転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい! 作:守次 奏
「アンゼリカとリィルのおかげで憧れの一等地にギルドを建てられたわけだし……ここは新装オープン記念とかで、どーんとお客さんにアピールしておきたいよね!」
オウゴンマダイが無事に落札されたことと、ガヴリィルさんの交渉によって無事借金を負うことなく、「燃える彼岸花亭」は新装開店を迎えることになった。
ミカエラさんはこの機を逃すまいと、色々考えているようだ。
今はなにもしなくてもお客さんが来てくれる状態じゃないだろうか──とは思ったけど、ガヴリィルさん曰くお客さんは熱しやすく冷めやすい。
つまり、休業期間分を取り返すだけの目玉施策がなければ、離れてしまうお客さんも現れる、ということだった。
「ねえリィル、リィルはいい案とかない?」
「自分で考えなさい、ここはあんたのギルドでしょうが」
「せ、正論で殴るのは誰も幸せにしないよ!」
「正論で殴っておかないと変な方向に突っ走るのがあんたじゃない」
「お、幼馴染だからギリギリ許される発言……!」
確かに、ミカエラさんはいい人で少しでも自分のギルドをいい方向に導こうと努力している。
でも、時折その努力が斜め上に行ってしまうのが玉に瑕だった。
そういう意味では、ガヴリィルさんの指摘は正しいといえた。
現に私だっていきなりこのギルドが移転したとき、びっくりしたってレベルじゃなかったわけだし。
「アンゼリカー、アンゼリカはなにかアイデアとかない? いや、わたしも考えてるよ? 考えてるけど、なんかこう……しっくりこないんだよね」
「えっあっ、その、た、試しに……なにを考えていたか、き、聞いても……?」
「最前線カムバックキャンペーン! ここから最前線に旅立たれるか、最前線帰りの冒険者の方には入浴料と宿泊料が半額! とか」
「……そ、それは……どうなんでしょう……」
ジリオンの街から最前線まで旅立つのにはかなりの時間がかかる。
そして、最前線から帰ってきたお客さんは、呑気なキャンペーンなんかやっている場合かと怒ってしまうかもしれない。
……確かに、私がなにか代案を考えた方がよさそうだった。
でも、昔から企画の類は苦手だった。
なにか社内の業務改善につながる新施策を明日までに考えてこいと上司に仕事を丸投げされて、一晩中考え抜いた末に書いた企画書を破り捨てられたことを思い出す。
……お前のような無能は臓器でも売って生産性の向上に貢献しろ、とか言われたなぁ。うぅ。
「うーん、最前線パックはなしとして……アンゼリカ、なにか思いついたことある?」
「……あっあの、その、ぞ、臓器を売って、ひ、品質向上及び、せ、生産性の改良に取り組みます……」
「いきなり物騒な方向に飛んだよ!? それに、臓器なんて売ってどうするの!?」
ぐるぐると目を回しながら答える私の肩を揺すりながら、ミカエラさんは「帰ってきてー!」と叫ぶ。
はっ。
あ、危ない。意識が前世に飛びかけていたけど、この世界にはあの嫌なパワハラモラハラコワモテ上司はいないんだった。
「ふふっ、きみたちはやっぱり見ていて飽きないね」
「ら、ラフィーネさん……」
「でも、アンゼリカもミカエラも少し頭が固すぎるんじゃあないかい? 新しいアイデアなんてものは、既にあるものの組み合わせでできるのさ」
テラスの手すりに腰掛けていたラフィーネさんが、くるくると細い人差し指を回して、得意げに語った。
新しいアイデアは既にあるものから生まれる。
温故知新、とはまた違うんだろうけど、今までの積み重ねが新しいものを生み出す、というのは確かに私にはない視点からの発言だった。
「既にあるものかー、そうなると、今のところうちのセールスポイントはお風呂だよね、やっぱり」
「ようやくそこに気づいたのね」
「う、うう。茶化さないでよ、リィル……うちが冒険者ギルドじゃなくて公衆浴場になってるの、地味に気にしてるんだから」
「いいじゃない、そのおかげでラフィーネみたいに新しく所属してくれる冒険者も出てきたわけだし。看板はどうあれ、新しく商売を興すなら、重要なのはとにかく人に集まってもらうことよ」
「そういうことさ。そして、お風呂となれば愛しのアンゼリカの出番というわけだよ」
確かに、「燃える彼岸花亭」のお風呂周り担当は全部私だ。
でも、ポーションを沸かした薬湯とか、天然温泉とかは既にやったわけだし、そう簡単に新しいことが思い浮かぶはずも──
はっ。天啓が降りたように、突然一つの発想が私の中から浮かんできた。
「じゃ、ジャグジー……!」
「じゃぐじー?」
「あっその、えっと……ぶわーってお湯を噴き出して、水流の強さで気持ちよくなってもらうものというかっ!」
「ふーん……馴染みのない言葉だけど、面白い発想ね」
「確かに想像もつかないねぇ、これならお客さんも珍しがるんじゃあないかい?」
「うんうん! やっぱりアンゼリカはすごいよ!」
な、なんだかとっても褒められている。
頬が緩んでしまうのを、抑えようにも抑えられない。
褒められるとすぐ調子に乗ってしまうのが、私みたいなコミュ症の悪いところだというのに。
「……あ、ありがとうございます。そ、それぐらいなら間欠泉の魔法でどうにかできそうなので」
「うんうん、それがいいよ、それで行こう! じゃあ、私は早速宣伝のために看板作るところから始めるね!」
「あたしも気になるわね。宣伝はやっておくから、一番風呂はもらっていいかしら?」
「ずるいじゃないか、ガヴリィル。ぼくだってそのじゃぐじーとやらは気になっているんだから!」
「あはは、広くなった分いっぱい入れるから大丈夫だよ! 一番風呂はリィルとラフィーネさんと……最近心配してくれてるヒースティアナさんの分を取っておくから!」
弾けるような笑顔を浮かべて、ミカエラさんが二人を宥めた。
やっぱり、ミカエラさんには笑顔が似合う。
もっともっと、このギルドが笑顔で溢れるように、私も頑張らなくちゃ。
決意を固めて、私は黒く塗られた樫の杖を握りしめるのだった。