転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい!   作:守次 奏

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二種竜化現象「ワイバーン」

「噂には聞いていたけど、ひどい有様だね。復興はほとんど絶望的じゃあないか」

 

 ダダルム山脈から流れる小川の麓であるモイの村まで「鏡像転写」でたどり着いた私たちは、パンジー子爵の偵察隊がそうしていたように、川上へ向かっていた。

 その道中で、ラフィーネさんは苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

 無理もない。モイの村で私が救出できた人は、地下に隠れて難を逃れていた十人ぐらいだったのだから。

 

「それでも、なにもかもなくしてしまうよりはマシよ。村の復興にはアーキベイ商会も協力するって話だから」

「そうだねぇ。でも、なにもかもなくなるかどうかの瀬戸際にいるんだよね、ぼくたちは」

「……そうね」

 

 二種竜化現象、通称「ワイバーン」。

 一度発生すれば、十分な防備を備えていない街が一つ滅ぶレベルの、極めて危険な存在だった。

 厄介なのは、ただ力が強いだけならいくらでも即死させる手段が私にはあるけれど、即死魔法の類は二種竜化現象以上の相手には通じないのだ。

 

「アンゼリカ、どう? はっきり言えば、あなたの働き次第でこの戦いは大きく変わってくるわ」

 

 ガヴリィルさんが、少しだけ心配そうな顔で問いかけてくる。

 あのガヴリィルさんに憂鬱な表情をさせているというだけで、この戦いがいかに絶望的かわかるというものだ。

 同時に、私へとのしかかってくる責任もまた、とてつもなく重い。

 

「……だ、だだだだ大丈夫です。ワイバーン級と戦ったことはないですけど、りゅ、竜化核を……う、撃ち抜くことさえ、できれば」

「竜化核……二種竜化現象以上の『竜害現象(ドラグハザード)』が保有する命脈か。頼んだ、アンゼリカ嬢。我々はあくまでも露払いに徹することしかできないかもしれん」

 

 最前線での交戦経験があるヒースティアナさんでさえ、この戦いを絶望視していた。

 当たり前といえば当たり前だ。

 防備に装備、なによりそれを運用する頭数が揃っている最前線とは違って、私たちは四人だけで戦わなくてはならない。

 

「パンジー子爵はなんて言ってたのよ?」

「兵は送ると、そう言っていた。だが、ジリオンの街まで無補給で早駆けしたとして、我々に追いつけるのは最速でも三日以上かかるとも」

「絶望的だねぇ。しかし、恐れることはないよ。この絶望を覆してこそ勇者ラグニカの再来なのだから! このぼくが、見事に愛しのアンゼリカが行く道を切り開いてみせようじゃあないか!」

 

 大きな胸に手を当てて得意げに語ったラフィーネさんの言葉が、強がりなのは、誰もがわかっていた。

 それでも、今はその強がりが頼もしい。

 死にはしなくたって、腕や足の一本や二本は普通に持っていかれるだろう。

 

 そんな悲壮さを打ち消してくれたのだから。

 

「全く、あんたは変わんないわね」

「ふふふ、それはそうさ。ぼくは勇者の再来だ。絶望に誰もが膝をついたときにこそ立ち上がり、戦うのが役目なのさ」

「頼もしいな、では最前線は任せたぞ、ラフィーネ嬢」

「任せてくれたまえよ。そうだ、愛しのアンゼリカ。もしもこの戦いが終わった暁にはきみの豊かな胸でこのぼくを癒してくれるとぐべっ」

「どさくさに紛れてなに言ってんのよ」

 

 ガヴリィルさんにげんこつを落とされて、可愛くない声を発したラフィーネさんの姿に、私は思わず苦笑してしまう。

 でも、頼もしい。

 私なんかの無駄に大きいだけな胸で癒されるなら、いくらでも貸してあげたいぐらいには。

 

「で、では……二回目の転写を行います、これで山の中腹ぐらいには行けるはずです」

「痛たたた……頼んだよ、愛しのアンゼリカ」

「はっはい……『鏡像転写』」

 

 山の中腹を流れる川のイメージを頭に描いて、私は二度目の「鏡像転写」を発動させた。

 一気に道中を短縮できるこの魔法には、いくつかの欠点がある。

 まず一つは、水にしろなんにしろ、液体がある場所にしか転移できないこと。

 

 二つ目は、私の中に確固たるイメージができていなければ、不発に終わってしまうということだった。

 ある程度周りの景色を見ておいて、イメージを掴んでおかないといけないのだ。

 だから、こうして山を登っていたわけで──と、そんな話はともかく、転写には成功した。

 

「お、おお……初めてのときも思ったが、見事な魔法だな……」

「……そ、そんな。た、大したことないですよ……えへ」

 

 ヒースティアナさんが、困惑したように呟く。

 山の中腹で、少し開けた場所にある川のほとりに、私たちは姿を移していた。

 便利なようで、色々と難しくて回りくどい魔法だけど、褒めてもらえると嬉しくなるのはコミュ症の宿命みたいなものだった。

 

『グルルルルオオオオ!!!!』

 

 刹那、胸の奥に湧き上がってきた小さな喜びをかき消すように、耳をつんざくような咆哮が轟き渡った。

 恐らく、ワイバーンたちが、ここまで南下してきたのだろう。

 上流まで行かなくて済んだことを喜ぶべきか、それとも息つく間もなく戦わなければいけないことを悲しむべきか。

 

「来るわよ、全員構えて!」

 

 他愛のないことすら考える余裕すらなく、私たちはワイバーンが率いる「竜化個体(ドラグニア)」の群れとの戦いに突入した。

 

「露払いは、ぼくに任せてもらおう! 『追風』!」

 

 ラフィーネさんが全員に追風の加護を授けると、先陣を切って飛び出していく。

 ワイバーンが率いる群れの中には人喰い鬼(オーガー)だけでなく、その上位種とされる、トロールの姿も散見された。

 だけど、ラフィーネさんは、それがどうしたとばかりに笑い飛ばして、次々に「竜化個体(ドラグニア)」の首を刎ね飛ばしていった。

 

「恐らくは竜化したトロールが群れを実質的に指揮していると見て間違いあるまい、ガヴリィル嬢!」

「任せて! アンゼリカはワイバーンの対処を!」

 

 ガヴリィルさんは大楯と戦斧で敵を薙ぎ払い、ヒースティアナさんはレイピアで敵の心臓を串刺しにしながら前に進んでいく。

 フリーになった私を狙おうとする魔物を「激流槍射」で撃ち落としながら、ワイバーンへと狙いを定めて杖を構える。

 魔力の高まりを感知したのか、ワイバーンは咆哮を上げると、私に向けて炎を吐きかけようとしてきたけれど。

 

「『水刃』」

『ギャオオオオッ!?』

 

 羽を切り裂かれたことで、ワイバーンは身悶えして地面に激突した。

 確かにワイバーンの攻撃は街一つを滅ぼし、屈強な戦士ですら苦戦させるのかもしれない。

 だけど、攻撃させなければ、どうにでもなる。

 

「た、畳みかけます……『激流槍射』全砲門をワイバーンに集中……!」

『ギャオオオオッ! ギャオオオオッ!!!!』

 

 自分は空の王者だとばかりに振る舞っていたワイバーンも、羽をもがれて地面に頭を打ちつけられれば、錯乱するただの大きな蜥蜴だ。

 竜化核ごと撃ち抜くように、「激流槍射」が誇る秒間三発の超圧縮水流がワイバーンを穴だらけにしていく。

 ただ、このやり方では効率が悪い。

 

「け、穢れた魔力が集まっているところを探して……あった」

『ギャオオオオ……ッ』

「『氷槍』」

 

 肉体を抉られたことで少しだけ露出した竜化核に、氷の槍を突き立てて、私はワイバーンとの戦いに幕を引いた。

 恨みはない。

 ただ、これからもこの場所で私たちが生きていくのに、「竜害現象(ドラグハザード)」とは決して相容れないというだけの話だった。

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