そして呼応するようにワーゲンバスも、石と同じ動作と速度で持ち上がっていく。明らかに人智を超えた光景だった。

 

 1秒が1時間にも1日にも感じられる錯覚に陥りながら、ワーゲンバスは最後には両輪が地面についた。

 パクパクと口を開け閉めして驚愕するオヤジとは対照的に綉は無感動に言い放った。

 

「俺は呪い師なのさ」

 金色を追い地中の長いトンネルを抜けるとそこは黄金郷だった。

 

「なんでだよ」

 

 エレバンの路地で"あと何日も放置すれば黄金都市エレバンの誕生だろうな"などと会話していたのがちょうど2時間ほど前だ。

 

 あれから祐一は一生懸命紙に書いてある文字とにらめっこし、金色の居場所を探し、街を駆けずり回っていた。

 

 権能も使わずに。

 

 ちゃんとした道を。

 

 二つの足で。

 

 

 そう。木下祐一はわりとまともなカンピオーネなのだ……! 

 

 

 カンピオーネがまともとは? とかそういうツッコミはともかく彼自身自分が常識的なのは……他人からはともかく……自認していた。

 それにこれまで出会った同族と比較してもまともなのは確定的に明らかだった。

 

 ちょっとだけイラついて地面を蹴ったら、落とし穴よろしく立っていた場所が崩壊しはじめ地下空間に落っこちてしまったが、どうやら金色の本拠地に辿りついたので結果オーライである。

 

 

 しかし2時間。そう、金色が顕現してから120分ほどしか経っていないのである。

 

「展開がッ、早すぎるだろっ」

 

 地下の黄金郷は明らかに人工物であった。地上へ続く金のちりばめられたエスカレーターに金箔の浮いた噴水を見れば察するのは簡単だった。

 

 そして金色の案山子が散見できれば間違いようがなかった。

 

 祐一や綉の予想を倍する速度で金色はエレバンという都市を染め上げていた。

 

「こりゃあさっさと金色を街から叩き出さなきゃマズイな……」

 

 二の腕に幾重にも巻いた、赤い布を握りしめる。

 

「すまん綉、ちょっとだけ使()()()

 

 瞬間、雰囲気が一変した。姿かたちに一切変化は見られないものの、彼の足はたしかに別物へと変わった。

 

 端的に言うなれば、足から、脚へと。

 

「──我は日輪の運び手」

 

 地面への着地と同時に呪力の旋風をまき散らしながら、祐一は黄金郷へ蹴りを叩き込んだ。

 落下の勢いをも上乗せした蹴りは小規模な天災に等しい。エレバンの人々は当然の地震に騒然となり、キッチンカーに乗り込みところだった綉は多くを察してため息をついた。

 

「お、()っけ」

 

 人工物の多くが破壊され見渡しやすくなった地下空間で、黄金郷の主を見つけるのは簡単だった。

 中心部。強壮なりし金の巨漢はそこに居た。

 

 脚となった後肢を突き出す。

 ゆるやかで緩慢。単純でわかりやすい。そんな動作だが祐一のそれは攻撃の前準備だ。

 

 踏み出し、駆け抜ける。

 

 たったそれだけの挙動で黄金郷は跡形もなく瓦解した。巨大な蹄がいくつも大地に刻まれ、先ほどまでの煌びやかは消滅した。

 

「チッ、不死身……いや無敵の護りは健在か」

 

 しかし。

 それでも健在。敵手たる金色は痛痒にも介していなかった。

 権能だ。フルアクセルとは程遠い規模。大樹の広げる枝葉の一枚程度、とはいえ権能だったのだ。

 神殺したる暴君を暴君たらしめる力の象徴。曲者揃いのまつろわぬ神々と渡り合う武器。

 その権能ですら殺傷できなかった。

 

 既にいくつも手札を切らされているのに、それでも傷を付けられるビジョンも浮かばない。

 

 綉には連れてこいと言われたが……。さしもの祐一も目を(すが)めて厳しい視線を送った。

 

 傷が与えられないのでは敵に痛みすら感じさせることができない。生を害する脅威にすらなりえないと言っているようなものだ。

 

 無害なモルモットがじゃれて来るのと同じだ。追い立てるなんて夢のまた夢だ。

 

 望んで成った訳ではない。とはいえ神殺しとしてそれなりのプライドはある。忸怩たる思いが舌打ちを生んだ。

 

「いけね。焦りは禁物だったな」

 

 ふう、と頭をかいて深呼吸をひとつ。

 決断に迷いがないのは美点だがせっかちすぎるのは欠点だと、以前指弾を言われたのを思い出す。

 

 小さく笑んで肺腑を呼気で満たす。

 人にとって最も必要な動作とはなんだろうか。

 考えるまでもなく呼吸だ。生命活動の基礎の基礎であり、呼吸とはただそれだけで生を確かなものとした。

 生存の保証は安心を生み、安心は広い視野を取り戻させてくれる。

 

 祐一という戦士は"呼吸"こそ生の象徴と考え、重視している節があった。

 呼吸できなくなれば死ぬ以外ないのだからそれも当然ではあるが。

 

 ともあれ普段に限りなく近いメンタルに戻った祐一は周囲を見渡し──崩壊した黄金郷の片隅で、うごめく人影が見えた。

 

 いや、人ではない。

 人であれば金に染め上げられた身体で動けるはずもない。跳躍して近づくが特に危害を加えてくる気配もない。

 

「なんだこいつ……」

 

 身長はおおよそ郵便ポストくらいだろうか。ちょうど祐一の肩に頭のてっぺんがくる大きさだ。その上、どうやら生き物らしい。肌は金そのものだが生命の躍動が感じ取れる。

 

 一番注目すべきは顔だ。よくよく見れば顔立ちがあの金色とよく似ている気がした。

 

 似てる、のか。祐一はなんとなく独り言ちた。

 

「………………」

 

 そしてなんとなく、本当になんとなく、祐一は脚をそいつへ向けた。

 

 するとどうした事か? 今まで不動を貫いていた金色がこちらを向いた。

 

 

「……………………………………」

 

 

 脚を突き出す。こちらを向いた。

 

 

 脚を戻す。元に戻った。

 

 

「……………………………………」

 

 

 脚を突き出す。こちらを向いた。

 

 

 脚を戻す。元に戻った。

 

 

「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん……」

 

 

 そうなんだ、神すら殺めた大罪人の祐一(魔王)はニヤ〜〜〜と笑った。

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

【無敵?】新米魔王くんを監視するスレ24【完璧?】

 

 

 現在進行形で脳内に垂れ流されてるカンピオーネっぽい少年(以後:ガンボール スニーク氏命名)の実況スレです。

 

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 前スレ:【迫真の】新米魔王くんを監視するスレ23【失楽園】 http://××××

 

 

 

88:名無しの視姦魔人 ID:EEUUvvYNU

 あばばばばば視界が揺れゆれユレ……

 

90:名無しの視姦魔人 ID:bBiTWEWcj

 意味わからん速度で意味わからん挙動すな

 

95:名無しの視姦魔人 ID:fkH3FDL+O

 真面目に動体視力どうなってるんだろ。アメリカ空軍のエースパイロットでも無理だろこんなん

 

99:名無しの視姦魔人 ID:ZI87U8ZMM

 視界共有してるからしゃーないけど、目の前で高速戦闘やられたりスナッフフィルム並のスプラッタ見せられるの流石にキッツいな

 

101:名無しの視姦魔人 ID:SGd/mcgnz

 俯瞰視点機能実装して欲しいよなー

 

105:名無しの視姦魔人 ID:mJS7Xmg88

 >>99

 >>101

 

 お、新参か? 念じれば俯瞰視点できるで

 

109:名無しの視姦魔人 ID:SGd/mcgnz

 マジかよ!w  マジだった

 

112:名無しの視姦魔人 ID:c9C4JkIhB

 それより考察班は相手の神(?)特定出来たん? 

 

115:名無しの視姦魔人 ID:75EWa31S3

 >>112 まだ

 情報少なすぎ&候補が多すぎて特定出来てない。あと10年はかかりそう

 

119:名無しの視姦魔人 ID:ahbKX3ACJ

 言うて特徴と言えば浅黒い肌だろ、ご立派な髭、湾刀、金色の衣装とアクセサリー、極めつけはあたおかな防御力だな。

 うん、わからん。

 

124:名無しの視姦魔人 ID:0fVFsf8ux

 ガンスニコンビがいるのアルメニアだよな。まつろわぬ神の降臨する原則っていえば縁のある場所にあらわれるって奴だろ? アルメニアの神話からあたればええんとちゃうのん

 

125:名無しの視姦魔人 ID:YHu8oNQjm

 まあ地縁のあるまつろわぬ神ってのが定説ではあるけど……。賢人議会が発行してるカンピオーネの活動記録見てもその傾向が強いし……(クレタ島のまつろわぬミノスとか)

 

129:名無しの視姦魔人 ID:HVBQnkL2n

 んー。アルメニアで強壮な王の姿で不死性もってくればパッと思いつくのは美麗王アラか? たしか黄泉がえりの逸話もあったよな。それがあの無敵につながるかは知らんけどな

 

133:名無しの視姦魔人 ID:MqU5Or7X0

 それは俺も思った。でもなんか違ってそうなんだよなー

 

137:名無しの視姦魔人 ID:YFoEPRY8I

 お、霊視降りた? 

 

140:名無しの視姦魔人 ID:NSQbf67rP

 霊視はそんな便利なもんじゃないと何度言えば(ry

 

145:名無しの視姦魔人 ID:xDiKAJ2Ka

 スレの住民はけっこう人数いるし、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるで誰か降りても良さげだけどなぁ

 

147:名無しの視姦魔人 ID:mNPJzP1mI

 霊視は望んで得られるものではありません定期。ただでさえ男やもめのスレなんだから確率下げんなよ

 

148:sneak ID:mAhiwAsh

 当たるも八卦、当たらぬも八卦の霊視とはいえ、こうも特定できないともどかしいな…… 

 

152:名無しの視姦魔人 ID:LqCztwfaA

 スニ上! スニ上じゃないか! 車は調達出来た? 

 

153:sneak ID:mAhiwAsh

 ああ、ワーゲンのキッチンカー買い取った。今あいつが金色引き連れてくるはずだからそれまで車走らせながら待機

 

158:名無しの視姦魔人 ID:cTZfxvDBP

 キッチンカーwww

 

160:名無しの視姦魔人 ID:5FOg7lXIt

 ガンボールニキ単独行動か…… 。戦闘続行:A+で単独行動:E-のガンボールニキが、、、

 

161:名無しの視姦魔人 ID:ahbK83ACJ

 やめたれ

 

162:名無しの視姦魔人 ID:BTGYdMU48

 >>153 それよりスニーク氏はあの金色について何か手がかりない? 正体探ってるけどまったくわからん。

 

167:sneak ID:mAhiwAsh

 俺が知ってるのは()()で降臨したってことだな。金を探してた人間たちの思い込み……信仰だな。で、顕身したように見えた

 

172:名無しの視姦魔人 ID:i6GWFb7Lq

 黄金? 

 

174:名無しの視姦魔人 ID:EZHNaj5JM

 また難儀な……

 

179:名無しの視姦魔人 ID:QYMbWNtea

 うーん。金に関わりのない神話や神様なんていないってくらいだし絞り込めないぞ

 

180:名無しの視姦魔人 ID:svzr5NZLN

 金で無敵でってカルナとかヒラニヤカシプがいるけど……でもインドだしなあ……。

 

184:名無しの視姦魔人 ID:OQDYQHbZG

 新要素から謎が増えるパターン草。どないせいちゅーねん

 

185:名無しの視姦魔人 ID:IIRim/aDT

 そもそもアルメニアっていう糞立地が悪りぃんだよ! 肥沃な三日月地帯の北にあるから紀元前から中東、ヨーロッパ、イランの交差点だし昔っから色んな民族が入り乱れて神話も入り乱れてるし!!! 

 

187:名無しの視姦魔人 ID:2ssPXgIEb

 というかコーカサス自体……

  

188:名無しの視姦魔人 ID:FpwrF+ccg

 現在じゃキリスト教国家ではあるけどそれ以前はゾロアスター教の神崇めてるしな。ローマ側って顔してるけど立地でいえば実際ペルシャ側だよ

 

189:名無しの視姦魔人 ID:ZVS8jzFeV

 あー、キリスト教の影響も強くて無視できないよな。エレバンの目の前に聖地アララト山あるし、アルメニア人たちが自分たちを「ハイ」って呼ぶのもノアの方舟で生き残った人物が祖先だかららしい。

 

194:名無しの視姦魔人 ID:lixgE6WEa

 スニーク~なんかもっと情報ないのかよ~

 

sneak ID:mAhiwAsh

 >>194

 そういや、あの金色「ナリ」って口走ってた気がする。何を意味するのかはわからなかったが

 

204:名無しの視姦魔人 ID:HYIN9AP1f

 ナリ……なり、ねぇ……。古エッダそんな名前があった気がする? くらい? 

 

206:名無しの視姦魔人 ID:oDLXE7fNY

 稲荷? 

 

208:名無しの視姦魔人 ID:3YqvlbkoS

 そういやキッチンカーで移動中してるんだっけ。ってことは戦場決めてんのか? 

 

211:sneak ID:mAhiwAsh

 >>107 かなり昔にローマに渡る旅で訪れた神殿がある。エレバンから東にあって、人も少ない谷だ。被害は少ないと思う

 

213:名無しの視姦魔人 ID:FLqouAySX

 神殿……おそらく歴史遺産……カンピオーネの戦いの規模は…………あっ

 

217:名無しの視姦魔人 ID:Hap2OjXQh

 見えましたね。未来が

 

219:名無しの視姦魔人 ID:vVGswRpHe

 これが……霊視、、、? 

 

220:sneak ID:mAhiwAsh

 やめてくれ。苦渋の決断なんだ……

 

224:名無しの視姦魔人 ID:mR7qtnrxo

 お疲れ様やで。投函でいいお酒送っておくね……

 

225:sneak ID:mAhiwAsh

 投函じゃ届かないとは思うが心遣いだけで嬉しい

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 ガタゴトと舗装された道をキッチンカーでひた走る。日本のように人通りの少ない山道でさえアスファルト舗装するような変態的な国は稀だ。

 

 首都に近く世界遺産に続く道だからか綺麗なものだが、少し外れれば地面をただ踏み固めただけの道などざらにある。

 

「景色ってのは変わるもんだな……」

 

 以前訪れた自然の有り様にそんな言葉を零しながら、ふところからライターと煙草を取り出して火を点ける。

 一息入れて紫煙をくゆらせたところでバックミラー越しにキラキラ光るものが見えた気がした。

 サングラスを取って目を凝らすと、金色を引き連れて全力疾走でやってくる祐一だった。

 

 ズダダダ──ーッとそのまま駆け寄って来た祐一は車体に取り付いて、ワーゲンバス特有の車窓のひとつから覗き込んで来た。

 

 バックミラー越しでは気づかなかったが、人一人なら楽に入れれそうな麻袋を抱えて。

 

「おっ! いい車手に入れたじゃん……てか、さっき俺が買い物したキッチンカーじゃねーか」

 

「金一封で譲ってくれたぜ。乗れよ、作戦会議だ」

 

「ちょっと待った。その前に……」

 

 言うと祐一はヒビの入りまくった窓ガラスを叩いて入口を確保すると"何か"を放った。

 

「うおおおおお!!???」

 

「っちょ、綉! ハンドル! ハンドル!」

 

 ドサ。と置かれた衝撃で麻袋が外れ、人間の顔が出てくれば誰だって驚く。

 あわや事故を寸でのところで回避し、綉は目を剥いた。

 

「なんだそいつは!? 拾ったのか!? 元のところに返してこい!」

 

「んにゃ、拉致った」

 

「なお悪いわボケェ!」

 

 祐一は怒声を笑って受け流しながらくるりと軽快な動作で入ってきた。

 

「まあ、そう怒んなって。あの金色を連れてこいってのが綉のオーダーだったろ? でもさ、あいつテコでも動かなくてさぁ」

 

「そりゃわかるが……。ならその小さい金色はなんなんだよ?」

 

「しらね。でも大事そうだったから麻袋に詰めたら追いかけて来たからそのまま連れてきた」

 

「……カンピオーネに新生したとき良識まで贄にしたのか?」

 

 普段通りのような会話をしながら祐一は車内を探索し、手に食料を大量に抱えながら助手席に腰を下ろした。

 そのまま靴を脱いで、ガタガタ揺れるダッシュボードに足を乗せてくつろぎはじめた。

 行儀が悪いと綉は睨みつつ、大した胆力だと呆れながらため息を吐いた。

 

 一応舗装されているとはいえ、最高速度で走っているから揺れは相当だ。その上で敵が間近にいるのだ。

 そんな劣悪な状況でも祐一は休息が取れる戦士だった。

 それもまた天賦の才に違いない。

 綉の胸中など知らぬとばかりに祐一は食べはじめ、凄まじい勢いで食料が減っていく。

 

「倒せそうか?」

 

 サイドミラーから見える追手は元気一杯だ。エレバンでは悠然と構えるばかりだったがその余裕はどこへやら、アクセルをベタ踏みしているワーゲンバスを猛然と追いかけている。

 

「いんや。まだ勝ち筋が見つかんねぇ」

 

「強い、わけじゃないんだろう?」

 

「雑魚だよ。なんならそこらの神獣より強いくらいさ。……ただ倒せねぇ」

 

 祐一から、ほれ、と肉串を差し出された。受け取ってほお張りつつ、先を促す。少し冷めてるがうまい。

 

「綉のことだからもう"見て"るんだろうが、どんなに攻撃しても傷一つ付かなかった。殴っても、引き裂いても、電柱で叩いても、水に沈めてもな。さっきまでで三十通りは試したぜ? でもダメだった」

 

「不死性ってやつか」

 

「つーより加護に近いと思う。直感だがありゃ最初っから持ってた権能……体質か? じゃねぇな。後から身についたもんだと思う」

 

「先天的じゃなく後天的な不死の身体、か」

 

 有名な逸話だとギリシャ神話に登場するアキレウスだろうか。生まれてすぐに冥府の川ステュクスにつけられ不死性を得たギリシャ最高峰の英雄。

 それ以外にもドイツ叙事詩のジークフリートやインド神話のカルナは有名どころだろう。英雄の敵となる怪物側にも、不死身という属性は事欠かない。

 だがどれも金色の追手には符号しなかった。

 

「正体不明か」

 

「毎度の事ながらなー」

 

 ケラケラと笑う相棒(サイドキック)にため息をはいて、気を取り直すようにサングラスを正した。

 

「だが不死身という手がかりはある。それに()()()()手合いはどこかに弱点があるはずだ」

 

 死なない生者がいないように死なない英雄もいない。倒されない怪物もいないのだ。

 人は勧善懲悪の物語を好む。貴種流離譚などそれを裏付ける好例だろう。

 確かに英雄が敵に討たれ非業の末路を遂げる物語は存在する。しかし偉業を為してこその英雄。一度ならずも(カオス)を倒し、平和(コスモス)をもたらすものだ。

 敵役が最初から最後まで跋扈しつづける物語など物語として破綻している。

 

「ねぇな」

 

 にべにもなく一刀両断した。

 

「ありゃ完全に無敵だな。物理的な手段じゃどうにも手応えがないし"脚"で踏み潰してもダメだったんだ。《(نیش)》も利く気がしねぇ、直感だがな」

 

 流石の俺もお手上げだね、と肩をすくめた。

 どうやら破綻している物語に迷い込んでしまったらしい。

 

「そっちこそなにか思いつかねーの」

 

「いま調べてもらってる」

 

「ああ、あの人達か。会ったことはないけど」

 

 それはそうだろう。脳内掲示板でしか交流がないのだから。

 だがそれが無責任ながら熱心にカンピオーネとまつろわぬ神という誰もが恐れる怪獣大決戦に手を貸してくれる潤滑油になってくれる。

 

「ん、追いつかれそうだな……。ちょっと相手して距離稼いでくる」

 

「気をつけていけよ」

 

「今更だろ。で、目的地は? 考えがあるんだろ?」

 

 ガタガタ揺れる中、まっすぐに前方を指差す。

 向かうのは先ほどまでいたアルメニア首都エレバンから東。人里離れたと評していい岩肌が目立つ大地に、三方を谷に囲まれた要塞神殿があった。

 

 "太陽と光の国"と呼ばれるアルメニアの地に根ざす、キリスト教伝来以前よりの古い神殿である。

 

「お前の稼いだ時間で人払いは済ませておく。あの谷を超えたところに見える太陽神を祀った神殿、あそこをリングにしよう」

 

 ヘレニズム期に古代ギリシア様式によって建立されたパンテオン(神殿)の名を──"ガルニ神殿"

 ──ガルニ神殿はとある太陽神を祀った神である。

 

 歴史は古く、紀元1世紀ごろに創設されたとされる。

 視線をぐるりと巡らせばヘレニズム様式……ざっくりいうとアテネのパルテノン神殿のような柱廊(ちゅうろう)がならぶ。

 外観は見事なものだが、内部は意外と……。

 

「んー。殺風景なもんだな」

 

 さらに付け加えれば長い歴史のなかで何度も倒壊しているので神殿は至る所に補修の跡やヒビが見受けられた。

 

「綉のやつ、なぁーんでこんな古びた場所を戦場にしようと思ったのやら」

 

 二手に別れた祐一は、時間差でガルニ神殿に到着していた。モゾモゾとうごめく麻袋を抱えながらの登場である。

 相方のすがたは見えないが考えがあるのだろう。現に周辺には人っ子ひとりいない。彼が有言実行した証左だった。

 

 普段ならきれいな景観と荘厳(そうごん)な神殿の雰囲気を堪能するのだが。

 

「…………中に入ってみるか」

 

 頭を掻きながらそこそこ高い石段を上がる。

 ガルニ神殿は大層な前評判の割りに、内部はこじんまりとしている。内陣(cella)と呼ばれる小さな祭壇があり、アルメニアがキリスト教化する以前はここから太陽神へ祈りをささげていたという。

 

 天井を見上げれば小窓がひとつ。

 これには意味があって、年に一度だけ小窓から陽の光がそそぐのだ。

 そして床には水の流れる穴があり、水が陽光を反照させるという仕組みだ。

 

 年に一度の日とは"夏至"であり、今日は夏至ではない。

 

 だが不思議なことに祐一が腰を下ろした途端、陽光が降りそそぎはじめた。

 小窓を見上げても太陽の姿はない。

 ならばこの陽光はどこから来るというのか。まさか太陽が望んで光を差し向けたとでもいうのだろうか? 不変で不滅の太陽が間違えるはずがないというのに。

 

 どさりと抱えていた麻袋をほおり投げれば、中からミニサイズの金色が出てきた。

 

「──! ──!」

 

「なに言ってんのか分かんねぇよ。分かる言葉で喋んな」

 

 "この"身体になってからというもの言語に不自由したことはない。はじめてでもそれなりに言葉の意図は察せるし、3日もあればどんな国の言葉でも理解出来てしまう。

 魔術師たちにとっては言霊の奥義を会得したものにのみ使える『千の言語』という秘術らしい。

 海外での活動がなぜかメインになっている祐一も重宝していたのだが。

 

「こいつと金色には通じねぇみてぇだな〜」

 

 通じないのか、言葉に意味がないのか。祐一には分からなかったし、どうでもよかった。

 

「──!!! ──!!!」

 

 麻袋から抜け出したミニ金色は祭壇の前でひざまづきさらに声高々に叫びはじめた。まるで誰かに救けを求めるかのように。

 

 その様子を眺めながら改めて内部をぐるりと見渡す。

 

「……にしても」

 

 燦々と降りしきる太陽光になにか感じ入るでもなく祐一はポツリとこぼした。

 

「妙な気分だぜ」

 

 ガルニ神殿の内部を見渡しつつ、さらにつぶやいた。

 

「ここに入ってからずっと、誰かに見られてる気がしてなんねーんだよな……辺りにゃ誰もいねぇし、それどころか鳥1匹、虫の1匹もいやしねぇのに」

 

 綉の人払いはどうやら人だけでなくあらゆる動物や昆虫にまで適用されるらしい。草木はさすがに無理だったようだが。

 

 なのに視線を感じる。誰かに見られている。錯覚ではなく、確信だった。

 目といえば柱廊の上部に描かれたライオンのレリーフくらいだ。しかし石像にそんなうたがいを向けてもしょうがない。

 

 それに悪い気分はしなかったのだ。

 これも妙な気分なのだが、目線は何やらひどく懐かしい感覚……郷愁に近しい寂寞(せきばく)を胸中に生んだ。

 

 ──斬。

 

 その時だった。背後から剣閃が飛んできたのは。

 大上段から振り下ろされた縦一文字の斬撃は、アルメニアが誇る世界遺産を派手に切り裂いた。

 

 ひょいっと躱して金色と対峙する。あの主張の強い髭面を見るのも何度目になるだろうか。

 

「मामा!!!」

 

 相変わらず何を言っているのか全く分からない。

 言語に不自由しない祐一ですら理解不能な言葉……だが、言わんとすることは判る。殺す、それ以外にありはしない。

 

「こわいね」

 

 祐一は前傾姿勢のまま脚を掲げた。

 

「本当にこわい」

 

 今度の敵手は強くはない。強くはないのだ。本当にまつろわぬ者なのかと詰問したくなるほど祐一との実力差は隔絶していた。

 

 ……しかし、倒せない。

 

 これがどれほど恐ろしい事か。祐一は身に染みて識っていた。

 何度血に染っても、何度汚泥にまみれても、不屈と決意とともに立ち上がり、ジャイアントキリングを成就したのは他でも己自身なのだから。

 

 なるほど、難敵である。カンピオーネになってからこれ以上ないと断じれるほどの! 

 

 息。

 だから祐一は呼吸した。

 

 冷静になるためではない。激すべく燃料を焚べるためだ。筋糸が震え、緊張が走る。戦闘における最良のコンディションが整うのを感じる。

 

 スポーツでゾーンと呼ばれる超集中状態がある。視界がスローモーションに見えるというあれだ。

 祐一はまさにその状態に到達していた。それも散歩するかのように、たった一呼吸で。

 あらゆるスポーツ選手が垂涎物のデタラメな肉体。カンピオーネの身体とはそういう馬鹿げた芸当を軽くやってのける代物だった。

 

 掲げた脚を地面につければ不自然な紋様が燎原のごとく広がった。蹄の聖印であった。

 

「我は日輪の運び手」

 

 飛び掛かってきた金色にタイミングを合わせ、地面を大きく()()()()───ぴし! 

 

「はえ?」

 

 足元から響いた予想の斜め上をいくなんとも間抜けた音に、思わずオウム返ししてしまった。

 

「…………」

 

 地面をちらりと見れば、蜘蛛の巣状にヒビが広がっている。

 ス──っと、冷たい汗が頬を伝っていく。

 

 そしてこうも思った。

 そういうやココ、何度も補修されてるっぽいな、と。

 

 そうなのだ。ガルニ神殿は創設され2000年近く経っている……古い、古い……石の建築物なのだ。それについさっき真っ二つに切り裂かれたというオマケ付き。

 

 そこをカンピオーネが権能つきで目いっぱい踏み込めば───? 

 

「あ! ちょっ……ウワァ──!!!」

 

 さしもの祐一も対処出来ず、崩落するガルニ神殿とともに地面に落ちていった。

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

【美麗王アラ派vs】新米魔王くんを監視するスレ30【焔の軍神ヴァハグン派】

 

 

 現在進行形で脳内に垂れ流されてるカンピオーネっぽい少年(以後:ガンボール スニーク氏命名)の実況スレです。

 

 注意書き:

 ・電波を受信してこの板を見つけたら必ず書き込んでください。

 ・詳しい話は雑談スレで。スレ民は誘導してあげてください。

 ・荒らしはスルー推奨

 ・接触した人はコテハン必須

 

 前スレ:【カルナ派こそ】新米魔王くんを監視するスレ29【最大派閥】 http://××××

 

 

 

97:名無しの視姦魔人 ID:XdXzZsuxY

 だぁーかぁーらぁー! 何度も言ってるがあの金色はヴァハグンだって! 原則的に考えたまえ原則的に! 

 

99:名無しの視姦魔人 ID:RCD3dzRye

 原則ってなんだよ。顕現するまつろわぬ神は土地に縁のある神ってやつか? あれってどれくらい信用できるんだよ? 

 

100:名無しの視姦魔人 ID:+jOmVyP61

 んー、微妙

 

101:名無しの視姦魔人 ID:bF3VEhZrm

 まあ確かにアルゼンチンなんかにまつろわぬ日本武尊があらわれたらびっくりするけど

 

104:名無しの視姦魔人 ID:NuB6eNylH

 まつろわぬ神の顕現の範囲か……考えたこともなかったな……

 

105:名無しの視姦魔人 ID:Kd/+JIwVA

 海に隔てられたり、文化圏まったく違うなら流石に範囲外だろって感じ。地続きだと? さあ……。

 

108:名無しの視姦魔人 ID:gPGhpKYeq

 "コーカサスの国"って一口でいっても相当広範囲だもんな

 

110:名無しの視姦魔人 ID:/eLj2rMl+

 わからない事だらけにゃんねぇ

 

113:名無しの視姦魔人 ID:QO7Hyg6z/

 原則原則いっても結局経験則だもんなぁー

 

117:名無しの視姦魔人 ID:UDePye5I4

 つか >>97 の言うとおりヴァハグンだとしたら金で現れたってのはどう説明するんだよ? 

 

119:名無しの視姦魔人 ID:+xN12JYT1

 ヴァハグン自身は太陽神に関連してるんだっけ。不死性は持ってそうだけど……

 金となるとはてなマークつきそう

 

123:名無しの視姦魔人 ID:82R0+KubB

 アルメニアに限定したってヴァハグンの他にも美麗王アラだって有力候補じゃん? 不死性なら冥府から戻ってきたって逸話があったはず

 

124:名無しの視姦魔人 ID:cLMdxSSS2

 ヴァハグンにしろ美麗王アラにしろ一定の説得力があるのが厄介だよなぁ。スペックがあれなのも神の起源は人間っていうエウヘリズムの影響で神以下として現れた説あるし

 

127:名無しの視姦魔人 ID:HZGp9ZGRe

 あるいはスペックがしょぼい分、スキルに振ってるとか……? 

 

132:名無しの視姦魔人 ID:bDjWHLAXq

 あの防御はちょっと普通じゃないしな

 

136:名無しの視姦魔人 ID:8+AA13odt

 これ以上候補上げんのも心苦しいけどコーカサスが範囲だっていうならプロメテウスの源流らしいアミラニも候補に上がりそう。プロメテウスの原型で不死性だってあるし

 

141:名無しの視姦魔人 ID:zuur9aSbe

 そこまで広げるならまっさきに上がるのはナルト叙事詩のバトラズ様だろ! 無敵の英雄神様だぞ!!! 

 

146:名無しの視姦魔人 ID:rbwgcUofD

 は? ソスランだってアキレスみたいな無敵の身体持ってるんだが……

 

150:名無しの視姦魔人 ID:uv1I0Nrcs

 >>146 ちょっと待ちなさいよ! ソスラン「様」でしょ? あんた、まさか……

 

153:名無しの視姦魔人 ID:FeqsMsP39

 あ~(苦笑)さすがにもう隠しきれない、かあ。……うん。そうだよ、私ソスランに飼われてる

 

156:名無しの視姦魔人 ID:fgSAKqwQq

 飼われてんのかよ

 

159:名無しの視姦魔人 ID:2L44yySws

 尚更様つけろや

 

163:名無しの視姦魔人 ID:u9o3wG0w1

 アーサー王の起源にもなったナルト叙事詩か。仮にここの神格だったとするとかなり厳しい戦いになりそうだな

 

165:名無しの視姦魔人 ID:KMmRh/Onl

 >>163 いやアーサー王伝説の起源はケルトだろw登場人物の欄よく見ろよ? ケルト神話の由来ばっかりじゃねぇかw

 

168:名無しの視姦魔人 ID:u9o3wG0w1

 >>165 いやいや。ちゃんと神話の内容を鑑みてくださいよ? 剣を湖に投げ込むなんてナルト叙事詩が由来である明らかな証拠でしょう

 

173:名無しの視姦魔人 ID:KMmRh/Onl

 >>168 似てるから起源とか言い出したらキリないだろうが。相関性でしかものを語れねぇのか? 

 

174:名無しの視姦魔人 ID:u9o3wG0w1

 >>173 は? さすがに温厚な私もキレちまいましたよ……行きましょう、屋上に……

 

177:名無しの視姦魔人 ID:HddnqhwQW

 >>174 あ? やるか? 決闘(フェーデ)をよ……

 

181:名無しの視姦魔人 ID:ktmvK2dPu

 決闘(フェーデ)ってどっかの騎士団なのか? 

 

184:名無しの視姦魔人 ID:z4cZN3Ao2

 そもそも屋上どこだよ

 

189:名無しの視姦魔人 ID:7INr78UsZ

 みんな熱くなりすぎ! てか特定しようとスんな

 

194:名無しの視姦魔人 ID:0zuBSUJ/z

 それにそんなご大層な英雄神ならあんだけ弱い理由が分からん。神獣クラスだぞ

 

196:名無しの視姦魔人 ID:HddnqhwQW

 む

 

198:名無しの視姦魔人 ID:u9o3wG0w1

 ぬ……

 

203:名無しの視姦魔人 ID:OFm2ZyO+V

 アーサー王の起源かもしれない英雄達が神獣並? いやいや、ないわ

 

204:名無しの視姦魔人 ID:srUVZlE9g

 じゅ、従属神かもしれないし……。

 

207:名無しの視姦魔人 ID:sCxUpc1Jc

 従属神でも神は神なんだよなぁ……

 

212:名無しの視姦魔人 ID:aNLnig+oF

 わい将、我が慧眼を持ってしても《鋼》だの従属神だのまつろわぬ神の区別なんか付かない

 

216:名無しの視姦魔人 ID:FeRB+Q8JL

 そもそも神々を出会うこと自体稀だからな……。たしか確率でいえば雷が直撃するのとどっこいどっこいなんだっけ

 

219:名無しの視姦魔人 ID:UGTlnAP5t

 >>216 雷直撃ならけっこう多い方やんけ〜〜〜〜〜〜〜

 

224:名無しの視姦魔人 ID:b0Jkw4zvl

 会わないなら会わないほどいいもんな。我ら守られるべき善良な庶民にとって

 

226:名無しの視姦魔人 ID:biA0cHi9

 >>216 そう言われているね。以前、ぼくの師匠がまつろわぬ神の戦いを観て、数ヶ月ほど呪力が戻らなかった時期があった。神々と出会って生き残るにしたって相当な運と術者じゃないと不可能だろう

 

227:名無しの視姦魔人 ID:n1l/wPIPc

 …………なあ、魔術師にしろ魔女にしろ騎士にしろまつろわぬ神の戦いを観測できる人間って大分限られてるよな……

 

232:名無しの視姦魔人 ID:SjyEc9sA6

 そっすね。聖騎士とか天か地の位を極めた魔女あたり、かな……

 

236:名無しの視姦魔人 ID:ygdhU/Dae

 そういえば某サルデーニャの魔女さんが突然の活動休止してたはず

 

237:管理人 ID:tap/Ε3ΤΙα

 

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 やめろ! 特定をしようするな! 管理人ちゃんが来ちゃ……ってたな

 

239:名無しの視姦魔人 ID:p9QN92Oy5

 チース! お疲れ様です! 

 

241:名無しの視姦魔人 ID:HSi2My199

 え、誰

 

245:名無しの視姦魔人 ID:iNS/1E4mx

 誰ェ誰なの? 怖いよおッ!!! 

 

246:名無しの視姦魔人 ID:PZaqUhfsL

 >>241

 >>245

 この人(?)は管理人ちゃん。おそらく神に連なっている系の板の番人だ。

 危険はない。利用規約違反したら板を永久追放されるからルールは必ず守ってマナーの一礼を忘れるな

 

248:名無しの視姦魔人 ID:KPPsrzu2k

 おはこんばんにちは!!! 

 

253:名無しの視姦魔人 ID:g5V6qd3U0

 ちーす! ご無沙汰しておりまーす! 

 

258:管理人 ID:tap/Ε3ΤΙα

 ノシ

 

261:名無しの視姦魔人 ID:o8Cd7LvhA

 は? かわいいかよ

 

264:名無しの視姦魔人 ID:aloKqPIKm

 偉大なママでありアングラでサツバツとした板の数少ない癒し枠ゾ

 

 

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 

369:名無しの視姦魔人 ID:SFtyZFRpn

 勝ったなと思って飯食ってきたらどの派閥も凹まされてた件について。……ん? さっきまで最大派閥だったカルナ派は? 

 

374:名無しの視姦魔人 ID:rbNke1pqS

 最大派閥(1人)

 

375:名無しの視姦魔人 ID:NTXYiXwTx

 カルナ派は土地の原則を覆し切れなくて死んだよ

 

379:名無しの視姦魔人 ID:ogYcxNjE9

 しゃべってる言語が印欧祖語の系譜っぽい→インド神話まで遡れるかも? からの黄金+無敵でスーリヤの息子でマハーバーラタに出てくるカルナは斬新だったけどな

 

388:名無しの視姦魔人 ID:2jLsdaOMC

 インドは流石に遠かったか……

 

389:名無しの視姦魔人 ID:SFtyZFRpn

 ふーん。じゃあ今どんな感じなん? 

 

392:名無しの視姦魔人 ID:PajuVin+J

 >>384 どの案も出し尽くして小康状態。候補がおおすぎるんよ~

 

395:名無しの視姦魔人 ID:SFtyZFRpn

 なあ、飯食ってて思ったんだけどこいつもしかしてヒラニヤカシプなんじゃねーの

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

「い、てて……」

 

 身体を踏み潰していた岩をどかして一息つく。どうやら金色はいない。ミニ金色もいなかった。近くにいるのだろうが探すのは断念した。

 なにせ出口らしき通路がガルニ神殿を構成していた柱廊に埋まっている。とりあえず敵は後回しにして、周辺を調べなければ陽の光も拝めない。

 

「しっかしココどこだ? ガルニ神殿の地下にこんな空間があるなんて聞いてないぞ」

 

 しと、しと。

 水の音が聞こえる。床の下を通っていた水が流れ出しているのだろうか。音の反響から鑑みても相当な広さだ。

 ここまで来るのに足に使ったキッチンカーなら余裕で100台は入る規模か。

 

 なるほど、ガルニ神殿の地下に眠る巨大駐車場か……。

 祐一は至極真剣な顔で、広い通路を奥へ奥へと進んでいった。

 

 通路はおかしな模様で埋め尽くされていた。

 モザイク模様、というのだろうか。キラキラとした小さな輝石がたくさん並べられ、様々な絵が描かれている。

 何を描いたのか分からないものも多いが、月や、ハサミ、釜や、杖などはさすがに分かった。しかしそれが何を示しているのか、ちんぷんかんぷんだった。

 

「…………………………!」

 

 声が近づいている。

 絶賛生き埋め中なのにご苦労なことだ。どうしようもないので先へ進む。

 

「お、開けたな」

 

 そこは通路の終点だった。

 広い場所で、今度こそ全力で戦っても問題ない場所でもあった。

 

「出口じゃねぇのか……出口を見つけておきたかったんだけどなぁ。仕方ねぇか」

 

 残念だが仕方がない。それに絶対見つけなければいけない訳でもない。

 自分で言うのもアレだが、カンピオーネの戦いは派手だ。地面に埋められてもその内、出口が()()()だろう。

 

 ……ただ、難点をあげるとすれば広場のそこら中にド素人の祐一でも分かる重要そうな遺跡群があることか。

 

 壁を掘ったのだろう。ナイフを持った青年が牛に乗り、殺しているレリーフがいくつかあった。

 それを取り囲むようにワシだとか、神官だとか、犬だとか、賑やかに彩られている。

 どれも出来が良くて、祐一でもへーっと感心してしまうくらいだった。

 

「でも、こいつだけ妙だな? 壊されてら」

 

 部屋の中央に鎮座するのは杖を持った首なしの像だった。大きい。おそらく祐一より倍はある。

 

「ふーん……他は綺麗なもんなのに、この像の頭だけ吹っ飛ばすとか趣味悪いなぁ」

 

 頭のない像はまるで柱のようだった。通路に散らばっているガルニ神殿の柱ですらこの立派さには及ばないだろう。

 身体だけの像はよくよく見ると足元が不気味だった。

 縄でも巻き付けているのかと見間違えたが……違う。

 あれは蛇だ。鱗を持った蛇が足に絡みついている。東洋の龍や蛇尾であるラミアーとは根本から違う、足にからみつく蛇。

 祐一には妙な引っ掛かりを覚えて仕方なかった。

 

「………………………………! ………………………………!」

 

 ハッとする。石像に目を奪われていたのはそこまで。像の足元で声を張り上げるミニ金色を見つけた。

 

 いつの間に現れたのか。まるで忽然と現れたようにミニ金色は目の前にいて、祈りのような叫びをあげていた。

 

「殺すか」

 

 冷徹な言葉が漏れた。

 

 なぜそう思ったのか分からない。

 ただけたたましい警鐘が鳴っていた。ミニ金色が気配もなく現れた時から。祈りのような叫びをあげた時から。

 

 腕に巻いた布地にふれ、無言のままずんずんと近づく。腕をだらりと下げつつ、視線はそらさない。

 

 声を張り上げるのだ。刮目せよ。排除せよ。と己が最も信頼する直感が。

 

 この小さい脅威を見逃してはいけない、と! 

 

 排除に動きだそうとするのと重なるように──prrrrrrr。懐のスマートフォンから着信音がなった。

 綉からだった。げ、と苦い表情をしながら少し離して通話ボタンを押す。

 

「おー、もしもし?」

 

 開口1番怒声が飛んできた。離して正解だった。

 

「ごめんごめんって! ……え、神様の正体分かったのか?」

 

 さすが有能な相棒である。祐一には検討もつかないのに限られた情報から神様の名前を看破したらしい。早速、その名を告げられるが……

 

「いんや、聞いた事ねぇ神様だな……」

 

 それほど神話伝承に造詣が深くない祐一には難しい名だったらしい。首をひねるばかりだ。

 

「どこにいるかって? ガルニ神殿の地下だよ、そこを歩いてたら首のない像を見つけて……な…………?」

 

 そこで言葉が止まった。

 

「なあ、綉」

 

 止めざるを得なかった。

 スマホを握りしめすぎて液晶にヒビが入る。口の中に苦いものを感じつつ綉に問い掛けた。

 

 

 愚かにもすっかり頭から抜けていた。

 

 小さな脅威のことを。

 

 

 それは木下祐一というカンピオーネが、この(ぎん)じられるまつろわぬ物語のなかで晒した紛うことなき"隙"だったのだ。

 

 

「石像って首が生えてくることとかあんのか。それも生きてる──()()が」

 

 

【美麗王アラ派vs】新米魔王くんを監視するスレ30【焔の軍神ヴァハグン派】

 

 

 現在進行形で脳内に垂れ流されてるカンピオーネっぽい少年(以後:ガンボール スニーク氏命名)の実況スレです。

 

 注意書き:

 ・電波を受信してこの板を見つけたら必ず書き込んでください。

 ・詳しい話は雑談スレで。スレ民は誘導してあげてください。

 ・荒らしはスルー推奨

 ・接触した人はコテハン必須

 

 前スレ:【カルナ派こそ】新米魔王くんを監視するスレ29【最大派閥】 http://××××

 

 

 

395:名無しの視姦魔人ID:r625j+MhV

 なあ、飯食ってて思ったんだけどこいつもしかしてヒラニヤカシプなんじゃねーの

 

398:名無しの視姦魔人ID:xv5nI4VJv

 アルメニアーインドくらい半径距離があればヨーロッパも丸々入っちゃうし、そうすると今でも過剰な候補数が尋常じゃなくなるからな

 

399:名無しの視姦魔人ID:QB0rWaEz3

 ん? 

 

403:名無しの視姦魔人ID:wO7+zg7ei

 また新説生えたっぽいな

 

405:名無しの視姦魔人ID:Bzd+tnmfD

 >>395 ヒラニヤカシプ〜〜〜? ……って誰だっけ。

 

406:名無しの視姦魔人ID:iJ+A0+aqj

 インド神話で見たような……ないような……。

 

408:名無しの視姦魔人ID:u7jTA6eUF

 インドの古譚(プラーナ)に出てくるアスラやな。

 

411:名無しの視姦魔人ID:82ERDZKHe

 そうそうアスラアスラ、アスラってのはインドじゃ"神々の敵対者"って意味の言葉でイランだと"アフラ=マズダー"仏教だと"阿修羅"を指す言葉になるな

 

414:名無しの視姦魔人ID:qtQgTO0Tq

 マハーバリが一番メジャーやけどヒラニヤカシプはそのアスラの中でもちょっとは名の知れた存在だったはず

 

419:名無しの視姦魔人ID:M9GDooW+y

 ほーん。で、なんでそいつに繋がるん? 

 

422:名無しの視姦魔人ID:bC5FqOBTJ

 たしかヴィシュヌの化身神話に出てくるしインドだろ? 散々否定されてたやん

 

424:名無しの視姦魔人ID:ENKU51exw

 直答を許す。申してみよ。

 

427:名無しの視姦魔人ID:navwOywRj

 偉そうで草

 

431:名無しの視姦魔人ID:r625j+MhV

 確かにヒラニヤカシプは南インドあたりの伝承だけど、お前ら以前ガンボールニキの旅のなかで出てきた神格って覚えてるか? 

 

435:名無しの視姦魔人ID:kXQAgVp77

 新参だし神獣メインだったしよく覚えてないンゴ……

 

440:名無しの視姦魔人ID:QdwWmLO8k

 ROMれ

 

442:名無しの視姦魔人ID:IY8zQffTi

 ガンボールが戦った、或いは出会った相手ってことでいいならピュラーにパンドラにラミアー……? 

 

443:sneak ID:mAhiwAsh 

 ……そうか! ラグナが殺した魔神もアスラだったな

 

445:名無しの視姦魔人ID:r625j+MhV

 >>443 そういうことや

 

447:名無しの視姦魔人ID:4zYVVqPWn

 あ──思い出した! ヒラニヤクーシャか! 

 

450:名無しの視姦魔人ID:DLh3sM+/U

 ヒラニヤクーシャね、うんうん。……誰だっけ? 

 

451:名無しの視姦魔人ID:dgtb63HMm

 あー思い出した。洪水の元凶になってたやつか

 

455:名無しの視姦魔人ID:eu/oToCZ8

 影薄いから忘れてたわ(小声)

 

460:名無しの視姦魔人ID:K4jOaAgW/

 でもなんでそれが出てくんのよ、理由になってないぞ

 

463:名無しの視姦魔人ID:VnySew3gF

 そもそもヒラニヤク―シャとヒラニヤカシプって同母の兄弟らしいのよ。んで、ヒラニヤクーシャが殺された復讐にヒラニヤカシプが世界征服に乗り出すんだ

 

466:名無しの視姦魔人ID:r625j+MhV

 そこら辺はヴィシュヌ神の古譚(プラーナ)……バーガヴァタ・プラーナに記載があるらしいから気になったら調べてくれ。

 で、ヴィシュヌ神の化身神話ってほんのりとした繋がるんだけど3、4、5の化身はその中でも一際近いんだ。

 

468:名無しの視姦魔人ID:oUwJoAH7k

 勝手に補足するけどその三つの化身神話ってトラヴィタ人の神話の流れを汲んでるらしい。それを南下して支配者に収まったアーリア人が自分たちの神話に組み込んだんだな

 

473:名無しの視姦魔人ID:c6v7r8Ux9

 雑学は正直どうでもいいけど >>466は結局何が言いたいん? 

 

475:名無しの視姦魔人ID:or5lAgnaA

 もしかして洪水事件からここまでの流れが一つの物語かもしれないってこと? 

 

477:名無しの視姦魔人ID:Lcj7rlpY4

 ヒラニヤクーシャを倒したから、「これでヒラニヤカシプ(オレ)ガンボール氏(お前)にも縁ができたな!!!」みたいな

 

482:名無しの視姦魔人ID:5IR0xo0JL

 えぇ? そんなことある……? 

 

485:名無しの視姦魔人ID:PhxgafTET

 つまり>>466がいいたいのは散々俺たちがやり玉に上げてた"土地との繋がり"じゃなくて、"神話の連なり"の可能性ってわけか? 

 

488:名無しの視姦魔人ID:6jbn0P1ib

 なくはない、のか??? 

 

493:名無しの視姦魔人ID:JlFikTYGO

 ふん。おもしれー珍説……。

 

496:名無しの視姦魔人ID:SmmIdf+ne

 ふん。そういやヒラニヤカシプって名前が「黄金の衣をきるもの」だの「黄金を座布団に敷くもの」だったはず。

 

501:名無しの視姦魔人ID:W4YxKYrl1

 なら金で顕現した理由に不足はないってわけか

 

503:名無しの視姦魔人ID:wBqOWFE5R

 ……で、結局ヒラニヤカシプだったとして倒し方あんの。そこが重要でしょ

 

505:名無しの視姦魔人ID:MjCgFlVzF

 アスラってことは倒されたんだし殺し方あるんだろ

 

509:名無しの視姦魔人ID:kGFHl1Izu

 ないんだなぁーこれが

 

513:名無しの視姦魔人ID:KqmB9Sc87

 は? 

 

517:名無しの視姦魔人ID:/wfOXxvFM

 

W
ヒラニヤカシプ(梵: हिरण्यकशिपु, Hiranyakashipu)とはーwiki

 

ヒラニヤクーシャの無念を晴らすべく厳しい修行を行った。その末に手に入れた力が「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」というものだった。

 こうして無敵になったヒラニヤカシプは、天界を奪い、ヒラニヤークシャの無念を晴らした。子にプラフラーダがおり…………

 

 説明するのめんどくさいからwikiから引っ張って来たけど、つまりそういう事。

 

520:名無しの視姦魔人ID:EJb0ZlctG

 >>517 ク、クソゲーーーー!!!!!!! 

 

521:名無しの視姦魔人ID:mNvPkRBr6

 正体を見抜いても詰んでる系のクソゲーやめろ

 

522:名無しの視姦魔人ID:tyDl/ZyyZ

 ヴィシュヌさんさぁ……詭弁を弄するのはいいけどさぁ……(絶望)

 

524:名無しの視姦魔人ID:PLrrJ2MWm

 っぱ神様なんてデタラメですわ

 

527:名無しの視姦魔人ID:rZi2uotfK

 ねぇねぇ神話とか伝承ってたまにこういうのがあるけど全部反映されんの??? 

 

530:名無しの視姦魔人ID:NadcaXIYA

 >>527 まつろわぬ神とカンピオーネの戦いはルール無用だろ

 

532:名無しの視姦魔人ID:d1Clk9eBu

 少なくともグリニッジ賢人議会の資料によるとジークフリートは鋼の身体を持ってたみたいね

 

535:名無しの視姦魔人ID:lV+XBeTsg

 どっきりどっきりDON DON

 無敵のボディがあったら どーしよ? 

(どーする?)

 びっくりびっくりBIN BIN

 パッと見弱いオトコで ザーコだね! 

(みーためだけ!)

 

 おいおい! こんなバケモン、おシャ魔女SORAMIもいないこのクソッタレな世界でどう倒すんだよスニーク! 

 

537:sneak ID:mAhiwAsh 

 最悪逃げるつもりだが……あいつが納得するか……

 

539:名無しの視姦魔人ID:tsrfhJz3F

 常勝不敗常勝不敗うおおおおおお!!! って毎回突っ込んでるもんな……早死にするよ……

 

540:名無しの視姦魔人ID:DC3rP9iKx

 ガンボールの名に偽りなし(迫真)

 

541:sneak ID:mAhiwAsh 

 とはもうせヴィシュヌ神は滅茶苦茶なやり方だがヒラニヤカシプを倒してるわけだし、策がないわけじゃない。やるだけやってみるさ 

 

543:sneak ID:mAhiwAsh 

 ノシ

 

546:名無しの視姦魔人ID:/jDC5yeI1

 ノシ

 

547:名無しの視姦魔人ID:3P4yd8jdu

 ご武運を! 

 

552:名無しの視姦魔人 ID:bh/Vm+iZM

 逝ったか……

 

554:名無しの視姦魔人 ID:bh/Vm+iZM

 >>552 すまん誤字

 

557:名無しの視姦魔人 ID:YRV0YV6JF

 不吉な誤字やめろやボケ

 

558:名無しの視姦魔人 ID:O8mqr4iwz

 スニークニキはああ言ってたが実際イケるのか? クソゲーもクソゲーだろ

 

560:名無しの視姦魔人 ID:n76ltl9oT

 どーだろ。なんだかんだガンボール氏はカンピオーネだから何とかしちゃうんじゃね

 

563:名無しの視姦魔人 ID:ELdot41Fe

 敗北確定! って感じはふしぎとしないんだよな

 

564:名無しの視姦魔人 ID:fE9p/XVtY

 ヴリトラハン(Vṛtrahan)っていってな、ヒラニヤカシプみたいな無敵チート持ってた怪物を斃した英雄神がいたりするし、

 

565:名無しの視姦魔人 ID:mRHLZA17n

 身も蓋もない言い方するとその"あだ名"がひとり歩きして別の地域で勝利の神になったんだよな。そういや

 

567:名無しの視姦魔人 ID:TvCNPWLCp

 何かしら希望はあるはず

 

569:名無しの視姦魔人 ID:d5cUkywpX

 ぐあー心配だが果報は寝て待つか……

 

570:名無しの視姦魔人 ID:wMsAqZUCz

 ん? 

 

575:名無しの視姦魔人 ID:7uFYiruGw

 カンピオーネなんて人の心配を杞憂だって笑うやつらだし、それくらいがいいのかもな

 

579:名無しの視姦魔人 ID:ab+JD1CIW

 では、解散して実況スレに……って>>570 どうした? 

 

584:名無しの視姦魔人 ID:wMsAqZUCz

 …………なあ、ガルニ神殿地下に遺跡があるなんて知らなくってずっとガンボール氏の周辺観察してたんだけど……広場の中心にある像って、()()()()()()()()()??? 

 

588:名無しの視姦魔人 ID:QSnmSd4cE

 たしかそうだったろ。

 

591:名無しの視姦魔人 ID:Y94ENoh9B

 あれってミトラス教の遺跡で見かける正体不明の神像だったよな? 

 

596:名無しの視姦魔人 ID:Fwaz53cho

 ズルワーンだとかサトゥルヌスだとか諸説ある

 

598:名無しの視姦魔人 ID:olXad8c9N

 そうそう

 

600:名無しの視姦魔人 ID:YFFoAEIGC

 >>584 バッカでぇ、目見えねえのかよ? ほら見ろよ、ちゃんと…………

 

 ??? 

 

605:名無しの視姦魔人 ID:SsDVSLeyT

 は! 

 

608:名無しの視姦魔人 ID:yo96bbbHG

 !? 

 

613:名無しの視姦魔人 ID:2GPZty0s/

 生首生えてるうう!? 

 

618:名無しの視姦魔人 ID:cY9NrM/7r

 ホラーややんけ!!! 

 

623:名無しの視姦魔人 ID:Gdgac2GVB

 ちびっちゃったぁ! 

 

626:名無しの視姦魔人 ID:pD38eAM8I

 てか、めっちゃこっち見てるんですけどォ! 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 祐一はすでに10分以上も黄金瞳(おうごんとう)と見つめ合っていた。

 

 まるでこの身は単なる像に過ぎないのだと主張しているかのように、名も知らぬ獅子の生首はこちらを見たままピクリとも動かない。

 

 しかし有り得ないことだ。単なる像であるはずがない。

 

 息遣いを感じる。黄金瞳に生気が流れている。カンピオーネの肉体に力が充足していく。戦意が高揚する。

 常勝不敗たる己に無視できない脅威を浴びせてくる。

 

 そう、()()

 

 木下祐一という魔王の称号を欲しいままにする化け物ですら無視できない存在。目を離せば瞬く間に終止符を打たれると確信できるからこそ一挙手一投足を見逃せない。

 

 彼らは絶対者。万物に唯我独尊を許されるほど強い彼らを前に、なぜ油断などできようか。

 

「──नर、सिंह……!!!」

 

 その時だった。

 静寂を破り、広場に繋がる大門から金色が突進してきたのは。

 

 シミターすでに抜かれて、刃は高く高く掲げられている。

 そして金色の乱入によって、獅子もまた動いた。快音とともに胴体部分であった彫像が真っ二つに割れ、くるくると中空を舞い、毛並みに覆われた獅子の顔を持つヒトガタが現れた。

 

 後に──金光一閃。

 

 迅雷のごとくすばやい運動(エクササイズ)であり、するどい歩法(フットワーク)であり、何人も目を奪われる演舞(ダンス)であった。

 

 勝負はあっけなく終わった。気付けば腹を引き裂かれ、臓腑をありったけ地面に四散させていた。

 

 あれほど無敵を誇った──ヒラニヤカシプが! 

 

 ヒラニヤカシプを"柱のなか"で膝を立て"膝上"で"素手とその爪"で惨殺せしめた"人ならざる者"は、魔神の遺骸を放り投げて祐一と向き直った。

 

「御前を(よご)した事どうか許されたい」

 

 森閑とした地下遺跡群で、その明朗な声は良く響いた。

 

「君は羅刹王(ラークシャサ)として君臨し、若いとはいえ民草を守護する王者に違いはない。君と私のあいだに砂塵の如く見え隠れするいくつもの目、それは君の庇護する民のものに違いないのだろう? 

 礼を欠いていた事を素直に認めよう()()()()()

 

 慇懃無礼とはこの事だ。

 非を認めながら一切陳謝する気配を見せない。それどころか許せと来た。

 慄然とするほどの厚顔無恥。考えられないほどの傲岸不遜。

 

 だが"彼ら"は強い。

 矮小な人間が立ち向かうなど以ての外。常に傍若無人で居られるほどシンプルに強いのだ。

 

 ──まつろわぬ神。

 

 神話に(まつろ)うことなく、神話という物語から飛び出し地上を闊歩する、尊貴にて天上に在るべき者たち。

 視線にも呼吸にも果てには仕草にも重要な意味があり、世の規範とすべき絶対の法則を示すものたち。

 

 嘲弄する人獅子の言葉に、祐一は無言を貫いた。ただ殺気を叩きつけて。

 

「フ、好き闘志です」

 

 まつろわぬ神が喉を鳴らすように嗤う。

 

「君は私が下界にくだりて、真っ先に(ほふ)るに相応しい敵手のようだ……しかし死にゆく君に殺された者の名を持たず地下へ往くのも不憫でしょう」

 

 獅子面の見事なる(たてがみ)が満腔より吹き荒れる威風によって波打ち逆立つ。祐一より倍はある威躯がさらに雄々しく。

 

 獅子面のまつろわぬ神は無手だ。それどころか寸鉄も帯びていない。襤褸布をまといさながら修験者じみている。

 

 だが四臂は筋肉の隆起で尋常ではない逞しさを誇り、その先には魔神ヒラニヤカシプを引きちぎった爪がある。

 

 彼の神に武器など必要ない。いかなる敵も魔神殺しを為した爪の前に散華するのだから。

 装備も、装飾品も、必要ない。いかなる道具も我が完全無欠たる玉体より優れることなど有はしないのだから。

 

 彼らは自尊心の怪物だ。

 物質より精神に近い彼らは意志によってその強さが変わる。よってプライドはそのまま存在の強さに直結し、存在の強さはそのまま戦闘力に繋がる。

 刀剣も握らず、鎧も帯びず、神々の仇敵であるカンピオーネの眼前に立つならばどれほどの意志が必要なのか。

 

「せめて──名乗って上げましょう」

 

 獅子が牙を剥く。

 

「我が名は──()()()()()

 三神一体(トリムルティ)が一柱ヴィシュヌ大神第四の化身にして普遍無比たる神威の化身なり。我が爪牙は古今無双、此処に魔神ヒラニヤカシプに次ぐ赫赫(かくかく)たる武功を樹てん」

 

 人でも神でもない化身が笑んだ。牙を剥きだしにして。

 獲物を狩る獣の笑みだった。

 

「言うね……けどなぁ、俺は不敗だ。俺は俺以外の勝利を()()()()()

 

 しかし強さだけならば"彼"もまた抜きん出ている。

 ナチュラルボーンウォリアー。生涯のすべてを勝利で飾り、神に勝利しようともなお常勝を食い散らかす勝利餓鬼。

 

 名を木下祐一といった。

 

「往く道はたったひとつ──常勝不敗だ!」

 

 人でも神でもない化物が笑んだ。牙を剥きだしにして。

 獲物を狩る『獣』の笑みだった。

 

 獅子吼(ししく)

 

 戦闘開始のゴングはまつろわぬナラシンハの咆哮だった。そして同時に、地下遺跡崩壊の始まりでもあった。

 単なる咆哮とはいえ出処は神だ。神の咆哮は言わずもがなただの雄叫びではない。

 確かな質量を持って全方位へ拡散していく。

 分厚い石のレリーフも、石膏で固められた彫刻も、等しく破壊され地割れとともに衝撃が迫りくる。

 

 それを横目に見やりながら、祐一は脚部に呪力を送った。

 

「我は最強にして全ての勝利を掴むもの」

 

 そして聖なる言霊をささいた。

 体にかつて殺めたまつろわぬ神の呪力が流れこみ充足する。

 あまりの呪力の濃密さに周囲が蜃気楼じみて歪んでいく。魔術師が見ればめまいを起こして失神するような馬鹿げた量だ。

 しかしこれでもカンピオーネやまつろわぬ神にとっては種火でしかない。大火に変わる前の揺らめき。

 簒奪した権能を行使する第1歩。

 

 ──蹴。

 

 ナラシンハの咆哮がたどり着く瞬間、祐一は右足を蹴り上げた。大気が焦げつく勢いで放たれた蹴りは、はたして獅子吼を相殺した。

 

 攻撃が意味を為さなかった。しかしまつろわぬナラシンハは動じなかった。動じないどころか犬歯をのぞかせ、賞賛すら送った。

 それでこそ我が仇敵ラークシャサ。煌めく武功のひとつにする価値がある。

 

 祐一もまた応えるように唇を歪めた。

 今の一撃はカンピオーネの強靭な肉体を食い破り、殺傷しうるに十分な威力を秘めていた。

 やはりそうでなくては。仇敵との争いはそうでなくては。

 

 死臭が常に泰然でかまえる祐一に緊張を強い、喉を震わす。喉の震えはやがて思いをのせて口訣となった。

 

「我は太陽(ミスラ)をつつがなく導く日輪の運び手。世を満たす光輪(クルワナフ)も我が導きよって。我を満たす勝利(ウルスラグナ)も我が導きによって」

 

「む」

 

 まつろわぬナラシンハの黄金瞳が祐一を見失った。

 いかなる術によるものか、それとも権能か。束の間でもナラシンハの目を逃れたのは驚嘆すべき事実だった。

 まつろわぬナラシンハは神なのだ。反射神経や洞察能力は人とは比べものにならない。

 ただ速いだけなら稲妻の速度ですら見切れるほど卓越した能力をもっていた。

 それに暗い地下空間にいるからというのも理由にならない。ライオンなどの獣の多くがそうであるようにまつろわぬナラシンハもまた夜目が利く。

 

 それでも見失った。

 

「おもしろい」

 

 ナラシンハは愉快げに牙を剥く。

 敵手たるカンピオーネは稲妻の域に達したわけでもなく、それどころか亜音速にも及ばない。

 

「なるほど。速さというより敏捷(はしこ)さ……といったところでしょうか。若い身空で我々との戦い方をなかなか弁えている」

 

 だが神々も怪物揃い。稲妻の速度を当たり前のように見切る神はごまんといれば、一目で術理を理解し対処する神もいる。

 そしてまつろわぬナラシンハもその一柱であった。

 

「しかし未熟。(つたな)く──遅い!」

 

 乱反射する光矢さながらに広場を駆けていた祐一だがすぐに見抜かれた。奇襲を仕掛けたところで見切られ、爪の一振で後退させられた。

 完全に避けたはずだが、肩口から血が滲む。

 

「フ、悪くない動きでしたが私には及びません。そう易々と我が牙城を突き崩せるとは思わないことです」

 

「……」

 

「君の足運びには東国の武の臭いを感じました。権能と東国の歩法、それらを組み合わせることで我が目から姿を眩ましたのですね。見事です」

 

 ナラシンハの賞揚が静かに響く。彼の言葉は逐一もっともで、祐一が先ほど使った歩法の術理を言い当てていた。

 中国武術の奥義に禹歩(うほ)という技がある。地面を不自然な挙動で歩く技で、目前にいたとしても見失ってしまう妙技だ。

 祐一は見様見真似でその一端を身につけ、疾走の権能と組み合わせることで成り立たせていた。

 

「ふむ……その蹄の健脚、強力なものですが我が同輩スカンダの足に及ばないようだ」

 

 スカンダ。仏教では韋駄天などと訳される俊足の神だ。

 

「健脚だけが君の簒奪した権能の総てではないのでしょう? 健脚はあくまでその一端」

 

「さあ、どうかな」

 

「フフ、でなければ神速閃電の領域に至らない理由がない。ここが洞という事を加味しても」

 

 つづく言葉もその通りだった。

 祐一の脚の最高速度は音速を倍するかそこらというもので、それほどではない。稲妻とスピード勝負でもしようものなら、すぐさま追いつけない距離まで離されてしまう。

 人間相手なら十分どころか過剰だが、まつろわぬ神には不足すぎる。

 それだけで神に対抗する権能足りうるかと問われれば首を振らざるをえない。

 

「フ、なかなか剛毅な戦士(ひと)だ……権能を丸裸にする楽しみを与えてくれるとは」

 

「与えたつもりなんてカケラもねぇんだけど」

 

「ああ、早く詳らかにしたいものです。君が簒奪した(権能)の形……そして君が殺めた──神の名を」

 

 祐一が蜜色の目を鋭くした。

 

 軽やかで春風駘蕩とした言葉を続けるまつろわぬナラシンハだが、その水面下では膨大な呪力が吹き上がりつつあった。

 こちらも手札を切った手前、あちらもカードを切るのは道理。祐一は予想される猛攻に備えなければならなかった。

 

「我が本尊たるヴィシュヌ神は十の化身にて暗黒時代(カリ・ユガ)を砕き、世にダルマを示した。ならば顕身たるこの身も君という悪を破壊するため化身にてお相手するとしよう」

 

 稚気と愛嬌を備えた言葉をナラシンハは口にし、やにわに化身した。アスラを縊り殺した武勲に続く、カンピオーネというラークシャサを更なる武勲に変えんがために。

 

「不滅にして至高天たる梵が指し示す──勇猛相。最も勇敢なる我"ヴィーラ・ナラシンハ"」

 

 まつろわぬナラシンハの雰囲気が一変した。

 先程までまるで統制の取れていなかった呪力の動きが一点に集中する。

 

「変化した……のか?」

 

 姿かたちに一切変化はない。しかし原野に佇んでいた岩から、一本の名刀が湧き出たかと錯覚するほどの変容。まさに化身であった。

 

「此処は戦場。先陣を切るならば我が同輩たる軍神パラシュラーマに拝されし、この姿がもっとも相応しいでしょう」

 

 一気につっこんできた。

 鋭い。ナラシンハはそのまま前脚蹴りを繰り出し、祐一の前面を削り取ろうとした。

 地面を蹴りあげバックステップで逃れ、今度は掌を広げて首をひねり潰しにきた。

 虎口のごとき握撃を避けると服がいくらか破ける。

 しかし構わない。次の動作に入らなければ死んでしまう。

 

「神殺しには武の心得がない者もいると聴きますが本当のようだ。まるで獣。理性も品位も投げ捨てた君ですが、フフ……私は小気味良さを感じていますよ」

 

「全身毛むくじゃらのあんたに理性とか品位とか言われたくないんだが……」

 

 二言三言の間にナラシンハは鳥獣を思わせるポーズを取り、苛烈にして流麗な技を放った。それを無駄の多いダイナミックな動作で逃げ切る。

 そんなやり取りを魔王と闘神は幾度も繰り返す。

 

「くそっ!」

 

 回し蹴り、後ろ脚蹴り、頭突き、手刀、と絶え間なく技が連続し、祐一はその間、全力で回避にまわったていた。

 まつろわぬ神とカンピオーネは同格とされるが厳密にはそうではない。

 カンピオーネは強いとはいえ、元はと言えば人間だ。生涯を費やして研鑽に励もうと武神や軍神には遠く及ばない。

 現に祐一はナラシンハに対してまったく手も足も出せていなかった。

 

 ならば何故戦いが成立しているのか? それはひとえにカンピオーネ特有の生き汚さだった。

 どんな過酷な状況でも活路を見出す、そんな生への執着と運があればこそ超越者たるまつろわぬ神に喰らいついていけた。

 

 極論、死ななければいいのだ。と割り切りをしながらぼろ雑巾のような姿でナラシンハの猛攻を凌ぐ。

 

「はぁはぁ……!」

 

「もう息が上がりましたか。しかし我が武闘から悉く逃げおおせるとは賞賛に値します」

 

「ふん。……しっかし武に明るいってことは……ナラシンハ、あんたは噂に聞く《鋼》ってやつなのか?」

 

「さて」

 

 ナラシンハは飄々と質問を受け流した。

 さっきまでの応酬で分かった事がいくつかある。眼前のまつろわぬ神が使っている武術はおそらくカラリパヤットと呼ばれる類のものだろう。

 

 独特な呼吸法に、動物をイメージさせる構え。強力な蹴り技を主体とした武技の数々。

 ヴィシュヌの数多き化身のなかでも最も武断的な化身、聖仙パラシュラーマを開祖とした非常に古い武術のひとつだ。

 

 そしてナラシンハは《鋼》だ。

 神、と一口に言っても多種多様な神がいるように、地上に現れるまつろわぬ神もいくつかのカテゴリーに分類される。

 

 その一つが《鋼》の軍神と呼ばれる神々だった。

 

 《鋼》とは簡単にあらわすなら生きた武器だ。戦争や劫掠には武器は必須、なら戦神や軍神の信仰にもセットとなるパターンが多い。

 特に騎馬民族スキタイからギリシア神話に伝わった軍神アレースなど直立した剣こそ神の示現と崇められていた。

 戦場での不死を備え、比類なき武勇で敵をまつろわせる。そういった戦士の体現者のごとき振る舞いを生業とする荒くれ者の神々。

 その生き様は生きる刀剣といっても過言ではない。

 

 そして一本の武器となり宿敵を討ち果たす点はナラシンハも備えている特徴だ。

 神話において彼はヴィシュヌに代わり、神に仇なすアスラ討滅のため無敵殺しの爪牙と成ったのだから。

 

「軍神パラシュラーマの名のもとに武を示さん。我が五指は悪しきクシャトリヤ殲滅の手斧なれ」

 

 言霊とともにナラシンハの指が激烈な変化を迎えた。例のごとく容姿に一切変化はなく、しかし根幹がすげ変わってしまっている。

 

 強烈な悪寒が祐一の肉体を駆けめぐった。無我夢中で、回避運動と取り──金光一閃。

 すくい上げるような逆真一文字斬り。指を振り上げる動作は単純極まりなかったが、触れれば間違いなく両断されていた。

 現に、地下遺跡に日光が降り注いでいる。ナラシンハを中心にして真円を描くように切り裂かれた天井は見事に地上まで到達したらしい。

 あれを受ければ頑丈なカンピオーネの身体だってひとたまりもない。

 

 悠長に両断された跡を眺めている暇はなかった。近寄ってきたナラシンハがやにわに二撃目を放つ。

 

「だりゃあああ!」

 

 地面に飛びかかって無様にしのいだが地下遺跡は広いがカンピオーネとまつろわぬ神という戦場としては些か狭すぎる。

 武の才はあっても元が人間の祐一と、神としてのセンスで微細な動きすら完璧に制御できるナラシンハでは、地力の差が圧倒的だ。

 このままでは、限界が訪れる。

 

「往生際悪かったら神様なんて殺してないんだよな、っと。準備するに越したことはないか」

 

 小さくささやき、腕に巻いた赤い布へ触れた。

 

「──起きな寝坊助」

 

 血の通う感覚があった。

 今日は寝起きがいいらしい。囁き声ひとつで起きてくれた。

 力の循環は祐一のなかでありながら、木下祐一から外れた場所で起きていた。

 

 その間、斬撃は止まらなかった。

 準備は十秒も経たなかったとはいえ、闘神にとってそれほどの時間があれば人間など数千人は惨殺せしめている。

 祐一たちまち壁際まで追い詰められ窮地に立たされた。

 

「もう観念ですか神殺しくん。どうやら私の見込み違いだったようだ!」

 

 ナラシンハの前蹴りが壁面を吹き飛ばす。

 巻き上げられた土砂が視界を奪う。たまらず祐一は足元の呪力を込めて、跳躍した。

 

 この舞台では狭すぎる。

 己の健脚を最大限に発揮出来る場所を求め、ナラシンハの作り出した出口へ向かって──

 

「──分かってしましたよ」

 

 背後から、のっそりと声が響く。

 

 肩越しに振り返ると、ぴったりとナラシンハがくっついて来ていた。

 

 当然だ。これはナラシンハ自身が用意した罠だったのだから。

 祐一という敵手は脚に自信を持っている。そして閉鎖的な場所で追い詰められようものなら自由で広い場所を求めるはず。

 ならばと出口を作り上げ、誘いこめばいい。簡単なことだった。

 

敏捷(はしこ)い君が閉塞した行き場のない場所でどこへ逃れようとするかなど考えるまでもありません」

 

 ナラシンハが十指を掲げた。両手を広げて、羅刹王討滅の断頭台を作り上げた。

 早くもカンピオーネとまつろわぬ神と決着がつくかと思われたその時だった。

 

 ──()()()()()! 

 

 祐一が"唾棄"した。本当の意味で神に唾を吐いた。

 

「化身>>唾 《(نیش)》:SET」

 

 飛来する唾に無警戒だったナラシンハは手酷いツケを支払うこととなった。

 

「な、んっだとッ!」

 

 唾はナラシンハの右腕に到達すると、そのまま鋼鉄の硬度をもつ神の肉体を易々と貫き、虚空へと消えていった。

 それだけでは終わらなかった

 

「カァ!」

 

 裂帛の気合いとともにナラシンハはその刃さながらの指で切り飛ばした。()()()()

 

 くるくると中空を舞う腕は、穿たれた孔から亀裂が無数に増えつづけ最後には塵も残さず風にとけて消え失せた。

 ぐしゃり、と攻撃を凌いだ祐一と片腕を失ったナラシンハが不格好に着地する。切断面を抑えたナラシンハが苦悶を浮かべながら歯ぎしりした。

 

「それもまた君の権能の一端ですか。疾走と先ほどの権能は同一かそれとも別のものか……なかなか楽しませてくれる……」

 

「ふん、あんたが俺を舐め腐ってたツケだろ。不用意に近づいてくるモンだから逆襲させてもらったぜ」

 

「……フフフ。好いですね」

 

 先程までの苦痛に歪めてい表情はどこへやら。祐一の傲岸不遜にもまつろわぬナラシンハは愉快そうに笑っていた。

 祐一は舌打ちした。

 そして笑いが収まる頃には失っていたはずの右腕が生え揃っている。戦場での不死、というやつだろう。

 

「好ましいですよ神殺しくん。その何人にも媚びらず遜らない態度……非常に好ましい。これでも半信半疑だったのですよ? 本当に定命の人間が、我ら天上の神を殺め、権能を簒奪し、なおも我々に歯向かい続けるなどと……」

 

 底冷えする透徹とした殺気がナラシンハから立ち込める。

 

「だがその詰まらない疑いも君自身が払拭した。認めましょう、君は魔神ヒラニヤカシプに続く偉大なる敵であると」

 

 涼やかな殺気が、時を追うごとに温度を増していく。

 

「しかし神に唾棄するとは。君が神殺しという大罪人という事実を加味してもいただけない行為だ」

 

 殺気に怒気が入り交じり、原初の感情である怒りは獣性を呼び覚ます。

 その不遜、君の鼻っ柱とともに叩き折らせていただきましょう。次いでナラシンハは吼えた。

 

「不滅にして至高天たる梵が指し示す──獰猛相。最も粗暴なりし我"ウグラ・ナラシンハ"」

 

 まつろわぬナラシンハの雰囲気が一変した。

 鉄の温度を思わせた冷徹さは消え去り、今度は狂奔へといざなう血の薫風が香る。

 

 容姿にも変化が起きた。

 大地を踏みつける二足歩行から、大地を掴むような四足歩行へ。

 切り揃えられた毛髪は放々に伸び、犬歯や爪は長大なものへと変わった。

 さきほどまで勇猛相と名乗った寸毫の乱れもない名刀ごとき雰囲気とは真逆。

 

 ──GYAAAAAAAA! 

 

 獅子吼がほとばしる。

 しかし獅子吼というにはあまりにも獣に近い。

 獅子吼とは元来、説法を振るう意味で使われる言葉であり狂奔に呑まれきった今のナラシンハには相応しくない。咆哮であった。

 

 祐一も気を引き締め、獅子そのものと化したナラシンハに相対した。

 下腹部の臍下丹田と呼ばれる部位から馬鹿げた呪力を横溢させながら。

 

 俺ぁ、いつからこんなキチガイじみた化け物と戦うのが生業になったんだか。

 自身の変わり果ててしまった境遇に苦笑が浮かぶ。

 

 ああ、本当に馬鹿げている。

 まつろわぬ神と呼ばれる埒外の存在を何の間違いか殺めてしまってより、この体は人間を終えてしまった。

 天上の神やそれに比する怪物たちと真っ向から張り合えるほどに! 

 

「我は最強にして、すべての勝利を掴むものなり」

 

 極めつけは()()()だ。カンピオーネがありとあらゆる神に連なる存在から忌み嫌われる最大の所以。

 

 それは言葉だった。聖なる言霊だった。聖なる詩句であった。

 

 神々へ捧げられるべき(みことのり)はもはや魔王を、高揚させ、使嗾させ、さらなる暴虐を働かせる呪文へと成り下がった。

 

 天上の神を弑逆し、弑しただけでは飽き足らず、神々のみが所持を許され司ってきた"権能を奪い取る"という最悪最低の尊厳の凌辱。

 故に彼らカンピオーネとはまつろわぬ神の不俱戴天の仇敵。故に忌々しい逆縁の担い手なのだ。

 

「化身>>右腕 《(نیش)》:SET」

 

 右手の五指を広げ、掲げる。

()()()が変化した。視覚的には一切の異変は感じ取れないが、生物に備わる第六感と呼ばれるものが反応を示す。声高に叫んでいる。

 あの言霊に導かれた右腕は"決定的な定義"が変わってしまったと。神を殺められる武器へと化身したのだと! 

 

 かつて木下祐一という少年がとある軍神を殺めた時に簒奪し、綉や彼らに『常勝への道(Way of avatar)』と勝手に名付けられた権能。

 

 示し合わせたように跳躍し、地下遺跡から舞台を移した。背の低い草木が生い茂る高原を、目にも止まらぬ速さで疾走する。

 

 速さを競い合うように併走し、大地を踏み砕かんばかりに前に出て拳を突き出す。まつろわぬナラシンハはその拳に過剰なまでに反応した。

 明らかに警戒を伴った動作だった。

 

 狂奔という本能が剥き出しになっている姿だからこそ誤魔化しが効かない。

 認めているのだ。祐一の攻撃はたしかに殺傷しうる能力を秘めていると。

 

 ナラシンハは前傾姿勢を取った。

 肩を怒らせて、牙を突き出す。前肢の指先から禍々しい爪が垣間見えた。

 刹那、ナラシンハと周囲の景色が──"ズレ"た。

 

「ぐ、ぁああっ!?」

 

 気づいた時には遅かった。強烈な痛みがけたたましく身体中に鳴り響く。

 すでに遙か遠方に佇むナラシンハは、さっきまで祐一の物であった肉塊を咥えていた。

 右腹部が抉り取られた。突然穴の空いた肉袋から血液が噴き出す。

 この速さと理不尽な感覚には覚えがある。

 

「こいつは、神速……閃電! 稲妻の速さにもなれんのかよっ」

 

 腹を抑えて痛みに耐える。脂汗が止まらないが、膝はつかない。

 敵はすぐに仕掛けてきた。

 見失った瞬間──眼前にいた。これが神速の恐ろしさ。思考など介在する余地はない。祐一は遮二無二右腕を振り回し、そして快音。

 

 新幹線でも突っ込んできたかと瞠目するほど馬鹿げた衝撃で吹っ飛ばされる。身体がバラバラになりそうな痛みと、下腹部の痛みで、死んだ方がマシという気分だ。

 だが祐一にネガティブな感情は生まれなかった。いや、生まれはした……生まれはしたのだが、直ぐさま闘志へと変わった。

 

 よくもこんな目に合わせやがったな、と。

 

 空中で錐揉み回転をしながら祐一は目を凝らした。

 祐一が最初に手に入れた権能は一言で表すなら"猪突猛進"だ。およそ突き進むという行為に必要な材料のすべてが備わっている。

 そして猪突猛進の権能のなかで余録のようで、最も重要な能力があった。

 

 前進するに不可欠なものはなんだろうか。

 

 脚? いや、極論だが前に進むだけなら手や腹でも代用は可能だ。

 目? いや、極論だが前に進むだけなら盲いていても歩いて行ける。

 

 答えは《道》だ。

 

 概念的にも物理的にも道を通らなければ進むことは出来ない。目的地には到達出来ない。

 猪突猛進に道は不可欠な要素なのだ。

 

 祐一の殺めた神は、道路や旅路を守護する神として人気の神でもあった。

 だからだろう、簒奪した神の神力が伝えてくるのだ。あらゆる道の存在を。

 視界のなかに稲妻のようなギザギザとした波を描く。ふとした時に中空に現れるので祐一は"虚空道"とそのまま呼んでいた。

 

 目を凝らして虚空道を探す。観えた。まつろわぬナラシンハの目前からこちらへ一直線に虚空道が伸びていく。

 

 地面を蹴っ飛ばし、土砂を巻き上げる。

 

 何度かあの神速閃電の攻撃をその身に受けて分かった事がある。あの形態のナラシンハは神速閃電を完全に御し切れていないのではないかと。

 ナラシンハは獰猛相といっていた。最も粗暴とも言っていた。野性を最大限に高めている状態──つまりカンピオーネの戦闘状態に近しいということだ。

 

 祐一は自分で言ってはなんだが戦闘状態で微に入り細を穿つような真似はだいぶ厳しい。無理といっても良かった。

 特に近接戦闘で神速閃電の領域に踏み込むのは御免だった。

 神速閃電の域とは小回りの効く使い勝手のいいものでは決してない。非常に繊細な動作を要求される。

 おおよそで言えば光速の1/3にも及ぶ速度だ。少しでも狂えばあさっての方向へ飛んでいくに違いない。

 明鏡止水の心得があり、稲妻すら見切れる心眼でも会得しているなら別だが、元々一般人でしかない祐一には土台無理な話だ。

 

 何が言いたいかと言えば……

 

「車は急には止まれません、ってね。化身>>土 《(نیش)》:SET」

 

 どんなに早くても進行方向方向が分かっていれば対応は可能だ。そしてその先に罠が仕掛けられてあったなら。

 

「来い、勝負だ」

 

 言い終わるが先か、視界が白むほどの衝撃に吹き飛ばされた。ナラシンハの絶叫を聴きながら地面に叩きつけられた。

 いくつかの骨が砕け、鼻血が止まらない。ズタボロになりながら身を起こすと祐一以上に傷付き、左半身を大きく損じた手負いの獅子がこちらを睨んでいた。

 

 渦巻く殺気にまだ仕掛けて来るか、と身構えたが様子がおかしい。ナラシンハはそのまま瞑目すると、言霊を唱え始めた。

 

「不滅にして至高天たる梵が指し示す──地母相。最も富貴なる我"ラクシュミ・ナラシンハ"」

 

 まつろわぬナラシンハの雰囲気が一変した。

 狂奔へといざなう血の薫風がたち消え、今度は馥郁たる芳醇な生命の香りがたちこめた。

 

 みるみるとナラシンハの損じていた箇所が再生していく。さらに栄養を供給するかのように周囲の草木が枯れ落ち、大地は瑞々しさを喪った。

 

 地母。つまり地母神のことだろう。

 地上に現れるまつろわぬ神もいくつかのカテゴリーに分類される、と以前も言ったが地母神は《鋼》にならぶ神々の総称だった。

 

 その名の通り女神にしかその名乗りは許されず、多くが大地に属する女神だ。豊穣を司り命の恵みを与える彼女たちは、世の英雄や男神たちの冒険や戦いを手助けしてきた。

 ナラシンハもまたそういった地母神の幇助を受けているのだろう。

 

 四足歩行から二足歩行へもどり人獅子の姿を取り戻したナラシンハは莞爾と笑った。

 

「侮りは捨てたはずでしたが……なかなかどうして、手強い」

 

 すぐにからりとした笑みを引っ込め、語りかけてきた。理知的な光が瞳に映り込む。

 

「どうやら君が殺めたのは何処ぞかの太陽神のようだ……君の牙からは色濃い太陽の気配を感じます。

 太陽は決して運行を止めません。阻む物は悉く蹴散らす戦車(クアドリガ)のごとく。あらゆる障碍を打ち破る太陽の無敵性こそ君の牙の鋭さなのですね」

 

 傷を癒したナラシンハは元気に祐一の前に立った。どうやら苦境はまだ終わっていないらしい。

 

 祐一は汗をかいた。悪寒や、痛みからではない。

 同じく大地はひび割れ、枝葉は灰となった。精気を吸われた訳ではない。

 

 情け容赦なく降りそそぐ太陽光によって。

 

「君が手管を開帳したならば私も権能を一つ御覧にいれましょう。我が本尊たるヴィシュヌは本来、太陽神に限りなく近い神格なのです。あまねく降り注ぐ太陽光を下々の民が崇めたのが信仰の始まりなのですから」

 

 祐一は吠えた。叫ばずにはいられなかった。

 対抗するなど以ての外。

 カンピオーネは生き残る事にかけては神を凌ぐ。危機察知に特化した直感や豪運悪運が、生き残らせてきたのだ。その実績のある直感が鐘をうち壊さんばかりに警鐘を鳴らしている。

 守りを固めなければ──いや、もう間に合わない! 死ぬ。このまま手をこまねいていては死んでしまう。

 祐一はなりふり構わず活路を探した。

 

「不滅にして至高天たる梵が指し示す──火炎相。最も強勢なる我"ジュワーラ・ナラシンハ"」

 

 まつろわぬナラシンハの雰囲気が一変した。

 馥郁たる芳醇な生命の香りは燃え落ち、三千世界を焼き尽くすエクピロシス(宇宙的大火)の出現。

 

 ナラシンハの額に亀裂が生まれた。傷ではない。これも変化。化身によって新たな部位が増えたのだ。

 亀裂はゆっくりと左右に割れ、中から眼球が現れた。

 

 ──第三の目。

 

 胸中で怖気が何十倍にも膨れ上がり、祐一は死の予感に震えた。

 

 不味い不味い不味い不味い不味いッ! 無我夢中で活路を求めてガルニ神殿の地下遺跡へ飛び込んだ。

 

「ハハハ! 判断を誤りましたね神殺し君! 釜茹でにしてあげましょうッ!」

 

 タイヤの鳴くようなスリップ音で締めくくり──静寂。

 直後、視界全域が白むほど激烈な熱波(フレア)が地上を呑み込んだ。

 エレバンからはもう一つの太陽が生まれたのかと見紛う光景だったという。

 

 祐一は後に、自分の判断が正しかったことを存分に噛み締めることなった。

 この熱波はカンピオーネである祐一でも生き残れなかった。もっと言うなら守護を司るような神でも危うい。

 つまりまつろわぬナラシンハが箭として選んだのは太陽系最強の存在──()()()()()()なのだから。

 

 キノコ雲がもうもうと立ち込める。

 

 人獅子ナラシンハ。

 ヴィシュヌ神第四の化身にして無敵の魔神ヒラニヤカシプ抹殺のためありとあらゆる化身と手段を授けられた魔神殺しの軍神であった。

 

 ガルニ神殿、炎上。

 

 火元は地下遺跡の存在した空間。そこに灼熱地獄が顕現していた。

 (ごう)(ごう)という鉄すら焼き尽くす炎熱がガルニ神殿を埋めつくす。

 神の放った断罪の劫火によって、ガルニ神殿は炎上の浮き目にあっていた。

 

「神殺しは見当たらないようですね」

 

 ナラシンハは黄金瞳と第三の目を巡らせるが、指の一本、塵の一つとして宿敵の姿を見つけることは出来なかった。

 

「アグネアストラの輝きに灰も残さず消滅しましたか。いささか物足りなくもありますが……死んだのならばそれまでの戦士だったという事でしょう……」

 

 落胆を隠さないナラシンハに、その心情を察してか天に雲がかかった。

 まつろわぬ神とは埒外の存在である。ただ存在するだけで手当たり次第に森羅万象へ影響を与えてしまうほどに。

 

 やがて雲は地上からの熱気によって駆逐された。

 

「──よろしい」

 

 ナラシンハが宣した。

 

「私は羅刹王を誅殺し、殊勲を上げました。()()()

 

 一説によるとナラシンハとは信徒を守る守護神であり、同時に破壊神である。

 ヴィシュヌを信仰するプラフラーダを、魔神ヒラニヤカシプを誅殺することで守り、そして救世を成したのだから。

 

 敵がどこに居ても、どんな難敵でも、必ず殺す。

 

 破壊神であり、守護神であり、時間(カーラ)すら下僕とする人獅子。それがナラシンハの本質である。

 

「不滅にして至高天たる梵が指し示す──恐怖相。最も畏怖すべき我"ゴーラ・ナラシンハ"」

 

 ナラシンハの背中から、五十メートルはあろうかという翼が飛び出してきた。

 嚠喨にも思える産声が天地を揺るがす。

 ついには紅蓮に染まる高原の空を、怪鳥が埋め尽くした。空を埋めつくしているのも、天を揺るがしているのも、群れではない。

 

 たった一匹の怪鳥によるものだった。

 

 しかし遠方にそびえるアララト山にも匹敵する魁偉。肺は湖よりも広く、そして深く。喉は山脈よりも長く、高い。

 怪鳥の翼は魔風を呼び起こし、木々をなぎ倒しては炎上する劫火をそこかしこに伝えた。

 

 アルメニア高原が、火の海と化す。

 

 進化の過程で、もしこの怪鳥が誕生していたなら。

 人類の覇権など三日と経たず奪われていたに違いない。しかし、そうはならなかった。故に、この怪鳥はこの世ならざるもの。

 

 名を"シャラバ"。

 ヒンドゥー教の破壊神シヴァの化身が一。八肢の怪鳥シャラバであった。

 

 小国にも匹敵する鳥の周囲を、(のみ)じみてはね回る者がいた。

 ナラシンハだ。かのまつろわぬ神は、内から現れた怪鳥に果敢に挑みかかっていた。

 シャラバはナラシンハ自身が呼び寄せた神とはいえ、決して仲間ではなかった。神話を鑑みれば敵対者であり取り立て屋ですらある。

 

「おおおっ」

 

 しかし、思うのだ。自尊心が声高に叫ぶのだ。

 

 命には一つ一つ、定められた役目がある。

 《運命神》によって定められた役目が。

 それはまつろわぬ神ですら、神話に棲む"真なる神"ですら変えられない絶対の理だ。

 

 ナラシンハは神だ。

 定命のものとは一線を画す存在だ。だから知っていた……自分が何者で、何をなすべきなのか。

 

 神とアスラにも。人と獣にも。昼と夜にも。家の中と外にも。地上でも空中でも。

 

 そしてどんな武器にも殺されない体を引き裂け──魔神ヒラニヤカシプを誅殺せよ。

 

 つまるところナラシンハは己の為すべき使命を余すことなく弁えていた。誅殺せよ。誅殺せよ。かの神敵を爪の一撃で絶命させよ。

 

「我が名はナラシンハ! 人でも、神でもなく、ただ魔神ヒラニヤカシプを殺すために生まれた存在。ただ怨敵討滅の一振のために生み出されたヴィシュヌ神、至高の刃なり」

 

 それこそこの身に課せられたたった一つの"命"題。

 

「しかし私は()()()()()()。命題を完遂した……しかし我が生命は続いている」

 

 果たすべき命題この身にはある。いや、あった。

 

 ならばそれを果たした後はどうすればいい? 

 

 まつろわぬ神は不滅だ。神話に棲む"真なる神"と呼ばれる神々もすべて不滅という括りにある。

 だが結果の前には原因があり、まつろわぬ神の不滅には理由がある。

 つまり人類が編んだ叙事詩のなかに在ったからこそ。物語という幻想に息づいた存在だったから不朽不滅となれたのだ。

 

 ナラシンハはヒラニヤカシプを殺害した時点で終わっていた。終わらなければいけない筈だった。

 絵本を読み終えたら閉じるように、役目を終えたキャラクターとして物語の一文としてジッと静かに過ごさなければならなかった。

 

 しかし今は──()()()()()()

 

 ヒンドゥー教のとある一派はナラシンハをこうあれかしと唱えた。

 

 ──ヒラニヤカシプを倒したナラシンハの怒りは収まるところを知らず、止めようとしたプラフラーダの努力さえすべて無駄になった。

 

 プラフラーダはヴィシュヌを落ち着かせるのを手伝うためにシヴァに希った。

 

 その後、シヴァは彼の最も破壊的な形であるシャラバに現れました。

 

 それは巨大で恐ろしい、人食い鳥の形であると言われています。

 

 シャラバはナラシンハを翼で引っ掻き、極楽へ連れて行った──

 

 

 なぜナラシンハたる私が敗北を受け入れなければいけないの。

 ナラシンハは独自する。繰りかえし言おう。何度だって重ねて言おう。

 

 しかし今は──()()()()()()! 

 

 物語の枷はなく、神話の縛りもない。

 

 唯々諾々とまつろわぬ身を捨て、神話に帰るのが正解なのか。──否だ。

 物語に従い破壊神の化身シャラバに連れられ天界に帰るのが正解なのか。──否だ。

 古譚(プラーナ)に殉じ、何も為さず、何も望まず、死を迎えるのが正解なのか。──否だ! 

 

「私は私の物語を拒絶しよう。私は破壊の司たる権威を以て……シャラバよ。あなたに敗れる私は、あなたを打ち破ることで、神話の軛を破壊する破壊神の証としましょう」

 

 シャラバとナラシンハでは致命的なほど相性が悪い。まつろわぬ神がいかに物語から抜け出そうと、物語から生まれた以上、制約は受けるのだ。

 

 たとえ現世であっても常勝不敗の軍神が、主と仰ぐ光明神の権威に逆らえぬように。

 数千年の修業の果てに無敵となったアスラが人獅子に狩られたように。

 さしものまつろわぬ神であれ、神話の枠組みから抜け出そうと、物語から逸脱できなかった。

 

 人獅子は禍々しい爪を振り下ろす。裂帛の気合いで放たれた攻撃は、シャラバになんの効力も及ぼさなかった……はずだった。

 変化が起きていた。

 先ほどまで痛痒にも介していなかったナラシンハの攻撃。ともすれば羽の一枚も散らすことはなかったと言うのに。

 しかし今では、かすり傷が生まれ、羽毛が飛び散りはじめた。

 

「シャラバよ。最も破壊に長けた神の化身よ。我が古譚(プラーナ)に綴られるものならばヒラニヤカシプの如く──私に従え」

 

 酷薄な声が怪物の自尊心を凍りつかせた。その隙を見逃すナラシンハではない。

 

「不滅にして至高天たる梵が指し示す──休止相。最も破壊に満ちた我"ヴィランバ・ナラシンハ"」

 

 ナラシンハに手綱を握られて怪鳥の苦しげな悲鳴が空に響き渡る。シャラバの背に焼き印のごとく《バク》の梵字が浮かび、ナラシンハはついにシャラバを下僕としたのだ。

 神話においてナラシンハの取り立て屋であるシャラバを従属神とする。

 

 まつろわぬ身でしか有り得ない姿であった。

 

「クハハ! 善哉、善哉。では異教の蔓延る地など毘藍婆(びらんば)の大暴風にて一層してあげましょう」

 

 アルメニアの大地は確実に滅びへ向かっていた。

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 意識が明瞭としたものへ変わっていく。

 いつの間にか気絶していたらしい。カンピオーネになって以来、意識を失うなんて久しく味わっていなかったから新鮮だ。

 それはそれとしてあまりいい気分ではないのだが。

 

「起きたか」

 

 言いながら綉は懐から取り出したくたびれた煙草を咥えて、器用に片手で着火したマッチで火を点けた。

 

 どうやら車のシートに寝かされているらしい。硬質なクッションの感覚が肌から伝わる。

 腕に触れる。いつも巻いてあった布がない。

 後で探さなきゃな、祐一は起き抜けのぼんやりとした思考の中で思った。

 綉は開けた窓枠に腕をもたれ、(くゆ)らせた煙草から白煙がもうもうと閉め切った車内に充満した。

 

「おっさんかよ」

 

「まだ若ぇよ」

 

 俺年取らねぇんだ、と綉は笑っているががサングラスをかけた男が美味そうに煙草を吸っている姿はオジサンそのものだ。白い目も意に介さなず綉はもう一本取り出して祐一へと差し出した。

 

「吸えよ。消耗してるんだろう?」

 

「んあー……まあなぁ」

 

「いいから吸っておけ。お前の妙な体質のせいで今はこれしか手段がないんだから」

 

 そう言われると返す言葉もない。

 えっちらおっちらマッチの立てて火をつける。やがて祐一の煙草から煙が立ち昇った。

 カンピオーネの身体はいくつか特性がある。夜目が効くだとか、治りが尋常じゃなく早いとか、あとは言葉に不自由しないだとか。

 

 そして一番目を引く特性が、ありとあらゆる魔術を無効化するという体質だ。

 ありとあらゆる、という言葉は比喩ではない。魔術よりはるかに高度で強力なまつろわぬ神の権能ですら踏ん張れば無効化できるほどだ。

 

 しかし、ありとあらゆる、なのだ。

 再三いうが比喩じゃなく、敵意のある魔術どころか治癒の術すら無効化してしまう。

 なかなか困った体質だがこの体質には抜け道がある。

 

 経口摂取など、魔術を直接口から送り込む方法だ。綉の煙草もそんな祐一のために三日三晩頭をひねって編み出された逸品だ。賦活の煙草といった。

 煙草はもともと神事をおこなうシャーマンや巫女をトランス状態に近づける宗教的な道具だった。嗜好品とされたのは大航海時代にヨーロッパ持ち込まれてから。

 ナス科のニコチアナ属の植物で、ニコチアナ・タバカムという植物から作られる。

 祐一と綉の吸う煙草には当然そんな植物ではなく、ハオマや瑤草などの薬草を特殊な方法で混ぜ合わせた逸品であった。

 

 賦活の効力を含んだ煙を吸い込み、内息でとらえて臍下丹田へ送りこむ。喪った力をみるみる取り戻してしまう感覚があった。

 

 たとえカンピオーネという規格外でも十分に機能する回復道具だった。

 まあこれが底をつくと‪祐一と綉で男同士の熱いKiss……が視野に入ってくるので危険が危なかったりする。

 

 しばし二人して白煙を(くゆ)らせ一息つく。

 

「で。ココどこなんだよ」

 

「昔ガルニ神殿には来たことがあるって言ったろ? その時見つけた……"遺跡"……? いや違うな……《空間の狭間》……か? 『異界』、みたいなもの……だろう。多分」

 

「綉もわかってねぇのかよ」

 

 呆れながら辺りを見渡すと、確かに『異界』と言い張れるくらい奇妙な光景が広がっていた。

 どうやら白亜の宮殿の敷地内にいた。視線を巡らせばすぐ近くに長大な塔が聳え立ち、美しい庭園がのぞく。そしてさらに奥を見れば乾ききった砂漠が広がっていた。

 明らかに先ほどまでいたガルニ神殿とは風土も気候も異なっている。

 

「あのあと俺どうしたんだ? ナラシンハに焼かれたもんだと思ってたけど」

 

「ああ、焼かれる寸前だったぜ」

 

 飄々と肩をすくめる綉に胡乱な視線を浴びせると、ニヤッと笑い返された。

 

「元々、ヤバくなったらこの異界に引き込むつもりだったんだよ。ガルニ神殿付近を人払いしてずっとここでスタンバッてたんだ……んで、獅子神の攻撃が明らかにヤバい代物だったんで大慌てで引っ張ったって訳さ」

 

「そっか。ありがとな。……じゃあまだナラシンハは健在か」

 

「ああ。元気にアルメニアを焼いてるぜ」

 

「はあ? なんでまた」

 

 ナラシンハは確かに強力だった。しかし民衆を無作為に苦しめるような神にも思えなかった。

 まつろわぬ神がそういう存在だと言われたらそれまでだが。

 

「元々、ナラシンハという神自体そういう性格なんだよ。異教徒の存在は絶対に許さない宗教的排他主義の性格がな」

 

「性格ねぇ……」

 

 二人してキッチンカー備え付けの灰皿に灰を落とす。今まで使っていなかったらしく新品同然なのが心苦しい。

 

「俺にはちょいちょい失礼だけど小気味いい奴にしか思えなかったけどな」

 

「それは知らん。ともかく……ナラシンハ信仰と異教徒はどうしても切り離せない関係にある。だからこそキリスト教国家のアルメニアや、周囲のムスリム国家が許せないんだろうな」

 

「いつもながら人類の危機って訳か」

 

 綉は頷いて車から降りた。

 どこいくんだよ、と問いかけるが答えはなかった。ずんずん進んでいく綉の背中を追い、周囲の景色を眺めた。

 宮殿か神殿を思わせる建築様式で、煉瓦積みになった一本道の通路を進む。普通、これほどの規模の建築物になると外敵の襲来を警戒して入り組んだ構造になるはずだが、なるほど外と切り離された土地のためか非常に分かりやすい造りだ。

 

「ここは」

 

 そうして辿り着いたのは広々とした広間だった。

 祐一は息を吞んだ。最奥には座る者のいない朽ちた玉座がぽつねんと存在しており、在りし日の繁栄を想わせた。

 だが祐一が息を呑んだのは玉座の美しさによるものではない。感じるのだ。

 ──郷愁。

 ガルニ神殿を訪れてからたびたび胸に去来した感情の淵源はここにあった。

 

「綉。此処は一体……なんなんだ?」

 

「さあな。だが……」

 

 咥え煙草を消した綉も玉座を見上げて目を細めた。

 

「遥か昔ガルニ神殿で祀られた太陽神が此処には根城にしていたんじゃないか。お前が弑逆したまつろわぬ神はその太陽神に仕える軍神だったからな」

 

「神の名前は……?」

 

「ミスラ。太陽の神ミスラ王だ」

 

 ミスラ。

 覚えのない言葉だ。でもその3文字を言霊に変えるたびに頭蓋の奥深くに眠る記憶が身動きした。

 

 難しい顔を浮かべる祐一をおいて、綉は玉座の裏に回り込むとなにやら準備をはじめた。

 

「ちょっと待ってな」

 

 綉の眼前には巨大な一枚鏡があった。おそらく彼の大王が使っていたらしき大鏡は、今ではくすんでしまい往年のよすがさえ読み取れない。

 

「──鏡天水盆

 

 おもむろに綉は言霊を唱えた。

 そうすると大鏡が波打ち、鮮明な映像を映し出した。

 

「ほー。映画館みてぇだ」

 

「映ってるのはフィルムじゃなくて現実だがな。見ろよ、アルメニアが燃えてるぞ」

 

 状況は混沌としていた。

 アルメニアは高原であり森を欠いた土地だ。背の低い草や砂利が広がるばかりだ。

 しかし元気にアルメニアを炎上させているまつろわぬナラシンハの放つ炎は、薪になるものなど必要ないと言わんばかりに燃え盛っていた。

 

「ぐえー……ナパーム打ちまくってる戦闘機かよ」

 

「アルメニアは高原だからな、そんな時間もかからず風に乗ってアナトリア半島やコーカサス山脈、果てはイランにも飛び火するだろうな」

 

「時間はないか」

 

 独り言ちる。その時にはもう顔つきは戦士のものへと切り替わっていた。

 

「しっかし分からねぇなー。ナラシンハってインドの神様なんだろ? なんでまたアルメニアなんぞに現れたんだか」

 

「そりゃあお前のせいだろ祐一」

 

「え?」

 

 瞠目する祐一に苦笑を浮かべる。まつろわぬ神は原則的に、縁のある土地にしか現れない。

 例外があるとすれば、いや、例外を生み出すとすればカンピオーネという埒外の存在しかいないだろうに。

 

「最初に現れたアスラ族の魔神ヒラニヤカシプには兄弟がいたのさ。名をヒラニヤークシャ。ヒラニヤカシプと同じく世に混乱を巻き起こして討伐された魔神だ」

 

「ヒラニヤークシャねぇ……」

 

「お前は出会ってるぞ祐一。どうせ覚えていないだろうがな」

 

「ははは。まぁーたく覚えてねえ」

 

「んで話を戻すが、まつろわぬナラシンハの呼び水になった魔神ヒラニヤカシプ。そして魔神ヒラニヤカシプの呼び水になったのがヒラニヤークシャ」

 

 綉は親指を立てた。

 

「そしてもう一つ」

 

 次に人差し指を立てた。

 

「まつろわぬナラシンハ降臨の呼び水がある。それも決定的なものがな」

 

「へぇー」

 

「お前の権能だ、祐一」

 

「は?」

 

 不意打ち気味に指を指されて、今度こそ目を瞠いて驚愕をあらわにした。

 画面外で他人事のようにトークショーを聞いていたのにいきなりステージに放り投げられた気分だった。というかなんの冗談だ。

 

「ナラシンハとお前が弑逆し権能を簒奪した軍神は元を辿れば同じ神に辿り着く──名を"雷霆神インドラ"。遠大なインド神話でも最高峰の武神だ」

 

「ちょ、ちょっと待てよ!」

 

 綉の言葉に耳を貸さず割って入った。

 

「ナラシンハと俺が倒した神は全然違うだろ!? 俺のはイランの神様……だったらインドとイランじゃかけ離れてるじゃねぇか!」

 

「そうでもないさ、インドとイランは神話単位で言えばご近所さんだ。アスラなんて共通言語だし……とはいえインドで神々の敵対者になってるアスラが、イランじゃゾロアスター教の主神アフラ・マズダーと扱いが真逆でおもしろいことになってるけど」

 

 微笑する綉に、閉口することになった。自分より遥かに知識を持つ相方が言うのなら、信じるしかない。スマホを見ても圏外だ。

 

「アスラの扱いが逆なら神様の扱いだって真逆だ。雷霆神インドラはイランだと悪魔にされ、インドラの別名でもあった《怪物殺し》の尊称はインドラと分離されやがて独り歩きしはじめる。そして信仰を得るようになり勝利を司る軍神の誕生って訳さ」

 

「ふーん。でもそれがナラシンハとなんの関わりがあんだよ?」

 

「神話で言えばお隣さんだが、お前が言った通りイランとインドはかけ離れてる……じゃあ遠方のイランですら信仰集めた神がいたのに、インドでは信仰を集められなかった──なんて話があると思うか?」

 

「おいおい? まさかイランじゃなくインドで信仰を集めたのがナラシンハだって言うのか?」

 

「その通り。まあルーツとなった伝説は違うがな。──インドラ・ナムチ伝説とヴリトラ殺害の説話。この2つがナラシンハとお前の弑逆した神様のルーツだ」

 

「……」

 

「この二つの伝説は非常に似た性質を持っているし、インドラ・ナムチ伝説がヴリトラ殺害の説話の原形だという説もあるくらいだ」

 

 リグ・ヴェーダと呼ばれる神々の讃歌が記された文献に、インドラ・ナムチ伝説とヴリトラ殺害の伝承が残されている。

 ともに多くの類似点があり、「昼でも夜でも」「乾いたものでも湿ったものでも」など"どちらでもない"の制約を持っていた。

 成立はインドラ・ナムチ伝説が早く、ヴリトラ殺害の伝承はインドラ・ナムチ伝説を原形と主張する学者もいる。

 

 ヴェーダのナムチ伝説の「掌でも拳でもない」「昼でも夜でもない」という表現は後のプラーナのナラシンハ伝説にも見られる表現であり連続性を示すに十分なものだった。

 そしてインドラが悪魔ヴリトラを倒し《ヴリトラハン》の尊称を得てイランで信仰を集めたのは前述した通りだ。

 

「だからナラシンハは……って何やってんだよ」

 

「頭抱えてんだよっ、妙な神様呼び寄せちまったから!」

 

 落ち込んでいる祐一に綉は肩を竦めてため息をはいた。

 

「仕方がないだろう。まつろわぬ神と同じでカンピオーネも台風の目には変わりない。まつろわぬ神の一柱や二柱呼び寄せもするさ」

 

「はぁ……。それもそうだな俺がまつろわぬナラシンハぶっ倒して帳尻合わせばいいんだよな」

 

「慰めた俺が言うのもなんだが、納得するな」

 

 ポジティブすぎる、綉は言葉をかけたのをすぐに後悔した。

 反省はするが後悔はしない。反省はするが次に活かさない。その上すぐに忘れる。

 それが木下祐一でありカンピオーネの本質であった。

 

「だけどよぉ今度のナラシンハは随分多彩なのは不思議だよな」

 

「不思議って?」

 

「だってナラシンハってヒラニヤカシプ殺したくらいしか神話ないだろ? それも爪の一撃で終わってる訳で。なぁんであんな色々な姿になれんだよ*1

 

「たぶん九相のナラシンハ(ナヴァ・ヴューハ・ナラシンハ)、つってなナラシンハ信仰が最も盛んな南インドのアーンドラ地方でよく見られるナラシンハの図像を反映したんだろう」

 

「あん? それじゃあヴィーラとかウグラとか言ってたのはそれか?」

 

「ヴィーラは勇猛、ウグラは獰猛だな。エクササイズのヨガにヴィーラを冠したポーズがあったんじゃなかったか」

 

「ふぅん……」

 

 ナラシンハは主にヒラニヤカシプを殺害した図像が多く描かれるが、ナラシンハ信仰が最も盛んなアーンドラ地方のアホービラムではさらに細かく多種多様なナラシンハの図像が描かれる。

 その代表的な図像を分類したのが九相のナラシンハ(ナヴァ・ヴューハ・ナラシンハ)だ。

 そして地上に現れたまつろわぬナラシンハが開帳した姿は以下である。

 

 ・火炎相"ジュワーラ・ナラシンハ"

 ・地母相"ラクシュミ・ナラシンハ"

 ・獰猛相"ウグラ・ナラシンハ"

 ・勇猛相"ヴィーラ・ナラシンハ"

 ・休止相"ヴィランバ・ナラシンハ"

 

「ウッソだろ! まだ4つも残ってんの!?」

 

「とある情報筋*2ではそうらしい……頭が痛くなるな……」

 

 それに、と言葉をおいて綉はふたたび紫煙を燻らせはじめた。

 

「まつろわぬナラシンハはシャラバすら下僕にした。これは神話内じゃ有り得ない事だ。ナラシンハを討伐するシャラバという設定は過熱するヴィシュヌ派を掣肘するために作ったシヴァ派の後付けの神話なんだからな……実際、紀元前4世紀から紀元4世紀に成立したマハーバーラタにもシャラバは登場するが、ただ獣を怖がらせる鳥でしかなかった」

 

 ははぁ、と顎を撫でながら祐一が唸った。

 

「神話の軛から抜き出す、ってのはそういう意味でもあるのか。まつろわぬオーディンがフェンリルに勝っちゃったようなもんか」

 

「……まあ、お前が理解出来るならそれでいい。逆に言えばヒラニヤカシプがナラシンハを倒すなんて展開もあった訳だ」

 

「ヒラニヤカシプか。結局あの護りは抜けなかったンだよなぁ……」

 

 大鏡に視線を移す。そこには末世があった。

 怪鳥を従属させた人獅子が、地上の悉くを塵へと変える毘藍婆を撒き散らし飛行している。

 まさにまつろわぬ神。神話から逸脱した姿であった。

 

「綉。どう思う?」

 

「十中八九。だが大丈夫だろう」

 

「なんだ、慰めか?」

 

「事実さ……じゃなけりゃあ本当の無敵が存在しちまう。そんなことは有り得ない」

 

 人間にハナから勝ち目はないさ、綉は続けた。

 

「そんなもんか?」

 

「万物流転するし、有為転変は世の倣いだ。不死、不滅、不朽。そんなもの本当の意味じゃ存在しないのさ……例えあったとしても不死を殺せる力も、不滅を滅ぼす力も、不朽も壊す力も必ずセットで生まれると思ってる」

 

 綉は根元もまで灰になりかけの煙草を吸い、なんてことはないように言った。

 

「お前みたいな、な」

 

「綉が……デレた!?」

 

 うるせ、と小突いてくる相棒をかわしつつ大鏡から外の景色を眺める。

 滅びは始まっていた。そして誰にも止められない滅びであった。

 ただ一人を除いて。人類に残された最後の希望を除いて。

 

「しっかしあの無茶苦茶やってるナラシンハをぶっ殺せる力ねー。実際あんのか? あるんなら教えて欲しいねぇ……今、イッチ番欲しいブツだぜ」

 

「ま、不死殺し云々はただの持論だから話半分で……というか、ナラシンハ殺しは成し遂げて貰わなくちゃ困るんだがな」

 

 ひとしきり笑い、場の空気が変わったのを察した。

 

「なあ祐一。ナラシンハは自分に仕える信徒を守護する神だ。その守護の形態は破壊。守護神であり破壊神の相も両立するまさになんでもあり(ヴァーリ・トゥード)の神……それを踏まえれば彼のまつろわぬ神の行動は読み取れると思わないか?」

 

「さっき教えて貰ったとおりだろ? アルメニアはキリスト教、周囲の国はムスリム。そんでナラシンハはヒンドゥー教の神様、どうせこの土地の人間全員焼き尽くす算段なんだろ? よくある展開だぜ」

 

「フっ……。だな」

 

 祐一には現状、二つの選択肢があった。

 

 一つはこのまま安全圏でナラシンハの暴挙を眺めること。

 

 一つは無敵にして無類の破壊神たるナラシンハに愚かしく挑みかかること。

 

 知恵ある人間なら迷わず決断できる選択肢だった。先に考えることの出来る"智慧"を與えられた人間であれば。

 

「──で、()()()()?」

 

 綉がサングラスの縁を押し上げて問いかけてくる。榛色の瞳と蜜色の瞳が交錯する。

 迷いも衒いもなく、笑みで返した。

 

 笑う。笑う。答えなど……

 

「──決まってらあ!」

 

 綉は口角を吊り上げ、よく応えた。

 

「だろうと思った、よ! 

 ──太上道君 普在万芳

 

 それは口訣だった。

 真日輪綉という道士が修めた《(タオ)の術。

 

道無不 三界内

 倶国法 依王道

 好事行 悪事止

 敬天地 重天日

 成人学 破人断

 

 道教の最高神格の太上道君に祈願し、森羅万象に道を繋げるという道君神呪。

 

急速急来応願──!」

 

「うおっ、わ、わ!」

 

 足元が急に眩い光を放ったかと思うと、唐突に穴が開いた。さしもの祐一でさえ珍しく焦ったような声を上げ、対して綉は泰然としていた。

 

 虚空に放り出された二人は自由落下し、眼下に燃え盛るアルメニアの大地を見た。燎原のごとく広がる炎は加速度的に面積を広げていく。

 

 やらねば。

 祐一は拳を握った。

 

 ついでのように落下していたキッチンカーへ乗り込む。なんだかんだこの車とも長い付き合いになりそうだ。

 

 ぐわん。

 地面に接するとまるで地面がマットへ早変わりしたかのように()()()、二人の乗るキッチンカーを受け止めた。

 タイヤがしっかりと大地を踏みしめ走り出す。

 

「祐一! お前は誰かに道を教えて貰わなくちゃすぐ迷っちまうのに、燃料さえありゃ何処までも走り続ける暴走機関車だ!」

 

 道無き道をエンジン全開で走らせながら綉は笑う。

 迷惑ばかりかける大馬鹿者だ。後先考えない愚か者だと。

 それでも笑う。

 痛快だと。それでこそだと。

 

「ひっでぇ!」

 

「だから、俺が()()()()! お前が常勝不敗を掲げ続けられるように、道を舗装してやる。だから、お前は進め! そして──」

 

 綉は懐からあるものを取り出した。それを祐一に投げ渡す。

 

 綉が渡したそれは、なんの変哲もない赤い布地だった。特筆するところのない細長い布は、しかし祐一にとっては何よりの餞だった。

 

「──勝つよ。常勝不敗は、俺が掲げたんだから」

 

 布を両手に持って、頭に巻いて強く結ぶ。赤い二条が祐一の頭部から伸びる。

 鉢巻は非日常の象徴だ。祭りや、戦、出産など鉢巻を巻くことで日常と非日常の線引きをして、死地へと赴いた。

 けれど生まれついてのウォーモンガーの祐一にとって、戦場は日常であったし、死地は故郷だった。

 なら鉢巻の意味は違ってくる。

 

 頭蓋骨を潰しかねないほど強く結んだ祐一の瞳には強い意志が瞬いていた。

 

「行け、祐一。あそこになら()()はずだ。どんな神でも……いや、神だからこそ弑逆できる巨人殺し(ジャイアントキリング)の鍵が」

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 反撃の狼煙は、唐突だった。

 

 ──GYAAAAAAAA!? 

 

 地上から火薬の弾けた音が聞こえた瞬間、騎乗していたシャラバが絶叫を上げたのだ。

 まつろわぬナラシンハが瞠目する。

 ぱしゃん、と小さな破砕音のあとに破壊神の化身であるシャラバが為す術なく塵と化していく。

 覚えがある。この死に方、否、滅び方には覚えがある。

 

「私が腕を喰い千切った力と同質のもの。あらゆる障碍を打ち破る──太陽神の尖兵の牙! 生きていましたか神殺し!」

 

 やはり神々の宿敵は()()()()生き残り、牙を向けてきた。例え元が人間であろうと、どんなに地力差があろうと、不屈の闘志で立ち上がる。羅刹王とは、神殺しとは、やはりそうでなくては。

 その器量なくば《戦士(チャンピオン)》の称号を背負う資格なし。

 

 シャラバを安々と乗り捨てたナラシンハは、嬉々と爪を掲げて駆け出した。

 まつろわぬ神と神殺しの魔王の決戦が始まろうとしていた。

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 祐一が現在身を置いているのは洞窟をくり抜いた古い修道院だった。例によって人っ子一人いない。

 院内の最奥部の祭壇でふところからベレッタM92を取り出す。吸っていた煙草を捨てて、銃口を天井に向けた。

 この修道院も天井に穴があり、ガルニ神殿と同じく日光を内部に伝える構造になっていた。

 

「んじゃ始めるか──化身>>弾丸 《(نیش)》:SET」

 

 言霊を結ぶと弾丸に不可視のなにかが覆い、空を舞うシャラバに向けて発砲を繰り返す。

 相棒の愛銃を借り受けていたのだ。

 祐一の戦闘スタイルは徒手空拳だ。距離を取られると自前ではほとんど攻撃手段がなくなる。

 まあ岩を投げつけるなりもっと派手にやってもいいのだが、ガルニ神殿と同じくらい歴史と価値がある世界遺産を崩壊させてしまうのは忍びなかった。

 

「つっても戦場にしちゃうからお察しなんだけど」

 

 破砕音が聴こえシャラバを打倒した確信が生まれた。幾許も時を置かず、感じる……接近してくる神の気配。

 身体に力が充足する。感覚が怜悧に、そして気持ちが昂った。

 

 来るぞ。

 

 来るぞ。

 

 来るぞ! 

 

 本気のまつろわぬ神が! 

 

 

「不滅にして至高天たる梵が指し示す──恐怖相。最も畏怖すべき我"ゴーラ・ナラシンハ"」

 

 

「不滅にして至高天たる梵が指し示す──優美相。最も鋭利なる我"スダルシャナ・ナラシンハ"」

 

 ()()()

 

 言霊が耳に届いた瞬間、祐一は身も世もなく身体を投げ出した。その判断に間違いはなかった。

 修道院が洞窟を構成する渓谷と岩盤ごと横殴りに切断された。ゾッと寒気がするほど狂いのない斬撃は、切断面の摩擦をゼロにし修道院を崩落させた。

 崩れ去った修道院の瓦礫を蹴飛ばして、外界に顔を出す。獅子の黄金瞳と視線が重なる。

 

「化身>>左腕 《(نیش)》:SET!」

 

「チャクラムよ! 創造、保存、破壊、妨害、隠蔽と五つの能力(シャクティ)の示現たれ!」

 

 牙と刃が激突する。

 神話内において敵対者を悉く粉砕してきた武器が拮抗している。

 ナラシンハの獲物はおそらくスダルシャナ・チャクラム。乳海攪拌というインド神話の創世記にも登場する、太陽光線を神格化したヴィシュヌ神が日輪から生み出した神具だ。ヴィシュヌの化身であるナラシンハが扱えない道理は無い。

 

「まともに触れたら真っ二つ間違いなし、だな」

 

「当然。ですが君の権能も賞賛すべきでしょう、我がチャクラムと衝突しながら健在なのですから」

 

 ふてぶてしく笑って拳を握りしめた。

 まったく勝手なことを言ってくれる。さっきの激突で内出血はそこかしこに起きているし、骨だって何本も逝っている。

 強大で禍々しい存在感の《(نیش)》は鋭い鏃の威力を与えると同時に、鋼を上回る硬度を与える。

 使いようによっては、たとえ武威をならす軍神らでも容易に切り崩せない重厚な要塞となる……のだが。

 スダルシャナ・チャクラムという破壊神シヴァのトリーシュラや創造神ブラフマーのブラフマーストラと比肩する神具ではいささか相手が悪い。

 

(さて、どう攻めてくる?)

 

 ナラシンハと対峙する祐一が蜜色の目を鋭くした。

 おそらくナラシンハはこちらへの侮りは捨てたと見ていい。そしてまつろわぬ神は地力や戦いの経験におて一日の長がある。

 まつろわぬナラシンハは笑みを絶やさず腕を掲げた。祐一も身構え、よく備えた。

 まつろわぬ神など例外なくデタラメだ。

 制空圏から遠く離れていようとも、斬撃を飛ばすくらいの芸当は朝飯前だろう。

 

「な──!」

 

 備えていたはず。だが驚愕が喉から飛び出た。

 当然だった。まつろわぬナラシンハの姿が消失したのだ。

 

 目を離すわけもない。なんのマジック……いや権能によるものか。

 ナラシンハは姿を消し、そして見えた。権能の一端である"虚空道"がはっきりと教えてくれる。

 

 道は真っ直ぐに喉元まで伸びていた──何も無い中空から!

 

 祐一は強烈な焦りともに後ろへ飛び退った。

 金光一閃。後にはチャクラムによって綺麗に切断された空間があった。

 

 下手人は人獅子の怪神。

 

 牙を見せて笑うナラシンハと対照的に、"虚空道"を信じられなかった祐一は首を負傷し、鮮血が服を汚した。

 

「馬鹿な、どうやって──ぐッ!」

 

 まただ。また見失い、1フレーム後には獅子の顔があった。

 有り得ない。動体視力には自信があった祐一にその事実は衝撃だった。

 

「どこだ!?」

 

 また居ない。

 必ず見失ってしまうのだ。"虚空道"がなければもう死んでいると確信できる。消滅したように前動作もなく忽然といなくなることなどあるのだろうか? 

 

 動作には必ず予兆があるものだ、それは物質に依存している生命体ならば拭えない縛り。神々だって例外は無い。

 過去と現在と通ることなく未来にたどり着けないのと同じだ。原因をともなわず一足飛びに結果を得ることなど出来ない。

 

 そして1番奇妙なのは、気配や音すらしなくなることだ。

 まるで……そう。まるで"この世から一時の間、立ち去ってしまった"ような空虚が残るのみ。そして気づけば、どこにでも現れる。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 瞠目する。思い出した。

 ヒラニヤカシプはどうやって殺害されたのかを。そしてナラシンハ自身が言っていたでは無いか──普遍無比(ふへんむひ)と! 

 

「まさか、()()()()……遍在の権能だとでも!」

 

「その通り。我が淵源(えんげん)たるヴィシュヌの神威は無限にしてあまねく総てに行き届く。その象徴こそ人獅子たる私なのだ、以後見知りおけ神殺しくん」

 

 次は懐から。チャクラムを煌めかせ、魔神を一撃で(ほふ)る爪を閃かせ、瞬きの間に殺害圏内に踏み入ってくる。

 スダルシャナ・ナラシンハにゴーラ・ナラシンハ。九相の二相を同時に展開したバトルスタイル。

 流石の祐一もたまらなかった。

(نیش)》の鉄壁さも、神殺しの肉体も、一顧だにせず鮮血が舞う。

 カンピオーネの身体は確かに魔術に対して高い抵抗力を発揮する。暴風、炎熱、海嘯。それらがもし魔術や権能で引き起こされたものなら問答無用で無効してしまう。ともすればロウソクの火や、うちわのそよ風、小雨の方がよっぽど効果がある。

 しかし魔術に限った話だ。直接刃を差し込まれれば、傷は生まれる。脳漿をぶちまけたり心臓を刺されれば死ぬ可能性が生まれるのだ。

 

「痛いンだよクソったれッ!」

 

()()

 

「これで……ピースは全部揃ったって事だよなァ!」

 

 綉は言った。

 

『ナラシンハはシャラバを一体どこから呼び出したんだろうな?』

 

 ああ、はっきりした。自分から遍在を司ると正体を明かしてくれた。

 ナラシンハが消失する。

 だがもう()()()。カンピオーネという埒外の獣が同じ手を大人しく受け入れるものか。

 どんなに見え隠れしようが、狙ってくる場所は予想出来る。

 

 金光一閃。

 腕を切り刻まれながらもスダルシャナ・チャクラムを握り締めた。

 痛い、痛い! とんでもなく痛い! 

 肉を切らせて骨を断つ。言葉にするのは簡単だが、とにかく痛い。こんな言葉を考えてたやつは馬鹿かきっと痛覚がなかったに違いない。

 

「肉も骨も切らせてやる……だがテメェの武器、貰うぜ──化身>>チャクラム 《(نیش)》:SET!」

 

「ぐ、ガァァアアアアア!?」

 

「痛、ってぇぇぇえええ!!!」

 

 主導権を強制に奪い、刃を疾走せる。

 神域の武器だ。微細な力の動きでさえ過剰に反応し、鋭利ば刃から斬撃を繰り出した。

 握った左手が辛うじて切り飛ばなかったのは《(نیش)》の残り香と幸運のおかげだ。カンピオーネの骨はどんな金属より硬いとは評判だが、さすがに耐えれなかっただろう。

 

「オラァ!」

 

 苦悶するまつろわぬナラシンハの隙を見逃さず、祐一は右腕を、脇腹に広がる裂傷へと突っ込んだ。

 

「何を!」

 

「テメェの身体ん中は"どこにでも繋がってんだ"ってテメェが証明したんだぜナラシンハ!」

 

 シャラバの招来に加え、スダルシャナ・チャクラムの登場。それらは元々ナラシンハが持っていたものではない。

 一つの相を用いることで《過去》《現在》《未来》から招来していたのだ。

 

 恐怖相"ゴーラ・ナラシンハ"

 遍現自在の相である。

 

「なあ知ってるか? この修道院の名前を」

 

「修道院の名だと……?」

 

「ふ、知らないなら好都合だぜ」

 

 問答の間にもスダルシャナ・チャクラムによる裂傷に加え、生え揃った獅子の爪牙により身体が切り刻まれていく。

 

 だが怯まない。

 

 "鉄砲玉"だの"弾丸"だの、謂われのない中傷じみたあだ名を付けられているらしいが祐一は自分をよく評した名前が結構気に入っていた。

 

 やると決めたら、やるのだ。喉元を喰い千切ると決めたら、喰い千切るまで離しはしないのだ。

 

 綉は言った。

 

『ナラシンハが異教を滅ぼすつもりなら、その異教ってやつを最大限に利用すりゃいいんだよ』

 

「……ナラシンハ、あんたは時間を司る神なんだから呼び出すモンに()()()()も関係ねぇ。

 遍在を司るんだから()()()()も関係ねぇ。

 シャラバっていう天敵を呼び出したんだから()()()()()も関係ねぇ」

 

 凄い神だよ。祐一は称揚し、そして添えるように言った。

 ──太っ腹すぎるぜ。

 

「だったら……俺にだって招来出来るはずだよな? 人でも神でもないっていうお前には一番利く神器がよお!」

 

 狂気的に勝利を求める意志は、ナラシンハ(時間神)を突き抜けて、一本の神器を掴み取った。

 

 曰く、ゲハルト《槍》の名を冠した修道院にて長く隠匿されていた神器。

 

 曰く、その神器を獲得したものは世界を制する力を得る。

 

 曰く、とある聖人の脇腹を突いた史上最高位の聖遺物(レリック)

 

 

 名を──『聖槍』ロンギヌス(սուրբ նիզակ)原典(օրիգինալ)

 

 

 嘆くべきか、狂喜するべきか。幾年月、ゲハルト修道院に眠っていた聖槍が帰還する。

 異教のまつろわぬ神と穢らわしい神殺しの闘争によって!

 

「くくくっ……くはっ、クハハッ、クハハハハハハハハッ!!! 痛快だ! これを笑わずにはいられましょうか!? 

 "神殺し"が《神殺しの槍》を抜きますか!」

 

 熱、熱、熱。ナラシンハは熱を感じた。

 裡に宿る《鋼》の神格が咆えている。赫怒を燃やせと。

 かの羅刹王を完膚なきまでに打倒せしめ剣の宿星に立ち帰れ。魔王を打ち破る御剣(みつるぎ)となれと。

 

 熱、熱、熱。ナラシンハは熱を感じた。

 裡を満すヴィシュヌの神性が哮える。憤怒を燃やせと。かの羅刹王を完膚なきまでに誅殺しカリ・ユガ(暗黒時代)を破却する手斧となれ。救世の天命をまっとうせよと。

 

 だが思うのだ。

 

 知ったことかと。なぜなら我が身は──()()()()()()! 

 

 今はこの愛おしさしさすら覚える宿敵と命を懸けて語らいたい。

 

 "好敵手"。

 

 ふと、ひとひらの言葉が降りてきた。

 敵対者を一撃で屠ってきた神話のナラシンハでは有り得なかった概念。しかし、眼前の少年を形容するならばそれ以外にない。

 

「因果の王にして全なるプルシャよ! 総ての《運命》の淵源よ! 私にこれほどの好敵手を授けたことに感謝を! ──神殺しよ。その命、我が爪牙をもって輪廻に還しましょう!」

 

「上等ォ!」

 

 晴天に雷鳴が木霊する。

 互いに満身創痍。しかし繰り出す一撃は鋭さを増して。

 まつろわぬ神と神殺しの意地と意地の張り合いが始まった。

 

 ナラシンハは異教から信徒を守護する神だ。

 

 人獅子ナラシンハは西暦2世紀から4世紀頃には既に信仰されていたと考えられており、現にナラシンハを描いた像が発見されている。

 最初期に発見されたナラシンハ像にはヒラニヤカシプの姿はなかったが、その後、5世紀頃のナラシンハ像には共に描かれるようになった。

 

 9世紀になるとインドのみならず東南アジアのインドネシアでもナラシンハ像は彫刻されていた痕跡が残る。

 

 インド南部で古くから信仰され、現代ではヴィシュヌの化身の中でもクリシュナやラーマに次ぐほど人気ではあるが……最初から大規模だった訳ではない。

 

 契機があったのは中世。しかも大きな理由があった。

 

 異教徒の侵攻だ。

 

 前述したがナラシンハ信仰が栄えた理由に、ムスリムの侵攻と切り離して考えるのは難しい。

 ナラシンハ信仰の最盛期はインド亜大陸で栄えた16世紀のヴィジャヤナガル王国。その頃のヴィジャヤナガル王国はムスリム5王国と争っており、ターリコータの戦いで十万人の兵士と王を処刑される危機的状況にあった。

 

 そこに白羽の矢が立ったのが破壊と守護の顔を持つナラシンハであった。

 

 強大な敵に対して、団結し対抗するため、宗教の力を借りることで乗り切ろうとしたのだ。そう考えればまつろわぬナラシンハの異教徒排除の行動にも納得がいく。

 

「羅刹王よ。私はいささか、いえ、途轍もない無礼を働いていたようです。私はどこかで君を侮っていた……所詮、人間の成り上がりでしかないと見くびっていたのでしょう」

 

 聖槍を抜きナラシンハを驚かせた祐一だったが、今度はこちらが瞠目する番だった。

 まさかまつろわぬ神が陳謝するとは! 青天の霹靂とはこの事だった。

 

「しかし君は戦士だった。私が挙げた首級の中でももっとも輝くだろうと確信できるほどに──名を」

 

「なに?」

 

「もう一度、教えてくれ。神殺しの王よ」

 

 蜜色の瞳と黄金瞳が交差する。

 

「祐一だ。木下祐一」

 

「木下祐一殿。私は誰でもない君に誓おう。ヴィシュヌの化身(アヴァターラ)でもなく、異教徒を殲滅する守護神でもなく、全身全霊をもって君を滅殺する敵手(アヴァターラ)とならん」

 

 宣誓を終えた途端、呪力の颶風が吹き荒れた。

 

「化身せよ人獅子(ナラシンハ)。我は神に非ず、人に非ず。窮地と敵意を引き裂く至上の爪牙。ただ破壊のみに生を与えられた守護獣。なればこそ魔王に相まみえれば更なる外道覆滅の化身とならん」

 

 ナラシンハの口上が結ばれると同時に腕が四臂へと()()()。毛並や鬣に赤みが増す。倍になった爪をかまえた。

 

「不滅にして至高天たる梵が指し示す──憤怒相。天下無双たる我"コーパ・ナラシンハ"」

 

 変化はそれだけにとどまらずすべての爪に《バク》の梵字が浮かんだ。救世主の冠字が爛々と魔王をねめつける。

 

(おー、おー、またヤベェもんが……)

 

 汗が滝のように吹き出す。

 ナラシンハの異様も手伝っているが、単純に暑い。砂漠のど真ん中で太陽に晒されているようだ。

 

「失礼。憤怒相たる私は怒りによって熱気が抑えられなくなる性質(たち)なのです」

 

「チッ、じゃあサーカスにでも入団してやがれ! 火の輪っかをくぐったら拍手のひとつくらい投げてやるからよ!」

 

 熱い。とんでもなく熱い。

 口を開けただけで喉が焼ける。赤く変わったのは見掛け倒しではない。

 手の付けられない温度が周囲を席巻し、今度は鬣が炎へと変貌(へんぼう)していく。炎の熱波に獅子の鬣が波打つ。

 ナラシンハは前傾姿勢をとって爪を逆立てた。

 

 ナラシンハのルーツは雷霆神インドラだ。

 

 インドラはただの雷霆や天空を司る神だけではなく闘神、英雄神としてのイメージもある。実際、インドラは人々を苦しめる悪魔や魔王と戦い英雄神としての顔も持っている。

 インドラもまた《鋼》の軍神なのだ。

《鋼》とは戦いの神を指す言葉だが、単純に鋼や鉄を指す言葉でもある。

 銃やミサイルなどの近代兵器登場以前、人類の主たる武器は鉄器だった。そして鉄の鍛造には火は欠かせない要素。神話にも鋼の肉体を得る様が描かれいる。

 

金丹(きんたん)盗み服みたれば、わがからだまた(きた)えられ、銅の筋肉、鉄の骨、火眼のなかの暗は金。屁眼(しりのあな)は真鋳製、鶏日(おちんちん)は錫メッキ」

 

 斉天大聖・孫悟空が太上老君によって八卦炉のなかに入れられ鉄頭銅身を得た逸話だ。

 他にもナルト叙事詩の英雄神バトラズも似たような神話を持つ。故に炎もまた彼らの下僕。

 鉄火を下僕とし強靭な肉体と卓越した武技をもって戦場を駆け抜け敵をまつろわせる。それが《鋼》という神々。

 インドラの破邪の英雄神という性格は十分に魔神殺しのナラシンハにも受け継がれている。

 

 ドォン。

 まつろわせるナラシンハの神気に当てられたか、遠方の一際存在感を放つ山が噴火しはじめた。

 噴火を合図としたナラシンハが猛然と攻めかかってきた。

 

「く──!?」

 

 遍在。金光一閃。そして消失。あとには激烈な熱さが残る。

 気配も予兆もなく現れて、絶命必至の武器が襲ってくる。当たらなければまた消える。熱さに気を取られ思考すらままならない。

 祐一の性格や権能は近接戦闘や格闘戦に向いている。本人の前に出る気性と合わせても調和していと言っていい。

 しかし今度の敵は歩が悪かった……いや、悪すぎる。

 十合、二十合と聖槍と拳が飛び交う。だがナラシンハには届かない。

 素手より武器を持った方が有利なのは当然だ。

 祐一自身、無手で戦ってきたため扱いあぐねているいるのもあるが、単純にナラシンハが武闘の妙手であった。

 

 きぃん、きぃん。爪牙と聖槍の弾き合う音がひびく。

 

 理不尽に満ちた初見殺し(クソゲー)もいいところの塩試合。初見でなくとも殺されて終わるのが当たり前。まさに必殺技の連打に連打だ。

 だが、祐一もまた当代の神殺し。人でありながら神を弑逆した規格外。

 圧倒的劣勢にありながら勝負を成立させていた。

 予兆なしの攻撃であれ何度も野生の直感に任せて回避に成功し、ナラシンハの振り下ろされる爪を見るより早く、槍を繰り出して叩きつけ軌道を逸らす。

 槍の扱い方なんて知らない。だが極論、使えればいいのだ。

 構えるというより背負うようにして、揮うというより叩きつけるようにして、ナラシンハに対抗する。

 ロンギヌスの槍という最高峰の神具を手にしてあまりにも雑……贅沢な使い方だ自分が死ななければ良いのだ。武芸者がみれば諸手をあげて喝采し、信者がみれば泣いて勘弁してくれと絶叫する曲芸を息をするように披露していく。

 

「見事! 見事! 憤怒相は九相ある我が相のなかでも至高の相。"最高"へと高まった私にここまで粘れる者がいるとは思いしませんでした! その誇りを胸に黄泉路へと旅立ちなさい!」

 

 まつろわぬナラシンハは祐一のしぶとさに讃美を贈りそして驚喜した。

 ナラシンハには互角という概念がない。神話でも現れれば一撃でヒラニヤカシプを屠ってしまった。地上に顕身し、歯ごたえのある敵手の登場が嬉しくてたまらない。

 

「〜〜ッ痛ェ! くそったれ、死んでたまるかよ!」

 

 カンピオーネはある意味で”位打ち”のようなものだ。位打ちとは分不相応に高くなりすぎて負担が増しかえって不幸な目にあうことをいう。

 

 カンピオーネ最大の支援者"魔女パンドラ"も全知全能ではない。神を殺したからといって全員が全員、"王"の資質を備えているわけではない。

 

 ならばどこぞの掲示板のレスのごとく分不相応にカンピオーネの称号を戴いたものもいる。まつろわぬ神と相対し地を這うものもいたはずだ。

 だが木下祐一は敗北しなかった。

 不敗と常勝をつらぬき通すことで《戦士(チャンピオン)》の称号に相応しい王者であると証明してきた。

 

 今だってそうだ。

 

 祐一の目に反骨心が揺らめく。

 足裏に呪力が励起し走り出した。タン、タン、タタタン。

 独特なステップを7歩で刻みながら、まつろわぬナラシンハの眼前へ躍り出た。

 

「甘い!」

 

 まつろわぬナラシンハが瞬間移動した。距離は大きく動いていない、たった1歩横にズレただけ……しかし超近接戦闘においてその距離は山から山へ移動したに等しい。

 

 槍でのガードは間に合わない。打ち込まれる熱拳を、恐れる事なく腕でガードする。

 

「化身>>左腕 《(نیش)》:SET」

 

 快音が鳴り、腕は砕けなかった。

 強大で禍々しい存在感の《(نیش)》は鋭い鏃の威力を与えると同時に、鋼を上回る硬度を与える。

 使いようによっては、たとえ武威をならす軍神らでも容易に切り崩せない重厚な要塞となる。

 後の先。ナラシンハの腕をかいくぐって脇腹に潜り込んだ。次いで、強かな槍の一撃。

 穿。

 あり余るエネルギーはナラシンハの玉体に留まらず、巨体を大きく後方へ吹っ飛ばした。だがまつろわぬナラシンハは健在であった。それも無傷。

 

 ──『()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 神殺しの槍に偽りはない。

 

 どんなまつろわぬ神の神体でさえ、どんな神殺しの権能でさえ、まともに浴びれば滅びるキリスト教が誇る最高位の神具だ。

 だのに効果がない。そして理由などひとつしか思い至らなかった。

 

「ヒラニヤカシプの加護か!」

 

「よく観ました木下祐一。私がシャラバを打倒し、下僕においたのと同じ事……かつて我ら神々(デーヴァ)が守護するアーリア人が、神の敵対者(アスラ)を奉じるドラヴィタ人を征服し、取り込んで身毒(インド)にて覇権を獲たのと同じです。優れた力があれば奪い、そして更なる力へと変える。そこに人も、アスラも、神も、そして君たち羅刹王も違いはありません」

 

 手応えが全くない独特な感覚は金色……ヒラニヤカシプと同質のもの。

 魔神ヒラニヤカシプが修行フェチのブラフマーから与えられた無敵の加護を奪い取ってしまったのだ。

 

「まさか卑怯とは言わないでしょう?」

 

 敵を征服し、優れた技術や文化を奪う。それはどの地域、世代でも行われる継承儀式のひとつだ。

 日本も例外ではない。

 大和朝廷がまつろわぬ民を武力によって征服し、鉄の技術や湾曲した刀の技術を偸盗(ちゅうとう)したのと同じ。

 

 神話単位で劫掠し生業としているのだ──《鋼》の一党と呼ばれるもの達は。

 

「ふん、戦いで卑怯だのなんだの糞にも劣るさ。それに心残りだったんだ……ヒラニヤカシプの加護を攻略出来なかったのは」

 

「フ、好いですね。それでこそ私が首級を上げるに相応しい益荒男(ますらお)です」

 

 祐一の傲岸にもまつろわぬナラシンハは愉快そうに笑い、眼を細めていた。

 ……何故だろう。

 さっきからどんどんあの人獅子の好感度が上昇している気がする。

 本当に他意はないし本心で語っているわけだが、何故か好感度急上昇のタイムアタックを極めている気がしてならない。

 ナラシンハの視線もどこからしっとりとしている。炎による熱さではないねっとりとした温度を感じる。

 ケツの穴がひゅっとしつつ、首を振って気持ちを引き締める。

 

 しかし……。

 談笑している間にも隙を探っていたが、欠片も見つけられなかった。

 寸毫(すんごう)でも発見できれればすぐさま人獅子人と獅子に切り分けてあげられたのに。まあそれは目の前の敵も同じだろうが。

 

(ああは言ったが、厄介だよなぁ……アレ)

 

 頭のなかで毒づく。

 ダメージが与えられない、というのは思った以上に厄介だ。

 死なないのはもちろんだが、獲物を持たず四肢を吶喊してくるまつろわぬナラシンハを止める術がない。あの数十はある爪を一本足りとて損なわせることが敵わない。

 

 カンピオーネの9割は虚勢と意地と見栄と根性で出来ているのでナラシンハにはああは言ったものの正直勘弁して欲しかった。今から泣いて謝れば許してくれないだろうか。

 

 ボケェ……ジリ貧だぞ……。

 互いに一撃必殺を備えながら片方がチートを使ったため地獄のワンサイドサドンデスゲームを強いられてしまった。

 自分の健闘ぶりを讃えたくて仕方ないが、いつまでも命懸けのシーソーゲームを続ける訳にはいかない。いつかは限界が来る。

 

「覚者の冠字《バク》よ。愚かしき敵手に真なる目醒めを下賜せよ!」

 

「うおおおおッ!?」

 

 焦りを堪えながら顔面から地面にぶつかる勢いで、命を死守する。致命傷をかわし続ける。

 血が舞い、肉が散る。

 骨は砕け、皮膚は焦げた。

 無様だが死んでいない。足がやられた訳でもなかった。

 なら、まだやれる。

 

「踊りなさい神殺しくん。愉快な舞踏を舞え! 私は君の無様な舞いが気に入りました」

 

 死の舞踏をつづける祐一にまつろわぬナラシンハはひどく楽しそうだった。

 

「クハハ。同胞たる軍神インドラや希臘の軍神アレースの前で舞うといい! きっと見事なりと寵愛をいただけることでしょう!」

 

 どうする? どうする! 

 活路を探しつづける祐一の目に、もうもうと噴き上がる黒煙が見えた。

 

「あれだ! ──我は太陽(ミスラ)をつつがなく導く日輪の運び手。世を満たす光輪(クルワナフ)も我が導きよって。我を満たす勝利(ウルスラグナ)も我が導きによって」

 

 祐一の決断は早かった。

 聖句を謳い、足を"猪蹄"と化えて一心不乱に駆け出した。

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 傾いた陽の光が聖峰アララト山を茜色に染め上げていた。

 アララト山は旧約聖書の有名な洪水神話、『創世記』に登場するノアの方舟が漂着した山だと言われる。

 トルコ最高峰の山であるアララト山は標高3,896mの頂上を小アララト山、それに対して標高5,137mの主峰は大アララト山と呼ぶ。

 

 キリスト教国家であるアルメニアにおいてアララト山は古くから聖地でありシンボルだった。呼び方も異なり、アルメニア語ではアララトではなくマシスと呼ぶ。

 

 マシスの語源には様々な説がありアルメニア人の伝説的な祖先であるハイクの曾孫アルメナケ王からちなんだ名前だとか、ギルガメッシュ叙事詩に登場する『双子の山の峰』を意味するマシュ山から取った名前などがある。

 

 

 アララト山は今も活動をつづける成層火山だ。

 1840年、今から凡そ200年ほど前に噴火した記録が残る。

 

 そして今、アララト山に異変が起きていた。微細な振動が続き、鳥獣が我先にと逃げ出していく。

 噴火しようとしているのだ。なんの前触れもなく。

 

 ……いや、前触れはあった。

 まつろわぬナラシンハの降臨。それだけで数百年眠っていた火山が叩き起されるには十分な理由。

 

 そしてもうひとつの要素があるとすれば──。

 

 

 ゲハルト修道院から走り続けていた祐一は平原を駆け抜け、険しい山道を走破し、やがて火山灰を吹き出すアララト山火口へ到達した。

 

「戦場を変えましたか木下祐一」

 

 走り去る祐一にアクションを起こすでもなく素直に付いてきたナラシンハは気配もなく現れた。遍在の権能である。

 

「ああ、あのままじゃジリ貧なのは分かりきっていたからな」

 

「ほう。この聖峰で戦えば勝機が生まれるとでも?」

 

「それは俺も分かんねぇが……。でも……俺たちの決戦の地にするには不足ないだろ?」

 

「フ、違いない」

 

 ナラシンハは悠然とした態度を崩さない。見えるのだろう、確信的な勝機が。

 対してこちらの機は熟してはいなかった。

 

「祐一殿、君は大した戦士だ。若輩者であるともやはり恐るべき羅刹王でしたか。これほど驚愕させ、我が心胆を寒からしめるとは予想だにしていませんでした──さすがは私と同じ起源(ルーツ)から分かれた軍神を弑逆しただけのことはある」

 

 祐一は目を細めた。バレている。

 

「驚いていますか? ですが至極当然の結論でしょう。勇壮なる健脚にあらゆる障碍を破壊する牙。それに我が遍現自在の妙手すら察知する直感は異様なものを感じました。……が、やっと合点がいきました」

 

 対峙する祐一とナラシンハの影が伸びる。

 

「君のするどい直感の淵源は太陽。決して滅ばず、日が昇り沈むという運行は幾星霜が巡ろうと永久不変」

 

 "間違えることのない太陽を先導する"。

 つまり道を間違えることもなければ、障碍を見失うことも見誤ることもない。ゆえに遍在するナラシンハも捉えることができた。まつろわぬナラシンハはそう言っていた。

 

「違いますか?」

 

 まつろわぬナラシンハの獅子吼にふてぶてしい笑みだけ返しながら、腹の中では追い詰められたことを悟った。

 そして自分はというとナラシンハ攻略の糸口すら見えていない。絶望的だった。

 

「同じルーツを持ちながら全く別の神に仕えた我々ですが、やはり同じ穴の狢だったようだ。おかしいでしょう、仕える神が悉く太陽にまつわる神とは」

 

 インドのナラシンハは太陽光を神格化したヴィシュヌ。

 イランの常勝不敗の軍神は光明を司る太陽神ミスラ。

 そう考える自分もよくよく太陽神と縁深い気がしてくる。

 

「《智慧の剣》は抜かないのですね祐一殿?」

 

「《智慧の剣》? なんだそりゃ?」

 

「惚けるつもりですか」

 

 ナラシンハは知っていた。

 あと一歩の所まで追い詰めた神殺しの唯一警戒すべき武器。彼の弑逆した常勝不敗の軍神が持つ、神話内でも稀に見る"神を斬り裂く智慧の剣"。

 言霊を光と変え、真に理解した神の肉体と神力を斬り裂く剣である。

 あの剣を抜かれれば、さしものヒラニヤカシプの加護や己が身でさえ危ういと踏んでいたのだが。

 

「俺はそんな大層な武器は持っちゃいねぇよナラシンハ」

 

 ナラシンハの視線に懐疑が宿った。

 

「俺にできるのは走ることだけなんだよ」

 

 視線を苦笑で受け止める。

 

「だからこの槍だって上手く扱えねぇ」

 

 聖槍を弄びながら、自分に呆れたように零す。手にした者に地上を制する力を与える槍も、祐一には神を殴れる物干し竿以上の意味はなかった。

 然るべき者や優れた槍や術の使い手なら、聖槍の本領を引き出して、周囲一帯を極寒の冷気漂うゴルゴタの丘のごとく変貌させたり、ナラシンハの腕の十数本消し飛ばせたに違いない。

 

「俺が求めるのは勝利だけ。それ以外はどうでもいい」

 

 一度決めたら突っ走る。罠にかかれば食い破る。障碍があれば打ち砕く。

 それが木下祐一という神殺しの本質であり限界。

 

 清濁併せ呑むおおらかさはなく、たとえ十の化身をもつ軍神を弑逆しようと一つの化身しか簒奪できない粗忽者。

 知恵を捨て去った根っからのシングルタスク野郎に知恵の剣を振るう資格はない。

 

「でも俺はグルメなんでな……ただ勝つだけじゃダメだ。最高の相だって豪語するお前に真っ向から勝ちたい。お前(最高)じゃない別のお前に勝ったところで、俺は嬉しくない」

 

 祐一は槍を掲げて吼えた。

 

「だから──来い! 本気を見せてくれ! そして俺はお前を上回ってやる!」

 

 震えた。人獅子ナラシンハが。

 祐一の言葉はまつろわぬナラシンハにとって根幹たる核に触れるような言葉だった。

 

「なんと愚かしい! 勝利に拘るどころか勝ち方にすら拘りますか!」

 

 ですが、とナラシンハは戦いが始まってはじめて柔らかい表情を浮かべた。

 

「私はその考え方が嫌いではありません。我らまつろわぬ神と神殺しは弱肉強食。一方が生き残るためには一方は淘汰されるのが定め。君のような甘い考えが介在する余地などありませんが……私は君のおかげで知ってしまった。互角の戦いというものを、しのぎを削り、命を散らす戦い方を」

 

 だからこそ残念です、ナラシンハは慨嘆した。

 木下祐一は切り札を持っていない。ならば躊躇も迷いもなくなった。

 

「なぜ私が移動する君をみすみす見逃したと思いますか。簡単なこと──勝負が一瞬で終わってしまうからです!」

 

 来る。必殺を決意したナラシンハが! 

 

「君達神殺しは我々天上の神であっても全力でなければ通じない鎧を備えているのは周知の事実……ですが知っていますよ」

 

 ナラシンハの姿が消失する。そして襲撃を直感した──なるほど、これはどうしようもない。

 

『その頑強な耐性も体内にまでは及ばないと!』

 

 人獅子ナラシンハの喝破の叫びが轟いた。

 凄絶なまでの悪寒が心胆を凍らせる。ナラシンハの声が聴こえたのだ。

 

 臍下丹田。つまり──()()()()()

 

「ぐ、げ、ぉア、ガああああああああああああああああああああああああああああああぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」

 

 絶叫がほとばしる。

 腹が爪によって引き裂かれた。他でもない、まつろわぬナラシンハによって! 

 

 勝利を確信したナラシンハが神殺しの臓腑を高々と掲げ、腕を掴まれた。

 

 

「ま、だ、だぁ……!」

 

 

 祐一の双眸に烈火の意思が灯る。

 

 気張れ。気張れ。気張れ! 

 

 張った張った張った! 

 

 さあ博打の時間だ。後の先、待っていたのはこの瞬間。チップは命、ベットするのは真なる切り札。

 

 ──Sneak(相棒)はやってくれる! 

 

太上道君 普在万芳

 

 口訣が聴こえた。

 

道無不 三界内

 倶国法 依王道

 好事行 悪事止

 敬天地 重天日

 成人学 破人断

 

 道教の最高神格の太上道君に祈願し、森羅万象に道を繋げるという道君神呪。

 

急速急来応願──祐一ぃぃぃぃいいいい!!!」

 

 綉の乗ったワーゲンバスがアララト山の山肌を疾走し、ナラシンハと祐一がもつれ合う戦場に突っ込んできた。

 ナラシンハは気づかない。否、気づけない。人間と人の文明が生み出した産物など歯牙にもかけない。

 

 だからこそ、まつろわぬ神にとって"神殺しの槍"となりえる! 

 

「──化身>>フォルクスワーゲン・タイプ2! 《(نیش)》:BOOSTォォォオ!!!」

 

「なにっ」

 

 数メートルの距離に近づいてもワーゲンバスの存在に気付かなかったナラシンハが《(نیش)》を付与されてはじめて気づいた。だが、遅い。真正面からナラシンハを掻き抱く。

 

 衝撃。

 

 ヒラニヤカシプの加護はあらゆる障碍を打ち破る《(نیش)》であっても不抜。だが構わない。

 

「衝撃は殺し切れねぇ! 一緒に落ちようぜナラシンハ!」

 

 車両の重量と元々の速度、それに《(نیش)》まで加わったワーゲンバスの突進は相当なものだ。巨体のナラシンハでさえ、祐一とともに軽く十メートルは吹っ飛び火口へと落ちていく。

 

「火口へ落ちてどうするというのです! 溶岩で我が肉体は溶けはしない、火山は《鋼》にとって産湯なのですから!」

 

 鉄を精錬するには火と水は必要不可欠だ。

 《鋼》もまた誕生のために必要であり、それ故に火や水は従属する属性だった。

 神殺しの意図が読めず、そして──西日を浴び悟った。

 

 ()()()()()()()

 その意味を真の意味で理解した時、ゾッと悪寒がナラシンハを襲った。

 

 そうだ、今は、昼でも夜でもない"逢魔が時"。

 正面をみればふてぶてしく神の敵対者が、魔王が笑っている。

 逢魔が時にナラシンハは魔物と出遭ったのだ。それも飛びっきりの魔物──魔王に。

 

 ナラシンハは神話内ですべての条件をかいくぐって魔神殺しを成した。

 

 神にもアスラにも人にも獣にも。

 

 昼にも夜にも。

 

 家の中でも外でも。

 

 地上でも空中でも。

 

 どんな武器でも殺されないヒラニヤカシプを誅殺せしめた。そして今はまったく逆の事が起きていた。

 

 昼でも、夜でもない、逢魔が時に。

 

 外でも、家でもない、火口で。

 

 地上でも、空中でもない、腹の上で。

 

 神でも、アスラでも、人でも、獣でもないカンピオーネによって! 

 

「──化身>>聖槍《(نیش)》:SETォ!」

 

 祐一が言霊を結び、聖槍と《(نیش)》の神性が入り交じる。異教と異教の神性が絡み合い、反発し合い、やがて融和し、やがて一本の《神殺しの槍》と化す。

 

「馬鹿な!」

 

 祐一は槍の穂先をしたたかにナラシンハへ突き付けた。

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

「──! ──!」

 

「見つけた」

 

 綉が訪れたのは火口付近の開けた場所。神と交信する聖域と言われば信じてしまいそうな聖峰の一角だった。

 そこに陣取って声高に祈りを捧げるのはミニ金色……

 

「……は、相応しくないな。お前も不快だろう? ヒラニヤカシプの子プラフラーダさんよ」

 

 その名を口にした途端、ぐるりと首を捻ってプラフラーダは凝視してきた。

 

「ナラシンハがなぜシャラバやヒラニヤカシプの(シャクティ)を扱えたのか……ずっと疑問だったんだ」

 確かにおかしいのだ。

 ヒラニヤカシプの加護を奪うなど意味が分からないし、シャラバはナラシンハに勝利し天界へ連れ戻す存在だ。

 

 神話的な繋がりがあるとはいえ、そんな無法がまかり通るはずがない。無法を天に通じさせるには、なにか別の要因がなければおかしい。

 

 綉はサングラスの位置を直し、プラフラーダと視線を合わせた。

 

「だが、お前が居たなら筋が通る──お前が物語を繋げていたんだろうプラフラーダ?」

 

 プラフラーダはヒラニヤカシプの物語にも、シャラバの物語にも登場する。しかも危機的な状況で神に助けを乞うキーパーソン的な役割を持つ。

 ヒラニヤカシプの時にはヴィシュヌに助けを乞い、ナラシンハの時にはシヴァに助けを乞う。

 

 物語を繋ぐ存在だからこそ、天上の神へ祈りを捧げ、その力をナラシンハへ集約させたのだ。魔王討伐のために。

 

 それがプラフラーダの権能だったのだ。

 

「人獅子ナラシンハに魔神ヒラニヤカシプ、怪鳥シャラバに信者プラフラーダ……ナラシンハ関係者のオールスターだな」

 

 今回顕現したまつろわぬ神はナラシンハではない。

 本来であればまつろわぬヒラニヤカシプだけが現れるはずだった。ヒラニヤークシャという打倒された魔神を引き金にした顕現なのだから。

 

 しかし祐一の簒奪した権能がすべてを狂わせた。

 まるで単調な物語を引っ掻き回すスサノオやロキのようなトリックスターのごとく。

 

 簒奪した神の神性に惹かれ、ナラシンハが現れ、シャラバが呼び出された。

 

 そして三つの物語を繋ぐ核としてプラフラーダも現れた。

 

「さしずめナラシンハ・プラーナ(古譚)ってところか……祐一が知ったら余計なことをするなって言いそうだが……」

 

 プラフラーダが天へと招来を祈念した。

 わだかまる雲に雷光が迸り、綉へと疾走した。

 

九天応元雷声普化天尊

 

 口訣を唱えた瞬間、プラフラーダの招来した雷は標的を変え、祈願したはずのプラフラーダへと直撃した。

 やがてプラフラーダは父ヒラニヤカシプと同じように色を失い、塵へと返った。

 

 ひと仕事終えた綉はふところからヨレた煙草を取り出して一服し、紫煙を吐き出した。

 

「アルメニア走り回ってエレバンについたらまつろわぬ神と遭遇してって……今日の俺のタスク、半端じゃねぇな……」

 

 ま、それはアイツほどじゃないけどな。綉は口角を吊り上げて相棒の勝利を願った。

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 気を失っていたらしい。

 四肢に力を込めて立ち上がろうとするが、上手くいかない。単純に動く気力がないのもあるが、身体を動かす部位が壊れてしまっている。四肢も、指もちゃんとあるのだが、骨はだいたい折れているようだし、筋肉もそこかしこ吹き飛んでいる。

 

 なんで生きてんだ俺、そう思うほど酷い惨状だった。聖槍を杖にしようと考えたが落下している間にどこかへ飛んでいったらしく見当たらない。

 周囲はマグマによって物凄い気温になっており息をするのも辛い。

 

 だが、立ち上がらなければ。

 

 敵がまだ生きているのは自分自身がよく分かっていた。

 

 祐一が立ち上がるのと同時に──ナラシンハも立ち上がった。

 

 やはり聖槍では加護を抜くには至らなかった。

 ロンギヌスの槍では、あらゆる武器でも傷つかない、という制約に引っかかってしまうらしい。

 

 神具って聞いたから行けると思ったんだけどなぁ……胸中でぼやく。

 

 立ち上がった二人だが直ぐに戦闘にはならない。消耗が激しすぎた。

 祐一は腹が破け背骨すら見えているし、ナラシンハは左半身を喪っている。まともに戦える状態ではない。

 

「見事、です……あの状況から、ここまで、私を追い詰めるなど……」

 

「ふん! 舐めすぎ、なんだよっ……あんたら、は。俺の、ことも……人間、も……」

 

「フ、フフ……やはり好ましい。その何人にも()びらず、(へりく)だらない不遜な、君の在り方が。私には、眩しい……」

 

 ナラシンハが本当に眩しそうに目を細めた。

 

「はっ……あんたも、旅に出るか? はぁはぁ、仲間は、いつでも……募集してるんでな……男二人の、むさ苦しい旅、で、良ければ、な」

 

「ははは! それは、いい……神殺しと、人獅子の私! 半端者たちの旅は、面白そうだ」

 

 やはり人は勘定に入れていないらしい。まつろわぬ神にとって人間など蟻と等しければいい方で、砂粒くらいにしか思っていない。

 どこにでもいるしいなくても構わない。そしてどれだけ踏み潰ししても構わない。

 それほど隔絶している。まつろわぬ神と人間は。

 

 笑みを収めた人獅子が前傾姿勢を取った。

 くそっ、もうちょっと会話を長引かせて快復したかったというのに。

 ナラシンハの神性に触発されマグマが活発化している。服の切れ端から徐々に焦げ付いていく。

 

「お誘いには感謝しますが辞退させていただきます。どれほど眩しくとも──私に光は必要ありません。

 我が身はすでに三神一体(トリムルティ)の無限光によって満たされている。それ以外の全ての光輝は忌むべき神の敵対者(アスラ)の背信の光なり」

 

 来る。祐一も五指を伸ばし、拳を作った。

 

「邪まなる光はすべて断絶させるのみ。不滅にして至高天たる梵が指し示す──瞑想相。最も静謐なる我"ヨーガ・ナラシンハ"」

 

 ナラシンハの呼吸法が変わった。

 外気を取り込み循環させつづけるのが呼吸だというのに、今のナラシンハはまったく逆。一切外に出さず、内部で循環している。

 取り込みつづける外気は力へと変貌し、ナラシンハをさらなる階梯へと昇華していく。

 

 瞑想相。つまり解脱へ至るに最も適した相。

 

 ナラシンハは"プラーナヤーマ"と呼ばれる修行法を応用することで生命力を外気から得て、それを力へと変えていた。

 

 一方の祐一はもはや万策尽きていた。

 

 意思を念じるが活力が湧かない。立ち上がったエネルギーが最後だった。

 回復の速さに定評のある生き汚さが売りの怪物をやっているつもりだったが、ダメージが深い。治りが遅い。

 いつもは自分の身体のバケモノ具合に驚かされているのに、今は心許なくて仕方ない。

 

 このままでは敗北は必至だ。

 

(負けたくねぇな……ああっくそっ! 負けたくねぇなぁ!)

 

 為す術がなさすぎて地団駄を踏みたいが、地団駄を踏む体力すらない。

 

 嫌だ、負けるのは。勝ちたい、勝ち続けたい! 

 

 なぜ嫌なのかその理由も忘れてしまうほど当たり前になった渇望に、歯を食いしばった時だった。

 肉が消し飛び、骨すらのぞく右腕……その右腕の中に"柄"が見えた。まるで今まで骨と一緒に締まっていたかのように。

 

 俺の身体、ホントどーなってんだよ……。

 

 自分の身体のビックリ箱具合に落ち込みつつ、だが躊躇うことなく柄を抜き取った。

 

 柄の正体は"短剣"だった。

 武器というより儀式用といった出で立ちの短剣は、しかし今の祐一には一縷の望みを託すに十分な代物だった。

 

「はぁ、はぁ……け、化身>>たん、剣! ……《(نیش)》:SE、とォ……!」

 

 息も絶え絶えになりながら言霊を結んだ。短剣を不可視のなにかが覆う。

 痛みで意識が飛びそうだ。重力がこんなにも重く感じるのは久しぶりだった。

 

 だが闘志は衰えず。

 

 祐一もナラシンハも、互いに手負いの獣。

 敵の喉元に喰らいついて噛み千切る事しか頭にない。何度でも立ち上がって何度でも蘇ってあいつの息の根を止めてやる。

 

 ナラシンハが動いた。

 右肩を突き出し、まるで一本の禍々しい牙に見立てたかのようにして一気につっこんでくる。

 

「不滅にして至高天たる梵が指し示す──猪突相。最も愚直たる我"ヴァハーラ・ナラシンハ"」

 

 神速! しかも以前見せた獰猛相のように徐々に早くなるのではなく、最初からトップスピード。

 やはりナラシンハも限界だ。電撃戦を仕掛けてきた。

 

(動かなきゃ……死ぬなこれ)

 

 そう思うのだが、もう動く気力がない。なにか考えがあった訳でもなく。祐一は空気を吸い込んでいた。

 

 呼吸は生命の根幹だ。

 呼吸をしなければ生きていないが、呼吸をしていれば生きていられる。最も身近で、最も重要な、生命活動だと脊髄が脳に刷り込んでいる。

 

(ああ、でもさっきナラシンハは"こう"やってたんだよな)

 

 呼。

 息を吐いて气息をただす。するとどうした事か、ほんの僅かだが肉体に活力を取り戻した。

 活力が酸素を取り込み、血を巡らせ、脳に行き届かせる。

 思考と視界がクリアになる。

 

(プラーナヤーマ! あの一瞬、垣間見た程度で体得したと言うのですか!)

 

 鮮明な思考は時間を鈍化させていく。

 

 直感でしか感じ取れなかった神速が、"視える"

 

(ああ、なんだ。ここに置けばいいのか)

 

 ふと唐突に理解した。

 短剣を構えるのとナラシンハの到着は同時だった。時間が一気に駆け抜けてナラシンハと祐一が交錯した結果が残った。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 その後にも呼吸は続いていた。生き残った。

 

「フ、これが敗北ですか」

 

 存外悪くないものです、ナラシンハが自嘲気味にそしてどこか清々しく零した。

 ナラシンハは振り返り祐一へと言葉を贈った。勝者であり、旅の続く者への餞であった。

 

「我が運命、木下祐一。我が精髄と我が神気は君の血肉となり鉾とかわるでしょう」

 

 ナラシンハが消失する。

 ふたたび現れた場所は、目と鼻の先。息遣いすら感じ取れる距離だった。

 

「ですが私はナラシンハ。どこにでも在り、どこにも居ない、遍在の獣。億千万の瞳とともに我も末路を見届けるとしましょう」

 

「ふん、勝手にしろ。だが見たいというのなら……あんたも気に入ってくれそうな古譚(プラーナ)を歩いてやるさ」

 

「クハハ……善哉、っぜん……」

 

 獰猛な獣の笑みを浮かべ、言い終わることなくまつろわぬナラシンハは──色のない石へと変わった。

 

 まつろわぬ神は神話から抜け出し、自然から肉体を創り上げる。精根尽きれば土に還るのは当然の理。

 ずん、肩に重みを感じてすぐに意識が虚ろに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 緑の髪が揺れた。ぱちぱちと薪が弾ける音を縫うように終局を示す宣誓が放たれた。

 

「…………。もう1回……」

 

 苦々しい顔で盤面を見つづける祐一に、対面の相手は無表情のまま淡々と事実を指摘した。

 今日だけでもう8回目の負けだった。

 

「ぐぬぬ」

 

 さすがにこれ以上負け越すのは辛い。

 すでに昨日だって黒星を10は積み上げている。これまでの生涯成績と合算するなら快晴の空だって黒星の星座で埋めつくされてしまう。

 

 勝負事は好きな方だし、武運なるものには相当の自信があったが、祐一はまだ少女に一度も勝利したことがなかった。

 

 家から持ってきた囲碁や将棋、チェスはもちろん、このユランカレの宝物庫に積んであったセネトや、いま卓上に置かれたメヘンと呼ばれるボードゲームでも結果は同じだった。

 

 悩める祐一を相手にせず少女は緑の髪を揺らしながらキッチンへと尾をはわせた。

 祐一はからっぽになった揺り椅子を睨みながら、彼女という牙城を崩す画期的で痛快な案はないだろうかと物思いにふけり、あたまに電球が光った。

 

「じゃあさじゃあさ、ハンデつけてくれよ〜ハンデ。それでも勝てなかったら今日は諦めっからさ」

 

 囲碁でいう置き石や将棋でいう手合割。妙案と言うにはあまりにも情けないがこの頃の祐一にとって勝利とはどれも等価だった。

 圧勝劇でも、譲られた勝利でも、不戦勝でも勝ちは勝ち。ある意味潔いまでの功名餓鬼というか勝利餓鬼であった。

 

 祐一のひねくれた案にも少女は無表情だった。

 三角巾を頭に巻いて、サラサラと揺れる深緑の髪がひと房こぼれた。

 一向に返答がないので不貞腐れながら少女の姿を目で追う。

 

 やがて、かまどで熾した火を強めながら少女は問いかけた。

 

「どうして勝ちたいかって? ……そりゃあ勝てば目立てるじゃないか。褒めもらえるし、褒められたら俺はすげぇんだって自慢にもなる。自慢は自信に繋がるってお前だって前に言ってただろ? 自信がついたらもっと頑張ろうって気持ちになるし、勝ち続けられる理由にもなる。そんで俺を舐めるやつもいなくなる。いい事ずくめじゃないか」

 

 何を当たり前のことを聞くのだろう。

 誰だって勝ちたいし、敗者になりたくない。考えるより本能が勝利を求める。

 人とはそういうものだろう。

 りんごを剥く手を休めることなく少女はまた問いかけた。

 

「勝ち方に拘ってみる?」

 

 勝ち方に拘る。オウム返しの要領で脳内に響いた単語はどうにもピンと来ず、困惑するだけだった。だって勝ちは勝ちなのだ。

 卑怯だの、運が悪かっただの、敗者の理屈でしかない。勝者は何をしても許される。祐一はそう信じて疑っていなかった。

 

 犬と言われようと、畜生と言われようと、 勝つことこそが最も大事である。それが祐一の標榜だった。

 

 だが少女は言う。

 

 勝者がいる以上、敗者もいる。

 勝利には責任が生まるのだ。敗者の誇りを背負うという責任が。

 

 泥まみれの勝利も良い。

 

 掃き溜めから拾う勝利も良い。

 

 無理を強いてボロボロになってまで掴む勝利も美しいものだ。

 

 だが勝利や敗北は一人では成り立たない。自分と他人で形作られる概念だ。だからこそ敬意を持たなければならない。

 

「んな事言われても、よく分からないよ」

 

 頭をかく祐一に少しだけ少女は考えてこういった。

 

 正々堂々とした勝ち方が好きだと。

 

 ああ、それはいい。分かりやすくて。それにやってやろうと気になる魔法の言葉だ。祐一は揺り椅子にふたたび座った少女と再戦し……

 

「だはー!」

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 ガタガタ揺れる車内の騒音で目が覚めた。

 

 

「ん。起きたか」

 

 また車のシートに寝かされているらしい。隣にはぷかぷか紫煙をふかして運転する綉が見えた。

 車窓からの景色は酷いもので黒焦げになってない場所を見つけるのは難しいくらいだ。というかこのキッチンカーが廃車になってない事に驚きだ。

 

「ナラシンハは……?」

 

「たぶん倒したんじゃないか。というかお前の方が詳しいだろ」

 

「ああ……そうだったな……」

 

 眉根を擦って、思い出す。

 辛勝もいい所だったが勝ちは勝ちだ。めちゃくちゃな強さだったがなんとかなるものだ。

 

 ホッと一息つく。

 

「何処に向かってるのかって聞かれても俺だって分からないぞ。とりあえず車走らせてるんだから」

 

「あてどもないしなぁ」

 

「だったらお前が決めろよ。お前の旅だろ?」

 

「んー、じゃあ南で」

 

「任された。……寝ておけよ。まだまだ戦いは続くんだ」

 

 祐一は返事を返すことなくぼんやりとした頭で、さっきまで夢の中で笑い合っていた少女に思いを馳せた。

 

 

「……あれって、誰だったんだっけ」

 

 ああでも。

 無性にアップルパイが食べたくなった。

 

*1
代表的な神話がヒラニヤカシプ殺しというだけでナラシンハに関する神話は掘ればいくらでも出てきますがインドする(めちゃくちゃになるの意)ため、ここでは魔神ヒラニヤカシプと怪鳥シャラバしか扱いません

*2
監視スレ

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