乙女たちの戦記~艦魂~(架空戦記)   作:高島智明

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鶴竜3代記

航空母艦「瑞鶴」「飛竜」の艦名は、幕府海軍による黎明期の艦名に由来する。

(正確には「瑞鶴」の姉「翔鶴」と「飛竜」の先代艦が幕府海軍に存在した)

 

「瑞鶴」「飛竜」は海戦初頭の真珠湾攻撃に参加した6隻の空母の中に居た。

更にミッドウェー海戦に於いて、其々の姉を含む4隻の空母が失われた後も戦い続け、アメリカ空母相手に戦果を上げた。

彼女らは「鶴竜コンビ」とも「幸運の瑞鶴」「武運の飛竜」とも呼ばれ、その名は轟いた………。

 

……。

 

…1944年6月。

日本列島東方の太平洋で戦われた日米最後の決戦は、アメリカ合衆国そして「エセックス」クラス空母機動艦隊の実力を、日本国内の主戦派の頭に冷水を浴びせる程に見せ付けた。

 

8月。遂に戦争は終わった。

大日本帝国は「負け逃げ」の形で、対米戦争を終えた。

 

講和条件の1つとして、幾つかの兵器の引き渡しが要求された。

その中に、空母「瑞鶴」「飛竜」が入っていた。

確かに、長く連合艦隊の象徴だった戦艦「長門」や其れに取って代わった「大和」「武蔵」以上に名を轟かし(アメリカ側からすれば悪名とも言えたが)そんな「鶴竜コンビ」だからこそ、逆説的ながら其の価値があるといえた。

 

これに対し、日本側は「エセックス」クラスとの等価交換ならば、と条件を付けた。

 

アメリカ側に引き渡された「瑞鶴」「飛竜」は、自沈処分とされ「ふね」としての生涯を終えた………。

 

……。

 

…筈だった。

 

アメリカ合衆国東海岸の、とある海軍工廠。

2隻の軍艦が、進水式を迎えていた。

対日停戦により1度はキャンセルさせられかけたが、今度は今や同盟国と成った日本海軍への引き渡しの為に工事続行と成った「エセックス」クラス空母の2隻である。

 

日米折衷の式次第が進み、彼女たちは「瑞鶴」に「飛竜」と命名された。

その時、参列していた1人の少女が、その姿に気付いた。

甲板上に光の粒子が集まり、乙女の姿を取ったのである。

 

見付けた少女にはデジャヴがあった。

「さくら叔母様?それとも桜花ちゃん?それにシスターは巴里にいらっしゃる筈なのに?」

少女の名はジェミニン・大河・星子・サンライズ、駐米武官である大河新次郎海軍中佐の娘だった。

星子の父、大河新次郎の経歴には、秘密が存在する。

若き日、海軍士官でありながら紐育のミュージカル劇場で数年間勤務したという経歴ながら、現状の昇進は同期のトップを切っていた。

それが「実戦」における実績に因るものだとは、知る人ぞ知る秘密であった。

 

この秘密任務の結果、大河はアメリカ合衆国に有力なコネクションを持つことに成る。

尤も、表面上は紐育で1時代を飾ったミュージカル女優を妻にしている位にしか現れていないが。

そんな経歴は、対米戦争が迫ると軍内部での風当たりが無いとも言えず、開戦直前の駐米武官としての赴任は、そこから逃がしたとも噂された。

 

実の処では此の赴任には、開戦に備えて最新のアメリカ国内の情報を持つ前任の駐在武官を交代に呼び戻すという意味もあった。

呼び戻された前任者は、開戦後には大本営の情報参謀として、大いに実力を発揮することに成る。

 

開戦後、アメリカ当局の監視下にありながら、大河は自らのコネクションに接触して終戦工作に従事する。

やがてヨーロッパでの独ソ仲介に成功した山本五十六がアメリカに潜入すると、その有力な協力者と成った。

この終戦工作での功績が停戦成立後に認められて、中佐に昇進した大河は引き続き駐米武官を務め、そして生まれ変わった「瑞鶴」「飛竜」の命名に立ち会うことに成った。

 

その時、彼の娘が父母から受け継いだ「力」に因って”彼女たち”を目撃するのである。

艦魂。それは「ふね」を愛するものたちの語り継ぐ伝説。

彼らは、彼らの愛する「ふね」に、命と心が宿ると信じた。

故に、“それ”ではなく、“彼女”と呼んだ。

 

そして、その「名」が引き継がれる時、只それは同名なだけなのか。

「名」に込められた「言霊」が”彼女”の命と心を呼ぶならば…

 

そして”あの”「瑞鶴」「飛竜」が還って来た。

”彼女たち”を知る者には、それが分かった………。

 

……。

 

…生まれ変わった「瑞鶴」「飛竜」は、対ソ戦争でも活躍し、戦後も長く日本海軍の主力艦であり続けた。

ジェット空母にも改造され、日本の海と空を守り続けて、第2の艦生を全うしたのである………。

 

……。

 

…1980年代の或る年のクリスマス。

紐育で此の清き日を祝う人々の中に、成人し国際連合職員として活躍するジェミニン・大河・星子・サンライズが居た。

 

彼女にとって”あの”日、進水式の場で目撃した経験は貴重だった。

自分の持つ「力」を知った彼女だったが、それに囚われることなく、現在の活躍が在った………。

 

……。

 

…明けて、日本時間の12月26日。

クリスマスの長期休暇まで習慣付いていない日本では、26日は曜日によっては「御用納め」では未だ無い。

 

ここ、かつて世界最大の戦艦が生み出された海軍工廠でも、その日は平日だった。

そのアジア最大ともされるドッグでは、2隻の巨艦が並んで建造中だった。

 

一般とマスコミの受けも狙った計画名から「ポセイドン」級とも呼ばれる巨大空母。

当時、史上最大級ともされたアメリカ海軍の「ニミッツ」クラス空母に習いながら、イージスシステムをも搭載する最強ともいえる空母である。

その2番艦と3番艦には「瑞鶴」と「飛竜」の艦名が引き継がれた。

 

粛々と建造の進む巨艦の心臓部では、原子力の胎動が始まっていた。

「瑞鶴」「飛竜」は3度、生まれ変わって還ろうとしていた。

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