転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい! 作:守次 奏
「聞いたかいギルドマスター、マイカ男爵の家が丸ごとお取り潰し、関係者は全員処刑になったらしいんだよ」
今日も主に公衆浴場として繁盛している「燃える彼岸花亭」のカウンターに肘を乗せて、訪れた冒険者の一人が言った。
「あー、うん。聞いてる。後任の人はもう決まってるんだっけ?」
「『
セヌがやってしまったことは、私が思う以上に重大なことだったらしい。
冒険者の女性が語る言葉の断片からだけでも、「
そして、後任に選ばれたパンジー子爵が冒険者上がりというのは、この世界ではそう珍しくないことだった。
「へー、夢があるね! まあ、『最前線』の現状なんか見たらそんなこと、口が裂けても言えなくなるんだろうけど」
「全くだよ。アタシらみたいな凡人は、日々の稼ぎを賄うだけで精一杯さね」
「男の人は大体騎士や兵士になるか、冒険者になっても最前線で夢を見るかだからねー、この辺の防衛をやってもらってるだけでわたしとしては大助かりだよ!」
ミカエラさんは、弾けるような笑顔で冒険者の女性へと返した。
綺麗な笑顔だなぁ。可愛らしくて、屈託がなくて。
それはそれとして、ミカエラさんが語った通り、この世界で女性の冒険者が珍しくないのには、それ相応の理由があった。
今も男の人の大半は「最前線」を支えていて、辺境も辺境なジリオンの街みたいな場所では、逆に男性冒険者の方が珍しかったりする。
彼らや「
だから、私も足を向けては寝られないのだ。
「アンゼリカちゃんも、いつも薬湯をありがとうね! アタイらみたいなその日暮らしには、ポーション代も馬鹿にならないんだよ」
「あっいっいえ、その、あの、わ、私は! み、水魔法を、か、齧っているのでっ!」
「あっはは、相変わらず面白い子だねぇ! しかし、アンゼリカちゃんが作るお風呂はすごいもんだよ!」
突然ミカエラさんと話していた冒険者の女性に話しかけられて、私は答えになってない答えを返すので精一杯だった。
「一度入れば荒れた肌がもちもちですべすべになっちまう。生傷の治療もだけど、なんか秘訣とかあるのかい?」
「あっあっ、そ、その、ぽ、ポーションというのは傷を、ダメージを、い、癒すものでして……そっそれを、沸かしたから、その、活性化して」
「ん? よくわかんないけどアンゼリカちゃんは難しいことまで考えられるぐらい頭がいいってことかい! 可愛くて頭もいいなんて、羨ましくなるじゃないか!」
ははは、と、冒険者の女性は豪快に笑った。
薬湯──つまり、沸かしたポーションが肌荒れだとかを治すのはついでみたいなものだ。
ポーションとは「肉体に蓄積したダメージを癒すもの」というイデアを理解していることから派生して、傷だけじゃなく筋肉痛や肌荒れといった諸症状も治療できるようになっている。
元からポーションは沸かすと回復力が活性化するものだから、性質と噛み合っているのもあるのだろう。
「アンゼリカのお風呂は格別だよ? わたしも入ってからお肌の調子とかよくなったし!」
「あんたは若いのに、なに言ってんだいギルドマスター!」
はははは、と笑い合うミカエラさんと冒険者の女性を一瞥して、私はほっと溜息をついた。
知らない人とのコミュニケーションはやっぱり苦手だ。
でも、こんな風に話しかけてくれる人も増えてきて、皆が皆、悪い人じゃないんだって思えてきた。
「最近といえば、『
「ヒースティアナさん、あんたもかい?」
「うむ……貴公も同じか。ならばなにかの偶然という線は薄いかもしれんな」
お風呂から上がってきた、バスローブ姿のヒースティアナさんが、冒険者の女性へと話しかける。
私はセヌとの戦い以来、お風呂事業を優先していたから、いまいちピンとこない。
でも、手練れの冒険者であるヒースティアナさんが言っていて、それに同意している人もいるのだから、偶然ではないのだろう。
「困ったものですよね、この前なんかボガートを駆除してほしいって依頼だったのに、よりにもよって『
「あなたのところもなの? 私なんか、薬草の採取依頼だったのに
そして、同意の声は続々と上がってくる。
ラフィーネさんが、たまにふらふらと依頼を受けて出かけていることは知っていたけど、もしも声を上げた女性が助けてもらえなかったら、本当にどうなっていたことか。
「気にすることはないよ、窮地に瀕した人々を救ってこそ、勇者ラグニカの再来なのだからね」
今日も二階につながる階段の手すりに腰掛けて蒸留酒を嗜んでいるラフィーネさんが、茶目っ気たっぷりにウィンクを飛ばした。
言っていることはアレかもしれないけど、ラフィーネさんはこの街でもトップクラスの──ううん、「最前線」の冒険者に匹敵する実力があるのだ。
その上、超絶美人なのだから、ファンがつかない方が無理だといえた。
『きゃー! ラフィーネ様ー!』
「そう声量を上げるものじゃないよ、子猫ちゃんたち。ぼくは当然のことをしただけだからね!」
冒険者の女性たちがラフィーネさんの英雄譚に色めき立つ中で、私はどうにも不安を拭えなかった。
ヒースティアナさんが危惧していたように、「
それも、かなりの凶兆が迫りつつあるんじゃないかと。
「アンゼリカ嬢、あなたも同じか」
「ひ、ヒースティアナさん……」
「私も……これは、なにかの凶兆だと見ている。少なくとも、どこかに『
「……はい」
「単純に事が進んでくれればよいのだがな」
心配そうに溜息をついて、寝泊まりしている部屋に戻っていくヒースティアナさんの背中を見送っている私も、全く同じ心境だった。