東方異聞郷 作:一般霊夢スキー
意識が浮上していく。やがて目が覚めるが、頭がジンジンと鈍く痛む。どうやら仰向けに倒れ込んでいるらしい。口のなかに土や草が入り込んでいる。
土の食感が不快ではあるが、唾液を溜めるために口のなかで転がしつつまとめてから吐き出した。
固い土が剥き出しの地面に倒れていたせいか、体が痛むし、服も汚れている。頭もまだ少し痛むし、あんまり体調は良いとは言えないな。
ーーしかし……どこだろうここは?
辺りを見渡す。現在は夜で傾斜のかかっている地面に周りには木々。おそらくはどこかの山の中なんだろうけども、なぜ自分がここにいるのかが思い出せない。
記憶はちゃんとある。自分が生きてきた記憶はちゃんと思い出せるが、どうも途中でその記憶が途切れているようだ。
「そうだ……装備は……!」
服を漁ったり、足元を確認したりしていく。よかった。一通りは揃っているように思う。
苦無、手裏剣、撒菱、鉤爪ロープ、煙玉に爆弾。そして刀。
そう、私は忍者である。自称だけど、昔に忍者の漫画に衝撃を受けて、そのかっこよさに忍者というのを調べて、そのうち自分でも忍者っぽいことができるように修行したんだ。独学だけど。
装備があるなら、ひとまずは安心だ。ここがどこであれ、野生動物程度なら問題はない。とはいえ、誰かに見つかるのは不味いだろう。装備が揃っているということはたぶん任務の途中だったはずだ。じゃないと現代日本でこの装備は捕まってしまう。
装備のどれもコスプレ用のものじゃなく。全部本物で、ちゃんと人を殺すためにあるものなんだから。
私はいわゆる裏の人間だ。暗殺とかを生業とするタイプのね。現代日本で暗殺……? と思うかもだが、あるみたい。私も本意ではないのだが、あいにく私には戸藉がなく。裏の組織に拾われてこき使われる形でなんとか現代で生きてきた。
まぁ私のことはいい。面白い話でもないし。
「それより、だ。灯りが無さすぎる」
いくら山の中であっても街灯の一つぐらいはこんな真夜中なら見えたりするものだろう。なのに、歩いてもそれらしい光は見えてこない。そんなに木々が鬱蒼としてないのにも関わらず。
「とんでもないド田舎に来てしまった……?」
だとしたら中々に最悪である。あんまり動くべきではなかったか、山での遭難で一番やってはいけないことをした気がする。軽率だったな。
とりあえず空腹ではあるものの、すぐに死ぬようなほどではない。これ以上体力を消耗させないように、動かずに朝まで待つしかないだろう。
私は、手頃そうな木を背もたれにして体を休める。もうすでに夜だから、簡易シェルターとかは作れない。残念だが寝て待つなんてことはできないだろう。体温が奪われるし余計に体力を消耗する。
火を起こすのは問題ないので、野生動物はおそらく大丈夫だ。水も用意できる。
薪を集めて、そのうちのひとつを苦無で擦って綿状にし火種を作る。あとは火種に火を着けて薪に移せばいいだけだ。
「火遁・火起こしの術……なんちゃって」
指を弾くとボッと火が出て、すぐに火種に移り、焚き火が出来上がる。
忍者たるもの火起こしぐらいは楽勝である。あとは飲み水か……。あいにくコップとかはない。いいサイズの撥水性のある葉っぱ……ある。この山はいいね。
服に擦り付けて汚れとか落としつつ、葉っぱを丸めて円錐形にする。これで簡易コップだ。
「水遁・凝水の術……今名付けた」
空気中の水分を冷やして、水滴を生み出していき、簡易コップに溜めていく。ある程度溜まったら飲んで。
「ん……ふぅ。ひとまず、これですぐに死ぬことはないかな」
寝ることはできないが、目をつむり体を休めるだけでもそれなりの睡眠効果みたいなものは期待できる。日が昇ったらこの山を出よう……。
ぼんやり、このあとの行動などをイメージしながら目をつむり体を休めるのだった。
◇◇◇
ーーん……? 声が聞こえた気がする。
ちゃんと寝てない。時々、焚き火の世話をしながら体を休めていたんだが、ふと遠くから声のようなものが聞こえた気がしたんだ。
たぶんこの山の上の方から。まさか誰かこの山でキャンプしているとか……。まさかそんな偶然に鉢合わせることとかあるのか。
もちろん気のせいだったという可能性はおおいにある。夜が明けるまで、まだまだ時間がかかりそうだし、ここで動くのも得策ではない。
しかし、声というか喧騒のようなものだったのだ。私の稼業がだけに、それなりに物音には敏感という自負もある。
「様子を見に行くべきだろうか……」
そもそもこんな山の中である。仮に誰かがいたとしてもはたしてこちらに害のない人だろうか。そういう危険もあることを留意しなければならない。
しばしの逡巡の後、私は向かうことに決めた。少なくとも姿を晒すのは何があるのかを確認してからでもいい。私は忍者であるから、それなりに隠密行動は得意である。
きっと何かしらの情報は間違いなく得られるはずだ。このままなにもせず朝を向かえるのが一番リスクが少ないのは理解しているが、思うにそんなにハイリスクな行動ではないと思うのだ。
そう思い立てば、即行動あるのみ。焚き火を一旦消しておく。火起こしは別に手間じゃないから必要になれば、また起こせばいい。
火が消えたことで一気に闇に包まれる周囲に、私は溶け込むように音を立てず、移動していく。
聞こえたのは上からだ。声ではなく喧騒。おそらく複数はいることは間違いない。
しばらく、息を殺し山を登り続けていると、微かに灯りが見えてきた。
ーーやはり……! 聞き間違いではなかった!
声もいまはしっかりと聞こえてくる。なにを言ってるかは聞き取れないが、まるで祭りでもしているかのような騒ぎ具合だ。時々、大きな物音も聞こえる。
これは……キャンプなんて規模じゃなさそうだ。しかも察するに喧嘩祭りみたいなことしてる? なんて野蛮な。でそういう野蛮な風習がある集落とかなのかなと、一瞬頭によぎる。
とにかく見てみないことにはわからない。意を決して、私は身を潜めながら、喧騒の中心地へと向かっていく。
そこで見た光景とはーー
私は自分の目を疑った。目の前に広がる光景はおよそ現実的なものではなかったからだ。
明らかに人ではない異形の集団が、祭りのように騒ぎたて、肉を食らい、酒を煽る。
土俵のような空間ではその異形が殴っては殴り返されたりとこの世のものでは思えない。魑魅魍魎とも言える景色が広がっていたのだ。
「……うそ。もしかしてようか……っ!?」
異形のうちの一人が一瞬、こちらに振り向いた気がして思わず出た漏れ出た言葉を閉じ、身を潜める。
息を殺し、じっとしていると。向けられた視線の気配がなくなる。なんとか気づかれなかったらしい。
見る限り、ある程度の統一感のある異形たちだった。鴉のような羽をはえた芭蕉扇を持った異形。頭に皿のようなものが生えた甲羅を背負う異形。白い狼のような特徴の異形もいたな。
あとは雑多のよくわからない異形たち。そして何よりも……。
異形に囲まれてもなお、その存在感を損なうことはなかったおそらく、あの集団の中心人物。
傾国とも見まがうほどの美しい容貌をした女性。夜桜の意匠を凝らした着物に濡れ羽色の艶のある黒髪。白雪の如く肌といい、吸い込まれるような艶めかしい唇といい。もはや化け物と称するべき美貌だ。
だが、その美貌をも霞むほどの存在感を放つ部分があった。額から、まるで地獄を思わせる禍々しい赤黒い色合いの一本の角が剛直に伸びていた。
鬼だ。見ただけですぐに理解した。そして周りにいた異形もおおかた想像がつく。天狗や河童だろう。
つまるところ。こんな古典的な見た目の化け物をお出しされたら日本人としてあれらをこう呼ぶしかないだろう。
妖怪であると。
ーー妖怪……妖怪。妖怪……? うぐッ!
ずっとずっと昔の記憶が呼び覚まされる。
そうだ。そうだった。私はあの者たちを知っている。
そしてここがどこかも理解した。
私は……帰って来たんだな。
ずっと昔……妖怪に殺されて以来、離れていた故郷の地に。
なんかシリアスな感じで終わったけど、シリアス要素はそんなにないです。
よろしければ、感想、高評価、お気に入りをお願いします。