転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい!   作:守次 奏

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コミュ症には向かないお仕事?

 ギルドに回ってくる依頼は、発注元が王国だったり、有力貴族だったりするイメージだったけど、それはいわゆる花形というものだ。

 最前線に近いところや王都のような場所にいれば、そういう依頼はギルドへ優先的に回される。

 でも、ジリオンの街のように「竜害現象《ドラグハザード》」から遠いところでは、あんまり大きな依頼は回ってこない。

 

「それじゃ、アンゼリカ。今日の依頼はモイの村から来てる畑の修繕でいいんだよね?」

「あっはい、えっと、はい」

「二回も返事しなくて大丈夫だってばー、それじゃ、手続き終わらせちゃうね」

 

 そして、今回みたいな小さな依頼は、あんまり取り合いにならない。

 駆け出しの冒険者たちの間で人気なのは、やっぱり魔物を倒すタイプのものだ。

 それこそ「踊る人魚亭」のような人気ギルドでは我先にと、依頼を受けようとする新人が息巻いているのだろう。

 

「……ミカエラさんの借金を返すことを考えると、もっと私もレベルの高い依頼を受けるべきなんだけど……」

 

 とはいえ、ジリオンの街に回ってくる依頼の中で、レベルが高い依頼というのはあまり存在しない。

 精々、駆け出しの冒険者がちょっと手こずるレベルの魔物を倒してきてほしいとか、そういうのだ。

 だから、まずは地道に数をこなして信用を積み上げる。

 

 そうすれば、「燃える彼岸花亭」の名前も上がるかもしれないし、そうなれば名指しで直接依頼を発注してくれる人も現れるかもしれない。

 ……あんまり有名になりすぎて、人で溢れるようになったら、今度は私が苦労しそうだけど。

 でも、夢のためにも頑張らなきゃ。

 

「はい、依頼証! 気をつけてね、アンゼリカ!」

「あっ、はっはい、ありがとうございます」

 

 ミカエラさんが発行してくれた依頼証と、信用手形を懐に入れて、私はこの街からごくごく近いところにある、モイの村を目指すことにした。

 

 

 

 

 

 

 ふわふわと浮かぶシャボン玉に乗ってたどり着いたモイの村は、いかにも平和な田舎、といった感じだった。

 道中でもスライムやゴブリンみたいな魔物を見かけることもなかったし、穏やかそのものな旅路だった。

 多分、畑の修繕というのも経年劣化をどうにかしてほしいとか、そんな感じだろう。

 

 少しだけ気楽に構えて、私はシャボン玉から降りる。

 

「見慣れない顔だな、この村になにか用事が?」

 

 すると、門の護衛に立っていた男の守衛さんが、この辺りでは珍しい髪の毛の色をしているからか、私に気づいて警戒してくる。

 

「えっあっ、あっその……わ、私、ジリオンの街から派遣されてきた、ぼ、冒険者でして……」

「依頼証は持っているか?」

「はっ、はい!」

 

 うぅ、声が上擦ってしまった。

 やっぱり人と話すのは緊張するし慣れないし苦手だなあ。

 ついつい自分でお酒を作って、飲んで、誤魔化してしまいたくなるけど、今世ではアルコールは封印すると決めたんだ。

 

「確認した。ルイネロ爺さんの畑の手伝いか……引き受けてくれて感謝するよ」

「えっあっ、はい、こちらこそありがとうございます……?」

「詳しいことは爺さんから聞いてくれ、それじゃあな!」

 

 ぶっきらぼうにそう言い放って、守衛さんは元の場所に戻っていった。

 こういう、小さな村の守衛さんをしているのは、大体が退役した兵士だったり、引退した元冒険者だったりする。

 セカンドライフのことを今から考えるのは気が早すぎるけど、私もちゃんとアトリエを建てて元手があんまりかからない商売をしたいなあ。

 

「あっ、ルイネロさんがどこにいるのか聞けばよかった……」

 

 なんてぼんやり考えていると、肝心なことを聞き忘れていたことに気づいた。

 畑の修繕はいいとして、その畑がどこにあるのかわからない。

 もう一回守衛さんに話を聞くという手もある。

 

 でも、露骨に溜息とかつかれたら怖いなぁ、と思う気持ちが足を止めさせる。

 うぅ、ジリオンの街に引っ越してきて、初めての依頼にこんな詰みポイントがあるだなんて。

 コミュ症はこんな風に、必要なことを他人に聞けないから、いつまで経ってもコミュ症なのだ。

 

「る、ルイネロさん……な、名前だけは覚えてるから、家の表札とか確認して回ればなんとかなる、よね……?」

 

 なんとなく、飛び込み営業をやっていた時代を思い出して憂鬱になる。

 でも、他に手段はないんだから選ぶ権利も私にはない。

 懐かしいなあ。お客さんの家をローラー式に訪問しては怒りと侮蔑の籠った視線を受けていた毎日。

 

「……う、うぅ……」

 

 思い出すだけでキリキリと胃が痛くなる。

 これを平気でこなしてた上司や先輩の心臓と胃袋は、オリハルコンで出来ていたに違いない。

 とはいえ、ここで止まっていても仕方がないので、おずおずと一歩を踏み出して、私はルイネロさん探しを始める。

 

「……る、ルイネロさんは……いらっしゃいますか……?」

 

 一応、小声で呼びかけてみたりもする。

 本格的に営業時代を思い出して、つらくなってきた。

 なんの取り柄もなく、流されるように……というか流された果てに行き着いた先だから自業自得なんだけど。

 

 どこまでも情けない自分に嫌気がさして、目尻に涙を浮かべながら、ルイネロさんを探していたときだった。

 

「なんじゃい、お嬢ちゃんがワシの依頼を受けてくれた冒険者かい」

「あっひぇっ!?」

 

 後ろから声をかけられて、思わず奇声を上げてしまう。

 

「トーマスのやつも親切じゃないのう、ワシのところまで案内するぐらいはしてもええというのに。嬢ちゃん、災難じゃったな」

「……あっいえ、その、聞き忘れた私が、ぜ、全面的に悪いので……」

 

 あの守衛さんはトーマスさんというらしい。

 推定ルイネロさんの気遣いが心に染み入る。

 でも、悪いのは私なのだ。

 

「んなこたぁなかろうよ、ところでお嬢さんにはこの前荒らされた畑の柵を直してもらいたくての」

「あっはっ、はい……ルイネロさん、ですよね?」

「ほっほ、この村でルイネロはワシ以外おらんよ」

 

 ……親切な人でよかったなあ。

 これで昔気質な人だったら、私はきっとけちょんけちょんに怒られていたに違いない。

 そう考えると、運がよかった。

 

「……あ、ああああの、今日は、よ、よろしくお願いします……」

「なんじゃい、急に改まって……働くのはお嬢さんじゃぞ」

「あっそれもそうですね、へへ……」

 

 会話が終わってしまった。

 なにか気の利いたお礼とかできないかな、と思った結果がこれだ。

 ……やっぱり私、冒険者に致命的に向いてないんじゃないかな。

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