乙女たちの戦記~艦魂~(架空戦記)   作:高島智明

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「雪風」は沈まず

日米太平洋戦争に於いて駆逐艦という艦種は「艦隊の働き者」として殆どあらゆる任務と言って好い程の多くの任務に動員され、戦い抜いた。

当然ながら、多くの駆逐艦が戦没し、あるいは傷付いた。

それでも尚「艦隊の働き者」としての需要に応える為、量産性を考慮した戦時量産型の駆逐艦に、建造が切り換えられた程だった。

 

その中で、戦没どころか全くの無傷といって好い程に傷付く事無く此の戦争を戦い抜いて、遂には「最高の好運艦」とまで呼ばれた艦があった。

「陽炎」型駆逐艦8番艦「雪風」である。

 

ことわって置くが「雪風」は、戦場に出る事無く温存された訳では無い。

「艦隊の働き者」として、不眠不休の活躍と言って好い程に戦場から戦場、任務から任務に就き、姉妹艦である「陽炎」型駆逐艦そして準姉妹艦というべき「夕雲」型駆逐艦合わせて38隻の半ばが失われ、他の姉妹も大なり小なり傷付く中で、遂に傷付く事無く、そして戦果を上げて生き残ったのである。

「雪風」は、どれだけ戦場に送られても帰ってくると認識される様に成ると、新兵器のテスト艦に選ばれる様に成った程だった。

実戦でのデータは貴重である。だがしかし、実戦に投入すれば戻って来ないかも知れない。

だからこそ、実戦での貴重なデータを採取して”必ず”持ち帰ってくる「雪風」が選ばれたのだ。

1943年の半ば。

ガダルカナル島奪回の後も続いたソロモン諸島の戦いに投入され、何度目かの戦場に送られた「雪風」には、当時の日本で最新の電探(レーダー)と”逆探”が搭載されていた。

連合軍のレーダーに得意の夜戦を逆転され、レーダー開発技術に後れを取っている日本軍が、敵レーダーの電波を逆探知するべく開発した新装備である。

その実戦に於けるテストが、例によって「雪風」に託されたのだった。

 

「雪風」(艦魂)は耳を澄(す)ませ目を瞠(みは)っていた。

「雪風」に搭載された電探と逆探は、レーダーを使っている敵が、夜闇の中に潜んでいることを教えていた。

そろそろ、鍛え上げらた見張り員ならば、肉眼でも敵が見える頃合だった。

 

連合軍の巡洋艦3隻を主力とする艦隊は、今夜もレーダーによって日本艦隊を探知し、先制攻撃を加えて勝つつもりでいた。

だがしかし「雪風」の逆探に其の存在を探知され、待ち構えていた「雪風」たち「陽炎」型姉妹から必殺の酸素魚雷を撃ち込まれて、巡洋艦3隻は大破していた。

「雪風」たち姉妹の勝利だった………。

 

……。

 

…それから約1年後。1944年8月。

日米戦争は終わった。

そして「負け逃げ」の形で戦争を終えた日本は、戦後の復興に向かい、海軍もまた再建に向かった。

 

先ずは「働き者」である駆逐艦については、数量上の海軍再建が成るまで戦訓に応じた量産型駆逐艦である「松」型の量産が続けられることに成った。

とはいえ「雪風」たち姉妹の生き残りたちが”お役御免”に成った訳では無い。

「松」型は量産性とのバランスをとる為、高出力に成れば成る程精密に成り入手困難に成るエンジンについては、入手を優先して妥協した設計に成っていた。

その為、快速を誇った「雪風」たち姉妹には、まだまだ活躍の場があったのだ。

 

無論、戦訓に応じたグレードアップは行われた。

艦隊決戦あるいは其の前夜に於ける雷撃戦に特化した艦から、対潜水艦、対航空機そして無論のこと対水上艦のバランスの取れた汎用艦が求められていた。

更に、日米停戦の条件の1つ「アメリカ製兵器の日本市場への開放」に従い、アメリカ製の装備が搭載されることと成った。

 

アメリカ製のレーダーやソナー、対潜迫撃砲「ヘッジホッグ」等が搭載され、主砲も12.7cm高角砲から5in,(インチ)両用砲に換装されて、アメリカ製の対空機関砲や機銃が搭載された。

無論、アメリカ海軍をして「魚雷だけは日本軍が上だった」とまで言わしめた酸素魚雷は残された。

こうして、新たな時代の汎用艦と成った「雪風」たち姉妹に、新たな戦争が待っていた………。

 

……。

 

…日米停戦から1年後。1945年8月9日。

日ソ戦争が勃発した。

 

この戦争の主戦場は満州の陸上だったが、その満州の周辺の海そして日本本土の周辺の海には、国籍不明の潜水艦が出没した。

ナチスドイツのUボート戦に限らず、潜水艦による海上交通破壊戦は水上で劣勢に成った海軍の常套手段と言えた。

 

「雪風」たち姉妹は、輸送船団の護送に大型艦の護衛にと「艦隊の働き者」として活躍した。

「雪風」は此の戦争でも傷付く事無く、そして何度も潜水艦を探知しては追い払い、あるいは撃沈した。

そして、日米、日ソ戦争を自らも傷付く事無く、その艦上で1人の戦死者を生む事無く戦い抜いた………。

 

……。

 

…戦後、現役を引退し、艦齢を全うした姉妹たちが天に帰っていく中で「雪風」には新たな任務が与えられた。

未来の海軍軍人たちを育成する練習艦と成ったのだ。

 

戦中より「雪風」乗組員の練度の高さは知られていた。

果たして、歴戦を潜り抜けて来たから実戦経験を積んで練度が高かったのか、それとも其の練度の高さが被害を局限していた原因の1つだったのか。

それらは、何れも真実だったかもしれない。

 

何れにせよ、その練度の高さを受け継がせるべきとされたか、あるいは「最高の好運艦」の好運にあやかろうとしたか「雪風」は、若き海軍軍人との日々を送った………。

 

……。

 

…その任務も全うした後、彼女には「最高の好運艦」に相応しい栄誉ある余生が与えられた。

未来の海軍軍人を教育する学校の桟橋に「記念艦」として係留されたのである。

 

彼女は、今も其処に居る。

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