乙女たちの戦記~艦魂~(架空戦記)   作:高島智明

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この短編は、童謡『里の秋』(JASRAC楽曲036-0126-9)からインスパイアを受けました。
従いまして「歌詞使用のガイドライン」に基づきながら、歌詞を引用させて頂きます。

歌詞使用のガイドライン
https://syosetu.org/?mode=faq_view&fid=130


さよなら椰子の島

日米戦争が停戦と成って、太平洋の島々から東南アジアにかけて、多くの出征兵士や徴用された軍属、更には民間人などが日本本土への帰還を待つ身と成った。

彼らを無事に故郷の家族の元へと返すことも、戦い終わって日本海軍の重要な任務だった。

 

だがしかし、本土のテンヤワンヤに因って復員が進まなく成っていた間にソ連軍の満州侵攻が起こり、今度はソ連を敵として再び戦争が始まった。

 

こう成ると、輸送力の多くを対ソ戦争に振り向けねば成らず、復員輸送に充てられる船舶に不足をきたした。

その為、大陸上の戦争ということもあって時には交代で出撃することも出来た軍艦も、復員輸送の任務に就くこともあった。

例えば、その大きさから収容力に余裕のある「大和」型戦艦は、1度に多くの復員者を運べるために重宝された。

その日も「大和」は、南の島からの復員者たちを満載して、母国を目前にしていた。

その時、通信室では本土からのラジオ放送を受信した。

艦長は、日本本土に帰ってきたことを復員者たちに示す様に、ラジオ放送を館内に流すこととした。

 

放送は、童謡番組だったらしい。

女性歌手の澄んだ歌声が、艦内に流れた。

 

「静かな 静かな 里の秋 お背戸(せど)に木(き)の実の 落ちる夜(よ)は」

その歌声は、戦いと旅に疲れた復員者たちの心に染みわたる様に艦内を流れた。

「ああ母さんと ただ2人(ふたり) 栗の実煮てます 囲炉裏端(いろりばた)」

その歌詞に、故郷の家族を思い出す者も居ただろう。

 

歌声は更に流れる。

「明るい 明るい 星の空 鳴き鳴き夜鴨(よがも)の 渡る夜は」

だがしかし、続く歌詞は長く本土を離れていた復員者たちの心を突いたかも知れない。

「ああ父さんの あの笑顔 栗の実食べては 思い出す」

その歌詞に、故郷の家族を思って、思わず涙ぐむ者も居ただろう。

彼らもまた、誰かの夫であり父だった。

 

「さよなら さよなら 椰子(やし)の島 お船に揺られて 帰られる」

そう、彼らは故郷に、家族の元へと帰ろうとしていた。

 

帰ることの出来なかった者も居ただろう。

だがしかし、彼らは今、帰りつつあった。

 

「ああ父さんよ ご無事でと 今夜も母さんと 祈ります」

歌手は歌い終わったが、聞いた人々の心には余韻が残った。

 

自分は帰る。自分を待ってくれている人が居る。

そんな決意を新たにする者も居たかも知れない。

 

そんな復員者たちを、人知れず見守る乙女が居た。

戦艦「大和」に宿る心と命「大和」(艦魂)である。

 

彼女には妹たちは在っても、父や夫といった存在は無い。

故郷で待つ家族というものにも、もしかしたら縁が無いかも知れない。

それでも「大和」(艦魂)は、母国の歌に感動する復員兵たちを見守って、彼女だけの感慨を覚えていた。

 

戦艦「大和」は、彼らを故郷の家族の元へ帰すべく、何度目かの航海を終えようとしていた。

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