燃えるように陽が沈む
歯車が回る
一星に入ってからの日々は、特に大きな変化は無かった。
ただ毎日が容赦なく過ぎ去っていき、まるで巨大な機械の歯車のように俺は同じことを繰り返す。
学生らしいっちゃ学生らしいんだけど、何も変わり映えのしない“いつも”にはそろそろ飽きていた。
いや、いくつかの変化はあったのかもしれない。過ごしている日々は変わらずとも、そこに出来た心の余裕を埋める時間は作れた。
ギチギチに詰め込んだ講義の隙間、その時間にパチンコに行ってみたり。好きな漫画でも買いに行ったり。
まぁだんだん面倒になって、最近は電子書籍にしているけど……
そして、1番大きな変化は……
「ほら、あの子だよ。ここから見える?」
「あの子ってどの子だよ……もっと分かりやすい特徴を言ってくれ」
梁芦の頼みで、俺は廊下の窓から沢山の人が歩いている外を見下ろして、その人物を探していた。
何故こんな事をしているのかは……この眼だ。
「ほら! あそこ! 翠の髪でおさげ気味の背の高い人だよ!」
「わかりやすいヒントが翠って事しかねぇ……」
「つーか蝶々が1匹いるじゃん! それ見たらいいの!」
「俺には見えないんだって!」
つい最近の事だ。梁芦の友達と偶然出会った時、陽炎のようなモヤモヤを見てけてしまったのが始まりだった。
不思議に思ってそのモヤモヤを見ていると、俺に吸い込まれるようにしてそのモヤモヤが消え去ったらしい。
その現場にいた梁芦が言うには、青い蝶とやらは俺の目に導かれていくようだったと……
しかもそれをすると、蝶から離れた相手は苦悩から開放されたかのように気持ちが楽になる……って事らしい。
それからだ、アイツが蝶を見つけては俺を呼び、それを吸い込む。
俺の体や心に変化が無いと確信すると、彼女は率先して行動を起こした。
「ふぅ……ミッション完了!」
自分が全てやり切りましたよ感を丸出しにする梁芦は、事を終えるとポケット中から桃色の紙パックを取り出して俺に投げつけてきた。
「ほいっ、報酬。蓮太はこれ好きでしょ?」
「報酬って割には生温いな」
投げつけられたパックには“いちごオレ”と書かれている。最近では割と珍しいタイプでは無いだろうか? コンビニとかにあるものは蓋付きだったり、何かと利便性の為に古き良き形を崩しているのがほとんどだ。
そういえば高校にも、このいちごオレがあったな……牛乳とか……コーヒーとか。
「昼の時にね、7が揃って当たったの」
「どうりで冷たくないわけだ」
咥えたストローから中身を吸い上げ、口の中をいちごでいっぱいにする。
砂糖とは違うこの甘さが昔から好きだった。
「……」
それにしても、俺のこの“眼”は何なんだろう。言われるがままに、流されるままに使っているけれど、意味がわからない出来事だ。
ある日突然見えるようになった陽炎のようなモヤ。それと連動しているであろう青い蝶。そしてそれを吸い込む眼。
最初からこんな事をしていた訳じゃない。モヤを見ることになったのだって本当に最近の話だ。
梁芦の反応から見ても、アイツの見える蝶とこのモヤは同じモノ。だったら何故俺には蝶として見えないのか。何故突然こんなものが見えるようになったのか。
何故、梁芦のモヤは消し去ってあげられないのか。
不可解な謎は考えても考えても解決しない。でも、それも当然な事。だって俺は何も知らないんだから。モヤも、蝶も、何もかも。
昔まで否定していた非科学的な事象、今では少しだけ信じることができる。
少なくとも、他人の心なんかよりは。
「ねぇ……」
そんなことを考えていると、梁芦がボソリと呟くように声をかけてきた。
「……ん?」
窓に体を預けるようにして外を見る彼女とは対照的に、俺は外の世界に背を向けて言葉を待つ。
「笑顔って、どうすればちゃんとできるのかな」
「……は?」
思いもしなかった質問に少し面を食らう。
笑顔はどうすればできるのか? だって? 誰にでも明るく接する梁芦には無縁の悩みだと思っていた。
……と言うか、俺なんかよりは遥かに出来ている方だ。友達と話している時なんか心から笑っていそうで……
「そりゃお前……楽しいことしてる時とか、嬉しいことがあったりした時…………とか?」
「ふふっ、わからないんだ?」
「わからねぇよ」
なんでそんな質問が出たのかは一旦置いといて、その問いに対しての答えを俺は用意出来なかった。
最後に笑ったのなんて、もう随分昔な気がする。
「そういえば、蓮太の笑ってる顔なんて、もうずっと……ず〜っと見てないかも」
「そら年がら年中笑ってる俺なんて気持ち悪いだろ……?」
もちろん本気でそんな事を言ったわけじゃない。ただ単に、バカ正直にこの気持ちを伝えたくなかっただけだ。
色んなことに振り回されながらも、やっぱりコイツとのこの関係は嫌いじゃない。人とは関わりたくない……だなんて心の中で思っていながらコレだ。
……自分の気持ちだから。奥底にある感情なんてわかりきってる。
唯一と言えるこの繋がりを、俺は断ち切りたくないんだ。
それをしてしまうと、俺は本当に生きていけなくなると思うから。
「そんなことないよ。どんな人でも、笑顔の方がいいに決まってるもん」
「そもそも、私に笑顔を押し付けたのは“君”でしょ」
「……何の話だ?」
「忘れてるならいいで〜す!」
微妙に繋がっていないような会話の中で、梁芦はぴょんと立ち直し、空に手を伸ばして背伸びをする。
「でもね、蓮太。笑顔って大切なことなんだよ。笑うことの出来ない人生なんかよりも、笑うことのできる今の方が、ずっと、ずっと楽しいもの」
……まるで知っているかの言葉だな。
そう言おうとしたのを喉奥で塞き止めた。
どんな経緯であれ、どんな意図であれ、その発せられた言葉は俺の心には痛すぎたからだ。
「と! 言うわけで、明日は友達に聞いたオススメの喫茶店に行こうと思います!」
「ごめん、話が唐突すぎて意味がわからない」
さっきまでの落ち着いた声はなんだったのか、パンッと両手を叩いた梁芦はいつもの見慣れた姿に戻っていた。
元気で自由奔放で、太陽のように眩しい。
「蓮太が笑わなくなった第一の原因は、やっぱり美味しいものを食べなくなったからだと思うわけですよ」
うんうんと自分の意見を自分で認めながら、スマホの画面を手馴れた手つきでタップして、その教えてもらったのであろう喫茶店の画像を見せつけてくる。
「なんかね、ここのパンケーキが美味しいらしいよ? しかもほら! カップル割なんてある!」
「ふーん……嘘つく気満々だな」
「人間、時には嘘も大切なのです。1つの嘘で救われる出来事もあるのです」
「散々色々言ってたけど、要はこの喫茶店に行って奢れって事ね」
その店の名前を検索して、家からのルートを考えてみる。
歩いて行くには少し遠いけど、電車を使う程でも無さそうだ。
「奢れなんて言ってないでしょ!? ただお会計の時にちょっとお腹壊すかもだけど」
「それ嫌われるからやめといた方がいいぞ……?」
「パンケーキ〜♪ パンケーキ〜♪ しかもおかわりし放題〜♪」
「聞いてねぇし……」
2つの意味で。
そこで俺はカレンダーを確認してから、あることを思い出す。
今日は9月25日の金曜日。明日からの2日間は気になっていた店のイベントデーだ。その2日間で勝負をしてみようと考えていたんだった。
喫茶店の約束と勝負の2日間の重さ。どっちが大切かなんて比べるまでもない。
「梁芦、土日はダメだ。月曜にしてくれ」
「えぇ〜!? なんで? どうせ2日とも暇でしょ? 蓮太友達いないし」
そういうことはズバッと言ってくるのね、君。
「お財布をかけた勝負の日なの」
「またパチンコ? なに? 最近ハマってるの?」
「趣味みたいなもんだ」
「ふ〜ん、まぁ別になんでもいいんだけどさ。じゃあ月曜日ね? 絶対だかんね!」
「わかったわかった。月曜はちゃんと行くから」
うはーい! と飛んで喜ぶ梁芦の姿を見ながら、スマホのカレンダーにメモを記入する。
9月28日。喫茶店。
講義が終わったあとだし、どうせ待ち伏せされてるだろうから時間を約束する必要はないか。
遅刻も……きっと無いだろう。何も考えてないからわからないけど。
まぁ、俺と梁芦の性格だ。どうせ細かくスケジュールを決めた所で何一つ守らないだろう。良くも悪くも、2人揃って自由人だから。
場所は……繁華街の方か。
遅くならない内にさっさと出かけてしまいたいな。
生きる意思に満ちた獣の目だ……
ヒロインって誰が好きですか?(ただ気になっただけです)
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