転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい! 作:守次 奏
ミカエラさんは、お風呂で今まで天引きしていた依頼料は全部私に回してくれると言ってくれた。
でも、借金がなくなった──つまりはマイナスがゼロに戻っただけで、「燃える彼岸花亭」の現状は苦しいままだ。
だから、なにか貯蓄の元手になることをしたい。
ジリオンの街周辺の依頼を片っ端から受けて、仲介料をこのギルドに振り込んでもらうことも考えた。
だけど、悲しいことに私はコミュ症だ。
だから、このプランは上手くいかないと早々に確信してしまった。
そこで、考えたのだ。
元手がなるべくかからなくて、かつ、利益率の高い商売はなにかと。
……もちろん、そんな都合のいい話がそう簡単に見つかるわけもないのだけれど。
「簡単に儲けられる商売なんてないわよ」
「……そ、そうですよね。ごめんなさい」
商売人として先達のガヴリィルさんを頼ってみたけど、返ってきたのは至極当然な答えだった。
「とはいえ、アンゼリカの言う通り、ミカエラの借金がなくなっただけっていうのは確かだし。あたしもなにか協力してあげられることがあるなら協力してあげたいんだけどね」
「……が、ガヴリィルさん……!」
「えー? なになにリィル、今日はやけに優しいじゃん、外、雨でも降ってた?」
「アンゼリカは素直でよろしい。ミカエラ、あんたは今すぐ風呂に沈むか土下座するかの二択よ」
「ごめんなさい調子に乗りました」
ミカエラさんはガヴリィルさんに、ノータイムで土下座した。
借金の債権と債務はもう消滅したというのに、どうやらミカエラさんは昔からガヴリィルさんに頭が上がらないらしい。
でも、冗談で済ませている辺り一線は超えていない。そういう気安い関係を、私は羨ましく思ってしまうのだ。
「あたしも冒険者としてアンゼリカとパーティを組む、って手段もあるわよ?」
それを見越してきたかのように、今日のガヴリィルさんは高そうなプレートメイルに大楯と片手持ちの戦斧という装いだった。
「んー、確かにそれが一番手っ取り早いかもね。アンゼリカはすごい魔術師だけどコミュニケーションに関してはフォローが必要だし、リィルならその辺上手くやれるでしょ?」
「自信はあるわ」
恐らく装備から察するに、ガヴリィルさんはいわゆる
前提として相手の攻撃を引きつけて、受けて、味方が攻撃したり回復したりする隙を作り出す、縁の下の力持ち。
ただ、魔術師とタンクの相性がいいのはある程度の人数が揃ったパーティで、ペアを組むとなると少し話が違ってくる。
「行動速度を合わせるならもう少し軽い鎧にするけど、アンゼリカはどう思うかしら?」
「あっえっ、その……はい、ありがとうございます」
言おうとしていた、行動速度のことも見越していたのは流石ガヴリィルさんだ。
私と合わせてくれるなら、組んで依頼を消化していくのも悪くはない。
だけど、どうしても行き帰りに時間がかかってしまう以上、時間効率という観点から見ると、なるべくジリオンの街近くでできることが望ましかった。
「……はっ!」
そのとき、天啓がふと降りてきた。
「が、ガヴリィルさんは普段はご自宅でお風呂に入られてるんですか……?」
「急にどうしたのよ、確かにお風呂はなるべく自宅で済ませてるけど……公衆浴場はあんまり使いたくないし」
「そ、それですっ、それなんです。お、思いつきました……!」
ガヴリィルさんのような貴族はともかく、私やミカエラさんのような一般庶民はあまり衛生的ではない公衆浴場にお風呂を頼っているのがこの世界の現状だ。
ならば。
「なになに? なんか面白そうなこと思いついたの、アンゼリカ?」
「は、はいっ、ミカエラさん。面白いかどうかはわからないですけど……こ、このギルドをしばらく、女の子限定の公衆浴場にするのはどうでしょう」
公衆浴場は、男女で分かれているとはいえ、その手のトラブルが多い街では本当に多い。
だから、女の子は基本的に公衆浴場に行くな、というのが暗黙の了解になっている。
そこで、私は考えたのだ。
定期清掃もお湯の入れ替えも全部私がやれば、なるべく元手がかからず、清潔かつ安全なお風呂を、この街にも提供できるんじゃないか、と。
「おお、面白い案だね! 女の子限定の公衆浴場かぁ!」
「ふーん、いい案じゃない。それなら確かに街を離れずに結構な稼ぎが見込めそうね。入浴料と時間管理さえ適切にすれば、いい目の付け所だと思うわ」
「……え、えへへ。ど、どうでしょう……わ、私は温泉も湧かせられるので、お湯のバリエーションも豊富です」
癒しの泉を湧かせてあたためれば、病気に効くお湯を作り出すこともできる。
薬湯を湧かせれば、傷ついた冒険者の傷を癒すこともできる。
水魔法の万能性は他の追随を許さないのだ。
「んー、いい案だと思うけど、アンゼリカは大丈夫なの?」
「な、なにがでしょうか……?」
「ほら、掃除からお湯の入れ替えまで全部一人でやるってなったら大変じゃん。だからわたしとリィルもなんか手伝えることないかな、って!」
ミカエラさんは、思ったより乗り気になってくれたようだった。
「ナチュラルにあたしを巻き込まないでよ……もう。そうね、ミカエラは受付を、あたしは用心棒兼管理者としてやっていけば、案外上手くいくんじゃないかしら?」
ガヴリィルさんも、素っ気ない態度を装ってはいるけれど、言葉自体は前向きだ。
……よかった。
私が出しゃばったら、余計なことになるんじゃないかと心配だったから。
「それじゃ、当分『燃える彼岸花亭』は元手が稼げるまで公衆浴場やってく感じかー、ありがとね、アンゼリカ! あたしのために色々考えてくれて」
「いっいえ、そ、その。私もありがとうございます、あっその、接客は……ミカエラさんとガヴリィルさんにお任せしますけど……」
「はいはい、わかったわ。それじゃあしばらくはアンゼリカの案でやっていきましょ」
「あ、ありがとうございます……っ……!」
「なんでさー、お礼を言うのはわたしの方だよ。ありがと、アンゼリカ!」
ミカエラさんもガヴリィルさんも、快く提案を受け入れてくれて、とても嬉しかった。
水魔法ぐらいしか取り柄のない私だけど、お客さんに気持ちよくお風呂に入ってもらうためにも、頑張らなくちゃ。
ぴしゃり、と頬を叩いて私は、気合いを入れ直した。