「死に目で会えそうでよかったぜ、オヤジィ!!」
白ひげ海賊団
「ティーチ……!!」
子の名を呼ぶ親の声ではなかった。
我が子を殺された親の嘆き声だった。怒りに震える、親の叫びだった。
時代最強の怒髪衝天に大気が
四方に広がる蜘蛛の巣のごとき地割れ。地の裂け目から溢るる海水は際限がなく、止まることを知らない様子は、子を失くした親による無念の涙を代弁するかのようだった。
元、親子。
現、敵。
互いに知り尽くした相手を前に、能力者同士が衝突する。
が、黒ひげにとって必要なものは意地でなかった。
求めたものは力。自身の厄介な体質をも利用した悪魔の実の併用、〝ヤミヤミの実〟と〝グラグラの実〟を手中に収めるという、他の追随を許さない最強の能力。
何者にも縛られることない勝利が得られるのであれば、どんな手段を用いようとも構わない。
白ひげは仁義を通す男だ。
知っている。他でもないかの男の息子だったティーチだからこそ、白ひげは
ここで確実に〝白ひげ〟を、討つ。
海千山千の凶悪さで評判のある
強さに憧れた。強さに比例する懐の深さに憧れた。それ以上に
(アンタを殺すのがおれでなくったっていいさ!)
欲しいものは奪い取る。
それこそが。
(海賊の流儀ってもんだろ?)
一発の銃撃音は、鐘の音にも似て。
時代の幕引きをするように、幾重にも銃撃音が降り注いでいく――
――なんて、知っててそんなことさせるはずがないでしょう?
シャルリアは、すでに
十二年前に、惨たらしく殺されたくはないと怯えたあの日から立ち止まったことはない。
シャルリアの代行者ウタが、
ウタが投げた
角を丸く削った正六面体は、全面数字や絵柄が記されておらず、どの目が出ても等しく優劣はない。勝敗を出さざるを得ない
しかしそれは裏を返せば、特定の面を狙わなくてもいい、ということ。
全ての面に等しく定義付けてしまえば、確立という
たとえばそう、今回なんかは〝
――さあ〝黒ひげ〟、豪運の貯蔵は充分か?
向かってくる弾丸、
向かってくる拳、
向かってくる溶岩、
向かってくる刃、
向かってくる氷岩、
向かってくる煙、
向かってくる光線、
向かってくる鎖、
向かってくる英雄、
向かってくる檻、
向かってくる海兵、
向かってくる炎、
向かってくる海賊、
――尽く、無地の
自分たちに向けられていた攻撃が、逸れた先で、逆に相手の戦力を削る。
確実に最善で最良の結果。確立に怯えなくて良い分、実に効率的だ。
「何の実の能力者だ?!」
ウタの能力ではないことは間違いないです。と、伝わりもしないだろう心の内でシャルリアは茶化してみた。
卑怯だの姑息だの思われようが、手札の少ない自分たちが歴戦の猛者相手に手の内を見せる必要はない。そもそもである、ここで実の能力を喋るような素直さがあるのなら、
(バカラさん、やば……)
妖精の名が泣く言葉遣いも現状を目にすれば納得してもらえるだろう。
シャルリアのいうバカラは、新世界の〝怪物〟と名高いテゾーロの優秀な部下であり、ラキラキの実の能力――触れた者の運気を吸い取ること。及び吸い取った運気を自分の運気に変えることができる――者である。テゾーロとの関係は契約とも同盟とも明言しづらい。が、本格的にテゾーロと手を組むことになったとき、かつての記憶でバカラの能力を知っていたシャルリアは考えたことがあった。
(前提――彼女の手で触れた者の運気を吸い取ることができ、かつ自分の運気に変えることができる能力)
(事実確認――極限まで鍛錬して心身ともに能力に追いつくと能力は
(考察――運気を第三者に付与することも可能なのではないか)
試行――は、当然困難を極めた。
なにせシャルリア自身の能力でない以上、最も負担を担うのは
襲撃により脱した
――天翔ける蹄を焼き付けられずにいられる奴隷が存在するか?
――骨格から違うにも関わらず、年頃の男女の見分けがつかないと思うか?
否である。ただの
ただし、いかなる能力といえども万能ではない。問題となってくるのはバカラ自身の精神力及び体力の消耗、そして運気の残量が目に見えない点だ。
(いつまで
能力者としての師であるバカラの
ウタウタの実は最後の最後まで使うな、とシャルリアは言った。バカラもテゾーロも、同じことを言った。
歌声を聴いた者の精神を仮想空間に誘うウタウタの実の能力。訓練を重ねたとは言え十全に扱うことの出来ないそれは、けれど、現在の持て余した状態でさえ、初見殺しの強さを発揮するのに。わざわざ世界政府に追われることはない。と、ウタに人前で能力を使うことを禁じた。
解せなかった。いや、大事にされているのだとわかる。
(だけど)
頬を、何かが掠めた。
生温い液体が流れるのを感じる。
黒ひげが罵詈雑言を並べ立てる。気に入らない。
ウタの前で、桜色の頭をした海兵が何かを叫んでいる。そうだよ、これ以上の目的は果たせないよ。エースは麦わらが取ったんだから。同じ〝赤〟でもちっとも安心できない、どころか逃げ出したくなるほどの寒気がする〝赤〟が、怒鳴って殺意を露わにする。
そうだね、このままじゃあ
渇くばかりで、嫌になる。
ああ、熱い。今度はどこか焦げたような気がする。
投げただけで勝利の女神が微笑むような
(いざとなったら、わたしは――
覚悟をしよう。
歌で新時代を作ると言った子供のわたしに、さよならをして、胸の海深くに眠らせて。代わりに、歌でこの時代を終わらせる、そんな覚悟を。
息を吸って。
長く吐いて、もう一度吸う。
ひどい空気だ。鉄錆と硝煙の臭いで咽込みそうになる。それでも、もう一度、何度も繰り返して、調子を整える。
肺も喉も。いや、この身体こそがウタのための
「……――、うそ……」
同じ戦場の、先で。
ウタは見間違えようもない〝赤〟を、見た。
「この戦争を終わらせに来た!!」
赤髪の男が腹の底から絞り出した声音は低く、それでも高らかに宣言は戦場に響いた。
海賊王ゴール・D・ロジャー、彼の死に際の一言で幕開けた〝大海賊時代〟以来最大規模となった戦い〝マリンフォード頂上戦争〟は、明確な勝敗を決することができずに終結となる。
元帥センゴクが責任を取る形で、次代にその席を譲った海軍。
空となった席を争ったのは「徹底的な正義」を掲げる〝赤犬〟サカズキと、反するかのように「ダラけきった正義」を掲げた〝青雉〟クザン。己が正義をかけた後継者争いは十日間にもおよび、死闘の末にサカズキが勝利を捥ぎ取った。
サカズキによる僅かな悪も許さぬ過激さをいかんなく織り込んだ新体制は、同じく大将の一人であった〝黄猿〟ボルサリーノを取り込んで強固に築かれ、発足以降善良な民衆によって熱い支持を受けることになる。
奇しくも、数多の戦死者を出した戦争は海軍にとって追い風となる。映像電伝虫による世界放送は、凄惨な戦争を共有すると同時に巨悪に果敢に立ち向かう白い背中を映し、以降正義に憧れ軍門を叩く者が後を絶えなかったという。また、名立たる〝英雄〟モンキー・D・ガープのごとき生きる伝説の海兵たちに引き続き、戦争を生き抜いた名もなき兵士たちも、自らの実力を高めんと訓練に明け暮れている。
ポートガス・D・エースの奪還を果たした白ひげ海賊団。
世界の秩序を相手に二番隊隊長を救い出し、
死ぬほんの間際まで、ニューゲートは彼の息子たちと
当初、白ひげ海賊団解散の話もあったが、残った息子たちによる強い反対によりこれを断念。傘下海賊を含めた総員一致で次期船長に〝火拳〟ポートガス・Dエース、副船長に〝不死鳥〟マルコを据え、
そして戦争で多くの者の記憶に残ることとなった三名――要塞監獄インペルダウンを脱獄し、