時は近未来。
近代科学の発達により、嘗て最先端と言われたフルダイブ技術が〝ゲーム〟という娯楽として一般に普及した時代。
いつものように仕事を終えて帰宅した俺は、食事とシャワーをパパッと済ませ、寝室のベッドで横になり、フルダイブゲーム専用のヘッドギアを装着し、数年前に発売されてからどハマりしているオンラインゲーム『ブレイヴ・ヒーローズ』を起動した。
ブレイヴ・ヒーローズ。
日本の大手ゲームメーカーが生み出したファンタジー風のフルダイブ型オンラインゲーム。
プレイヤーは〝英傑〟と呼ばれる数多くの個性的なキャラクターの中から一人を選択し、様々なモード形式で繰り広げられる試合を最大五人の仲間と協力して勝利を勝ち取るというヒーローシューティングゲームだ。
英傑は主に『タンク』『ダメージ』『サポート』の三つのロールに分かれている。試合中何度でも再選択が可能で、相手の構成に合わせてキャラピックを変更することができる。そうすることで勝率はぐっと上がるし、味方への貢献度も大きくなるというわけだ。
そんなヒーローシューターで時折姿を見せるのが、一つのキャラのみを使い続ける〝ワントリックポニープレイヤー〟。通称〝OTP〟と呼ばれる者達だ。
どんな状況、いかなるキャラ構成に対しても決してキャラを変えることをせず、不動の意思で一芸を極めんとする彼ら(あるいは彼女ら)は、ヒーローシューター系のオンラインゲームでは風物詩とも呼べる存在だ。
とは言え、相手の構成に応じてピックを変更することが推奨されるジャンルのゲームでは、そう言ったプレイヤーは忌避される傾向にある。
それは何故か?
理由は単純明快。この手のゲームをプレイしている者達は皆〝勝利〟の二文字を勝ち取るために思考し、行動しているからだ。
OTPはその真逆。シンプルにゲームを〝楽しむ〟ためにプレイしている。勝利は二の次。無論勝つことができればそれに越したことはないが、彼らの本質は〝エンジョイ〟に大きく傾向している。
俺はどっちかって? 言うまでもなく、後者だ。
確かに勝てないゲームはつまらないだろう。だが、ゲームとは執着するものではなく、勝利も敗北も含めて楽しみ、出来ないことにチャレンジするためにあるのだと、俺はそう思う。
無論、自分の考えを押し付けるつもりはない。効率を求めるようなプレイスタイルも大いにアリだ。勝つためにキャラを変える必要があるのならそうするべきだし、そうすることで楽しめるのなら、それに文句を言うつもりもない。
ようするに、やりたいようにやればいい。それだけの話だ。(ただし、荒らしやトロール、てめぇはダメだ)
そうこうしているうちにホーム画面が表示され、俺は即一番上のプレイボタンをクリックする。
暫くするとマッチングが完了し、キャラクターのの選択画面に入ると、俺は一目散にとある英傑をピックした。
すると、自身の身体が足元から徐々に選択した英傑の姿へと変わっていく。
精巧な意匠が凝らされた白金の甲冑。背中に純白の毛皮をマントのようにあしらった見事な鎧だ。腰には鍔の中央に瑠璃青の宝石が装飾された一振りの大剣を携えている。
その出で立ちは、さながら御伽噺に出てくる聖騎士を彷彿させる。
続いて、容姿もがらりと変化する。
琥珀色の瞳と、後頭部で一つに結った長い銀髪。ぱっと見三十前半位の見た目をしたワイルド風のイケメンだ。そして、最も目を引くのは頭の上に生え揃った鋭い獣耳。その姿はどこか〝狼〟を思わせる風貌だ。
獣騎士、バロン。
ブレイヴ・ヒーローズに登場するタンクの一人。飛び道具がメインのゲームでは珍しく、携えた剣一本で多彩な剣技を用いて戦う、近接特化の戦闘に秀でている。
主なスキルは剣を構え、前方に突撃しながら薙ぎ払う《チャージスラッシュ》。刀身から貫通属性の光波を飛ばす《
そして必殺技である〝
性能からわかるように、バロンは攻撃にがっつり特化した、所謂『アタッカータンク』と呼ばれるキャラクターだ。
ブレイヴ・ヒーローズが発売されてしばらくたった後に追加されたこのキャラは、その扱いの難しさから多くのプレイヤーに選択を避けられてきた不遇の英傑。
攻撃特化故に味方の守りが薄くなり、かと言って無暗に突っ込むと敵にハチの巣にされてしまう。そんな経緯もあって、タンクを専門としているプレイヤーにすら殆ど使われていない悲しいキャラクター、それがバロンの評価である。
肉壁、大剣ぶんぶん丸、行ったら帰ってこない等々。散々な汚名を着せられているバロンだが、俺はこのキャラを一目見た瞬間『極めたい!』と思えるほど、そのビジュアルに魅了された。
最初はスキル管理が上手くいかず、見方からありえない位の罵詈雑言を浴びせられたが、使っていくうちに少しずつ上達し、今となってはバロンで世界ランク500位以内にランクインできる程には成長できた。
これもキャラ愛の成せる業である。
「おいおい、バロンかよ……」
「あー、この試合負け確だわー」
キャラ選択を終えた味方のプレイヤーが俺の姿を見るや否やそう言ってくる。
まぁ、バロンのゲーム内評価を考えれば、そういう反応も否めないが……。いいさ、ゲーマーはプレイスキルで黙らせてなんぼなのだ。
精々度肝を抜いてやろう。そう意気込んだ次の瞬間、突然視界にノイズが走る。
「なんだ?」
そう口にした直後、視界が完全に真っ暗となり、意識が現実に引き戻される感覚に襲われる。
最後に目にしたのは『通信障害が発生したため、フルダイブ機能をオフ。強制ログアウトを実行します』というテロップの一文であった──
と、まぁ。こんな感じの物語です。拙い文章ではありますが、皆さんが楽しんでいただけるよう、のんびり努力してまいります!