転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい! 作:守次 奏
「とにかく、アンゼリカが作ったお酒は収入源として申し分ないわ。アトリエを建てて販売してもかなりの利益が見込めると思う」
「そうだねー、わたしも美味しくて飲む手が止まらなかったし。ただ……」
「そう。ミカエラが言う通り、アンゼリカがそれを実現するためには大きな懸念点があるわ」
二日酔いから復活したミカエラさんと、そしてガヴリィルさんと一緒に今日の帳簿をつけていると、二人は顔を見合わせてから私を一瞥した。
大きな懸念。
それはなんとなくではあるが察せられた。
「わ、私が……信じてもらえないこと、ですよね」
「そうだねぇ、ぼくたちはきみが凄腕の魔術師だってことを知っているけれど、きみは惜しいことに
私が呟いた言葉を、ラフィーネさんが首肯した。
この「燃える彼岸花亭」にきてくれるお客さんや、冒険者の人たちは、私の水魔法の腕を認めてくれている。
でも、新しく商売を興すのなら、そういう「身内」以外のお客さんや流通を担ってくれる商会の人たちといった、「外」の人に認めてもらわなければいけない。
そして、そのために必要になってくるのが──
「単純に言うわ、アンゼリカ。あなたの夢を叶えるためにはあなたの知名度を上げる必要がある」
ガヴリィルさんが言った通り、営業活動の実績、つまり冒険者としてある程度名を残すことだった。
その上で、有力な商会や貴族にアピールしなければいけないのだ。
要するに、私みたいな平社員未満が取引先の課長クラスの人たちを納得させられるだけのプレゼンをするための準備が足りていない。
う、うぅ。
出世競争や営業活動なんて、前世でもう二度とやりたくないって毎晩泣いてたのに。
まさか、異世界に来てまで立身出世と営業活動をしなくちゃ、アトリエを開くことすらできないなんて思ってもいなかった。
「……そっその、そこは、製造法を秘匿する形で販売するとか」
「バレたら一発で捕まって王国裁判所……ま、断頭台行きよ」
「そうだねー、知らない人が『
どうやら、この世界は魔法関連についてはとてつもなく厳しい法整備が敷かれているらしい。
魔法学園に通っていた頃も、まず教えられるのはそういう「かつて犯した過ちを繰り返さないために、魔法を決して私欲で悪用するな」という心構えだったし。
そのくせ、この世界になにがあって、どういう理由でそんな体制になっているかは徹底的に秘匿されているのもあって、どうにもきな臭かったのを覚えている。
「じゃ、じゃあ……お金以外にも、いっぱい問題が……?」
「そういうことになるねぇ。愛しのアンゼリカ、蒸留酒のおかわりを頼めるかい?」
「……えっ、あっその」
「ぼくがきみの秘密をバラすような女の子に見えるかい? 秘密というのは秘めておくから蜜の味がするのさ」
「……はっ、はい。『湧酒・蒸留』」
黒く塗られた樫の杖を、ラフィーネさんが持っている小さなグラスに向けて魔法を唱える。
すると、グラスの半分ぐらいまで、前世でいうところのウィスキーが注がれていく。
結構度数が強いものをイメージして作っているけど、ラフィーネさんはそれをストレートで飲み干して、シラフでいられるんだから本当にすごい。
「あんまり飲ませすぎるんじゃないわよ、今日のミカエラみたいなことになったら手間なんだから」
「リィルってときどき人の心を的確に抉ってくるよね」
「あんたがアンゼリカに散々迷惑かけたんだから反省するのが筋でしょ」
「正論パンチは誰も幸せにしないよ!」
目の端に涙を浮かべて、ミカエラさんはガヴリィルさんに反駁した。
確かにその通りだと思うけど、ガヴリィルさんに口喧嘩を挑んだところで返り討ちにされるだけだろう。
商売人というのは大体口が上手いものなのだから。
「まあ、ミカエラのことは済んだことだからいいとして」
「よくないって!」
「いいとして」
「はい」
「そんなアンゼリカに朗報があるのよ」
にっ、と不敵な笑みを浮かべて、ガヴリィルさんは私の方を見た。
圧をかけられてしおしおと肩を竦めていたミカエラさんが、少し不憫だった。
それはそうとしても、朗報があるというのは魅力的だった。
「ろ、朗報ですか……?」
超がつくほどコミュ症の私でも、ここから入れる保険があるんですか、と目を輝かせてしまう。
「そうね。上手くいけばうちの商会とのコネができて、アトリエを建てた後の流通ルートも確保できるかもしれないわ。その分面倒な依頼になるかもしれないけど、紹介してあげる?」
「……はっ、はい! その、あ、アトリエを建てられるなら……っ!」
「わかったわ、ミカエラも、このギルドを通して正式な依頼として受理してもらうための手続き、手伝ってもらうわよ」
机と同化していたミカエラさんを引き起こすように、ガヴリィルさんはぽむ、と肩を叩いた。
このギルドにとってもプラスになるのなら、尚更いいことだ。
どんな面倒ごとが待ち受けているかはわからないけど、やってみよう。
とはいえ、私にできることなんて水魔法ぐらいではあるんだけれど。
「おいおい、ぼくを忘れてもらっちゃあ困るじゃないか、冷たいねぇガヴリィルは」
「別にあんたが無理にこの依頼を受ける必要なんてないから、誘わなかっただけよ」
「
ラフィーネさんは指先で摘んだグラスを揺らしながら、ガヴリィルさんに向けて妖艶な笑みを浮かべた。
こういう仕草は色っぽくて、頼もしくて、大人のお姉さん、って感じがするんだけどなぁ。
でも、ちょっと残念なところも含めて、それがラフィーネさんの魅力なのかもしれなかった。
「それもそうね。流石にヒースティアナには迷惑だから話はしないけど、あんたがついてくるならアンゼリカも安心して魔法に集中できるだろうし」
「ふふふ、任せてくれたまえよ。愛しのアンゼリカには傷一つ負わせないさ。それで、ぼくたちはなにをすればいいんだい? ガヴリィル」
ラフィーネさんは、自信満々に、大きな胸へと手を当ててガヴリィルさんへと問いかけた。
「簡単な仕事よ。平たく言えば……山賊退治。詳しいことはうちの商会で聞いてもらうわ」
そして、ガヴリィルさんは手のひらで顔を覆いながら溜息混じりに答えを返す。
なんだろう。
ガヴリィルさんには申し訳ないけど、とても「簡単な仕事」とは思えない仕草だった。