東雲家次女の日常   作:白雪琉衣

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一番星が宿る風景——キャンバスに刻まれた二人の奇跡

東雲家のリビングに、布で覆われた巨大なキャンバスが置かれていた。

数日間、部屋に籠もりきりで星名が描き上げたその作品は、風景画のプロからも注目される彼女が「初めて人物を描き込んだ風景画」だった。

1. 咲希のリクエスト、星名の挑戦

事の始まりは、数週間前の放課後。公園で咲希が何気なく言った一言だった。

「せーちゃんの描く景色って、本当にそこにいるみたいで大好き! ……いつか、その景色の中に私も入れてくれたら嬉しいな」

風景画において「空気」を描くことを得意とする星名にとって、人物を描き加えることは、その場の静寂を壊すようで避けてきた領域だった。けれど、咲希の弾けるような笑顔を見た瞬間、星名の中に「この光をキャンバスに閉じ込めたい」という強い衝動が走ったのだ。

2. 両家が集まった「お披露目会」

完成の知らせを聞き、東雲家には天馬家の兄妹——司と咲希が訪れていた。

リビングには、父、絵名、彰人。そして緊張した面持ちの司と、期待に目を輝かせる咲希が揃う。

「……じゃあ、開けるね」

星名が静かに布を引く。

現れたのは、放課後の音楽室。夕陽が差し込み、埃の粒が黄金色に舞う中、窓辺で鍵盤に指を置く咲希の姿を描いた風景画だった。

「…………っ!」

一瞬、リビングから音が消えた。

そこに描かれていたのは、単なる「咲希の似顔絵」ではない。

窓の外に広がる街並みの遠近感、カーテンを揺らす風の質感、そして何より、咲希という少女から放たれる「生きる喜び」という光が、音楽室の空気そのものを震わせているかのような……あまりにも鮮烈な「景色」だった。

3. 巻き起こる大騒動

「……素晴らしいッ!! なんという輝きだ! 我が妹の美しさが、このキャンバスの中に永遠に刻まれているではないか!!」

最初に叫んだのは司だった。感動のあまり涙を流し、「この絵を我が家の家宝、いや、国宝にすべきだ!」と豪語し始める。

「……セナ。あんた、……これ……」

絵名は言葉が出なかった。風景と人物がこれほどまでに見事に調和し、お互いを高め合っている絵を、これまでに見たことがなかった。画家である父もまた、無言で絵に近づき、その筆致を食い入るように見つめていた。

「おい、司先輩。……とりあえず落ち着け」

彰人は司を宥めながらも、妹の異次元の才能に改めて圧倒されていた。

(これ……風景画の枠を超えてるだろ。……完全に『本物』だ)

そして、モデルとなった咲希は、ただじっとその絵を見つめていた。

「……せーちゃん。私、こんなに……綺麗に笑ってたんだね」

咲希の瞳には、喜びと感謝の涙が溜まっていた。星名はそんな咲希の隣に寄り添い、優しくその手を握った。

4. 結末:天才の自覚なし

この絵の噂はすぐに広まった。

司が天馬家のリビングの最も目立つ場所に飾ったことで、訪れる人達が「この素晴らしい絵を描いたのは誰だ!?」と色めき立ち、星名の元には個展の依頼や取材が殺到することになる。

しかし、当の本人は至って平然としていた。

「料理も、歌も、この絵も……みんなが笑ってくれるなら、それでいいんだよ」

キッチンでお祝いの特製ケーキを焼きながら、星名は鼻歌を歌う。

その歌声は、キャンバスの中に閉じ込めた夕陽の色と同じくらい、温かくて透き通っていた。

  その後の影響

• 天馬家の家宝: 司はこの絵を「我が妹の聖域」と呼び、毎日磨いている。

• 東雲家の変化: 絵名がこの絵をきっかけに、人物と風景の調和について星名にアドバイスを求めるようになった(料理以外で頼るのは珍しい)。

• 星名の新作: 咲希という「光」の捉え方を理解した星名は、これ以降、風景の中にひっそりと家族や友人を描き込むようになり、その作品の市場価値はさらに跳ね上がった。

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