転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい!   作:守次 奏

6 / 40
生きるためのサビ残

 冒険者には致命的に向いてない私かもしれないけれど、そこそこ手先は器用な自信がなくもなかった。

 案内されてルイネロさんの畑に行くと、見事に魔物や動物の侵入防止に建てた柵が破壊し尽くされていた。

 これを直すのはちょっと時間がかかりそうだけど、なんとかなりそうではあった。でも。

 

「……モイの村付近でこの柵をここまで破壊できる魔物や動物なんて、いたかな……」

 

 私が気になっていたのは、修理にかかる時間よりもその状態だった。

 根こそぎ倒されて根本からへし折られている防護柵の状態を見るに、相当な力を外からかけられたことが伺える。

 畑を荒らす魔物の代名詞としては、それこそゴブリンが挙げられるけど、彼らはもっと小狡いやり方をする種族だ。

 

 こんな風に、あたかもなにかに突進されたような痕跡を残すような魔物じゃない。

 

「……? お嬢さん、なにをしとるんじゃ?」

「えっあっ、その、だっ、誰が、こんなことをしたのかなって……」

「それがさっぱりわからんでのう、ワシもゴブリンに畑を荒らされることはあったがの、奴らは柵を破壊するにしてもこんな乱暴にはできん」

 

 ゴブリン。

 ファンタジーでは定番の人型二足歩行の魔物で、原始的な石器を武器にしている種族だ。

 彼らが畑を荒らすときは器用に柵を上り詰めたり、石斧で破壊したりすることはあっても、根本から掘り起こすようにへし折ることはない。

 

 ない、と断言できるほど私も魔物の生態に詳しいわけじゃないけど、今までの経験上、そう言って差し支えない程度には場数を踏んでいる。

 

「……こ、このまま直してもいいですけど、また畑荒らしがきたら……」

「それが問題でのう……」

 

 いくら柵を直しても、それを歯牙にもかけないで薙ぎ倒していくようななにかがいる、となれば話は別だ。

 

「トーマスのやつにも夜の警備を強化するように頼んだんじゃがのう……それでもこのザマじゃ。あやつは村で一番の腕利きなんじゃが……」

 

 うーん。

 どうしたものか。

 ルイネロさんは困り果てた様子で呟いたけれど、街へと出された依頼はあくまでも畑の修繕であって、その犯人探しは含まれていない。

 

「……あっあの、い、今まで、このようなことは……?」

「ワシが知る限りはないのう。畑を荒らした魔物は、今まではこの村の自警団が倒してくれたからのう」

 

 なるほど。

 少なくともトーマスさんを含め、自警団のメンバーはゴブリンを余裕で倒せるぐらいの腕前は持っているということだ。

 そんな彼らが、畑荒らしの存在に気づかないなんて話があるだろうか?

 

 いや、ない。

 でも、私が受けたのはあくまでも畑の修繕で、トーマスさんたちがなにかを隠していたとしても、それを暴き立てる権利はない。

 ……う、うぅ、この依頼、思ったよりも厄ネタかもしれないなあ。

 

「と、とりあえず柵は修理しますね……」

「うむ、頼んだぞい」

 

 とりあえずは、ルイネロさんに持ってきてもらった資材を見たまま組み立てて、新しい柵を作ることにした。

 まずは依頼を完遂して、その分のお金をもらわなければ、私の生活費も入ってこないし、ミカエラさんの借金も返済できないんだから。

 水魔法で作り出したシャボン玉に閉じ込めて浮かせた資材をちょちょいと組み立ててやれば、ものの数時間で防護柵は完成した。

 

 これも水魔法のちょっとした応用……というか、魔力コントロールの範疇だ。

 精密に動く水のロープを作って資材を固定、紐を結んでから余計な水分を抜く。

 これだけで、手作業よりも楽に組み立てられる。

 

「お前さん、もう柵を修理し終えてしもうたのか!」

 

 ルイネロさんは、驚愕に目を見開いた。

 どうやら、ほかほかと湯気を立てている木製のコップ──差し入れのお茶かなにかを持ってきてくれたらしい。

 うっうっ、ありがたい。仕事中に差し入れをもらえるのなんて、前世から数えていつぶりだろう。

 

「……あっはい、こ、これでも、魔術師なので……」

「ふむ……『黒杖持ち(ブラッカー)』だからと疑っておったが、お嬢さんはもしかして相当名の知れた魔術師なのか?」

「……え、えへ。そんなでも、ないです。ちょっと水魔法を齧ってただけで」

「そんなものかのう。いずれにしろ助かったわい。茶は置いておくから、今手形を持ってくるでの」

 

 ルイネロさんが地面に置いたコップをシャボン玉に閉じ込めて手元に引き寄せつつ、私はその背中を見送っていた。

 これで依頼は終わりだ。

 飲み慣れた、安物のお茶の優しい味わいが、一仕事終えた体に染み渡る。

 

「……でも、根本的な原因を絶たないと、また……」

 

 今回はルイネロさんの畑が狙われただけで、他の誰かの畑や、最悪人間が襲われるということだってありうる話だった。

 そう、今回の畑荒らしの犯人に関して私は目星をつけていたのだ。

 ゴブリン程度なら余裕で倒せるトーマスさんたちが、交戦を「わざわざ避けた」相手。

 

 ──仕方、ないよね。

 

「お嬢さん、待たせてしまったの。依頼料じゃ。お嬢さんが所属してるギルドによろしくの」

 

 戻ってきたルイネロさんが、信用手形を懐から取り出して、私に手渡してくる。

 

「……あっ、ありがとうございます。そっその、も、もう少しだけ、この村に滞在してても、いいでしょうか!?」

 

 上擦った声でかつ早口で、私はルイネロさんへと問いかけていた。

 ……うぅ。

 コミュニケーションがまともに取れない。

 

「いる分には構わんがのう……この村に宿は一つしかないぞい、早めに部屋を取っておくことじゃな」

「あっ、ありがとうございます……へへ」

 

 踵を返して去っていくルイネロさんに何度も頭を下げて、私は防護柵の上にシャボン玉のクッションを作って腰を下ろした。

 サービス残業。

 この世で私が嫌いな言葉の中でも、十本の指に入るくらいに嫌いだけど、これぐらいのサービスなら、お安いご用だ。

 

 あとはただ、ぼんやりと夜になるのを待つ。

 万能な水魔法でも時間は操れない。

 仕方ないけど、一人でぼーっとするのには慣れっこだった。

 

 そして、数時間後。

 夜の帳が下りきって、月明かりがほんのりとモイの村を薄く照らす時間に、「畑荒らし」は現れた。

 

『ブルルルルル……ッ……!』

 

 大きな足音を立てずに山を下ってきたのは、思ったよりも狡猾で冷静だ。

 畑荒らしの正体は、思った通り緑色の巨大イノシシとしか言いようのない魔物──「ダイナミックボア」だった。

 この辺りでは見かけない、本来の生息域を外れた魔物がどうしてここまで来たのかはわからないけど。

 

「……ごめんね。『穿水』」

『ブルアッ……!? ガッ……』

 

 私は黒く塗られた樫の杖をダイナミックボアに向けて、その先端から超密度に圧縮した高圧水流を撃ち放った。

 さながら光線のように圧縮された水はダイナミックボアの額を貫いて、一瞬で絶命させた。

 あとは血抜きをして、冷凍してジリオンの街まで持っていけば、依頼料に加えて結構な追加収入が見込めそうな、大きな個体だった。

 

「……でも、これだけの大きさのダイナミックボアが生息地を外れるなんて……」

 

 ダイナミックボアは、ジリオンの街周辺では五指に入るぐらいには強い魔物だ。

 ただ、わざわざ出会おうと思わなければ出会えないような、人里離れたところを住処にする魔物でもある。

 それが人里まで降りてきたことには少しの違和感を覚えるけれど、わからないことを考えていても仕方ない。

 

 私は「水刃」の魔法で血抜きを済ませ、同じく「水刃」で肉の塊になるまで加工したダイナミックボアを冷凍し、シャボン玉に閉じ込めてから、ジリオンの街へと帰還していった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。