もう一度、生きたいと思えるように。   作:紅葉555

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止まったままの時計の針が

もう一度動き出す夜

愛と勇気でこれからの物語を紡いでいこう

遥かな時を超え

まだ見ぬその先で

綺麗な花は開く


ファムファタル

 

 死神を名乗る女の子との出会いから数時間後、約束通りに俺は梁芦と喫茶店に向かっていた。

 

 特段変わったことなんて何も無い。全てが普通であり、全てが当たり前だった。

 

 ただ、たった一つだけ俺の疑心を晴らす出来事が起きる。それは例の交差点だ。

 

 元々ここで死ぬと言われていたからある程度の覚悟はしておいた。さりげなく梁芦を道路から遠ざけるように誘導し、周囲に走っている車にも最新の注意を払った。

 

 だが、事故は起こりかけた。

 

 何気ない日常だったその空間が、一つのクラクションによって豹変していく。

 

 その瞬間に俺たちを含む歩行者全員が爆音を響かせた車に対して注目していたはずだ。

 

 しかし、ぶつかりかけた車二台はギリギリのところで回避し合い、死人が出てしまう程の大事故には繋がらなかった。

 

 死人は出なかった。それは素晴らしいことだ。でも、事故そのものは起こる直前ではあった。

 

 もしかしたら、これは本来であれば俺が死んでしまう事故だったのかもしれない。あんなことを言われた後だから嫌でもそう思い込んでしまう。

 

 様々なことが脳裏に過ぎったりしたが、記憶にない出来事を再現されてもそれを理解することはできない。

 

 でも、信じてみようと思うには十分すぎる現実だった。

 

「うわぁ……今の車危なかったね、もしぶつかってたらすっごい大事になってたんじゃないの?」

 

 隣で目を見開いて驚いている梁芦も予感をしていたようだ。

 

「ああ……そう、だな」

 

 戸惑いの返事を返して、改めて交差点の方に視線を向けると……

 

「……」

 

「……!」

 

 1人の男と目が合う。

 

 ソイツもこの起こりかけた事故の残滓を目にして、息を飲むようにして驚いていた。

 

 あれ程のスピードですれ違った車だ、それに相当派手にクラクションが鳴っていた。気が弱い人間なら怯んでしまうのも分からなくは無い。

 

 そんな驚き方に見えないのは気のせいだろうか。

 

 

 

 “ しかし、事故を素早く察知した竹内さんはその方を押し退ける形で割り込み、彼女を救出、その代わり貴方を含む数人がその事故に巻き込まれ死亡してしまいます”

 

 

 

 そういえば、あの死神はこの事故で数人が事故に巻き込まれると言っていた。もしかするとアイツもその一人なのかもしれない。

 

 ……よく見るとその近くに猫もいる。

 

「それで、蓮太はこの後どうすんの?」

 

「予定があるからここでお別れだな」

 

「ふーん、な〜んだぁ……たまにはゲーセンでも行こうと思ってたのに」

 

 明らかに予定が空いて暇そうにしている梁芦は、両手を頭の後ろに当て、空を見ながら歩く。

 

 特に何も考えていない時にコイツがする癖みたいなものだ。

 

「悪いな」

 

「ホントだよ、レディを一人にするんだから今度ジュースくらいは奢ってよ? じゃないと蹴るからね」

 

「暴力は良くないぞ」

 

「蹴るのは自販機ですけど」

 

「マジでやめろ」

 

 何サラッと訳わかんないこと言ってんだよコイツ。

 

 ……というかそういえばコイツ、昔なにかのアニメにハマったからって自販機に回し蹴りしてた時期があったな。

 

 当時は小学生だった事もあって、行き過ぎたイタズラとして警察から割とキツめの注意で終わってたけど、本当に何やってんだって思った記憶がある。

 

 何でこう……わんぱくと言うか、無邪気と言うか、いつまで経っても変わらないんだコイツは。

 

 ……いや、見方を変えれば、梁芦は自分の気持ちに正直なのか。

 

 自分にすら素直だから、思ったままに動き、遊ぶ。

 

 その自由さは一体誰に似たんだ。

 

「ま、とりあえずじゃあな」

 

「う〜い、また明日ね〜」

 

 適当な所で梁芦と別れ、俺は今朝貰った紙に書いてある通りに進む。普段はあまり行かない方向だから、見慣れない光景に新鮮味を感じながらも、気がつくとその指定された場所まで辿り着いた。

 

 見た目は……ただの建物。素っ気なく、洒落っ気のひとつも無い明らかな空きスペースだ。

 

 店でもたたんでしまった後なのだろう。

 

 ウインドウから中を覗くと、カウンターらしき物があったり、グループ用のテーブルや椅子が並べられてある。

 

 雑に見た感じライト等も別に汚れていない様子、手入れは一応されている感じだ。

 

 ……だが、誰がどう見ても無人のテナントだ。そもそも扉の鍵は空いているのだろうか? 

 

 しかし、あの時の死神は用事が済んだら何時でも良い……みたいな事を言っていた気がする。

 

 考えても仕方ない、か。幸い家に戻っても待っている人なんていない訳だし、どんなに遅くなろうと困ることは無い。

 

 もしもアイツが夕飯をせびってきても……まぁ別に問題ないだろう。

 

 とりあえず建物の取っ手を掴み引いてみると……案外すんなりと扉が動いた。

 

 もしかして中に誰かいるのか? 

 

「……、誰か、誰かいますか?」

 

 少し大きめに声を上げて、中の確認をしてみる……が、特に返事は返ってこない。

 

 なんだ? 誰もいないのに鍵を開けていたのか? なんて不用心なんだ。

 

 何となく、周囲をキョロキョロとしながら中をよく見渡してみると、更に奥に繋がっていそうな扉が幾つかある。

 

 おそらく店だった頃の名残りだろう。バックヤードにでもなっているのだろうか。

 

 さっきの俺は少し声を大きくしただけだ、聞こえていなくてもおかしくは無い。ここは奥まで行ってみて、あの死神を探してみよう。

 

 ゆっくりと扉を閉め、物音ひとつしない静かな空間の中で、靴音を響かせて奥の扉に近づいていく。

 

 気分はまるで昔大好きだったゾンビゲームの主人公だ。

 

 薄暗い警察署の中をゆっくり歩いて進んで行くあの様に、今の俺は少し似ているのかもしれない。

 

 ハンドガンでも持っていたら両の手で握りしめ、肩に構えているところだ。

 

 ……こうなってしまうと俺も男の子。1人なのも相まって少しずつ動きがソレに近づいてしまう。

 

 男の子というか、俺だけなのかもしれないけど。

 

 そういう意味では俺も梁芦とあまり変わらないのかもしれないな。

 

 なんて思いながら、辿り着いた奥へと続く扉のドアノブに手をかける。軽く押し捻ってみるとしっかりと動いた。

 

 ……ということは後は扉を押せば中に入れるということだ。

 

 頭の中で3秒数え、少し遅めに扉を徐々に押し開いていく。するとその瞬間に奥の部屋から光が差し込んできた。

 

 つまり部屋の電気は点いている。ということは人がいる。

 

 それを確信すると、奥の部屋にいるであろう死神と会うため、扉を開いて中に1歩踏み入れた。

 

 すると……

 

「……!」

 

 部屋の中には学校などでよく見かける、折りたたみ可能の茶色の長テーブルが幾つか。そしてパイプ椅子もそれなりの数。

 

 横にはロッカーも配置されており、そこは明らかな従業員達の休憩スペースだった事が目に見えて理解できた。

 

 きっと昔はそう使われていたのだろう。

 

 でも。今は…………

 

「……は?」

 

 死神よりも死神見たいな、殺意のこもった目を宿した黒髪の女の子が俺を睨んでいた。

 

 下着姿で。

 

 そこで察してしまう。その“事の重大さ”に。

 

 ここでパニックになってしまえればどんなに楽だっただろう。中途半端に冷静さが残っているせいで、今の俺がおかれた状況がスっと頭に入ってきてしまった。

 

 相手からすると、物音ひとつ出さないようにやってきた男が、ゆっくりと扉を開けて自分が着替えている最中に侵入してきたのだ。

 

 どう見ても不審者。

 

 というか変態。

 

 というか犯罪者。

 

 あぁ、俺の人生終わった。

 

 きっと今、星が見える夜だったのなら。俺の頭上には立派な北斗七星の脇に輝く双星“死兆星”が見えていることだろう。

 

 せっかく生き返られたのに、こんな形で終わってしまうなんて。そうか、これが運命か。

 

 よくある話じゃないか、過去にタイムスリップして未来とは違う行動をしても、たどり着く結果は変わらないなんて事。

 

 なるほど。これが死ぬということか。

 

 うん。とりあえず逃げよう。

 

「ありがとうございました〜……」

 

 下着姿を見せてくれたお礼だけ言って、その場を立ち去ろうとした瞬間、何者かから肩に手を乗せられて動きを止められた。

 

「おい」

 

 もう声が怖い。

 

 なんでこんな目に遭うんだ俺は。運が無いなんてレベルじゃない。……いや、運は良いのか。

 

 じゃなくて。

 

 これだから他人と関わりたくなかったんだ。ろくな事が起こらないから。

 

 きっとコレは死神の罠だ。この後怖い大人たちが出てきて俺から金をむしり取るんだ。

 

「お礼の言葉が出るほど良いものが見れた?」

 

 俺に考える時間を当てえてくれない。冷たい言葉は俺の心と体の逃げ場をジワジワと奪っていく。

 

「です……ね。言葉ついでに形になるお礼の物でも買ってこようと思いまして」

 

「いいわよ、わざわざ買ってこなくても。君が渡せる物ならひとつあるから」

 

「差し支えなければ、お教え願っても……?」

 

 恐る恐る振り返って彼女の方に視線を向けると……

 

 机の上のペン立てやらが散らばっている場所から取ってきたのであろうハサミを持ちながら、彼女は答えた。

 

「首」

 

「本当にすみませんでした」

 

 俺が地に額を擦り付けるまで0.2秒もかからなかったであろう。





マリーゴールド。
ローズマリー。
ラベンダー。
ブラックリリー。
アマリリス。

作者はローズマリー派です。

ヒロインって誰が好きですか?(ただ気になっただけです)

  • 死神さん
  • 撃墜王さん
  • カロリー0さん
  • 日焼け跡がエロくて可愛いドエロ谷さん
  • 即落ち2コマお姉ちゃん
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