戦闘狂の白狐   作:ぐちロイド

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第19話 神の如き一撃、そして人の如き逃避

 

 

 

雄英のグラウンドを埋め尽くしていた数千のジャマト、そして「崩壊」の権能を振るう死柄木。その絶望的な情景を、白銀の神――**ギーツIX**は静寂の中に置き去りにした。

 

連「……創世の力、思い知れ」

 

連が腰の**ブーストマークIXバックル**のレバーを引き、ゆっくりと円を描くように手をかざす。

 

**『GET READY FOR BOOST & MAGNUM!』**

**『BOOST IX VICTORY!』**

 

それはもはや「攻撃」ですらなかった。連が指先を弾いた瞬間、世界が瞬きをする間に再構築される。数千体のジャマト軍勢は、咆哮を上げる暇もなく白い粒子へと分解され、この世界の「ノイズ」として完全にデリートされた。

 

死柄木「……あ、あはは……。何だよ、これ……」

 

 

死柄木が、自分の手から崩壊が消え失せ、代わりに花びらが舞い散るのを見て、乾いた笑いを漏らす。ベロバもまた、自分のゲーム盤が指先一つでひっくり返された事実に、初めて本能的な恐怖を顔に張り付かせた。

 

連「ベロバ、死柄木。この世界に『悪』というスパイスは必要だが、過剰なのは趣味じゃない。……消えろ」

 

連が軽く地面を踏み鳴らすと、衝撃波が次元の壁を叩き割り、ヴィラン連合とベロバを強制的に戦場から「ログアウト」させた。跡形もなく、平和だけが再構築された雄英に残される。

 

---

 

 

戦闘が終わり、白銀の光が収まる。静まり返る雄英の校舎。

緑谷やA組の面々、そして涙を浮かべた香山睡が、救世主である連に駆け寄ろうとしたその時。

 

連は変身を解除し、背を向けた。

 

連「……ツムリ、行くぞ」

 

ツムリ「えっ、連様? 皆様がお呼びですが……」

 

ツムリの戸惑いを無視し、連は召喚したブーストストライカーに飛び乗る。そのまま、唖然とする一同を置き去りにして、爆音と共に校門を突き抜けていった。

 

---

 

 

 

雄英から数キロ離れた、人気のない海沿いの高台。

バイクを止めた連は、ヘルメットを脱ぐなり、その場にしゃがみ込んだ。

 

連(……やばい。めちゃくちゃ恥ずかしい)

 

連の脳内では、かつての「神の余裕」が、人間らしい「自意識」に激しく揺さぶられていた。

 

連(「俺の居場所はない」とか「愛しすぎている」とか……あんなにかっこつけて啖呵切って出て行ったのに、ピンチになったら秒速で戻って助けるとか……。どの面下げて戻ればいいんだよ。無理だろ、恥ずかしすぎる……!)

 

ツムリ「……連様? 先ほどから黙り込んで、心拍数が異常に跳ね上がっておりますが」

 

ツムリが冷ややかな、それでいてどこか楽しげな瞳で連を覗き込む。

 

連「……うるさい。次の攻略ポイントを確認していただけだ」

 

ツムリ「嘘をおっしゃい。……『見栄を張って出て行ったのに、すぐ戻るのは流石にダサすぎる』……そう思っていらっしゃるのでしょう?」

 

連「ツムリ、お前……!」

 

ツムリ「連様」

 

ツムリはしゃがみ込む連の隣に腰を下ろし、まるでお仕置きをするかのように、彼の耳を軽く引っ張った。

 

ツムリ「神様気取りで世界を創り変えるのは結構ですが、ご自分の吐いた台詞の整合性くらい、もう少し計画的に管理してください。今のあなたは、家出したのに夕飯のカレーの匂いに釣られて帰ってきた子供のようです。非常に情けないですよ」

 

連「……っ、分かってるよ。分かってるから、追い打ちをかけるな」

 

ツムリ「叱られるのは、それだけ皆様に愛されている証拠です。香山様は今頃、怒りと喜びで大変なことになっているでしょう。……さあ、明日にはちゃんと謝って戻りますよ。いいですね?」

 

ツムリにピシャリと言われ、連は「……チッ、分かったよ」と、バツが悪そうに視線を逸らした。

最強の神、ギーツIX。その正体は、自分の格好悪さに悶える一人の青年に戻りつつあった。

 

---

 

 

 

 

 

昨日の圧倒的な神の降臨から一夜。雄英高校の正門には、世にも奇妙な光景が広がっていた。

 

 

連「……ツムリ、もういい。自分で歩ける」

 

ツムリ「いいえ、連様。昨日の今日でまたどこかへフラフラと消えられては、私のナビゲーターとしてのメンツが立ちません。さあ、しっかりと足を進めてください」

 

白銀の九尾の狐として世界を救ったはずの男は今、ツムリに背中をグイグイと押され、この世の終わりかのような表情で寮のロビーへと足を踏み入れた。

 

ガチャリ、とドアが開く。

そこには、まるで待ち構えていたかのように、1年A組の全員、そして仁王立ちの香山睡(ミッドナイト)がいた。

 

連「……あー、その。……ただいま」

 

連が蚊の鳴くような声で言った瞬間、空気が爆発した。

 

ミッドナイト「連んんんんんん!! この大馬鹿者ーーーーーっ!!!」

 

香山が目にも留まらぬ速さで距離を詰め、連の頬を両手でムギュッと挟み込む。そのまま、ぐにぐにと左右に引っ張る「愛の説教(物理)」が始まった。

 

ミッドナイト「どの口が『居場所はない』なんて言ったのかしら!? どの口が私を置いていったのかしら!? あんたがいない間、私がどれだけ心配して、どれだけ泣いたか分かってるの!?」

 

連「あふっ、あふぅ……ふまない(すまない)、ふぁやふぁ(香山)さん……」

 

頬を引っ張られ、かつての「神」の面影など微塵もない連。その赤くなった顔を、クラスメイトたちがニヤニヤと、あるいは安堵の表情で見守っている。

 

上鳴「暁ー! お前、戻ってくるの早すぎだろ! かっこつけ損だな!」

 

緑谷「まあまあ上鳴くん。戻ってきてくれたんだから、いいじゃないか」

 

耳郎「おかえり、暁。……次は、勝手に出て行くなよ」

 

爆豪だけはフンと鼻を鳴らして背を向けたが、その口元はわずかに緩んでいた。連は、顔を真っ赤にしながら、ツムリの背後に隠れようとしたが、逃げ場などどこにもなかった。

 

---

 

 

 

騒がしいロビーの隅で、ずっと連を待っていた小さな影が一つ。

 

エリ「お兄ちゃん……!」

 

香山の拘束からようやく解放された連の足元に、壊理がトテトテと駆け寄り、その腰に勢いよく抱きついた。

 

エリ「お兄ちゃん、おかえりなさい! ……もう、どこにも行かない?」

 

上目遣いで、不安と喜びが入り混じった瞳を向ける壊理。連は一瞬、いつもの「攻略者」としての冷徹な仮面を被ろうとした。だが、周囲の温かい視線、そしてツムリの「素直になりなさい」という無言の圧に負けた。

 

連はゆっくりと腰を落とし、壊理と同じ目線になる。そして、少し照れくさそうに、だがこれまでにないほど優しく、彼女の頭を撫でた。

 

連「……ああ、ただいま、エリ。……もう、勝手にログアウトはしないさ。この世界(ゲーム)は、まだ終わっていないからな」

 

エリ「うんっ!!」

 

 

エリが満開のひまわりのような笑顔を見せた。その瞬間、連の胸の中にあった「神としての孤独」は、確かにこの世界の「人間としての体温」によって溶かされていった。

 

ツムリ「……さて。連様が素直になったところで、皆様。連様が皆様のために、特製の朝食を『創世』してくださるそうです」

 

 

連「おいツムリ、そんなこと言ってない――」

 

A組の皆「「「おー!! 暁の神メシ!!」」」

 

A組の歓声にかき消され、連の反論は虚空に消えた。

 

 

連「……やれやれ。神様も楽じゃないな」

 

そうぼやきながらも、連の顔には、かつてないほど穏やかな笑みが浮かんでいた。

 

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