乙女たちの戦記~艦魂~(架空戦記)   作:高島智明

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隠岐泊地の日常

日ソ戦争の最中(さなか)の某日。島根県隠岐諸島、島前三島。

 

隠岐諸島の位置は島根県の沖合、日本海に小さくなく離れた位置にあり、満州(中国東北部)で戦われる対ソ連戦争を海から支援するには、格好の足掛かりと成る位置に在る。

 

隠岐諸島は、島後と呼ばれる比較的大きな1つの島と、それよりは小さい3つの島が港湾を抱き込んでいる島前から成る。

その島前の、外の日本海よりは波静かな湾内を、当時の日本海軍が拍地として利用していた。

本来、軍隊は自己完結型の組織である。

特に海軍は、自らの艦船によって後方支援まで賄うのを建前としていた。

 

例えば、給糧艦「間宮」の存在である。

18,000人の3週間分の食料を貯蔵出来る倉庫や、新鮮さを保つ冷凍冷蔵倉庫、多くの良質な加工食品を生産できる工場を備え

「「間宮」が入港すると士気が上がる」

とまで言われた。

 

その間宮が隠岐拍地に入港し、満州周辺の任務から帰還した艦艇に、食料を補給していた。

 

「「間宮」饅頭は、帝都の有名店より美味い」

とまで言われた。

その「間宮」饅頭を「間宮」(艦魂)が、戦闘艦艇の艦魂たちの様な軍服姿とは異なるコックコート姿で、各艦の艦魂に配っていた。

帰還した艦船の中には、満州陸上への航空支援から帰還した第1航空戦隊の航空母艦「瑞鶴」「飛竜」も居た。

「瑞鶴」「飛竜」には「間宮」からの食糧だけでは無く、補給を受けるべき品目が在った。

 

給油艦「足摺」「塩屋」は空母専門に航空機用ガソリンその他を洋上補給する補給艦である。

「瑞鶴」には「足摺」が「飛竜」には「塩屋」が横付けし、ガソリンや爆弾、航空機整備用部品などを積み込んでいた。

 

「まいどあり」

などと言う商人の様なう様子で「足摺」(艦魂)が「瑞鶴」(艦魂)に報告していた。

「ガソリンが何リットル、爆弾が何発、部品が…また盛況ですな」

「大神司令は、任務に熱心だから…」

「けれど、優しいのですよね」

夫のことを惚気る妻の様な「瑞鶴」(艦魂)だった。

潜水艦とは、そのステルス性と引き換えに、少なくない犠牲を払う艦種である。

乗組員の不便も、そのうちに含まれる。

その為、潜水艦が「海の忍者」に相応しく活躍するためには、潜水母艦という艦種を必要とした。

 

本国などの設備の整った基地とも言えない拍地でも、母艦が進出、待機して、任務から帰還した潜水艦を横付けさせて乗組員を母艦の管内で休養させ、補給を行う。

その他にも例えば、潜水艦には酒保(館内売店)を儲ける余裕も無い。

潜水艦の乗組員は、拍地に帰還したとき、潜水母艦の艦内の酒保で買い物をするのである。

 

こうした特性と、収容力の余力から、潜水母艦は潜水艦戦隊の旗艦を務めることも多かった。

 

当時、隠岐拍地にも潜水母艦「大鯨」が進出し、満州周辺での任務から帰還する潜水艦たちを支援していた。

 

この日も「大鯨」には、1隻の潜水艦が横付けされていた。

 

その潜水艦「伊号600」潜水艦(艦魂)は、戦隊司令である「大鯨」(艦魂)に報告する暇も無く、水兵服と水着を其の司令の手で脱がされ、風呂に放り込まれていた。

 

最新の潜水艦でも浴場を備える余裕は無く、シャワーで我慢していた時代ではあった。

その為、潜水艦の乗組員は、帰還して潜水母艦に横付けされると母艦の風呂に入るのである。

それに「大鯨」(艦魂)に限らず潜水母艦の艦魂には、潜水艦の艦魂相手には母性的に成る性格の者が多かった。

潜水母艦という艦種の特徴だろうか。

 

「大鯨」も例外では無い。

対米戦争中は主力艦の不足を補うために航空母艦「竜鳳」に改造されていたが、日米停戦の条件の1つとして、これらの改造空母は元の艦船に戻された。

客船改造空母は客船に、空母「竜鳳」も潜水母艦「大鯨」に戻された。

この経験も「大鯨」(艦魂)の本来の性質を変えはしなかった様だった。

 

洗われる「伊号600」潜水艦(艦魂)の容姿は、この時代の言い方で言うとバタ臭い。

それもその筈で、元はアメリカより日本に売却された「ガトー」クラス潜水艦「ミンゴ」である。

停戦の条件の1つとして「アメリカ製兵器の日本市場への開放」があって、1歩進んだアメリカ潜水艦を次期建造の参考にする為に購入された艦だった。

 

その「伊号600」潜水艦(艦魂)は、すっかり綺麗に洗われた後に、司令である「大鯨」(艦魂)に任務について報告した。

前線で戦うだけが戦争では無い。

補給を含めた後方支援が在ってこそ戦える。

 

その欠かすことの出来ない後方支援が、この日も隠岐拍地でも行われていた。 




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