戦闘狂の白狐   作:ぐちロイド

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第13話 ライセンスの対価、そして「悪」の絶望

 

 

仮免試験の全行程が終了した。電光掲示板に並ぶ合格者リストの最上段には、当然のように「暁 連」の名が刻まれている。しかし、その輝かしい結果とは裏腹に、舞台裏では暗い波紋が広がっていた。

 

 

試験管「……暁 連。合格だ。おめでとうと言いたいところだが……」

 

免許証を手渡す公安委員会の職員の指先は、微かに震えていた。

救助演習での「非人間的な効率性」、そして1次試験で見せた「次元の違う暴力」。それらは、ヒーローという枠組みを内側から食い破りかねない異物だった。

 

連が会場を後にした直後、公安の極秘データベースが更新された。

**【特定警戒対象:コードネーム "ギーツ" 】**

その危険度は、収監中のオール・フォー・ワンに匹敵する「最上位」へと引き上げられた。

 

試験管「暁 連……彼はヒーローを救う神になるか、あるいは社会そのものを終わらせる死神になるか。……注視し続けろ」

 

背後で蠢く大人たちの思惑を、連は知らないわけではなかった。しかし、手元に届いたプラスチックのカードを無造作にポケットへ放り込み、彼は鼻で笑う。

 

連「……ライセンス(免罪符)は手に入った。これで、誰に邪魔されることもなく『世界(ゲーム)』を書き換えられる」

 

---

 

 

 

試験会場から少し離れた、喧騒の届かない路地裏。

ボロボロのパーカーのフードを深く被った死柄木弔は、モニター越しに連の戦いを見届け、自身の指を血が滲むほどに掻きむしっていた。

 

死柄木「……あは、はは。……おかしいだろ、黒霧」

 

死柄木の瞳は、狂気と、そして底知れない絶望に濁っていた。

 

 

死柄木「僕たちは社会を壊すために『悪』というルールを作った。ヒーローたちはそれを守るために『正義』というルールを作った。……でも、あいつ(ギーツ)は違う」

 

死柄木の脳裏に、かつてUSJや神野で見た連の、冷徹で神々しい瞳が浮かぶ。  

 

 

死柄木「あいつは僕たちの『悪』にすら興味がない。ただ、自分の思い通りの世界(理想)を創るために、邪魔なものを掃除しているだけだ。……プレイヤーですらない、運営者(ゲームマスター)の目だ……!!」

 

死柄木は、足元のコンクリートに触れ、それを一瞬で粉々に砕いた。

 

死柄木「黒霧……もう、小細工はやめだ。ヒーローを殺すとか、社会を正すとか、そんな段階(レベル)じゃない。あいつがいる限り、僕たちの『自由』は来ない……」

 

死柄木は、歪んだ笑みを浮かべながら空を仰いだ。

 

死柄木「なら、世界ごと壊すしかない。あいつの創る『理想』ごと、全部腐らせて……何もかもリセットしてやるんだ……!!」

 

死柄木の執念が、これまでの「社会への復讐」から、「暁連という存在への挑戦」へと変貌した瞬間だった。それは、ヒーローとヴィランの戦いを超えた、世界の「存続」か「無」かを賭けた、終末のゲームの始まりを意味していた。

 

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会場の門を出ると、そこには一台の漆黒の高級セダンが止まっていた。運転席から降りてきたのは、完璧な所作でドアを開けるツムリだった。

 

ツムリ「お疲れ様でした、連様。仮免許の取得、お祝い申し上げます」

 

連「……ただの紙切れだ。だが、これで少しは動きやすくなる」

 

車に乗り込むと、ツムリが後部座席のモニターを起動させる。そこには、自宅でシャンパンを用意して待ち構えている、今にも画面から飛び出してきそうなほど興奮したミッドナイトの姿が映っていた。

 

香山『連ー!! おめでとう! もう、お姉さん我慢できないわ! 今日は寮の門限なんて無視して、朝まで祝杯よ!』

 

連「……ツムリ。家まで最短ルートで飛ばせ。……うるさい女を黙らせるのも、神の仕事のうちだ」

 

ツムリ「承知いたしました。……フルスロットルで向かいます」

 

夜の街を、一筋の光が駆け抜ける。

仮免という免罪符を手に入れた「神」の次なる舞台は、もはや学校という箱庭では収まりきらなくなっていた。

 

-

 

 

 

仮免を取得し、ヒーローとしての「公的な牙」を得た連。しかし、その裏側では、この世界の理をさらに掻き乱す「観客」が動き始めていた。

 

 

 

ヴィラン連合のアジト。絶望と苛立ちに沈む死柄木たちの前に、一人の少女が現れた。

未来から来た「最悪の観客」、ベロバである。

 

ベロバ「あはっ、ひどい顔ね死柄木弔。あのキツネ(連)にボコボコにされて、世界を壊す元気もなくなっちゃった?」

 

死柄木「……何だ、お前は……」

 

死柄木が殺気を向けるが、ベロバは楽しげに笑い飛ばす。

 

 

ベロバ「私はベロバ。不幸な結末が大好物な観客よ。……暁連を倒したいんでしょ? だったら、これを使ってみなさい。彼と同等の……いえ、彼を喰らい尽くす可能性を秘めた『ジャマト』の種をね」

 

彼女が差し出したのは、不気味に脈打つ古代の植物のような種子。

 

ベロバ「あいつは私にとっても『最高に倒しがいのある男』。あんなに傲慢で美しい神様が、泥を啜って絶望する顔が見たいのよ。……ねえ、一緒に最高に不幸なゲームを始めましょう?」

 

死柄木はその種を手に取り、歪んだ笑みを浮かべた。連という「絶対的な壁」を壊すための、禁断の力がヴィランの手に渡った瞬間だった。

 

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インターンが再開され、連は再びミッドナイト事務所を拠点に保須市周辺のパトロールを行っていた。その最中、路地裏で不穏な空気を感じ取り、足を止める。

 

そこには、奇妙なペストマスクをつけた男――死穢八斎會の若頭、オーバーホール(治崎)が立っていた。

 

治崎「……道を空けろ。汚れ(ヒーロー)が私に近づくな」

 

治崎が放つ、潔癖さと狂気が入り混じった殺気。しかし、連は鼻で笑い、彼の手元で震えている幼い少女・エリを見据えた。

 

連「『分解』と『修復』か。……触れるだけで対象の理(ことわり)を組み替えるその個性、この世界の人間にしては上出来だが……俺から言わせれば、ただの**『創世』の劣化コピー**だ」

 

治崎「何だと……?」

 

連「一々対象を壊さなければ形を変えられない。そんなものは創造ではない、ただの工作だ。……アンタの薄汚い『理想』ごと、俺がこの手で書き換えてやってもいいんだぞ?」

 

連が軽く指を鳴らすと、周囲の空間が微かに歪み、治崎の足元の地面が「意志」を持っているかのように彼を拒絶し、隆起した。

治崎は目を見開く。自分以外の人間が、これほどまでに容易く物質の理を支配している光景。

 

連「……今はまだ『ゲーム』の進行上、アンタを潰すタイミングじゃない。……失せろ。その娘(パーツ)を大事に抱えて、せいぜい惨めに足掻いていろ」

 

連は治崎を「敵」としてすら認識せず、ゴミを見るような目で一瞥すると、興味を失ったようにその場を去った。

 

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連と別れた直後、路地裏の反対側からパトロール中の緑谷出久が駆け寄ってきた。

 

緑谷「暁くん! どこに行ってたんだい、急に……え?」

 

連が去った後に残された治崎、そして震えながら立ち尽くすエリ。

エリは、連が放った圧倒的な神の気配への恐怖と、同時に感じた「自分と同じ、理を操る者」への期待でパニックに陥っていた。

 

エリ「……あ、あの……」

 

エリがフラフラと緑谷の元へ駆け寄り、その裾を掴む。

 

 

エリ「助けて……」

 

緑谷「え……? 君、どうしたの……?」

 

緑谷がエリの小さな肩に触れた瞬間、治崎が冷酷な声を響かせる。

 

 

治崎「……すまない、うちの娘が。少し、わがままが過ぎるようでね。ヒーローさん」

 

緑谷は、エリの手が異様なほど震えていることに気づく。そして、先ほどまでここにいたはずの連が、なぜ彼女を助けずに「見捨てた(・・・・)」のか、その真意を測りかねていた。

 

だが、連は屋上からその光景を見下ろしていた。

 

 

連「……さあ、緑谷。アンタがどう動くか、特等席で見せてもらうぞ。……この『死穢八斎會』というステージの、真のエンディングをな」

 

連の隣には、いつの間にかツムリが寄り添い、静かにレーザーレイズライザーを差し出していた。

 

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