もう一度、生きたいと思えるように。   作:紅葉555

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紙飛行機が飛んでゆくよ 明日にどうか間に合うように
ずっと ずっと ずっと ずっと
夕日をおいかけているよ

紙飛行機が落ちないように ボクは空に願いをかける
ずっと ずっと ずっと ずっと
夢が見たいから


夕空の紙飛行機

 

「お〜い〜! 蓮太〜!」

 

 遠くの方から無邪気な声が聞こえてくる。何度も何度も聞いた、大切だった声だ。

 

「待ってってば〜!」

 

 俺たちはいつも一緒にいた。学校の時も、家に帰ってからも、毎日、毎日……飽きること無くずっと一緒だった。

 

 ゲームをして遊ぶ時、小さな山に入って木登りをした時、意味もなく田舎道を探検した時、その全てを覚えている。

 

 俺には大切な親友がいた。

 

 気が弱くて、喧嘩も弱い。そして誰よりも優しい心を持っていたんだ。

 

 “澤藤 凛(さわふじ りん)”、きっと死ぬまで忘れることの無いだろう人の名前だ。俺は凛の優しさに強い憧れを抱いていた。

 

 勉強を頑張っていたから頭は良かったが、その他は微妙。でも困っている人は見過ごせなくて、出来ないとわかっていても無茶して力になろうとする。そんな奴。

 

 手先が器用だった俺は、コイツの苦手な部分を補う役目だった。

 

 凛がアイデアを考え、俺がそれを実現する。

 

 まさに俺たちは相棒だった。

 

 何度でも言おう。

 

 

 

 俺は、いつでも前を歩く凛に憧れていた。

 

 

 

 そんなある日、俺は凛が見知らぬ男と校舎裏に歩いて行くのを見かけてしまう。その男は普段学校になんかこない様な、いわゆる不良と言うやつだ。

 

 もしかしたらイジメにでも遇っているかもしれない。そう思って凛に聞いてみても何ともないと言い張るだけだった。

 

 実際、見える所にはどこにも怪我なんかない。

 

 その時の俺はそれなら良いと判断したんだ。

 

 その日から、不良達は学校へ来るようになった。そして、凛とちょくちょく連むようになっていった。

 

 そして畳み掛けるように流れる噂。

 

 

 

 

 凛が金を奪われている所を見た。

 

 

 

 最初は半信半疑だった。そんなこと信じていなかったし、何より、そんなことがあるのなら俺に相談してくると思っていたからだ。

 

 もし本当にそうなら、俺はその行為を止めなければならない。

 

 俺が()()()()()()()()()()()()

 

 だから俺は、凛を毎日見ていた。その確証に至るまで。

 

 凛は変わらず、友と話し、バカ笑いをし、学校の風景に見事に溶け込んでいた。

 

 ただ時折、悪い魔女にでも連れ去られるお姫様の様に。フッとその身を隠すんだ。

 

 

 

 

「噂だよ、森田の野郎が金持ちの凛に目をつけて金を獲ってるってさ。実際にその現場を見たってやつもいるし」

 

 俺は学校中の知り合いに声をかけた。何か知っていることはないかと。

 

「でも、可哀想だけどさ……相手はあの森田だ。どうにも出来ないよ」

 

 森田ってのはこの学校で不良のボスを気取ってる子供の名前だ。外でも中でも問題を起こす超がつくほどの問題児。

 

 その手のつけようのない姿に、教師ですらも関わることを拒否している。

 

「ふ……! ふざけんなよ! 凛は友達だろ!? このままでいいんか!?」

 

「いいじゃんかよ!! 暴力振るわれてるとか、凛の奴が痛い目に遭ってる訳じゃないんだ! 誰もそんなところを見たりはしてない! 金を渡せばそれで済んでるんだ! だったらそれで良しとするべきだ!」

 

 返ってきたのはそんな返答だった。殴られたりしてる訳じゃないから、金をたかられてるので済むのならそれで良し。らしい。

 

「いい訳ねぇだろ! なんだよ! その悪人優先の論理は! 全然理解できねぇ!」

 

 感情のままに動いたせいで、つい相手の肩を掴んでいた手をパッと離す。

 

「んなこと、俺が止めてやる……!」

 

 これでもう事実だ。経緯はどうであれ、結果は確定した。

 

 友達が困っているんだ。俺が助けてやるんだ。そう思って歩き出すと、俺に質問攻めにあっていた男がボソリと呟いた。

 

「ついでにもう一つ。そうやって前にも森田に突っかかった奴がいたけど、後で森田のグループにボコられたって話だよ。それはもう……コテンパンに」

 

「……」

 

 その言葉に俺は歩みを止めてしまう。

 

 ビビった訳じゃない、ただ違和感を覚えたんだ。その言い方はまるで……

 

 振り返ってよく見ると、制服の隙間から青い痣がはみ出ていたりする。

 

 そうか。

 

 コイツは闘ったんだ。

 

「そっか。でも俺行くわ」

 

 不思議と、心は燃えていた。

 

 

 

 

 そして俺はその後すぐ、事件の現場を見つけることになる。

 

 凛がポケットから封筒を取り出し、それを森田に渡している所を。そして森田がその仲間を取り出し、5枚ほどの札を数えている所を。

 

「お前らァ!!!!」

 

 その日の天気はどんよりとした曇り空で、雨が降りそうで降らない、嫌になる程に重い空気が流れる空だった。

 

 

 

「うーわ、コイツマジで手ェ出さねぇじゃん。まっ、少しでも手ェ出したらアイツボコるけどさ」

 

 もう何度殴られただろう。もう何度蹴られただろう。そんな数はもう覚えていなかった。

 

 ただ、そんな痛みも、苦しみも、凛を守るためだと思ったらへっちゃらだった。

 

「手なんか出さねぇよ……俺はいい……俺になら別にいい。痛いのはいくらでも我慢できる。でも凛はそんな強い奴じゃないんだ。だからお前らみたいなのに屈してしまう。だから頼む、俺を殴って気が済んだんなら、もう凛とは関わらんでくれ」

 

 問題は起こしたらダメだ。

 

「俺が守ってやるんだ」

 

 凛はそれが嫌で屈したのだから。その意思まで崩してはダメだ。

 

 穏便に、静かに。そして元の日常に戻る。それが一番なんだ。

 

「なんそれ、キモ」

 

 そんな捨て台詞を吐かれながら、俺は更に殴られる。

 

 その時、森田が受け取っていた封筒がパサりと落ちた。そしてその封筒には……

 

 恭二と書かれた文字。

 

 

 

 下の名前か、獲られるってわかっててわざわざ封筒に名前を書いて渡してたのか。

 

 なんとも凛らしいというか、なんという…………か……………………

 

「……っ!?」

 

 おかしくないか? 

 

 金を獲られる相手を、忌み嫌うはずの相手を名前で呼ぶか? 名前で宛名を書くか? 近寄りたくないはずだ、関わりたくないはずだ、そんな相手に対して名前? 

 

「なんで……下の名前を呼び捨てで書いてんだ……?」

 

 

(いいじゃんかよ!! 暴力振るわれてるとか、凛の奴が痛い目に遭ってる訳じゃないんだ! 誰もそんなところを見たりはしてない!)

 

 

 あの時の言葉を思い出す。

 

 殴られたりしてる所を見たことない……? 

 

 なぁ、凛。

 

 お前は────

 

「凛、ホントは……コイツと仲がいいのか…………?」

 

 そんな訳ない。でもなんで? 理由なんて知らない。何も分からない。でも、ただ…………

 

「おい凛! コイツ徹底的にやらなきゃダメだぜ? コイツ、もうわかってるみたいだしさぁ!」

 

 やめてくれ。

 

 違っててくれ。

 

 頼むよ。

 

「そうだね」

 

 凛…………

 

「殺していいよ」

 

「おっしゃあ!」

 

「…………っ!」

 

 凛は、俺のことを見てくれなかった。

 

 ただ冷たく、人形のように静かに、殴られ続ける俺から目を逸らしてそこに立っていただけだった。

 

 仲が良い2人、力で金を取るわけない。奪っていたんじゃない。

 

 “渡していたんだ”

 

「そんな……なんで……」

 

「蓮太にはわからないよ。俺の気持ちなんて」

 

「俺は目立ちたくないんだ。誰とも喧嘩せず、誰にでも優しくして、仲良くして、トラブルは極力避ける。そうすれば……虐められることもない」

 

 凛、お前は虐められて…………

 

「俺には金がある。唯一優れているのが財力だから。だったら俺は、学校でいちばん安全な“居場所”を買いたい!」

 

「いちばん強い人間の後ろに!」

 

「恭二の後ろにいれば誰も俺を傷つけてこない! 誰も喧嘩を売ってこない! 誰も近寄ってこない!!」

 

「俺は強い人間と一緒にいる、強い立場の人間なんだ! なのに、お前は俺を弱いって言ったよな……? 強くないって言ったよな……」

 

「ふざけんじゃねぇよ!!」

 

「守ってやる!? 何上から目線で物言ってんだ! お前みたいな奴が弱い人を下に見て虐めるんだろうが! 優越感に浸って虐めるんだろうが!!!!」

 

 親友からの罵声を浴びながら、凛の心の痛みを受け止め、感じ取っていた。

 

 いつからかはわからない。もしかしたら俺と出会う前からなのかもしれない。

 

 ただ、凛は……誰かによって大きな心の痛みを深く刻まれて、歪んでしまったんだ。

 

 俺は……どうすればいい? 

 

 この感情を、どこにぶつけたらいい? 誰に? 

 

 あぁ……いるじゃないか。目の前に。

 

 散々殴ってきた。

 

 コイツが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先は、あまり覚えていない。

 

 ただ、普段から抑制していた感情を解放するこの瞬間が心地よく感じたのは事実だ。人を傷つけているのに、人を、殴って、いるのに。

 

 気が付けば森田の取り巻きが増えている。でも、正直そんなの関係なかった。増える人を片っ端から殴り、凛を囲う奴らも一網打尽にした。

 

 そして騒がしい音が消えたあと、その場には俺と凛だけが残っていた。

 

 ただ、凛の俺を見る目は恐怖の色で染まりきり、歯を震わせて足が後ろへゆっくりと進んでいた。

 

「う……うぅうううぅぅううぅ……!! うわぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 まるで化け物でも見るかのように、凛は発狂して走り去る。

 

 俺はその走りを止めることができなかった。

 

 結局は俺も凛を傷つけてしまったのだ。

 

 自分の傲慢さで、自分のエゴで。凛の心の奥にある深い傷を抉りとってしまった。

 

 謝りたい気持ちで胸がいっぱいだけれど、きっともう……俺たちが話すことは無いだろう。

 

 

 

 

「蓮太……」

 

 呼ばれた方へ振り向くと、白音がそこに立っていた。

 

 きっと彼女は知っているのだろう。知っていて、出てこれなかったのだろう。じゃないと、俺に声なんてかけないだろうから。

 

「白音……俺……俺……」

 

 震える声が止まらない。震える手が止まらない。震える足が止まらない。震える体が止まらない。

 

 なんてことをしてしまったんだ。

 

 俺は……! 俺は…………っ! 

 

 震える体を止めてくれたのは白音の腕だった。肩から頭まで、ぎゅっとその身を包まれる感覚に、俺は涙を流してしまう。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 胸から零れる後悔を、悔やんでも悔やみきれない行動を、拭っても拭っても振り払えない心の闇を。白音は受け止めてくれた。

 

「よしよし……」

 

 

 

 俺はまだ子供だ。

 

 人の心の痛みもわからないちっぽけなガキだ。

 

 だから感情の当て方も分からない。

 

 心の落ち着かせ方も分からない。

 

 これを最後にしよう。

 

 こんな気持ちを人に押し付けちゃダメだ。

 

 そして何よりも、この痛みは辛すぎる。

 

 失うことがこんなにも辛いのなら。

 

 こんなにも苦しいのなら。

 

 

 

 

 俺はもう、友達なんていらない。





リバーブロー

ガゼルパンチ

デンプシーロール

格好いい……

ヒロインって誰が好きですか?(ただ気になっただけです)

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  • カロリー0さん
  • 日焼け跡がエロくて可愛いドエロ谷さん
  • 即落ち2コマお姉ちゃん
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