「WEEKEND GARAGE」では、ビビバスの4人がいつものように練習に励んでいた。
熱気がこもる店内に、カウベルの涼やかな音が響き、神高の制服を着た星名が姿を現した。
「彰人、お疲れ様。……これ、お姉ちゃんから。忘れ物だって」
「あ? ああ、悪いな、星名」
彰人が忘れ物を受け取ろうとしたその時、カウンターでドリンクを作っていた杏の動きが止まった。
1. 杏の「直感」とプロデューサーの血
(……今、この空気。こはねの真っ直ぐな声に、星名ちゃんの『あの声』が乗ったら……!)
杏は、星名がかつてレオニの特別ゲストとしてステージに立った時の、あの伝説的な歌声を思い出していた。儚げな少女が、ライブハウスの爆音を切り裂いて見せた、凛とした「一番星」の輝き。
「ねえ、! ちょっとだけ、こはねの練習に付き合ってくれない?」
「えっ、私……? でも、私は忘れ物届けに来ただけだし……」
「いいのいいの! こはねも、星名と歌ってみたいでしょ?」
杏の問いかけに、こはねはパッと顔を輝かせた。
「うん……! もしよかったら、星名と一緒に歌いたいな」
星名は少し困ったように、けれど嬉しそうに微笑んだ。
「……ふふ。こはねがそう言ってくれるなら、私も頑張ってみるよ」
2. 伝説の再演:銀の糸と黄金の熱量
曲は、ビビバスが練習していたストリートナンバー。
イントロが始まった瞬間、星名がマイクを引き寄せ、最初の一節を放った。
「(…………ッ!!)」
杏は、持っていた物を危うく落としそうになった。
星名の声は、いつも隣で囁くような柔らかさとは裏腹に、鋭く、透明で、どこまでも伸びていく「クリスタルの刃」のようだった。あのレオニのステージで、志歩たちの激しい演奏に負けじと磨き上げられた、芯のある強さがそこにある。
そこに、こはねの歌声が完璧なタイミングでオーバーラップした。
ストリートで培われた、力強く、真っ直ぐに魂を突き刺すような黄金のボーカル。
「嘘でしょ……なに、この周波数……っ!」
杏はカウンターに両手をつき、食い入るように二人を見つめた。
星名の「銀色に澄んだ高音」が空気を切り裂き、こはねの「太陽のような熱量」がそれを包み込み、何倍にも増幅させていく。
3. 客席の衝撃と、兄の「独白」
店内にいた常連客たちは、手に持っていたグラスを置くのも忘れ、ステージに釘付けになっていた。
「すごい……なんだこれ。耳が幸せすぎて震える……!」
「あの子、レオニのライブの特別ゲストの……! 生で聴けるなんて、マジかよ……!」
特等席で見守る彰人は、腕を組んだまま、呆然とステージ上の妹を見つめていた。
そこには、自分が守ってやらなければいけない「儚い妹」ではなく、一人の独立したアーティストとして、こはねと対等にぶつかり合っている東雲星名がいた。
「……あいつ。レオニのステージで、あんなもん手に入れてきやがったのか」
不器用な兄の口から漏れたのは、最大限の賛辞だった。
4. 結末:拍手の中の「二人だけの世界」
最後のロングトーンが美しく溶け合い、余韻が店内に広がった後。
一瞬の静寂を置いて、地響きのような大歓声が巻き起こった。
「っ、はぁ……! 楽しかった……! 星名、今のハモり、最高に気持ちよかったよ!」
「私も。……こはねの声、やっぱり凄い。私の声を、もっと高いところまで連れて行ってくれる感じがする」
二人はステージの上で、お互いの健闘を称えるようにハイタッチを交わし、そのままぎゅっと抱き合った。
「二人ともーーー!! もう最高! 今すぐ私と契約しなさい!!」
杏がステージに乱入し、二人に挟まれて「幸せのサンドイッチ」を強行する。
「あはは、杏ちゃん、苦しいよ……っ」
「……ふふ。杏ちゃん、ありがとう。楽しかった」
その夜、WEEKEND GARAGEの常連たちの間で、「伝説のゲストが、新しい星を連れてきた夜」として、このセッションは長く語り継がれることになった。
杏ちゃんの「ライブ事後レポート」
• 声の分析: 「こはねのパワーに対して、星名ちゃんの透明感が『最高のフィルター』になってる。音が濁るどころか、どんどん純度が高まっていく感じ。レオニのライブで覚醒した星名ちゃんの芯の強さが、こはねをさらに上のステージへ引き上げたね。」
• お客さんの反応: 店内の全ドリンクの注文が止まった。誰もが「音」を逃したくないという、稀に見る集中力だった。
• 彰人について: 「彰人の悔しそうな、でも誇らしそうな顔! あれだけで一杯作れそうだったわね。」