転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい!   作:守次 奏

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黎明のアンゼリカ

 それからのことを、私はあまりよく覚えていない。

 一応、ボロボロになった体を癒すため、パンジー子爵の館に担ぎ込まれて、ポーションのお風呂に浸けられたりしたらしい。

 本当に死ぬ寸前だったのよ、とはガヴリィルさんに怒られたことだったけど、結果的にアスモデウスは討伐できたのだから、差し引きちょうどだろう。

 

 そして、ようやくベッドから一人で動けるようになった頃、騎士隊を引き連れたヒースティアナさんが「燃える彼岸花亭」まで訪れて、訳もわからないままに皆が正装を着せられて、馬車に押し込まれて。

 結果として、今私は王都にいる。

 王都というか、お城の中、それも王様の目の前に。

 

 一体なにがどうしてこうなったのか。

 アスモデウス絡みの功績を讃えるためとかヒースティアナさんは言っていたけど、人混みとか偉い人に会うのが苦手なコミュ症からすれば、この謁見は地獄だった。

 今も泡を吹きそうになっているのを必死に堪えているぐらいだ。

 

「冒険者、アンゼリカ・アクアマリンならびにギルドである『燃える彼岸花亭』の面々が特種竜化現象『アスモデウス』を討ち倒してくれたこと、誠に大儀であった。汝らの働きはこの世界を、多くの民を救ったものである。改めて、余から礼を言わせてもらいたい。感謝するぞ、アンゼリカ・アクアマリン」

「あっあばばばばば……こ、ここここ光栄です……」

 

 威厳たっぷりな髭を蓄え、眼光も未だに鋭く衰えを知らない王様にこうして見下ろされていると、喜びというよりも、むしろ胃痛が加速していく。

 ほとんど詰みかけているこの世界を統べ、人類の反攻を諦めていない人だから当然といえば当然だろうけど。

 民の希望になろうと振る舞っている側面もあるんだろうなあ……とか、考えちゃうのは不敬だろうけど。

 

「そこで余は貴公らに褒美をとらせようと思う。まずは、アンゼリカ・アクアマリン。貴公の身の上は聞いている。望めば余が直々に今のアクアマリン家を取り潰し、伯爵位を貴公に授けようと考えているが、どうか」

「そ、そそそそそんな、お、おおおお恐れ多いです……! わ、私は、確かに、じ、実家から追放された身ですけれど、か、家族はなにも悪くないので……!」

 

 セヌみたいにミカエラさんや大切な人たちを侮辱してきたならともかく、私が実家を追放されたのはひとえに、コミュ症ゆえに魔法学園を落第したのと、魔術師として歪だったせいだ。

 きっと今も私の存在なんか忘れて、幸せに暮らしているのであろうけど。

 血を分けた家族へ、いきなり断頭台に登ってくれなんて言うのは、あまりにも可哀想だろう。

 

「ふむ……爵位と領地の継承は望まぬか。変わったことを言うのだな。ならば代わりの褒美をとらせよう、三億プラムの現金だ。これならば、冒険者である貴公にはちょうどいいだろう」

「さ、ささささ三億……あばばばばば……」

 

 王様は納得したように小さく咳払いをした。

 でも、いきなり伯爵クラスでも上澄みの家しか持ったことがないであろう額の現金をポンとくれると言われても、保管場所もなければ使い道もわからない。

 それなら、いっそ。

 

「お、おおおお恐れながら、こ、国王陛下……」

「貴様! 王に先んじて言葉を発するとは、不敬であるぞ!」

「よい、大臣。余が許可する。三億プラムでも足りぬというのなら、なにを望む? 貴公はこの世界を救った英雄だ。余としてはその意向を叶えられる限りは叶えてやるのが王としての務めだと考えている」

 

 大臣さんに怒られて、しおしおと溶けてしまいそうだったけれど、国王陛下は流石の器の大きさというべきか、気にしていない様子だった。

 なら、言ってもいいんだろうか。

 私は、そんなに多くを望んでいない。ただ、それでも望むことがあるとするなら。

 

「さ、ささささ三億プラムをいただけるなら……そ、その全てはガヴリィルさんに……く、クレバース商会への投資という形でいただけないでしょうか……」

「ふむ?」

「……が、ガヴリィルさんが、魔力加速式滅竜杭を買いつけてきてくれなかったら、わ、私は死んでいました……その結果、く、クレバース商会は今、破産の危機にあります……ど、どうか……」

 

 私は全力で土下座して、国王陛下に頼み込んだ。

 古式ゆかしいジャパニーズ土下座スタイル。

 前世で何回させられていたかわからないから、もうすっかり慣れたものだった。

 

「ふむ……構わんが、それでは貴公の褒美にはならんのではないか? 他に望むことはなにもないのか?」

「……えっあっ、そっその、と、特には……」

 

 アトリエを開きたいという夢はあるけど、それはわざわざ国王陛下のお力を借りてまで叶えたいものじゃない。

 それに、「飲める液体」をどうして私が生成できるのかだとか、その再現のための魔術式だとか、そういったものをまとめて論文として王立学術院に提出した上で、「魔導師(ウィザード)」の試験に合格しないと、認められないとはガヴリィルさんから事前に聞いていたことだ。

 それは、アスモデウスを倒した功績とは別の範囲の話だろう。

 

「ふむ、しかし否が応でも褒美をとってもらわねば余の気が済まぬ。褒美が思いつかないのであれば、余から直々に授けよう」

「あっあばばばば、こ、ここここ光栄です……」

「アンゼリカ・アクアマリン。貴公を余の裁定にて『魔導師(ウィザード)』として認定しよう。そうだな……今から貴公は、『黎明の』アンゼリカと名乗るがよい! 大臣、杖を持たせよ!」

「はっ! 今すぐ杖を持て!」

 

 大臣さんに命令される形で、天幕の後ろに控えていた従者の人が、高級そうな箱に収められた一本の杖を、王様へと捧げた。

 それは、「黒杖持ち(ブラッカー)」である、私にとっては信じられない出来事だった。

 王立学術院の審査もなにもかも突破して、王様から直々に「魔導師(ウィザード)」として認められる。

 

 それは確かに「魔導師(ウィザード)」として認められる最短ルートではあったけど、とても現実的なものじゃなかった。

 でも、今それが叶おうとしている。

 まるで現実感がなくて、だけど、確かなことで、気が動転してしまいそうだった。

 

「それでは、新たなる『魔導師(ウィザード)』たる、『黎明の』アンゼリカに杖を授けよう。前へ歩み出よ」

「はっ、はいぃ……っ……!」

 

 私はよたよたとよろめきそうになりながらも、国王陛下の御前まで歩いて、跪いた。

 そして、箱から青く塗られた持ち手に、「魔導師(ウィザード)」の証である「金色」をした三日月型の装飾が施された杖を、拝受した。

 まるで初めから使い慣れているように、手へと吸い付くように馴染む感触は、神樹と呼ばれる木から削り出された賜物だろう。

 

「あ、アンゼリカ・アクアマリン……ただ今をもって、『黎明』の『魔導師(ウィザード)』たることを拝命いたしました……っ!」

「うむ、それでよい。では報酬の三億プラムはクレバース商会へと振り込ませよう! 皆の者、祝え! 新たなる英雄の誕生である!」

 

 国王陛下に促されて、多くの人々が歓声と共に拍手で私を讃える。

 正直、慣れないにもほどがある。

 なにが起きているのか自分でも把握しきれず、気絶してしまいそうだった。

 

 それでも。

 私の胸には、確かな喜びが灯っていた。

 ガヴリィルさんやミカエラさん、ラフィーネさんもあとで少なからずご褒美があるんだろうけど。

 

 大切な人たちが、守られて。

 大切な人たちが、幸せでいられる。

 国王陛下には申し訳ないけれど、「魔導師(ウィザード)」の称号よりも、そっちの方が、私にとっては嬉しかったのだ。

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