転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい! 作:守次 奏
「う゛ぅ……頭痛い……き、昨日の記憶がない……」
「調子に乗って飲みすぎるからよ、ミカエラは……で、アンゼリカが超凄腕なんてもんじゃない魔術師だってことはわかったけど、当の本人はどこにいるわけ?」
「えー……? アンゼリカなら確か地下倉庫からなにか持ち出していったような……って、うわ」
ミカエラさんがなにかにドン引きしたような声が聞こえた。
お、おかしいなぁ。
私、今回は本当にやらかしたから反省しかしていないはずなのに。
「……なんで乾燥マンゴーラドラの箱がギルドの隅っこに鎮座してるわけ?」
ガヴリィルさんが、ミカエラさんに問いかける。
マンゴーラドラ。
南方大陸原産の植物で、前世でいうところのマンゴーと、マンドラゴラの性質を併せ持つフルーツといったところで、生食には危険が伴うから、乾燥させたものが広く流通しているフルーツだ。
そして今、私が被っている木箱の中身だったものだ。
ちょうどよく空いていたから、こうして反省の証拠として被らせてもらっている。
ふ、ふふ。前世でストレスでお腹壊して一日中お布団にくるまっていた時を思い出す安心感があるなぁ。
「なんでって……なんでだろ……?」
「今日のミカエラはダメそうね……ラフィーネ、説明して。あんたは酔い潰れるような女じゃないでしょ」
ガヴリィルさんは、二日酔いがひどそうなミカエラさんじゃなくて、多分ギルドのどこかに腰掛けているラフィーネさんを頼りにすることを決めたようだ。
「ああ、その箱なら愛しのアンゼリカだよ」
「説明しろっていうのはね、なんでアンゼリカが乾燥マンゴーラドラの箱なんか被ってるのかってことなのよ」
「おっと、これは失礼したかな? ぼくもなんだか酔いが残ってるみたいでね、きみの柔らかくあたたかな……おっぱいで包み込んでくれれば治るかも痛い痛い痛い冗談です顔が潰れる」
この期に及んでラフィーネさんが冗談を飛ばしたことで、ガヴリィルさんの堪忍袋の尾は完全に切れてしまったようだ。
箱を被っているから見えないけど、きっと笑顔でアイアンクローでも仕掛けてるんだろうなあ。
ラフィーネさんは間違いなくいい人なんだけど、とにかく女癖が悪すぎるというのが、ここ最近私の中で定まってきた評価だった。
「説明しなさい、二度目はないわよ」
「はい……いや、朝起きてここにきたら、ミカエラが随分調子悪そうにしていててね。ぼくも気づいたらギルドの隅っこにあの箱を被ったアンゼリカがいたというわけさ。つまるところ、事情はよくわかっていないんだ」
「……なるほどね、大体わかったわ。昨日の二日酔いでミカエラの判断力が鈍ってる間にアンゼリカはあの箱を持ち出したわけね」
今の説明で完全に私がやったことの経緯を推察してみせたガヴリィルさんは、やっぱり凄い人だ。
強いて違いを挙げるなら、別に持ち出したくて持ち出したわけではないぐらいか。
お酒関連で調子に乗るのは前世に留めておこうとしたのに、調子に乗ってしまったから、反省の意味を込めてこうして箱に閉じこもっているのだ。
「アンゼリカ、なんでそんな箱に閉じこもってるわけ? 乾燥マンゴーラドラでも一気に食べたの?」
ガヴリィルさんが問いかけてくる。
弁解するなら、この箱は最初から空き箱だった。
乾燥マンゴーラドラに関しては中身が入っている箱が別にあるから、決して勝手に盗み食いしたわけじゃない。
「……えっいえ、その、あの、反省の証として……」
「……あんたの家では、反省したら箱を被る習慣でもあったの?」
「……えっ、と、特には」
「じゃあなんで箱なんて被ってるのよ、そんなことよりミカエラの調子が悪いから、二日酔いの薬でも買ってきてくれた方がよっぽどありがたいわよ?」
それは、確かにそうかもしれない。
う、うぅ。
やっぱり私はちょっと水魔法が得意なだけでダメダメな女の子だ。
前世も含めたら結構生きているはずなのに、人付き合いばかりは全然上手くいかなくて涙がこみ上げてくる。
「ガヴリィル、きみの指摘は確かに正しいかもしれない。けれど、アンゼリカは繊細なんだ、もう少し気を遣ってあげたらどうだい?」
「……それもそうね。方向性は斜め上だけど、でなければこんなことなんてしてないでしょうし。ごめんね、アンゼリカ。あなたを傷つける意図はないの、単にミカエラがそろそろ吐くかもしれないから薬を買ってきてほしいの」
ガヴリィルさんはきっと、少しばつが悪そうな顔をしているのだろう。
私なんかに気を遣わせてしまって本当に申し訳ない。
穴があったら入りたい気分だった。箱は被ってるけど……って、ミカエラさんが?
「あっえっ、み、ミカエラさん、そんなに具合悪いんですか……?」
「そうよ。その間受付はあたしがやっておくから、頼めるかしら?」
ガヴリィルさんの問いかけに答えるため、私は被っていた箱を脱いで顔を出した。
「はっはい、薬のお店って……」
「まだ開いてるかどうかはわからないけど、大通りに看板出してるからすぐにわかるわよ」
「あっ、ありがとうございます……っ!」
乾燥マンゴーラドラの箱に別れを告げて、私はミカエラさんのためにも大通りへと急いで飛び出していった。
ただでさえお酒関連で迷惑をかけているのに、乙女としての尊厳さえ失ってしまったら、申し訳がないどころの騒ぎじゃない。
物理的な箱入り娘からいつもの私にジョブチェンジして、お使いのために大通りを走る。
幸い、薬を売っているお店は近くでやっていたし、営業もしていたから二日酔いの薬を買って、私は「燃える彼岸花亭」に帰還した。
「か、買ってきました……!」
「早かったわね。ほらミカエラ、薬が来たわよ」
「うう……ごめんねアンゼリカ……吐きそうだから、水出してくれるとたすかる……」
「……はっ、はい! 『湧水』!」
ガヴリィルさんが差し出してきたコップに私は黒く塗られた樫の杖を向けて、魔法を唱えた。
なみなみと中身が満たされた木製のコップと、私が買ってきた二日酔いの薬を目の前にしたミカエラさんは、まるでリビングデッドのように虚ろな手つきでそれを手に取った。
そして、こくりと喉を鳴らして薬を飲み下した。
「うぇー……マズい……」
「文句言わないの、薬っていうのはそういうものなんだから! わかったらアンゼリカにお礼言いなさい!」
「リィル……」
「なによ、あたしはなにもしてないわよ?」
「リィルは私のママになってくれるかもしれない女の子だよ……」
「殴るわよ」
「殴ってから言わないで……」
げんこつを落とされたミカエラさんは再び机に突っ伏して、ガヴリィルさんの鉄拳が直撃した頭をさする。
「あっあの、お礼とかは大丈夫です……も、元々は私が迷惑をかけたことなので……!」
「そんなことないよー……いっつもありがとね、アンゼリカ……」
「……あっはい、えへへ」
とは言いながらも、結局、褒められると調子に乗ってしまうのが私の悪いところだった。
「しかし、ぼくもこのギルドに所属してよかったねぇ。可愛い女の子ばかりだし、全く退屈とは無縁だよ」
そんな私たちの様子を尻目に、テラスの手すりに腰掛けていたラフィーネさんもまた、楚々とした笑顔を浮かべて、迎え酒の蒸留酒を一口含んでいた。