転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい!   作:守次 奏

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勇者の再来?

「いいお湯だったわ、ありがとうねミカエラちゃん!」

「いえいえ、またのお越しをお待ちしてまーす!」

 

 ガヴリィルさんが富裕層や有力な商会──軒並み後者に投資を持ちかけてから、大体一週間ぐらい。

 銭湯を始めた初日に全くお客さんが来なかったのが信じられないくらいに、今の「燃える彼岸花亭」は大繁盛していた。

 女性限定の公衆浴場、という需要そのものはあったけれど、やっぱり火付け役がいないとお客さんには気づいてもらえないんだなあ、と、痛感する。

 

「アンゼリカー、そろそろ午前の営業締め切るからお湯の入れ替えだけ準備しといてー!」

「あっはっ、はい!」

 

 ミカエラさんに催促される形で、私はお風呂場に向かった。

 当然だけど、これだけ繁盛していると頻繁にお客さんが出入りするから、どうしてもお湯は汚くなってしまう。

 そこで役立つのが私の水魔法だ。

 

「『浄水』」

 

 黒く塗られた樫の杖を、お客さんがいなくなった湯船に向けて魔法を唱えれば、一瞬で新品同様に早変わり。

 汚れた水を綺麗にする魔法は、多分世界で私や、それこそ「魔導師(ウィザード)」クラスの魔術師じゃないと使えない。

 そして、「綺麗な水」を生み出す魔法は……世間的には未解明とされている。

 

 炎や風、土というメジャーな属性の魔法と、水魔法が決定的に違うのは「人々の口に入るかどうか」だと思う。

 お風呂の栓を抜いて、水が抜けていく様子を見ながら、私はぼんやり考えていた。

 基本的に、この世界における魔法での被造物は「限りなく本物に近い偽物」だ。

 

 なんでも、物質を純粋な存在たらしめる、「真なるアニマ」の創造には神々の領域が云々……という話を魔法学校時代に聞いたことがある。

 炎を出して物体を燃やすのは、「純粋な炎」でも、「炎とよく似た別物」でも特に問題はない。

 でも、こと水に限っては「本物の水」じゃないと、この世界の人々は口につけられないのだ。

 

 前世じゃ飲み物のイメージが強かったポーションとかも、この世界では飲むものじゃなくて基本振りかけるものだし。

 ……我ながら、なにを言いたいのかまとまってないなあ。

 学園で、研究機関に入れていたら、もっとその辺を上手く言語化できたのかもしれないけど。

 

「『流水』」

 

 お湯が抜けた浴槽の汚れを生み出した落として、再度排水口に流していく。

 要するに、飲める液体を魔法で作り出せるのは多分私ぐらいだという話だった。

 だから、アトリエを建てて、お酒を作って暮らそうなんてことを考えていたのだ。

 

「ふむふむ、なるほど。その魔力……極めて純粋な水の力を感じるよ、至高に近いね」

「!?」

 

 ぼんやりしながら汚れた水が流れていくのを見ていたら、突然後ろから声が聞こえてきた。

 えっあっ。

 ぎぎぎ、と錆びついたアイアンゴーレムみたいな動きで後ろを振り返ると、そこに立っていたのは純白の軽装鎧を纏って、二本の剣を腰から吊るした、銀髪に青いメッシュの入った女の子だった。

 鎧は微かな魔力を感じる。恐らくは魔力が込められた「付与装備(アーティファクト)」だろう。

 

 剣に至っては魔術師な私じゃなくてもわかるくらいに魔力を発している。

 多分だけど、結構なレベルの魔剣だった。

 いかにも高名な冒険者といった感じで、どちらかというと駆け出しレベルな、ジリオンの街には似つかわしくない出で立ちの女の子だ。

 

「あ、ああああの、ど、どちら様ですか……? い、今はお湯の入れ替えの時間で……」

「ほむ、このぼくを知らないとは珍しいね。ぼくはラフィーネ・ヴィンデット。人呼んで『勇者ラグニカの再来』だよ!」

 

 聞かれてないのに決めポーズをとって、銀髪女の子改めラフィーネさんは名乗りを上げた。

 ラグニカ。

 ラグニカ・ユリウス。この世界に生まれた人間なら、子供から老人まで皆知っている名前だった。

 

「ふふふ、ぼくから、かつてこの世界を救ったラグニカの威光を感じて萎縮してしまうのは仕方ないよ。でも、そう緊張しなくてもいいさ」

「えっあっあの、そうじゃなくて、今はお湯を入れ替えてて」

 

 その再来というのが自称なのか他称なのかはともかくとして、私はただお風呂のお湯を入れ替えたいだけだ。

 そんなにじっと見つめられると、するなと言われても緊張してしまう。

 ラフィーネさんはほとんどパニック状態な私の言葉に、小首を傾げた。

 

「……? それはわかっているとも。ぼくはきみの水魔法が気になるから見ているだけだよ?」

「あ、あわわわわ……わ、私の水魔法なんて、た、大したものでは」

「そんなことはないさ。その魔力、極めて練り上げられたものだ。誰に師事したんだい? さぞかし高名な『魔導師(ウィザード)』なんだろう?」

 

 距離が、距離が近い。

 ぐいぐいと詰め寄ってくるラフィーネさんに、どこかミカエラさんと似たものを感じる。

 そんなことを考えている場合じゃないんだけど。

 

 いくら魔力でコーティングされた軽装鎧とはいえ、湿気の多い場所に置いておくのはよくないし、なにより見られてたら恥ずかしい。

 

「さあ、遠慮なくぼくにその魔力を見せてくれたまえ……って痛ったぁ!?」

「あんたねえ、営業妨害で訴えられたいの?」

 

 私の顎に細い指をやってまじまじと瞳を覗き込んできたラフィーネさんの頭に、げんこつが落ちる。

 ガヴリィルさんだった。

 助かった。ガヴリィルさんには本当に頭が上がらない。

 

「ごめんね、アンゼリカ。一応とはいえあたしが声かけた客が迷惑かけて」

「えっあっ、だ、大丈夫です……」

「まったく、容赦がないなぁ。ガヴリィルはいつも怒ってばかりだ」

「あんたがいつも怒られることしてるからでしょうが」

 

 どうやら、ラフィーネさんはガヴリィルさんのコネでやってきたお客さんらしい。

 勇者の再来を名乗るぐらいだし、ガヴリィルさんから声をかけられる辺りは、相当強くて有名な冒険者なんだろうけれど。

 

「ガヴリィルからいい薬湯に浸かれると聞いてね。しばらくこのギルドに滞在させてもらうことになったんだ、よろしく頼むよ」

「……あっ、はっ、はい……」

 

 しかも、相当な太客だった。

 私としては正直ご遠慮願いたかったんだけど。

 ……でも、貴重なお客さんだから気を遣わなくちゃいけないんだよね。

 

 しばらくこの人のノリに付き合うと考えると、ちょっとだけ胃が痛くなってきた。

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