東雲家次女の日常   作:白雪琉衣

25 / 39
再演される伝説——WEEKEND GARAGEの奇跡の共鳴

「WEEKEND GARAGE」では、ビビバスの4人がいつものように練習に励んでいた。

熱気がこもる店内に、カウベルの涼やかな音が響き、神高の制服を着た星名が姿を現した。

「彰人、お疲れ様。……これ、お姉ちゃんから。忘れ物だって」

「あ? ああ、悪いな、星名」

彰人が忘れ物を受け取ろうとしたその時、カウンターでドリンクを作っていた杏の動きが止まった。

1. 杏の「直感」とプロデューサーの血

(……今、この空気。こはねの真っ直ぐな声に、星名ちゃんの『あの声』が乗ったら……!)

杏は、星名がかつてレオニの特別ゲストとしてステージに立った時の、あの伝説的な歌声を思い出していた。儚げな少女が、ライブハウスの爆音を切り裂いて見せた、凛とした「一番星」の輝き。

「ねえ、! ちょっとだけ、こはねの練習に付き合ってくれない?」

「えっ、私……? でも、私は忘れ物届けに来ただけだし……」

「いいのいいの! こはねも、星名と歌ってみたいでしょ?」

杏の問いかけに、こはねはパッと顔を輝かせた。

「うん……! もしよかったら、星名と一緒に歌いたいな」

星名は少し困ったように、けれど嬉しそうに微笑んだ。

「……ふふ。こはねがそう言ってくれるなら、私も頑張ってみるよ」

2. 伝説の再演:銀の糸と黄金の熱量

曲は、ビビバスが練習していたストリートナンバー。

イントロが始まった瞬間、星名がマイクを引き寄せ、最初の一節を放った。

「(…………ッ!!)」

杏は、持っていた物を危うく落としそうになった。

星名の声は、いつも隣で囁くような柔らかさとは裏腹に、鋭く、透明で、どこまでも伸びていく「クリスタルの刃」のようだった。あのレオニのステージで、志歩たちの激しい演奏に負けじと磨き上げられた、芯のある強さがそこにある。

そこに、こはねの歌声が完璧なタイミングでオーバーラップした。

ストリートで培われた、力強く、真っ直ぐに魂を突き刺すような黄金のボーカル。

「嘘でしょ……なに、この周波数……っ!」

杏はカウンターに両手をつき、食い入るように二人を見つめた。

星名の「銀色に澄んだ高音」が空気を切り裂き、こはねの「太陽のような熱量」がそれを包み込み、何倍にも増幅させていく。

3. 客席の衝撃と、兄の「独白」

店内にいた常連客たちは、手に持っていたグラスを置くのも忘れ、ステージに釘付けになっていた。

「すごい……なんだこれ。耳が幸せすぎて震える……!」

「あの子、レオニのライブの特別ゲストの……! 生で聴けるなんて、マジかよ……!」

特等席で見守る彰人は、腕を組んだまま、呆然とステージ上の妹を見つめていた。

そこには、自分が守ってやらなければいけない「儚い妹」ではなく、一人の独立したアーティストとして、こはねと対等にぶつかり合っている東雲星名がいた。

「……あいつ。レオニのステージで、あんなもん手に入れてきやがったのか」

不器用な兄の口から漏れたのは、最大限の賛辞だった。

4. 結末:拍手の中の「二人だけの世界」

最後のロングトーンが美しく溶け合い、余韻が店内に広がった後。

一瞬の静寂を置いて、地響きのような大歓声が巻き起こった。

「っ、はぁ……! 楽しかった……! 星名、今のハモり、最高に気持ちよかったよ!」

「私も。……こはねの声、やっぱり凄い。私の声を、もっと高いところまで連れて行ってくれる感じがする」

二人はステージの上で、お互いの健闘を称えるようにハイタッチを交わし、そのままぎゅっと抱き合った。

「二人ともーーー!! もう最高! 今すぐ私と契約しなさい!!」

杏がステージに乱入し、二人に挟まれて「幸せのサンドイッチ」を強行する。

「あはは、杏ちゃん、苦しいよ……っ」

「……ふふ。杏ちゃん、ありがとう。楽しかった」

その夜、WEEKEND GARAGEの常連たちの間で、「伝説のゲストが、新しい星を連れてきた夜」として、このセッションは長く語り継がれることになった。

  杏ちゃんの「ライブ事後レポート」

• 声の分析: 「こはねのパワーに対して、星名ちゃんの透明感が『最高のフィルター』になってる。音が濁るどころか、どんどん純度が高まっていく感じ。レオニのライブで覚醒した星名ちゃんの芯の強さが、こはねをさらに上のステージへ引き上げたね。」

• お客さんの反応: 店内の全ドリンクの注文が止まった。誰もが「音」を逃したくないという、稀に見る集中力だった。

• 彰人について: 「彰人の悔しそうな、でも誇らしそうな顔! あれだけで一杯作れそうだったわね。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。