転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい! 作:守次 奏
「頼む、ワシらを助けてくれんか!」
ただ、お客さん、というには事情が切羽詰まっている様子で、その多くはお年寄りや子供だ。
衣服には土の汚れがついたままで、どちらかといえば、難民に近いのかもしれない。
「それはこっちとしても重々承知してるんですけど、手続きとしてギルドに依頼を出してもらわないと……!」
「今は一秒が惜しいんじゃ、金なら後で死んでも払う、腕利きの冒険者を派遣してくれんか!?」
そして、困った様子のミカエラさんに詰め寄っているのは、前に畑の柵の修繕依頼を出してくれた、ルイネロさんだった。
これは、ただ事じゃない。
私は、黒く塗られた樫の杖を、ぎゅっと胸に抱いて階段を駆け降りていく。
「ど、どどどどうかしたんですか……!?」
「おお、あの時のお嬢ちゃんか……! どうもこうもない、村が竜化した
村が総出で老人と子供を逃すのが手一杯だった、と、ルイネロさんは慌てた様子で捲し立てた。
確かに、モイの村で一番腕利きだったトーマスさんはゴブリンを倒せるぐらいの腕前だ。
ゴブリンなら、竜化していても苦戦はしても倒せはするだろうけど、
「頼む、誰でもいい! ワシらの村を救ってくれんか! 報酬が足りんというならワシの畑を売ってでも払う!」
ルイネロさんの言葉に対して、冒険者たちの視線はドライだ。
言い方は悪いけど、たかが小さな村の畑を売ったところで得られる報酬と、危険度が釣り合っていないからだった。
普段は山を根城にしていることもあって、人里に降りてくることは稀だったと記憶している。
でも、遭遇したら、「人喰い」の名に違わず、大体の人間は彼らの食料にされてしまう。
それほどまで強靭で凶暴な魔物が竜化までしているとなったら、もう、並のベテラン冒険者ですら歯が立たないだろう。
「困ったなぁ……リィルと、ラフィーネさんと、ヒースティアナさんが用事で出払ってるときに限って……」
ミカエラさんも頭を抱えていた。
確かに、ここにいる誰しも、助けられるものなら助けたいというのが正直なところだろう。
でも、その手段がない。
──だったら。
「あっあの、その、み、ミカエラさんっ!」
「……あはは、そうだよね。アンゼリカならそうするよね」
「えっ……?」
「うん。行ってきて、アンゼリカ! 手続きとか報酬とかはこっちでなんとか後付けするから! リィルにも手伝ってもらって!」
ガヴリィルさんに怒られるであろうことを覚悟しながらも、ミカエラさんは全てを察して、私の背中を押してくれた。
よかった。
助けられるのなら、一人でも多くの人を助けたいから。
「お、おお……助けてくれるか……! ワシらを……! しかし、お嬢ちゃん一人では」
「大丈夫! アンゼリカはこう見えて超がつくほどの凄腕魔術師なんです! きっと村を救ってくれますよ!」
ルイネロさんが懸念したのは、私が「
でも、その心配を、ミカエラさんは、自信たっぷりな笑顔を浮かべて拭ってくれた。
逃げてきた村の人たちからの期待の視線を一身に受けつつ、私は小さく息を吸い込んだ。
「……あっあの、その、む、村に……水場は、ありますか」
そして、言葉を詰まらせつつも、ルイネロさんへと問いかける。
「村外れに小さな川が流れておるが……それがどうしたんじゃ?」
「あっ、ありがとうございますっ、では、行ってきます……っ!」
水場の有無で話は変わってきたけど、あるのなら問題はない。
私は杖を構えて、魔力を集中させる。
ルイネロさんたちだけでなく、冒険者たちも一体なにをするのかと私に視線を集中させていたのが落ち着かなかったけど、仕方ない。
「……『鏡像転写』」
目を伏せて、魔法を発動させる。
それは極めて単純にして、難解な魔法。
だけど、私には扱える。
何事かとばかりにざわめく「燃える彼岸花亭」の喧騒が遠くなっていき、そして。
「つっ、冷たい……っ……」
私は村外れを流れる小川の浅瀬に姿を移していた。
水は、鏡のように覗き込んだ者を映し出す。
それと似たような理屈で、水を鏡に見立てて、想像できる範囲ならどんな距離にも転移できる──自らを転写させるのが、「鏡像転写」の魔法だった。
モイの村からは、もうもうと煙と火の手が上がっていた。
今まさに、破壊と殺戮が行われていることの証だ。
だから、行かなくちゃいけない。
安物のブーツの踵を鳴らして、私はひた走る。
誰か一人でも無事でいてくれたらいい。
多くは望まない、それだけでいい。
「ひどい……!」
必死に走って、走って、辿り着いた村の惨状は、筆舌に尽くし難いものだった。
辺り一面に血溜まりが広がり、喰い捨てられたと思しき人体の一部や骨、そして折れた槍が散乱している。
それだけでは飽き足らず、竜化した
『グルル……グオオオオオッ!』
『ゲギャギャ!』
『ケ……ケケケ? ケケケケケーッ!』
私の来訪に驚きを見せたのか、それとも新たな獲物が来たことを喜んだのかはわからないけど、
私が得意とする「渇水」や「沸血」といった魔法は、単体を対象とするものだ。
だから、これだけの数を相手にするといつも通りに水分を抜き取ったり、血液を沸騰させたりして撃破することは難しい。
『グルルルル……オオオオオオオッ!』
魔術師が一人、大勢の群れに挑む。
その状況がいかに愚かなものであるかを、
だから、決して舐めてかからず、数ですり潰すという一番賢い手段を選んだのだ。
そう、教科書通りの解答を。
私は杖を掲げて、迫りくる魔物の群れを睨みつけた。
そして、魔力を集中させる。
「……『激流槍射』」
唱えた魔法は単純なものだ。
ふよふよと私の周囲を漂うように現れた四つの水球から──一秒間に一発単位で、超密度の水流を速射する魔法。
さながら前世で見ていたアニメの宇宙戦艦がやっていたように、四つの水球から放たれる激流の槍が、瞬く間に二十に匹敵する魔物の群れを穿ち貫き、殲滅していく。
『グゲッ!?』
『ケケ……ケ……』
『グルル……オオオ?』
竜化ゴブリンや竜化ボガートの群れを撃ち貫いて、残ったのは竜化した
『グオオオオオッ!』
殺してやる、とでも言いたいのだろうか。
同じことを思って、どれだけの人が死んでいったことか、きっとこの
私が魔物の気持ちを理解できないのと、同じことだ。
だから。
「『渇水』」
私は、なんの慈悲も込めず、得意とする魔法で、竜化した
断末魔を上げることも許されず、ミイラのようになった遺骸は、信じられない、とでも言いたそうな表情を浮かべていた。
その遺骸を冷凍保存してシャボン玉に包み込み、私は再び「鏡像転写」で「燃える彼岸花亭」のお風呂場に帰還するのだった。