転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい!   作:守次 奏

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星に願いを

 二種竜化現象「ワイバーン」を倒した私たちは、そのままジリオンの街に帰還していた。

 竜害現象(ドラグハザード)そのものといえるワイバーンから持ち帰れるものは少ない。

 忌避されているから、素材としても需要がないし、討伐した証として死体を持ち帰るにはサイズが大きすぎる。

 

 そこで、私が選んだのは竜化核の破片だった。

 これなら確実にワイバーンを仕留めたと安心してもらえるだろうし、証明もできる。

 その目論見が上手くいったのか、ヒースティアナさんがパンジー子爵に上手く説明してくれたのかはわからないけど、街は今、浮かれに浮かれていた。

 

「それでは勇者たちの帰還を祝して──乾杯!」

『かんぱーい!』

 

 普段よりも大盛況な「燃える彼岸花亭」に集まった冒険者たちも、「竜害現象(ドラグハザード)」の脅威から解き放たれた安心からか、酒が進んでいるようだった。

 

「いやあ、流石だぜ……いや、流石なんて言葉じゃあまりにも足りない! 二種竜化現象をたった四人で、しかも最前線の経験者は一人だけで倒しちまったんだろう!? すげぇぜ、ガヴリィルの姉御は!」

「あたしはほとんどなにもしてないわよ。この戦いの功労者がいるなら、間違いなくアンゼリカね。次にラフィーネ」

「そっかぁ、いやあ、じゃあアンゼリカちゃんに乾杯だ! もう一杯麦酒持ってきてくれ!」

「……あっはっ、はいぃ……」

 

 その乾杯を捧げる相手のはずなのに、私はヘルプに入ってひたすら苦手な接客を行っていた。

 接客といっても、冒険者たちに麦酒や蒸留酒を振る舞うだけだからそこまで笑顔とかが気にされないのはよかったけど。

 ただ、自分のやったことがこうして誰かに喜んでもらえると思うと、少しやりがいのようなものを感じるときもあった。

 

 ……コミュ症の宿命みたいなものだけど。

 

「お待たせしましたー! ローストチキン入りまーす!」

「待ってたぜミカエラちゃーん!」

 

 今日はギルドマスターのミカエラさんもキッチンとホールを兼業して、てんてこ舞いだ。

 ガヴリィルさんもさっきは冒険者たちと話をしてはいたけど、基本的には手伝いに回ってもらっている。

 慢性的な人員不足が顕在化した状態だったけど、元々そんなに人がくるのを想定していたわけじゃないから仕方ない。

 

「──そこで、ぼくは先陣を切って駆け出したわけさ。竜化した魔物は軽く五十はいたかな? 覚えてないけれど、手当たり次第に斬り伏せて、そして今この場に帰ってきたというわけだよ、子猫ちゃんたち」

『きゃー! ラフィーネ様ー!』

「ふふっ、ぼく一人の功績じゃないよ。なにせあの二種竜化現象を仕留めたのは、愛しのアンゼリカなのだから。それはそれは見事なものだったよ」

『謙虚なところも素敵ー! 抱いて!』

「困ったなぁ。子猫ちゃんたちが多すぎて、ぼくの両手では抱えきれないよ」

 

 ラフィーネさんは相変わらず、特等席らしい階段の手すりに腰掛けて蒸留酒をちびちびと嗜んでいた。

 前世でいうところのファンクラブ……というか、親衛隊の女の子たちも、ラフィーネさんが語る竜討伐の冒険譚にすっかり夢中だ。

 多分竜討伐じゃなくても黄色い声を上げていただろうけど、それは内緒にしておこう。

 

「ごめんね、アンゼリカ! この戦いの英雄なんだからゆっくり休んでもらっててよかったのに」

 

 次の卓に麦酒の給仕へと向かうため、カウンターに行くと、忙しくキッチンとホールを駆けずり回っていたミカエラさんが両手を合わせて頭を下げてきた。

 

「……あっいえ、その、み、ミカエラさんのお手伝いができるなら、私はそれで」

「あっはは、優しいなあ。アンゼリカは……その言葉に甘えちゃってるわたしが情けないのもそうなんだけどね。でも、ありがと」

 

 自分も大変そうなのに、お礼を言ってくれる。

 それがたとえ社交辞令だったとしても、そういう経験をしてこなかった私にとっては、嬉しくて仕方がなかった。

 接客はつらいけど、もう少し頑張ってみよう、と思えるぐらいには。

 

「……あっへへ、その、へ、閉店まで頑張りますので」

「うん。本当に助かるよー、ありがと! 一緒に頑張っていこうね! リィルも!」

「ったくもう、こうなることがわかってるから普段からちゃんと従業員増やしておきなさいって言ってたのに!」

「正論パンチは人を幸せにしないよ!」

「それで今、本当ならなにもせずに惰眠を貪ってても許される立場のアンゼリカまで手伝いに回ってるから言ってるんじゃない!」

「ひぃん……」

 

 ミカエラさんはすっかり、ガヴリィルさんに頭が上がらないようだった。

 でも、なんだろう。

 こういう光景を見ていると、普段の日常が帰ってきたみたいで、とっても嬉しくなる。

 

 だから、つい笑ってしまう。

 こんな光景が、こんな日常がいつまでも続いてほしくて。

 小さな、ささやかな幸せでいい。この手のひらに収まったものがこぼれ落ちてしまわないように、と、願うことしか私にはできないけど。

 

「ねえ、アンゼリカ!」

「ど、どうしたんですか……? み、ミカエラさん?」

「今日の仕事が終わったら、一緒にお風呂入ろうね! それで色々聞かせて! ワイバーン討伐のこととか!」

「……はっ、はい!」

 

 なによりも、私なんかを必要としてくれているミカエラさんがこんな風に笑える日々が続いてほしくて。

 私は、そっと、星に願いをかけるのだ。

 ……生憎、今日は曇っていて、よく見えないけど。

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