転生コミュ症水属性魔術師少女は自由気ままに異世界を暮らしたい!   作:守次 奏

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私がやりました(生産者表示)

「そんなわけで道ゆく皆さん! 新鮮なダイナミックボアのお肉、買っていきませんか!? 正真正銘、獲れたてのお肉! 『燃える彼岸花亭』のアンゼリカ・アクアマリンが討伐した個体でーす!」

 

 市場に立ったミカエラさんは、元気な声でお客さんを呼び込んでいた。

 私はシャボン玉の中にダイナミックボアの頭を封じ込めたまま、置き物になっている。

 前世で営業やってたときのつらい記憶が蘇ってくるけど、そこは我慢だ。

 

「このサイズのダイナミックボアをそこの『黒杖持ち(ブラッカー)』の嬢ちゃんが倒したってのかい?」

「これだけデカいのは久々に見たな、山のヌシに匹敵するんじゃないか?」

「でも、そのアンゼリカって子は『黒杖持ち(ブラッカー)』なんでしょう? もしかしたら、闇ルートで仕入れてきたものを転売してるのかも……」

「バカ言え、闇市でもこんなサイズは出回んねえよ」

「『燃える彼岸花亭』って、あの街外れの?」

 

 私みたいな落ちこぼれの証である「黒杖持ち(ブラッカー)」が、この辺りでは珍しいダイナミックボアを倒した。

 その事実も相まって、半信半疑といえどミカエラさんの周りには人だかりができていた。

 あとは単純に、珍味とされているお肉が市場に並んだのが久しぶりだからかもしれない。

 

「ふふん、正真正銘本物だし、うちのギルドに──『燃える彼岸花亭』に所属しているアンゼリカが討伐した個体だよ! あのシャボン玉に生首が入ってるでしょ?」

 

 ミカエラさんの言葉に合わせて、私はぎくしゃくしたまま、少しだけ生首入りのシャボン玉を前に出す。

 おお、と観衆がどよめいた。

 喋らなくて済むのは助かるけど、論より証拠って、多分こういうことなんだろうなあ。

 

「さあさあ、スタート価格は十万プラム! 料理にしても保存食にしても美味しいお肉がたった十万プラムからだよ! ぜひぜひ買っていきませんかー!?」

 

 ミカエラさんが声を張り上げる度に、お肉の店を営んでいる人や、料理人、冒険者といった様々な格好の人が集まってくる。

 ……き、気絶しそう。

 人混みは昔から得意じゃない。

 

 ミカエラさんに手を握ってもらっているとはいえ、私は半分意識を失いそうになりながら、「このお肉を獲ってきたのは私です」の立て看板の代わりを務めていた。

 

「どうするよ、あんなバカでかい肉……」

「いやでも、これだけあれば当面の保存食には困らないからな」

「このサイズと脂のノリなら、王都に献上する品としても申し分ありませんよ!」

 

 ミカエラさんは、笑顔で殺し文句を放った。

 

「乗った! 十二万五千プラム出すぜ!」

「なら、私は十二万八千プラム!」

 

 ミカエラさんの言葉を皮切りに、人々の議論はダイナミックボアのお肉と私の因果関係じゃなく、値段の競り合いに移行していった。

 ……た、助かった。

 別に悪いことをしているわけじゃないし、私が獲物を仕留めたのも事実だけど、話題の中心に登ることなんてないコミュ症にとって、あれこれ議論されるのは胃に優しくないのだ。

 

「十三万七千プラム!」

「十四万二千プラム!」

「十五万プラムです、これでどうですか!?」

 

 王家への献上品としての価値も見出されたとなれば、値段は見る見るうちに吊り上がっていく。

 流石はミカエラさんだなあ。

 これだけ明るくて可愛くて商売が上手なのに、借金まみれなのが可哀想になってきた。

 

「まだまだ! あと五分の間にもう一声お願いしまーす!」

「ええい、十八万プラムだ、持ってけ!」

「ならば十八万五千プラムでどうですかな!?」

「十八万六千プラム!」

 

 段々と値幅が小刻みになっていく。

 この様子だと、大体十八万プラム前後で落札されるんだろうなあ。

 と、ぼんやり考えていたときだった。

 

「四十万プラム出すわ」

 

 明らかに相場を逸脱した価格を提示する女の子の声が、凛と響いた。

 四十万プラム。

 一万プラム金貨と、一千プラム銀貨と、十プラム銅貨と一プラム青銅貨が一般貨幣として流通しているこの世界では、かなりまとまったお金だ。

 

 本当に払ってもらえるなら、ミカエラさんの借金もぐぐっと減る、かもしれない。

 いくらあるのかはわからないけど。

 でも聞くのも失礼かもしれないし、知ったら卒倒しそうだから聞けてないけど。

 

「げっ、ガヴリィル……!」

「クレバース商会が噛んできたか……!」

「この街一番の商会が相手じゃどうしようもねえよ。こいつは撤退だな、解散解散!」

 

 そして、四十万プラムという凄まじい金額を提示してきた女の子は、撤退していく群衆を一瞥して、ふん、と小さく鼻を鳴らした。

 ガヴリィル、というのだろうか。

 小さくて細い顔立ちに、気丈そうな翡翠色の瞳。吊り気味なのがその印象に拍車をかけている。

 

「誰かと思えばリィルじゃん、お肉食べたくなったの?」

「あんたの借金をまとめて肩代わりしたのはうちの商会でしょうが、少しでも返済に充ててあげようって幼馴染の気遣いを無下にする気?」

「冗談冗談! 冗談だってばー! もう、リィルには頭が上がんないよぅ」

 

 ミカエラさんはけらけらと笑っているけれど、ガヴリィルというらしい女の子にジトッとした目で睨まれて、冷や汗を流している。

 あの二人、幼馴染で親友同士なんだ。

 いいなあ。私には前世も今世もそういう関係の子なんて、皆無だったから。

 

「ふん、最近冒険者が所属したって聞いたから来てみれば……このサイズのダイナミックボアを仕留めるなんて、結構やるじゃない。あなた、名前は?」

 

 ガヴリィルさんはツインテールに括った桃色の髪を靡かせて、私の方を振り返った。

 ……わ、私?

 急に話を振られると思っていなかったから、一瞬硬直してしまった。

 

「あっあの、あの、その、わ、わわわわ私はあ、ああああ……アンゼリカ・アクアマリンと申します……」

「別に怒ってるわけじゃないわよ。ふーん……なんだか頼りない感じだけど、この子が、かぁ」

 

 ガヴリィルさんは大きな胸を支えるように腕を組んで、ふん、と小さく鼻を鳴らした。

 値踏みでもするように、その視線は私の全身をくまなく見つめている。

 ……も、もしかして借金のカタとして、私も売られる対象に入っていたりするのかな。

 

「だから、別にそんな警戒しなくていいってば。取って食べるわけじゃないし」

「……よ、よかったです……てっきりお風呂に沈められるのかと……」

「あはは、リィルならやりかねないかもね」

「あんたら二人まとめて沈めてやってもいいのよ」

『ごめんなさい』

 

 私とミカエラさんは、声を揃えて、迅速に頭を下げた。

 

「とにかく、このダイナミックボアはうちの商会が買い取って王都への献上品にさせてもらうわ。買い取った金額は借金の返済に充てる。それでいいでしょ、ミカエラ?」

「うん、元から売れたら借金返済に充てるつもりだったし、その手間が省けるのは助かるよ」

「別にあんたのためじゃないわよ。それと、アンゼリカ」

「はっ、はい!?」

 

 ガヴリィルさんからの突然の指名に身体を強張らせつつ、私は声を上擦らせて返事をした。

 ……う、うぅ。

 コミュ症かくあるべし、みたいな姿だ。情けない。

 

「この一件であんたと『燃える彼岸花亭』の噂は大きく広がるわよ、良くも悪くもね」

「……えっあっ、は、はい」

「それと、ミカエラに協力してくれてありがと。じゃあね」

 

 信用手形に四十万プラムという金額と自分のサインを書き記すと、ひらひらと手を振ってガヴリィルさんは市場を後にした。

 ……案外、悪い人じゃないのかもしれない。

 気が強くて、ぐいぐいとくるから、正直苦手なタイプではあったけど。

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