東雲家次女の日常   作:白雪琉衣

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境界線のない色彩

神山高校の屋上。放課後の喧騒から切り離されたこの場所で、暁山瑞希は一人、フェンス越しに街を眺めていた。

瑞希が纏う「可愛い」は、自分を守るための鎧であり、本当の自分を表現するための唯一の武器でもある。けれど、時折、その鎧の重さに息が詰まりそうになることがある。

「……瑞希ちゃん」

背後から、風に溶けるような静かな声がした。東雲星名だ。

彼女は瑞希の隣に立つと、同じように遠くを眺めた。

1. 鏡のような瞳

「ねえ、瑞希ちゃん。瑞希ちゃんの色は、とっても綺麗だね」

星名は、何気ないことのように言った。

瑞希は少しだけ肩を震わせ、いつものおどけたような笑みを浮かべる。

「あはは、ありがと。ボクのセンスがいいからね! このリボンも、星名ちゃんのために選んだんだよ?」

「ううん、そうじゃなくて」

星名は瑞希の瞳をじっと見つめた。その瞳は、何かを暴こうとする鋭さではなく、ただそこにある光をあるがままに受け入れる、凪いだ湖のようだった。

「瑞希ちゃんの心の色だよ。……名前がついた色じゃなくて。瑞希ちゃんが、瑞希ちゃんとしていようとする、強くて切ない、……虹色みたいな光」

2. 秘密の輪郭

瑞希の呼吸が止まる。

今まで、誰もそんな風に自分を見たことはなかった。「変なやつ」か「可愛い女の子」か、あるいは「触れてはいけない何か」か。

けれど星名は、瑞希が隠している「境界線」そのものを、美しいものとして肯定した。

「……星名ちゃんには、見えちゃうんだね。ボクが、ずっと怖がってるもの」

瑞希の声から、いつもの芝居がかった明るさが消える。

「ボク、本当はね——」

瑞希がその秘密を口にしようとしたとき、星名はそっと、瑞希の震える手に自分の手を重ねた。星名の指先は驚くほど温かく、そして確かな重みを持っていた。

3. 星名の受け止め方

「言わなくても、大丈夫だよ。……名前なんて、いらないと思う」

星名は優しく首を振った。

「お料理も、お花も、名前がつく前からそこにあるでしょ? 名前を知らなくても、私はそれが美味しいことや、綺麗なことを知っているもん。……瑞希ちゃんも同じだよ。瑞希ちゃんが、どんな瑞希ちゃんであっても、私にとっては、一緒にいて楽しくて、とっても優しい、大好きな瑞希ちゃんなんだよ」

星名の言葉には、濁りがいっさいなかった。

彼女にとって、世俗的な「普通」や「正解」は、夜空の星を分類する程度の意味しか持たない。大切なのは、今そこに放たれている光が、いかに美しいかということだけ。

「……あは、……あはは。……あーあ、ボクの完敗だなぁ」

瑞希の目から、一滴の涙がこぼれ、屋上のコンクリートに小さなシミを作った。

怖かった。いつか軽蔑されるのが、あるいは「理解したふり」をされるのが。

けれど、星名は理解しようとするのではなく、ただ「隣にいること」を選んでくれた。

4. 結末:新しく混ざり合う色

「ねえ、瑞希ちゃん。……瑞希ちゃんの色で、私にリボンを作って。……私も、瑞希ちゃんみたいな、自由な色になりたいな」

星名が微笑むと、瑞希は涙を拭い、最高の「暁山瑞希」としての笑顔を取り戻した。

「……もう。星名ちゃんは、そのままでも十分すぎるくらい綺麗だよ。……でも、わかった。世界で一番可愛いリボン、ボクが作ってあげる。……特別だよ?」

夕暮れの屋上。

一番星のような少女と、虹色の光を纏う少年少女。

二人の間にあったはずの「秘密」という名の壁は、星名の透明な光によって透かされ、ただの「愛おしい個性」へと姿を変えた。

瑞希は気づく。星名に縋り付いていたのは、彼女が消えてしまいそうだったからだけじゃない。自分という存在を、消さないでいてくれる光が、そこにあったからなのだと。

  二人の秘密の共有

• その後の瑞希: 星名の前では、無理に「明るい瑞希」を演じる必要がなくなった。疲れたときは、ただ黙って星名の隣で、彼女が淹れてくれた温かいお茶を飲む。それが一番の救いになった。

• 星名の接し方: 瑞希がどのような服装で、どのような名前で呼ばれようとも、彼女は「瑞希ちゃん」と呼び続け、その時々の瑞希の表情に合わせて、料理の味付けを微調整するようになった。

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