神山高校の近くにある、少し年季の入ったカラオケ店。
受付で「二名です」と小さく告げ、星名と寧々はドリンクバーのコップを手に、一番奥の小さな部屋へと滑り込んだ。
「……ここなら、誰にも聞かれないね」
星名が防音扉を閉め、ホッと吐息をつく。
「……うん。……精密採点、入れてみた。……星名、何歌う?」
寧々がタブレットを操作しながら、少しだけ楽しそうに問いかけた。
1. 最初の「100点」
まずは星名が、難易度の高いバラードを選曲した。
「(…………っ……)」
星名の歌声が狭い部屋を満たす。
透明感溢れる高音と、一分の狂いもないピッチ。画面上の採点バーは、星名のビブラートに合わせて美しく虹色に輝き続ける。
曲が終わった瞬間、画面には『100.000』の数字が躍った。
「……あ、満点だ。……良かった」
「……星名、凄すぎ。……音程正確率、ほぼ100%じゃない」
寧々は驚きつつも、対抗心を燃やすように、自分が得意とするミュージカルナンバーを予約した。
2. 全国1位の独占
寧々がマイクを握ると、部屋の空気が一変した。
圧倒的な声量と表現力。低音から高音まで自在に操るその歌声は、機械の採点基準を軽々と超えていく。
結果は、もちろん『100.000』。
さらに、全国ランキングの画面には、二人のユーザー名(『S』と『N』)がトップを独占する事態となった。
「……寧々ちゃん、すごい! 全国で1位だよ!」
「……星名こそ。……見て、この履歴。……全部私たちの名前で埋まっちゃった」
二人は顔を見合わせて、くすくすと笑い合った。
人見知りの彼女たちにとって、この数字の積み重ねは、静かで、けれど確かな「二人の絆」の証明のようだった。
3. 騒然とするバックヤード
その頃、店員のアルバイトは、受付のモニターを見て目を丸くしていた。
「……店長、ちょっとこれ見てください」
「どうした? ……え、何これ。全国採点ランキング、今日だけで塗り替えられてる……?」
店長がモニターを覗き込むと、特定の楽曲の全国ランキング上位が、すべて同じ店内の同じ部屋から輩出されている。
「……プロか? もしかして、有名人がお忍びで来てるのか?」
「……いえ、さっき入ったのは大人しそうな女子高生二人組でしたけど……」
店員たちは、奥の部屋から漏れ聞こえてくる、およそ素人とは思えない圧倒的な歌声に、仕事の手を止めて聞き入ってしまった。
4. 結末:夕暮れの解散
予定の1時間が過ぎ、二人は満足げな表情で部屋を出た。
会計に向かうと、店員がなぜか少し緊張した様子で、深々と頭を下げる。
「……あ、あの。またのご来店、心よりお待ちしております……!」
「……? はい、ありがとうございました」
不思議そうに店を出る二人。
帰り道、宮益坂の歩道橋の上で、夕陽を眺めながら寧々がポツリと言った。
「……星名。……また、歌いに行こう。……今度は、もっと難しい曲、練習してくるから」
「……ふふ。うん、約束だよ。……寧々ちゃんと歌うの、本当に楽しいな」
二人は小さく手を振り、それぞれの帰路につく。
その夜、そのカラオケ店のランキングは、「S」と「N」の名前で埋め尽くされ、地元の歌自慢たちの間でちょっとした都市伝説になるのだった。
カラオケ後の「内緒」メモ
• 採点結果: 二人ともほぼ全曲で100点を連発。機械が「これ以上の加点は不可能です」と言わんばかりの満点履歴が並んだ。
• 店員の噂: 「神高の制服を着た天使と歌姫が降臨した」という噂が広まり、翌週からそのカラオケの予約が殺到することに。