乙女たちの戦記~艦魂~(架空戦記)   作:高島智明

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ミッドウェー・ソロモン海戦~空母戦記~

「我、航空戦の指揮を取る」

山口多聞少将の座乗する航空母艦「飛竜」から信号が放たれた。

 

この時、日本機動部隊の3隻の空母は、既に炎上していた。

旗艦「赤城」は指揮能力を失った長官を乗せたまま、狂った様な炎を上げている。

空母「加賀」は旗艦以上の火炎地獄にのた打ち回っていた。

空母「蒼竜」も同様。まずは自らの沈没と闘わなければならなかった。

 

新たに指揮を取ると宣言した山口の「飛竜」は、攻撃隊を発進させて敵と戦うべく、風に艦首を向けた。

近くに居た空母「瑞鶴」が了解して続いた。

少し離れていた空母「翔鶴」も、やがて気付いた………。

 

……。

 

…1942年5月。

元々、連合艦隊はミッドウェー島の前に、珊瑚海に臨むポートモレスビーを攻略する予定で「翔鶴」「瑞鶴」はモレスビー作戦に投入される筈だった。

だがしかし、モレスビーとミッドウェーの攻略順番が入れ替えられ、先ずはミッドウェー作戦に空母6隻の全力が投入されることに変更された。

連合艦隊司令長官の密かな本音が、アメリカ海軍との早期決戦にあった為である。

 

これに対し、日本側の暗号を解読したアメリカ側は珊瑚海から呼び戻した2隻を加えた空母4隻「ヨークタウン」「エンタープライズ」「ホーネット」の3姉妹に「レキシントン」の陣容で日本艦隊を待ち伏せた………。

 

……。

 

…日本機動部隊を指揮する南雲中将が、ミッドウェー島への空爆と敵空母への警戒という2重命令に迷っている間に、それとも知らず、アメリカ空母からは攻撃隊が発進した。

 

ミッドウェー島からの基地空軍、空母からの雷撃機そして急降下爆撃機と、結果的に波状攻撃と成り、遂に急降下爆撃からの爆弾が3空母に命中した。

しかも、発進準備中の攻撃隊が誘爆し、大炎上が起こった………。

 

……。

 

…炎上する僚艦を護衛艦に任せ、生き残った3空母から発信した攻撃隊が、アメリカ空母に襲い掛かった。

 

先ず「レキシントン」が被弾、続いて「ヨークタウン」「ホーネット」も被弾した。

だがしかし、アメリカ側の幸運空母「ビッグE」と呼ばれた「エンタープライズ」は、未だ無傷だった。

「ビッグE」は、傷付いた姉妹に着艦出来ずに自分が収容した機を含めて再編成した急降下爆撃隊を発進させた………。

 

……。

 

…傾く太陽の下、最後の攻撃隊を準備する日本空母に、急降下する爆撃隊。

爆撃隊は、3空母全てを叩くには機数不足と判断して、只1隻「翔鶴」だけを狙った。

 

「姉さん!!」

姉の被弾と炎上に驚愕する「瑞鶴」(艦魂)の悲痛な声が、大神一郎「瑞鶴」艦長の「霊力」に響いた。

 

炎上する「翔鶴」に未練を残しつつも、残る「飛竜」「瑞鶴」から発進した攻撃隊が報復とばかりに襲い掛かり、遂に幸運の「ビッグE」も傷付いた………。

 

……。

 

…後方の旗艦「大和」から戦況を見守っていた連合艦隊司令長官は、アメリカ空母の全てが航空能力を喪失したと知り、ようやく戦場付近に集結しつつあった高速戦艦や巡洋艦、駆逐艦からなる夜襲部隊に傷付いた敵空母の追撃を命令した。

 

既に「レキシントン」は、雷撃に因って歪んだガソリンタンクから漏れ出たガソリンに爆撃に因る火災から引火して、大炎上の末沈んでいた。

そして「ビッグE」ら3姉妹は、傷付きながらも護衛の巡洋艦や駆逐艦に護られて、戦場から後退しようとしていた。

これに対し、日本側の水上艦隊と潜水艦が追い縋り、止めを刺そうとしていた………。

 

……。

 

…ミッドウェー沖の日米空母の対決は、双方が4隻ずつの空母を失い、日本空母の2隻が生き残って、日本側の辛勝の形と成った。

アメリカ空母部隊を追い払う形に成った日本軍は、改めてミッドウェー島の攻略に取り掛かった。

 

これに対し、日本空母の脅威が減少したと見たアメリカ側が尚も戦艦部隊で抵抗しようとしたため、今度は戦艦対戦艦の戦いが起こることに成る………。

 

……。

 

…ミッドウェーから帰還した連合艦隊には勝利の余韻よりも、続く戦いに備えての再編が待っていた。

 

先ずは、発進前に被弾した母艦から救出された搭乗員たちに、新たな機体を与えなければ成らない。

それらを含めて、生き残った「瑞鶴」「飛竜」を中心に空母機動部隊の再編が進められた.

 

この再編に伴って、人事異動も行われた。

山口多聞新中将は、ミッドウェーで旗艦と運命をともにした南雲中将に代わって、新たな空母機動部隊である第3艦隊の長官と成った。

大神一郎大佐は、変わらず「瑞鶴」艦長を務めると同時に、旗艦艦長として山口長官の幕僚に加わった。

「瑞鶴」副長だった加山雄一も大佐に昇進し「飛竜」艦長に転出した。

 

その加山は「瑞鶴」副長を離任する挨拶の中で、同期の親友の口調に戻って語り掛けた。

「大神。「瑞鶴」は任せた。

まあ。貴様が乗っている限り、敵の攻撃は当たりはしないだろうがな」

加山は知っている。大神の持つ力”かばう”のことを。

もっとも、人間同士の戦争に「霊力」を使うと、大神が公言したことは無かったが。

 

新編成った「瑞鶴」「飛竜」を主力とする第3艦隊は、アメリカ空母との決戦を目指して訓練に励むことに成った………。

 

……。

 

…戦局が動いた。

 

1942年8月。

日本軍が航空基地を建設中のソロモン諸島ガダルカナル島にアメリカ軍が上陸、完成直前の基地を占領した。

これをアメリカ軍の反攻の始まりと知った連合艦隊は、中部太平洋のトラック泊地に進出、ここを拠点としてガダルカナルへの逆上陸と其れに伴う補給を支援することに成る。

 

第3艦隊もトラックから出撃しては、アメリカ空母との決戦を窺(うかが)った。

これに対するアメリカ側も空母「サラトガ」「ワスプ」を派遣していた。

双方、大型空母1隻と中型空母1隻が主力。

搭載機も、例えばゼロ戦にアメリカ側の戦闘機が対抗しきれていないなど、決してアメリカ側が有利とも言い切れない。

ミッドウェーで、南雲と相打ちの様に旗艦だった「ビッグE」と運命を共にした「猛牛」ハルゼー提督に代わったアメリカ機動部隊の後任指揮官には、慎重に成る理由もあった。

 

だがしかし、ガダルカナルの陸上の戦局を背景に、海上でも戦機は近付いた………。

 

……。

 

…1942年10月。

アメリカ合衆国の海軍記念日を前に、日米空母は激突した。

 

南下する日本空母部隊と、北上するアメリカ空母部隊は、前後して敵艦隊を発見し攻撃隊を発進させた。

猛訓練から「人殺し多聞丸」と呼ばれた山口も、大神も加山も、涙を隠して「帽振れ」で発進を見送った。

 

やがて、アメリカ空母を発進した攻撃隊が日本艦隊を襲った。

ゼロ戦の迎撃を潜り抜けて空母に迫る攻撃隊に、新鋭艦が立ち塞がった。

 

「秋月」型駆逐艦。空母護衛を任務とする防空艦である。

「長10センチ砲」と呼ばれる対空射撃に優れた主砲を搭載し、駆逐艦船体とすることで当時の日本の工業力でも、ある程度の量産を可能とした。

 

尤(もっと)も、途中では悪い貧乏性も出た。

駆逐艦として雷撃も出来る様にしようとしたのである。

だがしかし

「雷撃などは、護衛している空母の攻撃機に任せればいい。

この艦が自ら雷撃する事態に成るのは、守るべき空母も無くなったときだろう。

それよりも、空母部隊への少しでも早い配属を」

こうした意見が空母部隊から上がり、これを海軍航空の親玉というべき山本五十六が取り上げた為、魚雷発射管の装備や水雷科の訓練を省略して「秋月」型の空母部隊への配属が急がれた。

 

こうして此の海戦の時点で、4隻の実戦参加が間に合っていたのである。

「秋月」型2番艦「照月」は、もう1隻の姉妹と共に「瑞鶴」を攻撃しようとするアメリカ機に「長10センチ砲」を撃ち上げていた。

もう2隻の姉妹は「飛竜」を守っていた。

 

その「長10センチ砲」をも潜り抜けた何機かは「瑞鶴」を狙ったが、大神艦長の巧みな操艦で回避されていた。

果たして、彼は彼の「力」を使ったのだろうか。

それでも、残った1機が遂に「瑞鶴」を狙って爆弾を投下した。

 

思わず身を縮めた「瑞鶴」(艦魂)だったが、直ぐに自分が無傷であることに気付く。そして…

「照月」から黒煙が上がっていた。

「照月!」

「何の動揺です。貴女を守るのが私たちの任務。

貴女には、私たちを盾にしてでも生き残る義務が御在りですわ」

傷付きながらも、傲然(ごうぜん)とすらする「照月」(艦魂)だった。

 

幸い、被害は此の1弾だけだった。

もしも魚雷を積んでいたなら、真っ2つだったろう。

大神「瑞鶴」艦長も安堵していた。

なまじ「見える」だけに、小艦1隻を失うことも恐ろしい。

それに大神には、苦い思い出があった。

初めて持った部下たちを、1人を残して全員失いかけた、あの戦いの思い出が。

(俺は案外、軍人向きでも無いかも知れないな)

1瞬だけ、そんなことも思ったが、直ぐに目前の戦況に意識を戻した。

 

その頃、日本軍の攻撃隊もアメリカ艦隊に襲い掛かっていた。

 

ゼロ戦が迎撃戦闘機を引き付けて、攻撃隊に突撃路を開く。

これに対してアメリ側の巡洋艦や駆逐艦も、空母を守ってしっかりと輪形陣を組み、高射砲を撃ち上げる。

中でも、対空砲火に優れた「アトランタ」クラス防空巡洋艦の砲火は凄(すさ)まじい。

だがしかし、日本海軍の「雷撃の神様」村田重治の指揮する雷撃隊は、その「アトランタ」クラスでも無く、本来の標的である筈の空母でも無く、輪形陣を構成する、しかし「アトランタ」クラス程の対空性能を持たない駆逐艦を狙った。

 

「汚いぞ!Jap」

だがしかし、これが山口や大神たちの考えだした戦術だった。

輪形陣の中央に固く守られた空母をいきなり狙っても、対空砲火に阻まれるだけ。

ならば、その輪形陣に穴をあける為に、そして対空攻撃力も防御力も小さい駆逐艦から狙ってやる。

 

その狙い通り、魚雷命中に耐えられなかった駆逐艦が轟沈すると、明らかに対空砲火に穴が開いた。

その穴から「急降下爆撃の神様」江草隆繁の指揮する爆撃隊が、今度こそ空母に襲い掛かり、飛行甲板を破壊した。

これで、アメリカ空母は其の航空機運用能力を1時的にしろ失った。

攻撃隊も迎撃戦闘機も発進出来なく成ったのだ。

そして、輪形陣には穴が開いていた。

 

こうして、防御力を減らされたアメリカ空母に、第2次、第3次攻撃隊と爆撃隊そして今度こそ雷撃隊が襲い掛かった。

 

遂に、片舷に魚雷を命中させられた中型空母「ワスプ」が傾斜し始めた。

「(アジア人種に対する差別語)!」

無念からか「ワスプ」(艦魂)が上げた叫びが、誰かに聞こえただろうか。

白人主義をも意味する艦名を付けた艦を、アジア人との戦争に動員した結果は、アジア人に因って沈められようとしていた………。

 

……。

 

…傾く太陽に照らされて、攻撃機が海面スレスレを低空飛行していた。

「(罵詈雑言)!人殺し多聞丸に人喰い狼め。

これで何度目の御奉公だと思いやがる。

それに、ぶっつけ本番でやらせやがって」

既に、空母の魚雷庫は空に成っていた。

それでも、傷付きながらも尚も浮いている「サラトガ」に対し、800kg爆弾装備の艦上攻撃機が送り出されたのである。

 

傷付いた「サラトガ」を尚も守ろうと「アトランタ」は対空砲火を撃ち上げる。

その砲火を、海面スレスレの低空飛行で潜り抜けて、攻撃機は迫った。

もしも「霊力」があったなら、銃を振り回す乙女の姿(「アトランタ」(艦魂))が見えたかも知れない。

「悪いな、お嬢さん。これも戦争だ」

 

海面スレスレを飛ぶ攻撃機から放たれた爆弾は「水切り」理論に従って、海面で跳ね飛び「サラトガ」に命中した。

これが反跳爆撃(スキップボミング)日米双方が今後多用して行く爆撃法である。

急降下爆撃など行えない艦上攻撃機でも実行出来、高空からの水平爆撃よりも遥かに命中率が好い。

この追い打ちの様な爆弾命中に、既に傷付いていた「サラトガ」では、必死に消火しようとしていた火災が更に燃え上がった。

その「サラトガ」に対して、日本空母部隊の前衛に送り出されていた高速戦艦部隊が接近しようとしていた………。

 

……。

 

…空母対空母の決戦は、日本側の勝利の形に終わった。

アメリカ当局も「最悪の海軍記念日に成った」と認めざるを得なかった。

 

日本側には正規空母「瑞鶴」「飛竜」と何隻かの軽空母が健在であり、アメリカ海軍が開戦時に保有していた正規空母6隻は撃滅された。

この海上の戦局は、ガダルカナルの地上戦にも影響せずには済まなかった………。

 

……。

 

…だがしかし、アメリカ本土の各造船施設では、対日戦争の決勝兵器というべき「エセックス」クラス空母の量産が進んでいた。

 

戦争は、未だ終わっていなかった。




今話は、何時もよりも少し長めに成ったかも知れません。
ここまで読み進めて頂いた皆様には、感謝致します。
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